経営者とクリエイターの人格は別物

岩崎祥大氏(以下、岩崎):北野さんは、何に対しても妥協できないタイプなのか、それとも本だけが特別なんですか?

北野唯我氏(以下、北野):本だけというか、世の中に残り続ける可能性のあるものはこだわりますね。そうじゃないものに関しては、別にそんなにこだわらない時もあります。本の中にも書いているんですけれども、僕の中で経営者としての人格とクリエイターとしての人格はぜんぜん違うので、本当に別の人格だなとすごく思うんですよ。クリエイターとしてはこだわる方じゃないですかね。

岩崎:なるほど。わかりました。今質問した趣旨は、経営者でもある北野さんは、ビジネスの世界だとある程度折り合いつけないといけない状況は絶対に出てくるじゃないですか。それとクリエイターとしての自分をどう共存させているのかが気になったんですけど。

勝手にシュッとクリエイターの自分が出てきたり、経営者の自分が出てくるように、スイッチが切り替わるんですか?

北野:スイッチは基本は切り替わるんですけど、たまに逆になるんですよ。逆になったらめちゃくちゃ迷惑をかけるんですよね。

(一同笑)

会社でたまにクリエイターモードになったときは、みんな引くんですよ。「マジ、もうついていけない」という感じになって。

この前も、クリエイターモードでミーティングの場に入って、「え、これさ」というところから始まって、みんなからすると「いやちょっと待ってください」というふうになって。あとで、下についてくれている子にめっちゃ怒られました。怒られるというか、「唯我さん、そのモードだとみんな疲れ果てるのでやめてください」という感じで。

大森春樹氏(以下、大森):わかる、そういうところある(笑)。

北野:どちらかというと経営者としては穏やかなので、ギャップがあるのかなというのはすごく……あ、でもうれしいな。(コメントを読み上げて)「本気になって仕事する楽しさを体験したら、もっとやりたいって気持ちになります」。そうですよね、楽しいですよね。

編集者から見る“著者の本気”

大森:考えてみると、確かにずっと本気でしたね。

北野:本気でした?

大森:それは1回も変わらないですよね。著者が本気じゃないと「この辺でいいや」という着地点を求めようとするんです。編集者から見ると、著者が「ああ、もうこの辺でもいいと思ったんだな」とわかる。

でも、noteにも書いたんですけど、北野さんはすぐ「このままじゃ売れない」って始まるんですよ。何回あったかなぁというくらい。百田さんや僕の前で「どこら辺ですか?」と話すと、「こうじゃない」って。細かくは言わないですけど、けっこう論理的に言うんですよ。

そこでワーっと潰していくと、新しい回答が出てくるんですよね。それで「じゃあ、その辺でやってみます」となって、翌週か翌々週にくらいになると違うことをやるんですよ。

その間もずっと北野さんがいろんなことを考えたうえで言い出したんだって、こっちもだんだんわかってくるじゃないですか。そうすると、「この話じゃなくて、こういうふうにしたほうがいいんじゃないか」というふうに、こちらの返しもだんだん精度が上がってきます。

だから、本当に良いテニスの打ち合いみたいになってくるんですね。最初はぽーんぽーんとやっているんですけど、パンパンパンパン! となってきて。百田さんも自分で「ここ書き直したほうがいいと思います」と言い始めるんですね。

北野:そうそう。

大森:3月くらいにはそのモードでしたよね。

北野:そうそう。そうやって聞くと、みんな楽しそうに思えません? やりたくなってきません?

大森:ははは(笑)。

岩崎:やりたいかと言われたらちょっとまだ……(笑)。

北野:それはそうか。

岩崎:マジョリティは愛子(『これからの生き方。』の登場人物の名前)ですからね。

これからの生き方。自分はこのままでいいのか?と問い直すときに読む本

北野:そうだった、忘れてた(笑)。

まったく違う会社や人をつなぐ「ハブ」としての役割

北野:今ここにいるのは大森さんという編集担当の方だけですけど、ほかにも小野島さんや木村さんという方がこの会場にいて、PRや営業として、チーム北野のプロモーションを担当してくださっています。

今回参加された方も、たぶんそうだったと思うんですよ。最初ミーティングに参加されたときに、「なんだ、この熱量は」みたいな。

大森:ははは、最初はそうでしょうね(笑)。

北野:いろいろな方の力を借りています。本当に素晴らしい広報担当、PR担当だと僕は思いました。僕はいろんな出版社とお付き合いしているので「やる気ねえな、この広報」と思ったりすることもあります。いや、マジで思いますよ。「こっちは命かけてつくってるんだからさ」という。

大森:そうですね。

北野:やっぱり「お前、なんだそれ」と思うんですよ。すみません、出版社の方がたくさんいらっしゃるのに、僕まったく目を合わせていないんですけど(笑)。

(一同笑)

でも、やっぱりそういうもの(本気でつくる姿勢)を求めていますよね、と思うので。

岩崎:その熱量のまま、終わりのほうでようやくやりとりが成立するようになって、お互い同じモチベーションになったら、普通は同じ人とやりたくなりません? 北野さんはいろんな出版社やいろんな人と組んで本を出しているイメージがあるんですけど、それはそれでまた別の理由があるんですか?

北野:ありますね。ものすごく長い目で見ていると、1人の出版社の人とか、1人の編集者と同じ作品を作るとお互いにやりやすくなりますけど、同じ技術しか持っていないわけですよね。だから、いろんな出版社や編集者といろんなパートナーと組むことによって、こっちで出たものを他の人に還元できるじゃないですか。

もともとそういうイメージを持っています。だから、これまでもダイヤモンド、日本経済新聞出版、講談社、そして今回は世界文化社をメインでやらせてもらっていて。他にも取材で一緒に何かつくっている出版社もあります。それぞれの出版社の良さや魅力を自分の中に引き出して転換することをすごく大事にしているんですよ。

そのときに自分はぜんぜん出し惜しみしないので、「この企業とこういうことをやっています」というふうに、ハブになることをすごく大事にしてるんですよね。だから今回の5書店での連合も、ハブになることが自分の役割の1つだと思っているので、それはすごく意識しています。だから、ものすごく長い目で見ています。

岩崎:ファン目線では、そういう話がすごくおもしろいですね。

「大事なことってたいがい面倒くさい」

北野:もうちょっと具体的な話のほうがいいのかな。本の中身とか、キャリアの相談とか。コメントありがとうございます、「おもしろいです」と。

大森:さっきの話に戻りますが、北野さんが今回の本で一番、他の本と違う苦労だった点は何だったんですか? 「この本ではこんなに苦労した!」って聞いたことないなと思って。漫画を取り入れたのもそもそもそうですけど。

北野:やっぱり表情じゃないですか。表情やキャラクターの部分は、やっぱり最初は大森さんにも百田さんにもなかなか伝わっている感じがしないなぁと思いました。それをどう伝えていくかが、僕にとっては大変だったなと思いますけどね。

大森:なるほどね。

北野:それが一番苦労したなと思いますね。けっこう大変だったなぁと思います。あとは今が大変ですね。今は本を広めないとね(笑)。

大森:そうですね(笑)。北野さんとのメールを見返すと290通ぐらいやりとりしていたんですけど、北野さんがとにかく質問するんですよ。感想をくれという感じで、「どう思いますか?」というメールがばっとくるんですよ。だから、さっき言ったように、正月でも感想を返さなきゃいけないんですけど。

どこを変えたのかをWordで探してみるときに、また頭から見るじゃないですか。それで気になったところにペン入れして戻すと、「参考になりました!」と返信が来て、また違う質問が来るんですよ。

ずっとキャッチボールが続いていて。北野さんは「石を積む」という表現をするんですけど、気がつくと一番初めの頃と比べて、そのやり取りの数だけ格段に良くなっているんです。宮崎駿さんが『プロフェッショナル』というNHKさんの番組で、やっぱり「大事なことってたいがい面倒くさい」と言っていて。

岩崎:あぁ、確かに。

北野:本当にそう、面倒くさいことしかないからね。