600ページにわたる『ティール組織』を15分で解説

嘉村賢州氏(以下、嘉村):あらためまして、こんにちは。東京工業大学の嘉村賢州といいます。よろしくお願いします。

このたびは豪華なゲスト陣に交えていただいて、すごく緊張しています。『ティール組織』という600ページにわたる本を15分で解説する、というチャレンジを今からはじめたいと思います。

(会場笑)

前提知識をみなさんで共有して、これからの2時間のトークセッションを有意義に過ごせればいいかなと思います。少し駆け足になりますけれども、聞いていただければなと思います。

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

この『ティール組織』という600ページにわたる本を書いた人は、フレデリック・ラルーさんというベルギー人ですね。もともとマッキンゼーという会社でコンサルティングをしていた人で、独立した後で社長向けのコーチをしていたときに、すごく違和感を感じたところから旅ははじまります。

社長はビジョナリーに物事を立ち上げた人が多いんですけれども、ことごとく幸せそうじゃないと。なにか出来事に振り回されたりとか追われているような感じで、恐れを隠しているような気がするというんですね。いろいろな従業員のサーベイを見てみると、世界中の組織で、やはり多くの人が働きがいを感じていない。

そういうところに違和感を感じたラルーさんは、「この経済社会はなにかおかしいぞ」ということで、あらゆる文献をさらって読み、世界中の組織を探求しました。

ティールを理解するための2つの切り口

そんなときに、世界中の通底するメタファーという、時代ごとになにを考えているかの特徴があることに気づいていきます。戦争のメタファーで世の中の仕組みが動いている時代もあれば、その次は機械のメタファーですね。私たちは勉強するときに「インプット」という言い方をします。もともと機械で使われていた言葉が使われているわけです。

いろんな文献をあたると、最先端の物事によく使われてるのが、どうも生命体のメタファーが多いということに気づきます。ラルーさんは「もしかしたら、世界中に生命体のような組織があるかもしれない」という仮説を持って、探求するようになっていきます。

そのときには「できるだけ変わった経営をしている組織を教えてください」という問いで、いろいろな方に教えてもらって、訪ねたそうです。そうすると、いくつか今までのやり方とはぜんぜん違うやり方の組織が世界中で発見されたことに驚きます。そのなかでいろいろな組織に共通するものを見つけて、まとめたのが『ティール組織』です。

ティールといえば、2つの切り口を押さえておけば、ある程度理解したなと思っていただけると思います。1つが歴史の切り口です。人類が誕生して以来、組織はいくつかの歴史を辿っているということ。そして2つ目が、ラルーさんが見つけた新しい組織の息吹には3つの特徴があることです。その部分を押えていると、ティールに関してある程度理解できたかなと思います。

今からザッとそれを見ていければなと思います。

組織の歴史・5段階説

まず、歴史の観点からお話ししたいと思います。日本語の本では7段階で書かれていますが、海外では5段階で語られることが多いので、5段階で説明したいと思います。

ラルーさんは、組織の歴史を探求していくなかで、色で名付けています。「どうもこの5段階が理想だ」ということを、ラルーさんはまとめています。

一番古いパラダイムが「RED」とラルーさんは書いています。これは簡単にいうと、ヤクザ、豪族、マフィア。ジャイアンの感覚ですね(笑)。「言うことを聞かなかったら、殴るぞ、殺すぞ」と、脅しで集団を動かすのが一番手っ取り早くて物事が動くと。それがすごく原始的な組織の運営形態として世界に現れてきました。

その後「AMBER」のパラダイムに入っていきます。例えば、ピラミッドを創るとか、大きな事業を成し遂げるときに、脅してるだけでもなかなか人は動かないですし、話し合っても埒が明かない。そんなときに「お前は身分が低いからやれ」というのが、一番楽なわけですね。

こういう時代に発明されたのが、「上意下達」とか「指示命令系統」「業務プロセス」というものです。ある程度、長期的な展望をもって大きなことを成し遂げられるという時代に入ってきました。

その段階から次の「ORANGE」にいくと、だんだんと村と村が出会い、国と国が出会い、組織と組織が出会い始め、競争が始まっていくんですね。王様が寝そべっていてもピラミッドが作られていた時代はよかったのですが、いち早く武器を作らないと滅んでしまうというところにいって、各組織が競争を激化させる時代に入ってきました。

合言葉としてはこぞって「イノベーション」ということを探求し始めて、改善・改良していきます。この時代は「科学的マネジメントの時代」ともいわれていまして、1時間あたりの生産量を測っていろいろな改善を生んできた時代です。

今の世の中の大半がまだ「ORANGE」だと思います。いろいろな組織の経営論の方法・テクニックは、だいたいこの時代に発明されたものかなと思います。

承認プロセスの「ORANGE」から、フラットな「GREEN」へ

この時代の最大の発明は「能力主義」といわれています。「がんばれば出世できる」というものを発明したことによって、その前の奴隷の身分の人たちとか、なかなか苦しかった人たちも、がんばれば出世できるしお金儲けもできるということで、こぞってがんばり始めた時代でもありました。生産性を高めていった時代だと「ORANGE」パラダイムではいわれています。

ただ、みなさんご経験があるように、「ORANGE」パラダイムもいくつかの矛盾が生じます。上に上がれる人はがんばり続けるけれども、上がれなかった人は考えなくなるということもあるかもしれません。

この時代のメタファーは機械ですから、スキルで雇われて、スキルで配置されます。人間は1つのスキルだけを発揮して人生を生きるだけじゃなくて、いろいろな側面を持っています。けれども、それしかできないという働き方のなかで、矛盾とか虚無感を感じる人もいるかもしれません。

そして、実は世界の変化というのは現場で感じることが多いけれども、こういった組織では承認プロセスというものを辿っていきますので、伝言ゲームとか伝わらないとか、あるいはせっかく提案したのに却下されてという感じで、他責とか、「もう言うのをやめておこう」というような組織にもなりがちなのが「ORANGE」のパラダイムになるわけです。

そんななかで、だんだんと「GREEN」というパラダイムの組織が現れてきます。「ORANGE」だと、名前に階級をつけて役職をつけて呼ぶことが多いです。「〇〇社長」「〇〇部長」「〇〇課長」。「GREEN」の組織では、ほとんど言いません。「〇〇さん」という呼び方とかニックネームとかですね。

要は「アイデアとか言いたいことがあったら、承認プロセスを上げるんじゃなくて、ざっくばらんにみんなで話していこうじゃないか」と。「家族でしょ。仲間でしょ」と。「一緒に考えて、一緒に未来に向かっていきましょう」と。そういった組織が「GREEN」の特徴になります。

こういった組織は、カルチャーを大事にして、対話を大事にして、話し合いが行われます。権限移譲もどんどん行われて、いろいろなことを任せてもらえるので、社員もコミットメントしてがんばるような組織が「GREEN」の特徴になります。

信頼で結びつく「ティール型組織」

しかし、「GREEN」もいくつかの矛盾をはらんでいるといわれています。1つは、簡単にいうと「船頭多くして船山に上る」ですね。多様な価値観を大事にしようという組織は、それゆえになかなか物事が決まらなかったりとか、進まなかったりということが起こりがちです。

もう1つは、「GREEN」の組織の会社の人と話すと「うちの社長はちゃぶ台返しが多い」という口癖が多いんです。まだ緩やかにピラミッド構造が残っていますので、社長とか役員層、あるいは理事会のような上の層と、仲良くざっくばらんに話しているメンバーの層とで、どうしても溝が生まれやすいというのが「GREEN」型の特徴になります。

そんななか、どうも世界中では、この「RED」「AMBER」「ORANGE」「GREEN」に属さない、一人ひとりが自由に意思決定できるけれども、信頼で結びついてパフォーマンスを出している組織が、ポコポコと現れていると。それを「ティール型組織」と名付けようと、ラルーさんはまとめました。

振り返っていきますと、衝動的に動かしてく「RED」の組織があり、長期的な展望で上意下達指示命令系統を発明した「AMBER」組織。ハード的マネジメントの時代ということでいろいろなPDCAサイクルを回しながら組織を変化させていったけれども、少し機械のように働くなかで矛盾が生まれた「ORANGE」組織。多様な価値観を大事にして話し合いとかカルチャーを生み出していった「GREEN」の組織。

しかし、2つ矛盾があるという話はさせていただきました。そんななかで、いくつかの組織がティールとして発見されていくわけです。

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