ハラスメントは企業の「聖域」から起こる
被害者を苦しめる、多数決の暴力

ハラスメントリスクでゲームオーバー?~そうならない危機管理と広報~ #2/4

G1経営者会議 2018
に開催

日本や世界の政治・経済・文化・技術・環境などを学び、リーダーシップを発揮するための知恵やネットワーク基盤を提供する「G1経営者会議2018」が開催されました。そのなかで行われた分科会「ハラスメントリスクでゲームオーバー?~そうならない危機管理と広報~」に、東京都 監査委員・岩田喜美枝氏、『The Japan Times』編集局長・大門小百合氏、弁護士・永沢徹氏、ウェーバー・シャンドウィック会長・西谷武夫氏、アクセンチュア株式会社相談役・程近智氏が登場。ハラスメントリスクに対して、企業が本質的に解決すべき問題は何かをディスカッションしました。

ハラスメントへの本質的な対応策は?

程近智氏(以下、程):いくつかの事例も出てきましたけれども、そもそもハラスメント、パワハラ・セクハラというのは今に始まったことではなく、とくに日本の企業の中には内在していた。スポーツのチームもそうだと。

「本質的にどうしてそうなのか」「それに対応するためにどのような方策とか考え方を導入すればいいか」、その解決の道筋をみなさんのご専門の領域からお話ししていただきたいです。これは順不同で、挙手でお願いします。

じゃあ岩田さん。

岩田喜美枝氏(以下、岩田):4つぐらいあると思うんですけどね。

:あ、そんなにたくさん(笑)。

岩田:なるべく口早に言います。

1つは、やっぱり職場の多様性が今進んでいるということです。従来の若い、あるいは中年の日本人男性が中心だった職場に女性が入ってきて、妊娠・出産後も働くようになってきました。また60代の高齢者も働き続けるようになり、外国人が増え、そして非正規がものすごく増えてきてる。このように、いろいろ違いが出てきて、……いろんな切り口でマジョリティとマイノリティがあるという。これがやっぱり残念ながら、「自分と違う」ということで、ハラスメントの原因になりやすいということが1つあると思います。

それからもう1つ。これは率直に産業界は認めないといけないと思うのですが、グローバルな競争環境の結果は、やっぱりあると思うんですよね。ひと言で言えば「職場に余裕がない」というのか。過度な業績を要求されると、とくに役員・管理職の方というのは、それが非常に精神的な負荷になる。労働時間も長くなる。非常にストレスの多い職場で、そしてなかなか人のことまで慮る余裕がないという。これも2つ目の原因だと思います。

3つ目。これは働く人の意識の違いです。今はみなさんがおっしゃいましたように、1つはやっぱり、ハラスメントについての認知度や人権意識が上がり、「こういうことは言っていいんだ」という、そういう意味での意識の変化もあります。

それからもう1つは、世代間の(認識の違い)。これはよく企業の人事部の方が言われるんですけれども、管理職の人は「叱るというのは育成の一環で当然だ」「叱るというのは部下を育成するためにやるんだ」と思っているのですが、若い人たちの中で、親からも叱られたことがないような人たちは、やっぱり非常に耐性が弱いんです。

ある調査ですと、「上司から叱られると、どのように感じますか?」という設問に対しては「やる気を失う」というのが57パーセントなんですよね。だから、叱られることに対する耐性が弱いということもやっぱりあると思います。

最後の4点目。セクシャルハラスメント・マタニティハラスメントの原因は、やっぱり伝統的な性別役割分担意識というものが根強い。例えば、女性を対等なパートナーとしては見られずに、やっぱり異性として、性的な対象として見てしまうとか。

それから「妊娠・出産を経た女はどうせ活躍できない」と決めつけたり、逆に、男性が育児や介護を担うようなことに対しては「男のくせに」と思ってしまったり、そういう意識があると思うんですね。

それ以外にもあると思いますが、4つは大きな原因かなと思いますので、やっぱり問題解決にはこれらに対応するため(の方策や考え方が必要になります)……..。

ですから、1つは、さっきも申し上げましたような、「Integrity」も「Inclusion」も含む、広義のダイバーシティを進めていくということ。そして2つ目には、今、競争力は必要なんだけど、同時にゆとりのある職場をどうやって作っていくかということ。そして3つ目が、これは企業の中だけでは済まないんですけれども、社会全体で固定的な男女の役割分担意識、男女の固定的なイメージを払拭していくこと。この3つが、やっぱり根源的な課題かなと思います。

:なるほど、なんかもうまとめていただいたような気がします(笑)。

多様性がある組織には「気づき」がある

:実はそんななか、岩田さんには十数年前からアクセンチュアでお世話になっております。私が社長の時にアドバイザリーコミッティーのメンバーで、まさしくいろいろとご指導を受けました。たしか2ちゃんねる(注:現在の5ちゃんねる)でしたね。「2ちゃんねるでアクセンチュアのことをこんなにたくさん書かれてますけど、経営者として、これ本当ですか?」と突きつけられたんですね。

正直、私も「まあ、あるだろうな」と思って、(投稿を)見てはいました。(2ちゃんねるには)経営課題の優先順位が挙がってましたけど、(結論としては)どっちかというと「成長」だとか「会社として成功しよう」となって。そのへんを非常に的確に言っていただいて。まだ道半ばですけれども、私の後継者含め、ある意味では、社長自らそれを前面に出して正面の重要課題として取り上げるって、非常に重要だと思います。

私自身も昔から2ちゃんねるを見てました。今は2ちゃねるはちょっと違う時代ですけど、今、会社の評価をするようなサイトもたくさんあります。今日いらっしゃっている方の中には経営者の方がいらっしゃるかもしれませんけれども、人事部に任せるんじゃなくて経営者自身がそれを見る。これは自分の社員が本当に言ってるか否かって、経営者ならだいたいわかるんですね。

私は社長を辞めたとき、社員が6千数百人でした。今は1万人以上になってますけれども、やっぱりそのへんは、経営者自ら今みたいな課題をしっかり考えることが大事かなと思います。ありがとうございます。

ほかの方々、今の流れでお願いいたします。

大門小百合氏(以下、大門):まさに岩田先生がおっしゃったみたいな感じで、多様性はすごく大事だなと思っています。多様性があるとなにがいいかというと、気づきがあるわけですよね。Japan Timesは英語の新聞なので、多様な国の人が入っているんですけれども、それでもやっぱり気づかないことがけっこうあります。

私は一面会議を主催します。例えばLGBTの、どっちかというと性転換をされた方の記事を書いた時に……男の方から女性になられたんですけれども、そのことを報じた記事が「He」となってたんですね。「He」と書いてあったのを「Sheじゃないの?」とアメリカ人の男性に言われて、「あっ、そうだ」と言って直したとかですね。

すごく細かいことですけれども、(世に)出る前に社内で気づいてなんとかしたというのがけっこうあります。気づきというのはすごく大事です。

ダイバーシティをいろいろな観点から入れていく

大門:もう1つは、セクハラに関しても、やっぱりジェンダーについての感覚というのを、もっともっと磨かないといけないかなと思っています。私の会社でちょっと失敗しちゃったというか、私なりには失敗しちゃったかなと思っていることが1つあります。ある日本の会社がラブドールを作ってるんですね。いわゆるセックスドールを作っています。数年前にそれの展示会をされました。

ただ、それらの人形はすごくアートなんですよ。本当に美しい女性で、シリコンで作られて、「こんな美人の人と一緒にいたらうれしいだろうなあ」と思うんですけれども(笑)。

それをうちの記者が「すばらしいアートとして、『日本の技術はここまできた』という話の切り口でやりたい」と言ったので、「変に書くのではなくて、そういうやつだったらいいよ」と言ってしまったんですね。写真もあまりおどろおどろしいものは使用せずに、(記事として)書いてしまったんです。

そうしましたら、うちの社員の女性記者が「会議の席に出させてください」と言ってきたんですね。そして、彼女から「非常に不快です」と言われたんです。

私の前に、実は報道部長がいて……報道部長も女性なんですけれども、彼女も「まあいいだろう」とOKしてたんです。私は編集局長としてOKしました。つまり、女性の目が2回通っているわけですね。なので、「女性がOKだから、いいだろう」ということではないというのもあり、反省しています。

だから、ダイバーシティは、女の人がいればいということでもないし、女性記者の中にも、けっこう男性化している記者がけっこういるので、「今までスルーしてきた部分もあったけど、よく考えたら、これひどいよね」というのがあります。やっぱりダイバーシティをいろいろな観点から入れていくのは、すごく大事だなと思います。

:なるほど。今のケースですけど、逆の見方からすると、多様性……そういうものをアートとして見る集団もいるじゃないですか。

そんななか、それはきっといろいろと個社の判断になると思うんですけれども、そういったようなことを判定する倫理委員会……何委員会かわからないですけど(笑)、そういうものを会社のガバナンスの中に埋め込んでいくということもあるんじゃないですか。メディアの場合は、そういった判断はこれからますます難しくなってきますよね。

大門:そうですね。とくに炎上しちゃったりとか。実は、私たちの前に某A新聞さんに同じように取り上げていたというのもあって、そこでまた1つハードルが下がってしまったということもありました。

例えば、同業他社が同じようなことをやっていたとか、そういうのはやっぱり、かなりいろいろな面から攻めていって、自社の中で議論していかないと厳しいと思います。1つの正解というのはないと思うんですね。個々のケースにもよりますし、そのときの情勢ということも、もちろんあるとは思うんです。やっぱり社中で十分議論していくのが一番大事かなと思います。

:なるほど。永沢さん、いかがですか?

「多数決の暴力」という側面もある

永沢:そのとおりで、おそらく「多数決に馴染まない」というのが、このハラスメントの特徴なのかなと。つまり、10人のうち9人が問題ないと思っても、1人にとってはものすごく問題であると。そうすると、その9人の意見が1人を封じ込めるようなかたちになってしまう。多数決の暴力みたいなところが、1つの側面としてあるんだろうと思うんですね。

パワーハラスメントでよく問題になる人というのは、非常に仕事ができていて誰からも文句を言われないような方が、ほかの人に過大な要求をするということがある。あるいはセクハラにしても、今まで「聖域」となっていたような、会社の中心となっているような方で、誰もその人には物が言えなかったというようなところから、それを背景にしてハラスメント行為が行われると。

そうしたときに、「会社はどっちを取るのか?」と言われると、なかなか難しいところです。「でも、やっぱりダメなものはダメだ」という、少数の意見を汲み上げる仕組みを、会社としてどう持つかというのがすごく大事なんだろうなと思います。

多くの経営者は「自分の会社はものすごく風通しがいい」と断言されるんですよね。だけど、従業員から見てそう断言できるかどうかは別ですし、やっぱり多くのアンケートとかによるとハラスメントを見聞きしている割合が3割を超えたりしていることが、決して少なくないわけです。その数字を見て、経営者がきちんと考えていただけるどうかというのは、非常に大事です。

岩田さんも、いくつかの有名な会社の社外役員をされてます。社外役員とかの役割で、そこから経営者に物申せるような環境があるかどうかというのは、すごく大事なのかなと思いますね。

:なるほど。今、日本の企業はずいぶんとそのへんの意識が高まってきて、社外取締役もチェックポイントとして導入してます。私の経験から言うと、十数年前、まずはセクハラから対応しようということで、だんだんやっているうちに、やっぱり、正直仕事やコンサルができる人が型になってしまって。その働き方とかは、なんでも「そのやり方がいい」となってしまうので、ステージが実はあったんですね。

最後は「経営者の覚悟」となる

:今はもちろんいろんなものに対応してます。たくさんのケースを見られてますけれども、そのへん、日本の企業の今の進化の度合いはどうお考えですか……? また、大企業と中堅・中小企業は違うと思うんですけれども、そのへんはいかがですかね?

永沢:大企業のほうが進んでいるかというと必ずしもそうではないというのは、やっぱり組織から抜けることのスイッチングコストが大きいケースがあって、「我慢をする」という部分のインセンティブが働きやすいところがあります。そういう点で、非常に大きな会社で、社外の通報窓口というのがあったりしても、それらが必ずしも活用されていないという問題があります。

だから、私も社外役員をさせていただいている会社で「この従業員の人数にもかかわらず通報がぜんぜんないというのは、むしろ憂うべきなのではないか」と。やっぱり風通しがいいというのであれば、それをエビデンス・ベースドというか、きちんと数字的な根拠を持って示していただく必要があるのではないかなと。

みんながみんな風通しがいいと思っているわけではないことを、どうやって気づくのかなというのはすごく大事なポイントです。そういう意味では、人材の流動性がある会社のほうがむしろ逃げられないために、きちんと対応しなければいけないという危機意識があったりするケースもあるんですね。そういう意味では、就職人気の高い会社というのは、ハラスメントが潜りやすい側面があるかなと思いますね。

:本質的には、何がその差を生んでいるんですかね? 伝統なんですかね? 経営者なんですかね? それとも、わからないですけれども、そこの業界の体質なのか。

永沢:いや、あらゆるところが問題になっていると思います。けれども、やはり最後は経営者の覚悟ではないかなと。つまり、多数のために寄り添うことで少数を排除するというようなことをやるとすれば、先ほどおっしゃられましたように、それこそダイバーシティとか、一部の人たちがどうしても被害感情を潜らせることになりかねないものです。最後は、トップがどう覚悟を決めるかということが、大きいんじゃないかなと思いますね。

:なるほど。西谷さん、いかがですか?

西谷:私はちょっと違った話になるかもしれませんが、ここまで話しているポイントは、やはり1つの企業の中での話がほとんどだと思うんですね。アメリカでもそうなんですけど、今度の法的措置では、企業の中だけじゃなくて企業の外、お客さんとの関係、あるいはベンダーとか下請けとの関係も、ハラスメントの対象になっているんですね。

とくに日本では……ちょっと言葉が悪いんですけど、下請けに対して「ガンガン働いてもらう。扱き使え」というようなところがあるんじゃないかと思うんですね。

成功している企業ほど生産性が高い。じゃあその生産性が高い理由の1つに、下請けをうまく使う、あるいは絞るというところが非常にあります。今後ここは大きな問題になっていくであろうし、企業のみなさん……とくに大手の企業のみなさんが、考えるべき問題じゃないかなと思っております。

:なるほど。わかりました。

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