準備してきた質問を使わないほうが良い取材

岡島悦子氏(以下、岡島):ちょっと観客にも質問を何問か取ってみたいと思います。お願いします。

質問者1:普段取材に行く場合の話なんですけど、いろいろ準備して行っても相手が急に取材中に「落ちる」というか、関心や緊張感がなくなって「外したな」と思うときがあるんじゃないかと思うんですけど。

そういうときに、どうしたら取材の続きをやっていけるかを教えていただきたいと思います。

質問者2:私は社会を変えるためにグロービスに入りました。グロービスに入って思ったんですけど、優秀な人は結構いるんですけど、強欲な人ってあんまりいないんですね。

私は結構強欲なほうでガンガン前に出ていくんですけど、さっき「強欲を突き詰めると破滅にいたる」という話があったので、そのあたりのバランスやどこまでの強欲が許されるのかを教えていただけると幸いです。

質問者3:小説を書かれてて、いろんなアイデアが入ってるんですけど、実際に執筆している場面が想像できないんです。どんなところで思い浮かべて書かれてるのか、教えてください。

岡島:ありがとうございます。まずこの3問ぐらいでいきましょう。

真山:(相手が)取材中に落ちることはまずないです。絶対落としません。逆にさっき私が話したみたいに、何か質問したときに「そんなことじゃないよ」と言う方はたくさんいます。でも、そういう答えも予想しているので「じゃあ、どうなんですか?」と切り返します。

私は、準備してきた質問を使わないほうが良い取材だと思っています。最初に相手が発言した内容や答えに対して質問するのが実は一番いい取材です。

頭が真っ白になったり、聞くことがなくなったりしたときに用意してきた質問を足すだけなので、向こうがハイテンションでやろうが、ローテンションでやろうが、話をどんどんそらす人であろうが、そこはもうそれに合わせて。その人の答えのなかに質問があると思っています。

謙虚な人間ほど本当は強欲

(2番目の質問は)強欲のバランス。若い人で強欲を意識されてる場合は、「結果さえよければいい」という思いが強いんだと思うんですよ。

でも終わった後が焼け野原になっていたら、勝ったって売る相手はいません。仲間もいなくなると思うんですよ。

だから、いつも周りを見ていられるかどうかが大事でしょうね。強欲を露わにしたら負けです。謙虚な人間ほど本当は強欲ですから。勉強に熱心な人って欲望のほうになかなかいかないので、(あなたの)感じてらっしゃることもわかるんですけど。

強欲を前に出してしまわずに、いろんな自分の知識や雰囲気でオブラートに包みながら根っこに持ってるんです。なので根っこに持つとよい。なぜかというと(いざというときに)へこたれないからです。

岡島:したたかさみたいなものですよね。だから、鷲津を書いてらっしゃるときに、KKLのアルとかを使って最後自分が負けたようにみせて、アメリカ人が喜ぶ形を演出することは、本当は外から見たら強欲には見えないですよね。

真山:本当に強欲なら、メンツなんてどうでもいいんですよ。メンツを気にしている間は、どちらかというと強欲より他のものが欲しかったりする。

その辺は、自分の気持ちの強さを相手にわからせないようにしていったら、もう少し考え方が変わってくると思います。

岡島:オルターエゴみたいなものですかね。ちょっと高次元のエゴというか。

真山:非常にガッツがあるというのであれば、そのガッツを暑苦しいと思わせないところで抑えられるかどうかだと思います。

世の中に対するダメ出しが小説のテーマの種となる

(最後の質問ですが)どうやって書いているかですね。よく小説の神様がいて降ってくると言いますが、私は有り得ないと思っています。ではどうしているか。

ひとつは、私はいつも世の中のことに関してダメ出しをしています。先ほどお話ししたように、例えばメディアが尖閣問題をとりあげているのに対して、「いや、これは(戦争)起きないだろう」と思うところから始まります。

そして「(戦争が)起きないって証明してみろよ」と自問自答するうちに、そこで(また視点が)変わってくる。それ以前に、尖閣の話するときに、「そもそもあそこで(発生している)国境問題ってどういう意味だろう」ということから調べなきゃいけませんよね。

ひとつの端緒があるとそれを知るために何を知らなきゃいけないか連鎖的につながっていき、小説のテーマの種となることがあります。

しばらくして似たような話が出てきたところで「これって、もしかして何か起きるのかな?」と思えば、「専門書で調べようかな」「amazonでこういう本売ってないかな」と探すわけです。

そういうことを常にやっています。でもそういう塊の中で5つのうちの1、2つくらいですよ。小説までもっていくのは。

ただ、一度きちんと調べたことは他でも使えるんです。例えばM&Aや国際金融、銀行マンの生理はもう取材しなくてもある程度わかってます。ですから昔に比べてたら取材の数が減りました。

小説家になるために「10年新聞記者やろう」と決意

岡島:10年やってこられた蓄積ってところですかね。それと関連してうかがいたいのは、元々小説家になりたかったってことなんですけど、新聞記者のときのご経験みたいなのは今の作風などには役立ってらっしゃるんですか?

真山:それは間違いなくそうですね。高校時代に小説家になると決めたのですが、(好きな小説は)その頃から圧倒的に海外の小説が多かった。そして、好きな作家の経歴を調べたらほとんど記者上がりだったんですよ。

「なんで自分は彼らの小説が好きなのか」と考えると、リアリティがあることと、社会に問題提起しているからなんですよね。大変傲慢で不遜な人間でして、それが理由で高校時代に「10年新聞記者やろう」と決意しました。

「取材力とわかりやすい文章と人脈を10年かけて手に入れよう」と思い、大学の受験もマスコミにたくさん入っている大学しか受けなかった。結局、新聞社は2年半で辞めてますけど、小説家になるためにどう取材すればいいかとか、とにかくモチベーションが違いました。

岡島:新聞記者として名前を上げるためではなく?

真山:そうです。「こういう問題があったときに、なぜ自分はここで突破できないんだろう」「デスクはなぜ邪魔するんだろう」「なんでこれだけ一生懸命書いているのに読者は関心がないんだろう」とかずっと思っていましたね。今でも同期で記者やってる人間はたくさんいますけど「すごく濃い2年半をや送ってたよね」とはよく言われます。

岡島:ありがとうございます。

小説は読者の数だけ読み方がある

質問者4:コミュニケーションというキーワードを持ったうえで、作家と読者の関係のなかで、どういうふうに読み手の心をとらえ、受け入れられるようなものを見つけているのか、探り出しているのか。手法があれば教えてください。

質問者5:「真山仁」という人生を歩むことになった原体験で、今振り返ってみて「あそこだな」と思うものがあれば教えてください。お願いします。

真山:両方とも難しい質問ですね。読者の心をつかみたいですけど、つかんでるかどうか実はわからないんですよ。少なくとも、グロービスの学生の人(の心)はつかんでいますよね、この人数ですから。でも、世間から言えば、必ずしもこうじゃないので。

岡島:特殊部隊ってことですかね?

(会場笑)

真山:いや、そんなことはないですよ! 日本を担っていく人たちですから! みなさんがひとり100冊ずつ友達に売ってくれればベストセラーですから。

岡島:クチコミ・イズ・エブリシングと。

真山:今日は帰ったら必ずamazonで本かKindle(の電子書籍)を買っていただければ。ここポイントですからね!

それは別にして。読者のニーズに応えるということを考えて書くと多分失敗すると思う反面、もっと広く伝えなきゃいけないということはすごく意識しています。

常に「世間の人はこういうときにどう考えているのか」ということを念頭に置いています。「きっとこういう先入観があって、それをどうやって払拭すればいいのか」「どこから説明したらいいのか」などと考えます。ただ、本当に自分が言いたい部分になると、そこから先はもうこちらがアジるに近い気分で書いています。書き手の思いが強いほうが、小説にうねりが出るから、勢いは大事です。

私はamazonのレビューとかブクログ、Twiterの感想はだいたい読んでいます。「ひどいことを言うなあ」と思うときもありますが、「やっぱり、そういうふうに読まれるんだな」という場合もあります。

うれしいのは、全く意図していないすばらしい解釈をしてくださる読者が結構いらっしゃるんですよね。これはデビューして初めて気付いたんですけど、小説は作家のものだと思ってたんですけど、小説って読む人の数だけ読み方がある。

だから、(本を通じて)コミュニケーションすることは大事だと思っていますし、本が出て、ご希望があれば読書会もやっています。例えば「1冊の本を読んで、仲間20人集まるんで来てください」ってお願いされたら、遠方の場合は「旅費出して」って言うかもしれませんけど、喜んで行きます。

岡島:すばらしい!

真山:「本」というツールによって人が語り合えるのはすばらしいことだと感じてます。ミステリー好きなので、編集者だけを集めたミステリーの読書会をやっていますけど、その時に(他の人が)「こういう読み方するのか!」って思うこともある。こういう経験は非常に大事だと思っています。

岡島:コンテクストがある中で、みんなで共通言語を使ってしゃべるっていう。

真山:小説は「トリガー」なんです。問題意識をどうやって見ていくかの「トリガー」として小説を読んでいただけたらいいなと思っています。