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Co-Innovation Base 対談編!『起業の科学』著者に学ぶスタートアップ成功の秘訣とは?(全4記事)

社員がドン引きする“プレイヤーになりたがる経営者” セブンドリーマーズCFOが学んだ「任せる力」

2018年2月20日、ランドロイド・ギャラリーにて、初のトークイベントが開催されました。『起業の科学 スタートアップサイエンス』(日経BP社)の著者で、自らも起業の経験をされている田所氏をゲストに迎え、セブンドリーマーズCEOの阪根氏、地引氏を交えた3名のスタートアップ経営者が登壇。パネルディスカッション形式でイベントを行いました。本パートでは、地引氏が前職のソネット・メディア・ネットワークス時代の社長業から学んだことを明かしました。

困難を乗り越えた人が、傍から見たら成功者

阪根信一氏(以下、阪根):僕もスタートアップ企業を興して挑戦する中で、やっぱり一番大事というか、結果的には宝物になっているのは、トラブルとか危機的な状況を乗り切った経験。それで、さっきから失敗についてすごく聞いてるんですけど、やっぱり順風満帆に、常にラッキーと知力と運と根性で、成功にまっすぐ走っていく人なんて基本的にいないんだなと。

常にどんな人にも、困難は必ずやってきて、それを乗り越えた経験が経営者やチームを強くする。それを乗り越え続けた人を、傍から見たら成功者と呼ぶんだろうなと。我々はそんなふうに思っています。

おそらくこの『起業の科学』を書かれた背景には、自己の本当に厳しい困難を乗り越えた経験から、先にこういうのを知っておけば成功確率が上がるんだと。当然のことながら、これを読んだから全員成功するわけじゃない。だけど、その成功確率が上がるだろう。

だから、それをちゃんと本にしてみなさんに伝えて、スタートアップを起こそうという人を増やしつつ、かつ成功確率を上げようという思いで書いたんだろうなと感じています。たぶん田所さんの場合は、たくさんの起業家に実際に会われたので、そういった経験が詰まってる。そういう理解でよろしいですか。

田所雅之氏(以下、田所):そうですね。まさにそう思います。

まずは限られた小さな市場を支配すべき

田所:この本に書いてるんですけど、成功するのはアートかなと思うんですけど、失敗しないのはサイエンスでできるかなと思います。起業のすべてが仮説検証だと思いますね。ランドロイドさんも、セブンドリーマーズさんもこれで市場に出してみて、実際にどんなフィードバックが入ってくるのか。入ってきたフィードバックを検証して学ぶことですね。あと、スタートアップは実験なので、実験のパラメータを減らすことなんですよね。

全方位にやってしまったら、パラメータが増えすぎて煩雑になってしまう。最初から全方位的にやろうと考える人がいるんですけども、それは「Premature scaling(虚栄の指標)」と言って、時期尚早の拡大になっちゃうんですね。

時期尚早の拡大は、一般企業で働いてた時のロジックをそのまま適用しようとすると、よく陥ってしまいます。すでに顕在化した大きな市場で競合に勝ち、シェアを伸ばす戦略をスタートアップでは採用すべきではありません。とりあえず、限られた小さな市場を支配するのが大事です。

Amazonがそうですね。今は時価総額で50兆円を超えていますけど、最初はAmazonのジェフ・ベゾスは苦渋の判断で、書籍だけを選んだんですね。そして、書籍のインターネット販売の領域を支配した。起業家として、あれはものすごく大事な選択肢だと思います。

なぜ書籍を選択したのかと言うと、実験するパラメータが少なかったんです。書籍って腐らないし、管理もしやすい。

阪根:ありがとうございます。少し地引さんの話をします。なぜ当社に来てもらったのかというというと、セブンドリーマーズも複数の事業をやっていて、そのうちの一つがランドロイドなんですけども、私も技術枠なので、経営という道に入って、とりあえず技術開発を完成させることと事業を伸ばすことに全力で走り続けていたと。

誰と仕事をするかが大事

阪根:間接業務というか、それに携わっている方には大変失礼になるかも知れませんけども、実際IPOに向けた準備や経理面は、世界中の上場企業はちゃんとできてることなんで、ある程度会社ごとにカスタマイズすれば、「お手本をもとにやっていくとできるはずだ」と勝手に軽視してたというか、甘く見ていたところがありました。

我々も全力で事業や技術のことばかり考えて走っていたら、気が付くと足元がグラグラになっていたという状況がありました。先ほど田所さんもおっしゃったとおり、だいたい巡り合うパートナー、信頼できる人ですね。人材が大事とおっしゃいましたけども、そういうことに気が付きまして。

それまでやってくれてた人も本当に信頼できる人で、今もいるんですけどね。僕の腹心の部下でもあるんですけども、もともと彼も技術者で、そのCFOとしての立場も専門家でもまったくなかった。それで上場経験もないしというところで、これはまずいと。

素晴らしい人がいないかなということで、いろんなヘッドハンティング会社や人材派遣会社の方々に会って、巡り合えたのが地引さん。「なんでこんな稀有な人がうちに来てくれたんだろう」と、若干疑問は残りながらもですね。

実は、前職の時の苦労話とか、僕も今初めて聞いたんです。「なんだそうだったのか」と。「今うちで偉そうに言ってること、自分も失敗してんじゃねーか」と(笑)。

(会場笑)

一瞬ちょっと、ちらっと思ったりしました。やっぱりその経験の中で、当然親会社もあり株主もあり、上場すると当然株主もたくさん増えていく中で、社長業として学んだことを教えてもらえますか。

地引剛史氏(以下、地引):そうですね。ある程度組織が大きくなってくるときに、全体を見てバランスを取るのはすごく大切だと思いました。これは僕自身が最後の最後に失敗したことでもあるんですけど、上場してみんな達成感があったんです。でも、僕はどっちかっていうと、上場してからの方が重要だと思っていて、海外展開とかもいろいろやらなきゃと思ってたんですね。

自分はプレイヤーにならず、従業員に任せる

地引:ほとんどが年上の役員とかなので、けっこうみなさんと「もうわかったよね」みたいな感じがあって、「これはいかん」と思って。みんなが海外に行きたくないって言うなら「俺が行くぞ!」みたいな感じで、一人で出張して半月くらい会社を空けてたんですね。自分でいろいろパートナー探しとかをやってたんですけど、帰ってきたら、もうみんなドン引きしてるわけですよ。

「国内がこんなに苦しい時に、なんで社長が一人で海外行って遊んでんだ!」みたいな感じで。その時に、社長がこんなことやっちゃいけないかもって思ったんです。その時に、監査役からも「自分で事業を見始めちゃうと他の人たちのモチベーションも下がるし、やめた方がいいですよ」って、すごくしつこく言われて。

「いやいや、ベンチャーなんだからそんなの関係ないだろ」「自分が事業を見てなくてどうする」みたいな感じで、けっこうやったんですけど、(従業員が)本当にドン引きしてる姿を見て、これはいかんと思いました。

これって本当に、フォワードが得意なサッカー選手とかと(試合をしてるときに)、自分は監督なのにピッチに立ってフォワードやって、「ボールは俺んとこに集めろ!」みたいなことを言ってるのに等しいんですよ。それで後ろの方でボールを入れられると、「なんでお前が守んないんだ」みたいな。そういうのを、フォワードのところから叫ぶような感じになっちゃって。

けっこう従業員の方はそういうのをすごく見ていて、自分(経営者)がプレイヤーになっちゃうと、本当に思わぬところでバランスが崩れるということを目の当たりにしました。「それはやっちゃあかん」と、任せる力が重要だなというのがすごい学びでした。

阪根:なるほど、すごい背景ですね。(人に)任すところと自分がやるところの線引きが上手い人だなというのは、一緒に働いていて感じてたんですけど、そういうところからだったわけですね。

地引:痛い経験をしまして。

阪根:はい。ありがとうございます。そうすると、起業をしていく、経営していくところで、絶対に外せないポイントであるお金の話を。シェアできる範囲内で「こういう苦労があった」とか「ここは資金調達のポイントだ」とか、田所さんのお金にまつわるエピソードがあれば。

BtoBは課題解決型

田所:一番苦しいのは、なんちゃってプロダクト・マーケット・フィットしてしまうこと。一番厳しいのは、お金を集めたらピボット(方向転換)できないことがあります。そのままやってしまっても、絶対IPOやExitもできない感じになります。

あるガジェットを作った会社があるんですけど、そこはぜんぜんプロダクト・マーケット・フィットしないんです。にも関わらず、そのガジェットに興味を持った人からクラウドファンディングで3,000万円集めたんですね。この会社を2回ほどメンタリングしたのですが、これはちょっと難しいなと思って、お手上げしちゃったんです。

興味本位で、「ちょっと面白いな」と思って、クラウドファンディングでサポートしたんですけど、1回使ってしまったらユーザーはみんな飽きてしまうプロダクトでした。でも、クラウドファンディングで3,000万円集めちゃって、2ヶ月後に1万台を出荷する必要が出てきました。

まさに、先ほど話したPremature scalingが起きました。サプライチェーンを最適化するためにチームを作る必要があったんです。人が欲しがるものができていないのに、オペレーションを最適化する必要が出てきたと言うことです。その状態で、シリーズAとかの資金調達は非常に難しいですね。

そこで、僕は「B2B(Business to Business)にピボットできますか」と提案したんですよ。ただ、製品がホビー用に作られているので、業務レベルの要件に耐えられないんですね。

そういった感じで、勢いでお金を集めちゃうと、あとで逆にめちゃくちゃ苦労するんですね。あるスタートアップは、VCに土下座して「ピボットさせてください」とお願いした場合があると聞きました。

昨日メンタリングした会社も、実はプロダクト・マーケット(・フィット)してないですね。でも、プロダクトが話題になって、メディアにも載りまくっています。これってけっこう諸刃の剣なんですね。メディアに載るとみんながいいと思っちゃって寄ってしまい、自分たちで勘違いしてしまう。

さらに「メディアに載ってます、それで売れました」って状態だと、それが続かないと売れないし、その勢いだけで資金調達しちゃうと、そのバリュエーションが高すぎる状態になり、後から自分たちの首をしめてしまう。

ちゃんと、事業を進める中で、競合優位性を蓄積していく必要があります。例えば、顧客との関係をストックするとかネットワーク効果が効くモデルにするとか、防御壁を築けるようにする必要があります。それを築いた上で資金調達をするのがポイントになります。

阪根:なるほど。

田所:ちょっとマニアックでしたね。

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