著者と編集者とファンが登壇する新刊イベント

大森春樹氏(以下、大森):本日の登壇者をご紹介いたします。北野唯我さんです。

北野唯我氏(以下、北野):みなさん、こんばんは。

(会場拍手)

Twitterでのコメントなどを見ながらお話をしていけたらなと思っておりますので、ぜひ(ツイートしてください)。

大森さんはすごく緊張しているみたいなので、みなさんは、おおらかな目で見ていただけたら幸いです。改めてよろしくお願いします。隣に座っている岩崎さんは僕の友達……? 「誰なんだ?」という話なんですけど、何か簡単に自己紹介をしていただいていいですか?

岩崎祥大氏(以下、岩崎):岩崎と言います。よろしくお願いします。本当に「お前、誰やねん!」状態だと思うんですけど、簡単に自己紹介をさせていただきます。仕事は弁護士をしていまして、北野さんのファン代表としてここに座っています。

僕は北野さんのファンなんですけど、北野さんが『転職の思考法』を出す前、まだベストセラー作家になる前の段階で、イベントで北野さんをお見かけして本当にすごい人だなと思ったんです。

そこから北野さんが登壇するイベントに全参(全部参加)して、最前列の席で手を挙げて発言し続けるという地道なファン活動を重ねた結果、今日この席に座ることを許されています。これは僕にとっては晴れの舞台です。

北野さんに聞きたい質問を200個くらい用意しているので、みなさんがQ&Aに質問を投げていただかないと、僕がずっと質問し続けることになります。ですので、ぜひ積極的に質問を投げていただけたらなと思っております。よろしくお願いします。

北野:(Twitterのコメントを読み上げながら)「話題の岩崎さん」。そうです。これはたぶん、Voicy(『#そもそもラジオ with T』)を聞いてくださっているからですね。岩崎さんはふだん、一応弁護士をやっているという、意外とちゃんとしている人。

大森:意外と(笑)。

岩崎:もう意外と(笑)。

(一同笑)

阪神・淡路大震災を思い起こさせた、緊急事態宣言下の街

大森:さっそく今回の『これからの生き方。』の制作秘話と言いますか、どうやってこの本がつくられたのか等々を北野さんにズケズケと聞いていきたいと思います。まず最初に、この本をつくったきっかけ、あるいは創作のきっかけや原体験などがありましたら、お聞かせ願えればと思います。

これからの生き方。自分はこのままでいいのか?と問い直すときに読む本

北野:2つあるんですけど、1つは今回のコロナの影響がすごく大きいです。緊急事態宣言が出されたあとに街に出かけたときに、都心なのでふだんは賑やかな街なんですけど、めちゃくちゃ静かでシーンとしていたんです。

たまにしか人を見かけなくて、店もクローズドになっていて、「この感覚は覚えがあるな」と思い出したんですよね。

僕は兵庫県の西宮市で生まれで、西宮市で阪神・淡路大震災を経験したんですけど、そのときの感覚にすごく似ていると思ったんです。昨日までは公園などもすごく賑やかだったのに、急にシーンとなるような感覚が今の時代と一緒だなと思ったんですよね。

実はこの本は、コロナの前から書き始めているんですね。制作に510日くらいかかっている本で、コロナの蔓延がある前から書き始めていたんですけど、今回の本とこれまでの本では、つくり方がぜんぜん違っています。今回は、書きながら「自分が何を見出しているのか」「何を書きたいのか」を探していった本だなと思っています。

コロナの影響を受けて、街を歩いているときに「あ! 今、自分が書きたいのは、これからの生き方なんだな」と確信した瞬間があったんですよ。

「生き方」というもののうち、「これまでの過去の生き方」ではなくて「これからの生き方」を自分は書きたいし、書かないといけないんだなと思ったんですよね。それが1つです。

「働き方改革」は「生き方改革」

北野:もう1つが、僕は最近33歳になったんですけれど、大学時代の友達から、メールやメッセージがたくさん来るんです。「見たよ」とか連絡が来るんですよ。

この本の中の3章にも書いているんですけど、「メディアで見るよ」「応援してるよ」というメッセージだったらいいんですけど、そうじゃなくて「もう俺は諦めたけど、お前はがんばれよ」的なメッセージも、けっこうもらったんですよね。

大学時代に一緒に活動したり同じゼミにいたりして、一生懸命がんばって目標を持っていた同期が、まだ32歳くらいなのに、なんだか諦めている感覚が僕はすごく悲しいなと思ったんです。

それは、「これからの生き方」が定まっていないんだな、と僕は思ったんですよ。この2年くらいは「働き方改革」がバズワードだったと思うんですけど、「働き方改革」は「生き方改革」だと思っていて、生き方が決まらなければ働き方改革もできないという構造だと思うんですね。

例えば、これまで仕事が19時に終わっていた人が「2時間早く帰っていいよ」と言われたときに、その2時間をどうやって自分の生き方として決めるのか。そちらが決まっていないと、働き方改革も進まないなとずっと思っています。

そう考えると、全部の要素で必要なテーマは、「これからの生き方」だなと思ったんですよね。「これからの生き方」って、超難しいテーマじゃないですか。

めちゃくちゃでかいテーマなので、どうしようかなと思っていたときに、漫画で表現する手法(注:『これからの生き方。』は1章が漫画になっている)とか、2章、3章、4章があって、4章目が付録という構造だったら1つの本にできるかなと思って書いたんです。こんな感じでいいんですか?

岩崎:(笑)。

ビジネス書と小説を書くときの違い

岩崎:今、511日の創作活動のnoteの話(注:編集者の大森氏のnote『511日間の石積み』)をしていたんですけど、北野さんの本はだいたいこのくらい時間がかかるんですか?

北野:いやいや、ぜんぜん。

岩崎:この本が特別ということですか?

北野:ふだんはもっと早いです。『これからの生き方。』は、これまでで一番時間がかかった本ですね。例えば、前作の『分断を生むエジソン』は7ヶ月くらいで書いたと思いますし、『OPENNESS(オープネス) 職場の「空気」が結果を決める』という専門書も2ヶ月くらいで書いています。

要は、ビジネス書と物語の制作の違いがすごく大きい。ビジネス書は書く前から答えがわかっているものを書くわけですよね。なぜなら、その領域の知見や経験があるので、書く前から答えが見えている。そうでなければ、人に教えられないわけですよね。

でも、物語は、書く前にまったく何も答えがない。いつも「砂漠」と言うんですけど、本当にどれだけ本をつくっても、次の作品を書くときの1行目は、本当に「砂漠に石を積む」感覚というか、絶望するんです。そういう感じでつくりますね。この本は、その制作期間がちょっと長いです。

岩崎:長い時間をかけてつくった本が出たときは、どういう気持ちなんですか? 「終わったぁー」という感じなのか、「(読者に)どう受け止められているのかな」と思うのか。今、どういう気持ちなんですか?

北野:よく言うんですけど、僕は本当に「本は子どもだ」と思っているんです。見本が届いて手に取った瞬間に、めちゃくちゃ嗅いで……(笑)。

(一同笑)

本が出版されたときは「子どもが生まれたな」という感覚

大森:本の匂いをクンクン嗅いでいましたね(笑)。

北野:それはもう、自分の子どものようなものなので(笑)。今回の本はしなかったですけれども、僕は発売日の前日にはぜんぜん寝られないし、自分の子どもが生まれる前日みたいな感覚です。

だから、本が出版されたときは「子どもが生まれたな」という感じですね。生まれたら育てるしかないじゃないですか。だから著者の中でも、僕は相当に売ろうとするほうだと思うんですよ。

プロモーションをしたり、こういう企画もやろうとするんですけど、それは「一度子どもができたら、それをちゃんと育てるのが親の責任だ」という感覚があるので、できる限りのことはやろうと思うんですね。あとで、「今回のイベントはなんでやったんですか」という質問は出ますか?

大森:ないですね。

北野:今その話をしていいですか?

大森:どうぞ。

北野:(コメントを読み上げながら)「北野さんの本の毎回のプロモーション、楽しいです」。ありがとうございます。「北野さんが毎日ツイートしてくださっているの、ありがとうございます」。「本が子どもって、愛情の積み重ねなんですね」。本当に愛情の積み重ねですね。こういう話でいいんですか?

大森:どうぞ。

北野:これで楽しいですか?

岩崎:ファンとしては聞きたいですよ。

売れる商品には「余白」がある

北野:僕はふだん会社の役員をしているので、新しい手法やマーケティング手法を、常に取り入れていかなければ進化がないなとよく思っています。イベントをやろうと思ったのは、毎回少しずつ新しい制作手法や売り方を試しているからなんです。

例えば、2作目の『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』という本が12万部売れているんですけど、その本は最後にブログに寄せられた感想を入れています。「読者の感想を巻末に入れる本」って、それまでこの世にあまりなかったと思うんですよ。

これは仮説ですが、今の時代は売れる商品や人々が買いたくなるような商品には余白があると思っています。僕は「余白率」と言っているんですけど。

例えば、『NewsPicks』という経済メディアがあると思うんですけど、あれもPickというコメント欄があるから、みんながメディアを読みたくなるんです。すなわち「自分が入れる余地」があるかどうかがすごく重要だと思っています。

新聞は真逆だと思うんですけど、なぜかというと、読者が入れる余地がほとんどないじゃないですか。そういうものは今の時代はあまり支持されないなとずっと思っていて。普通の本は、その余白率がすごく低いと思うんですよ。

例えば雑誌は「読者モデル」がいることが、余白率があるということだと思うんです。そういうことを単行本の中でも1回やってみたいなと思ったんですね。なぜかと言うと、本はある意味、売れなかったら自分の責任だし、怒られるのは自分じゃないですか。会社でそういうことをやると周りに迷惑かけちゃったりするんですけど、1人なので自由にできる。

書店にお世話になった経験から生まれた、史上初のイベント

今回、新しいことをやってみたいと思って、何ができるかなと思ったときに、本屋さんにすごく救われてきたなと思ったんですね。僕が10代のときに、家の近くにちょうど徒歩で15分くらいの場所に小さい本屋さんがあって、毎週末そこに行って本を立ち読みしたり買ったりして、救われた感覚があったんですよね。

22歳から東京に来ているんですけど、そのときも週末にほぼ毎週……バイネームで言わないほうがいいか。

(一同笑)

新宿の大きな本屋さんがありますよね。本当に毎週末のように大きな本屋さんに行っていて、ビジネスパーソンとしても育ててもらったし、自分が苦しいときや仕事で悩んだときに本に救われたなと思ったんです。

なので、本屋さんにもちゃんとお金が落ちるかたちで、しかも出版社にもお金が落ちるかたちで、これまでやったことのない手法をやってみようと思いました。本屋で買ったら何かベネフィットがあるというのは、これまでにも書店ではあったと思うんですよ。でも、著者からすると毎回著者イベントに行くのは大変だし、けっこうきついなというのがありました。

今回はZoomやオンラインイベントが流行ってきたので、それらを組み合わせるともっと効率的に、地方の方でも著者イベントを聞きやすくなるし、書店にとってもAmazonにはない差別化要因になるなと思って、やらせてもらったんです。そういうところですね。本屋さんにはお世話になったなという感覚はすごくありますね。

本を出すたびに、毎回遊び心を入れたくなる

岩崎:珍しいですよね。こういう新しいイベントって、だいたい堀江貴文さんとか西野亮廣さんが仕掛けるイメージがありましたけど、北野さんが仕掛けるというのは新鮮な感じがしています。

北野:毎回試したくなるんですよね。だから『これからの生き方。』も、付録という謎の企画がありませんでした?(笑)。

大森:あはは(笑)。そうですね。

北野:この書籍の構成、普通に考えたら意味がわからなくないですか?

岩崎:自分でやったんじゃないですか(笑)。

北野:「5年後の登場人物に著者がインタビューする」って、見たことなくないですか?(笑)。

岩崎:確かに(笑)。

大森:そうですね。

北野:ないですよね。でも、毎回こういう遊び心をすごく入れたいという気持ちがあって……。(付録の「特別インタビュー 7つの生き方」のページを指しながら)これを入れた理由は遊び心なんですね。毎回、ちょっとだけ期待を裏切りたいという気持ちがあります。こういう話でいいですか? みなさん、楽しいですか?

大森:どうぞ。

読者の期待を少しだけ裏切る仕掛け

北野:楽しかったら「楽しい」と書いていただけると、すごく助かります。2作目に『天才を殺す凡人』という本があるんですけど、「しゃべる犬」が出てくるんです。その本を書くときもですが、やっぱり毎回、ちょっとだけ期待を裏切りたいんです。

1作目の『転職の思考法』がすごくちゃんとしている本だったと思うので、それを読んでくださった人は「たぶん2作目も、ちゃんとしたビジネスの本がくるんだろうな」と思っていたと思うんです。でも、ちょっとだけ裏切りたくて「しゃべる犬」を出しちゃったんですよ。「たぶんみんな、しゃべる犬が出ると思ってないでしょ? 思ってないでしょ? 出ました!」って(笑)。

(一同笑)

僕としては子ども心みたいな感じなんですけどね。これはいつも(イベントなどで)言っているんですけど、そうしたら(2作目の)Amazonの一番初めのレビューが星3つだったんです。「中身は相当おもしろいが、犬が微妙なので星3つ」という。

(一同笑)

「犬のキャラだけで星が2つ減るんだ……」となって、それでシュンってなるんですよ。「中身はおもしろいんだから、別にいいじゃん!」「なんで星5つにしてくれないの!?」とか思うんですよ。でも、またやっちゃうんですよね。