「ハゲタカ」作者・真山仁氏が語るダークサイドの交渉術とは

『ハゲタカ』に学ぶ経営と交渉術 #2/5

あすか会議2015
に開催

グロービスの経営理念である、能力開発、ネットワーク、志を培う場を継続的に提供することを目的として、グロービスのMBAプログラムの学生・卒業生、講師、政治家、経営者、学者、メディアなどを招待して開催されるカンファレンス「あすか会議2015」に、作家・真山仁氏、プロノバ・岡島悦子氏が登壇。本パートでは「ルールをつくるか、ルールに使われるか〜『ハゲタカ』に学ぶ経営と交渉術〜」をテーマに、ビジネスにおけるグローバルな世界とローカルな世界の戦い方として、アメリカや中国を例に、日本人が理解しづらい価値観の違いについて語りました。

グローバルで戦うか、ローカルで戦うか

岡島悦子氏(以下、岡島):(経営共創基盤代表取締役CEOの)冨山和彦なんかもよく言っていますが、グローバルな世界で戦うのか、ローカルな世界で戦うのかによって、おそらく今おっしゃられたゲームのルールはかなり違ってくる。

いわゆるグローバルでいうと、オリンピックゲームみたいなことをやらなきゃいけない。(それって)柔道みたいな話だと思いますし、もしかするとローカルだったら相撲でいいのかも知れないんですけど。

多分(会場の皆さんが)グローバルを目指していくことだとすると、こういう「ダークサイド」みたいなことはやっぱり押さえなきゃいけないですね。

真山仁氏(以下、真山):本当はアジアのほうがダークサイドが強いですよ。テーブル下でのビジネス(つまり)賄賂は当たり前という感覚です。中国なんて今でも取材に行くと「賄賂は文化でしょ」と政府の高官でも平気で言いますからね。

欧米はさらに上手なんです。「フェア、フェア、フェア」とうるさく言うので、こちらが「そうか、フェアプレイか」と思ったら、実は彼らのルールの中ですでに決着している。

オリンピックの水泳競技を思い出していただければよくわかると思うんですけど、「背泳のバサロはダメ」「潜水ダメ」とどんどんルールを変えましたが、これらは全部日本の得意分野ですから。圧倒的に弱いはずの日本がありえない体の身体能力を活かして勝ったから、ルールを変えましたよね。

岡島:フィギュアスケートとか採点方法もそうですよね。だから、ルールを作る側にいかないと、「本当は勝てないということかな」と思ったりするんです。

外国で「話せばわかる」は通用しない

真山:もうひとつ前提として、日本人だけですから。「話せばわかる」っていうのは。

(会場笑)

真山:外国ではありえません。話したって絶対わかり合えません! 中国での取材では、中国人は見た目は日本人とは近いので、向こうの人って普通に接していると何となく親和性があるわけですけど、彼らの言ってることとやってることがずっと理解できなかったことに苦労しました。

でも、あるときに「そうか。この人たちってアメリカ人みたいなもんだな」と思った瞬間、非常によく理解できるようになったんですね。

日本の文化は単一性を求めて、ひとつになることをすごく重要視するんですけど、中国もアメリカもそこが違う。彼らは多様性をはらんでいます。

(日本のように)「話せばわかる」だったら、最初からコミュニケーションも要らないし、リベート(賄賂)も要らないんです。理解できない者同士がどこで折り合うかというために交渉があるんです。そこが外国でやる場合に日本人が感覚的になじまない最大の弱点ですね。

だから結局、そこが違うことがわかると「じゃあ、やっぱりルールって何で大事なのか」が見えてくるんじゃないかなと思います。

岡島:大前提として、「違う」という点からスタートするっていうところから入っていかないと。性善説過ぎるナイーブさは(危険だと)。

真山:そうですね。(私は)珍しく日本人らしくなくて、「人はみんな悪い人」だと思ってるのでその辺りはよくわかる。ここで言う違いって県民性レベルのものではないですからね? しょせん日本の県民性の違いなんて大したことなくて、必ず(最後には)握手して仲間になれる。 

生死や善悪に対する価値観もふくめた、文化がまるっきり違うくらいに思っていただかないと。それぐらいの差を(グローバルでは)「差」って言うんですよ。

アメリカ人でも、テキサスとニューヨークの人じゃぜんぜん違うんですけど、そんなことよりも、イギリス系なのか、ポーランド系なのか、アイルランド系なのかのほうが重要です。それぐらい違いがあるということは、日本にいるとなかなかわからないと思います。

小説『ハゲタカ』シリーズから学ぶ想像力

岡島:私たちは、もしそういうグローバルアリーナで戦っていくとすると、かなりプロファイリング、インテリジェンスと呼ぶべき(ものが必要になりますよね)。「今の差異がわかる」とか、「アイルランド人はアイルランド人の誇りがある」みたいなことがありますよね。

そういうことを見分けていくには、もちろん経験から学ぶことはあると思うんですけど、もうひとつ「小説から学ぶことはあるんじゃないかな」と思うんですけど。

真山:いい話ですね。まさに想像力ですね。では小説からなぜそういうところを学べるかを(お話しましょう)。

『ハゲタカ』シリーズのように登場人物が多い小説を例にします。専門的な話になりますけが、主人公は小説のなかには「視点登場人物」がいます。

視点登場人物にはカメラがあるんです。プラス、その登場人物だけは心の内側もカメラがのぞきます。『ハゲタカ』なら鷲津(政彦)や芝野(健夫)、(松平)貴子、『グリード』ではジャッキー(・フォックス)や北村(悠一)です。

岡島:私はジャッキーにすごい共感しました。「私って人のいい人」みたいな。

視点を変えることでいろんな価値観が見えてくる

真山:『ハゲタカ』シリーズは、視点登場人物がわりと多いのですが、なぜ複数の視点を作るかというと違う価値観をそれぞれに背負わせることで、いくつもの価値観を小説の中で打ち出すことができるのです。

例えば、ジャッキーは西海岸(出身)のアメリカ人なので、ウォール街の人には違和感を持っていますが、日本人に対して彼女はもっと違和感を持っている。北村も、日本人だけど記者でもあるので、鷲津に非常に懐疑的です。

鷲津は鷲津で自分のルールを持っていますけど、実は鷲津だけ視点登場人物(のなか)でズルい趣向があって。鷲津はあまり腹の中を言わないんです。その辺の塩梅も書き手の自由です。

それで何が言いたいかというと、現実の人生では視点登場人物は自分ひとりです。目の前で起きてることやその渦中に入ってしまうと、ひたすら自問自答するしかなく、自分のしていることを他人にどう見られているかは絶対わからないわけです。

ところが、小説だと、同じことを何人もの目が(別の角度から)見ることによって「なるほど、相手はこういうふうに考えているのか」ということがわかる。

『ハゲタカ』はどちらかというと、ビジネスステージのわりと狭いなかでやってるんですけど、例えば『黙示』という農薬と農業の未来をテーマとした小説では、養蜂家と農薬を作っている人が対決する場面を書きました。

両方とも「自分が正しい」という設定で、お互いに対談するんです。すると、どこかで視点をカチッと変えることで、今まで「農薬は悪だ」と言ってたのが、今度は「農薬こそが善だ」となり、そこにいろんな価値観が見えてくる。

「価値観が多様化している」現実を知るには、多くの人にとって小説がプラスになると思います。小説はあくまでもエンターテイメントなのでそこばかり意識して読む必要はないんですが、ビジネス書よりも感情移入がしやすいので「こういうふうに考える人がいるのか」ということを知るにはいい道具だと思います。

読者が魅力を感じる登場人物

岡島:そういう意味で「ちょっと衝撃的だな」と思ったのは、やっぱりリン(・ハットフォード)が「市場の健全性なんてナンセンスよ」「この国の連中の最大の美徳は反省しないことよ。そこに金儲けのチャンスがあれば、屍を越えてでも挑むわ」なんて言ってみたり。

真山:カッコいいですよね。私はリン・ハットフォードが好きなんですけど、わりと日本の男性読者って松平貴子のほうが好きで「リンよりも貴子を出せ」という声がすごく強い。

でも、貴子を出していると、女性読者から「男性が喜ぶような女しか書けない真山」って呼ばれるんですよね。

岡島:すごくよくわかります。弱い女。

真山:リンは設定として2つの文化を持っている。彼女はずっと東洋を勉強しているので、いわゆるWASPのなかにいるようなエリートではあるんですけども、その一方で東洋的なものもわかる。だから鷲津に魅力を感じる。

「誰が強いのか、誰がプラスなのか」「どんなに悪い奴とでも、手を組んでビジネスで勝てるんだったら勝ちましょう」という考えがリンや鷲津にあり、多分その辺が多くの人にとってカッコいいと映るんではないかな。

グローバルスタンダードはアメリカが起点

岡島:鷲津もなんか(すごいですよね)。(この人のせいで)FBIや国家権力まで出てきちゃうのかって。

真山:アメリカでは出てくるかと思いますね。よく言われていることですけど、昔ソ連が崩壊したときに「金食い虫のCIAを潰せ論」があったんですよ。CIAはソ連崩壊後に「敵はどこにいるのか」と困っちゃったわけですよ。

当時、議会で「CIAをどうすべきか」が議論になり、当時の(CIA)長官が「いや、敵はいます。日本だ」と。アメリカの国益をどんどん奪っていく国は潰しましょうと。

当時、いわゆる日米貿易交渉の真っ只中で、(日本の高官が)ワシントンとかに交渉に来ると、もちろん交渉の場として部屋が用意されるのですが、最大のポイントは控え室にある。控え室が全部盗聴されてて、「どの辺で手を打ちますか」というやりとりが全部筒抜けなんですね。

岡島:盗聴されていることはみんな知っているんですか?

真山:日本人は知らなかったようですね。他人を信じますから。「話せばわかる、昨日飲みながら肩叩いて一緒にカラオケ歌った仲だから」と言って簡単に信頼してしまう。

そこが全部相手の思うつぼで、「ちょっと“友達”って言ったら、飲んでる先で秘密3つくらいしゃべったよ」とほくそ笑まれていたりする。

やっぱりアメリカのすごさはなりふり構わず自国が絶対一番であって、その国益は一銭たりともほかに渡さない意識を徹底していることですね。この一点に関しては、多民族で多様性を持った国民がひとつになる。そこが日本と違います。

岡島:サミュエル・ストラスバーグなんか「お前のような野蛮な侵略者を排除するためなら、FBIでも、CIAでも、ペンタゴンでも、何でも使う」と。

真山:単純に考えると、(彼らにとって)鷲津はある意味ビンラディンより面倒くさいんですよ。日本人が、アメリカにとってとても大事な企業を、フェアな状態で乗っ取ってしまうことは「ぜったい許せない」わけで、何としても阻止しようとするでしょうね。

こういうことをさらに深掘りして考えていくと、「イスラム教徒は全部悪だ」とアメリカが言い続けていることも、もしかするとこういう話かも知れないわけですよね。

岡島:アメリカの魂みたいなものを(奪われると)。

真山:そうです。アメリカは常に自分たちが起点になって自国をスタンダードとして考えます。グローバルスタンダードはすなわちアメリカンスタンダードですから。そこを脅かすものに対しては、彼らとしては徹底的に潰すということです。

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