紙の編集とWebの編集は、もっと競い合うべき

司会:今回のセッションは、「メディアの伸ばし方・稼ぎ方と」いうタイトルで、東洋経済新報社の佐々木紀彦さんと、株式会社nanapiの古川健介さんにお越しいただきました。

佐々木:東洋経済オンラインの佐々木と申します。ずっと紙メディアをやってきたジャーナリストなんですけれど、1年前から東洋経済オンラインというサイトに移って、編集長を務めております。

古川:株式会社nanapiの古川と申します。nanapiというサイトをしている会社です。

司会:メディアと一言で言っても、お二人のやっているメディアというのがかなり違っているわけじゃないですか。佐々木さんのほうが割と伝統的なメディアを展開されていまして、古川さんのほうは、ご自身ではメディアよりもサービスというのが主なんだよねというのをおっしゃっていたんですけれど。お互いに全然違うやり方をされているんですけれど、質問とか、こんなこともう少し聞いてみたいなということはありますでしょうか?

古川:紙メディアの人が、オンラインのほうが伸びていくことに対して、どういうふうに捉えられているのかな、と。

佐々木:社内的な話ですね。

古川:嫌がられていたりはしないんですか?

佐々木:さっき話したようにですね、記者集団は、やっぱり紙だけでなく、他にいっぱい自分たちの記事を見られる場所が出来たという意味で、喜んでくれているんですけど、紙の編集部とかは、正直複雑な気持ちの人もいると思うんですね。

古川:そうなんですね。

佐々木:あると思います。私、それは社内での競争になるからいいと思っていまして。記者を取り合い、どっちが記者を惹きつけられるか、そして社内の支持を得られるか。そうやって社内で競争するぐらいでいいと思っているんですね。なので、敵視はしていないけど、切磋琢磨って感じですね。

古川:紙はどちらかというと年々落ちていって、ウェブはすごい伸びてるとなると、よりこう、記者さんがオンラインに行きたいみたいにはならないんですか?

佐々木:そうなりがちですよね。なので、そこはねえ(笑)。私としては嬉しいんですけど、社内の、マネジメントの立場からすると、複雑だと思うんですよ。

古川:そうですよね。一方で、収益源としては紙のほうが圧倒的にいいわけですよね。

佐々木:まだいいので、そこに本当絡むんですよね。それでもう、ウェブが紙と同じぐらいか、それ以上儲かるんであれば、経営陣ももう紙から人をどんどんシフトしようとすると思うんですけど。今、広告が倍々で伸びていますけど、紙を補えるぐらいの規模ではまだないですので。経営陣としても、紙の落ちを防ぐほうに資源を投入するか、オンラインの成長に資源を投入するか、結構迷うところだと思いますね。

古川:そうですよね。なるほど。

スマホでは「検索」をしなくなる

佐々木:私が思ったのが、検索が、スマホではされなくなったというのが、(さっきのセッションで)最後みんな盛り上がったじゃないですか。PCの場合、nanapiって検索でユーザーを引きつけてきたわけじゃないですか。スマホではどうするんですか?

古川:そうですね、検索に代わる部分というのを押さえていくのが多分一番かなと思っていて、コンテンツって着地ページになってしまうので、ユーザーさんがたくさんいて、砂時計の真ん中に、Yahooさん、Googleさん、あとグノシーさんなどがいると。そこからさらにいろんなコンテンツのプレーヤーのところにいくっていう形なので、我々って非常に競合が多いところなんですね。

で、やっぱりこの、真ん中にいる検索ですとか、そういったところの変化によって我々は非常に左右されてしまうので、検索の部分から押さえるというのが、メディアとしては必須かなと。検索というか、真ん中のところですね。新聞とか、そこから押さえてたから、いまだに強く残っていて、宅配を押さえているというのも、強烈なんですよ。なので、そこからできるというのが一番かなと、最近は考えてますね。

佐々木:そういう意味じゃ、Google の権力って、スマホだと落ちてくるんですかね?

古川:そうですね。ただ、Google さんもいろいろ考えていて、まさにGoogle Glassとか使ってみると、検索をもうしないんですね。リアルタイムに出てくる。そういうのが近いのかなと思っていて、例えば、脳波で困っていることを感知したら、どうしたのって聞いて、実はこうなんだよと、答えたら結果を返すみたいな。そこまでしないと、多分、強いプレーヤーとしては生き残っていけないのかなと、思ったりしますね。

IT技術と編集力の融合について

佐々木:冒頭に、我々メディアとしてタイプが違うという話があったじゃないですか、サービス的な、コンテンツ的な。これって、こういうのが融合したメディアが、ないなって思うんですよね。お互い得意分野ってあるじゃないですか。これが融合したメディアって作れないもんですかね? 相性悪いですかね(笑)。

古川:作れるとは思います。海外でも、強いプレーヤーが自分たちでコンテンツを作るっていうふうになっているんですけれども、サービスとかツールを作っている人がコンテンツを作ることはできても、逆ってなかなか難しいなと思っていて。なぜなら、完全にコンテンツとテクノロジーでわかれてしまっているので、今から東洋経済さんがプログラマを100人集めてイケてるものを作るって、なかなか大変だなと思いますね。

佐々木:ですよね。

古川:それでまた、使ってもらえるかって別の問題になってしまうので、もし東洋経済さんがグノシーみたいなのを作っても、使われるかというとまた……。

佐々木:無理ですよね。

古川:と、なると、どうするのがいいかなというのも、悩みどころですね。

佐々木:ネットと古い伝統的なメディア企業の提携みたいな感じで、何か起きると、面白いものが生まれそうだなという気が、最近しているんですよね。

古川:ネット企業はコンテンツを作るのがまだそんなに上手ではないので、そこに価値はあるとは思いますね。

佐々木:ベゾス的なものを誰か試してほしいんですよね。

古川:そうですね。東洋経済さんがテクノロジー企業とかを買収したりすると……。

佐々木:そんなお金ないと思います(笑)。

コンテンツ自体はお金にならない

司会:今回のテーマが、メディアの伸ばし方・稼ぎ方なんですけれども、ぶっちゃけて稼ぎ方のほうが重要なんだろうなと思うんですけれども、そういうのって、皆さんでお話した中ではわかってきたんでしょうか?

古川:藤代さんのおっしゃっていたのが、象徴的だと思ったんですが、コンテンツを売ろうとしてもなかなか売れませんという。ただし、物販、写真は売れたというのが面白いなと思っていて。これから、お金を払うところって、コンテンツそのものよりもコンテンツにまつわる体験かなというふうに思っていまして。ほぼ日さんですと、「やさしいタオル」という商品は、「タオルの作り方」から順に、20回ぐらいの連載をやって初めて売る、と。そうするとその過程を見ているので、タオルを買うという体験が楽しくてお金を払ってくれるですとか、そういったところに、これからのメディアの稼ぎ方のヒントがあるかなというふうに思っていますね。

佐々木:リアルイベントの話もありましたけど、今日話していて大きく違うなと思ったのは、伝統的な企業とかある程度数十人、数百人、数千人いる企業が食うためのビジネスモデルと、数人のちっちゃいメディアが食うモデルは違うんだろうなと。物販とかもですね、数十人なら食えるかもしれないですけど、数百人、数千人は食わせられないと思うんですよ。今、まだ単価は低いにしても、いろいろなビジネスモデルがある中で、私は広告が今のところ一番ポテンシャルがあると思っていまして、なので私は広告のほうに全力投球したいなと思ってるんです。

古川:広告の最終形態としては、テレビ並に収入が上がるというイメージですかね?

佐々木:そこまでいくかはわからないですけど。今日、動画の話をしましたけれども、あれによってブランディング広告がとれて、テレビの莫大な予算の一部をとれるんじゃないかっていう、期待があるんですね。そこさえとれれば、今までの単価が安いだけじゃない、高い広告もウェブで出てきて、ウェブメディアのマネタイズのあり方もかなり変わるんじゃないかなと、期待しているんですよね。

古川:動画広告は1つありそうですよね。

司会:過渡期ということで、将来は動画とかで儲かるかもしれないという、期待が考えられるということなんですけれども、そこに至るまではどういったブレイクスルーが必要でしょうか?

佐々木:私は、メディアは先ほど古川さんと話したように、どこかのテクノロジー系の企業、ネット系の企業と大胆に提携しないとだめだろうなと思いますね。これから儲ける手段って、テクノロジーがあるかどうかで、相当違うと思うんですね。それがメディア企業ってほとんどないので、自分たちで作るんじゃなくて、どっかのテクノロジー、超一流のテクノロジー、そしてビジネスセンスを借りてきて、一緒にマネタイズしていくみたいな。自分たちだけじゃなくてどっかと組んでマネタイズするっていう発想が、ブレイクスルーにつながるんじゃないかと個人的に私は思っています。

古川:私も近いことを思っていて、いわゆるコンテンツプロバイダ側と、ディストリビューター側の二つがありまして、新聞とかって宅配と、紙面と、コンテンツの3つを押さえているから、非常に優れていましたと。テレビも近いんですけど、ネットと分断されているので、収益化が難しい構造になっているのではないかと個人的には思っています。なので、これを組み合わせて1つのパッケージとしてビジネス化するか、もしくはそれぞれが稼げる道を探すかのどちらかしかないと思うんですが、個人的には前者のほうを考えていきたいなとは思います。

司会:ディストリビューターってスケールメリット効くじゃないですか、大きくなった企業はどんどん大きくなっていきますし。そうすると、すごい影響力、独占力を持ち始めるわけじゃないですか。そうすると、その後にのってくるコンテンツメーカーっていうのは、いいように使われる傾向になっていかないのかなという心配があります。それはどうなりますか?

古川:多分、そうなるものなんじゃないかなと思っていて、テレビとか新聞とかも数社が独占して、強い影響力を持ったところがコンテンツを集めてこれるというふうになっていると思うんですね。となると、ディストリビューターのほうはよくて数社になっていって、コンテンツを作る人がたくさんという形になるんじゃないかなと思っていますね。

佐々木:独占だとまずいですけど、数社あれば、そこでどこかのコンテンツを囲い込むためにお金出したりとか、競争が起きるかもしれないですね。

古川:そうですね。

佐々木:テレビ局もそうですよね。

古川:そうですね。1社は、独占はないかなと思います。

司会:じゃあ、ディストリビューターとして既に力をつけてきているところっていうのは、見えてきているんでしょうか?

古川:検索ではGoogle さんは圧倒的です。パソコンだとYahoo さんが圧倒的で、スマートフォンはこれからだと思うんですが、やはりグノシーさんとスマートニュースさん、あとラインニュースさんが今力を伸ばしていると思っています。なのでここですね、スマートフォンをどこがとるのかというのが、1つのポイントになると思います。

佐々木:そのための差別化として、何か自分でコンテンツを作ったりとか、強力なものを作るかどうかということですね。

古川:そうですね。なのでグノシーさんとかスマートニュースさんは、もしかしたらこれから自分たちでコンテンツを作るっていう道があるんじゃないかなと、勝手に想像したりしていますね。

タブレットの普及で、「雑誌の時代」がまたきている

司会:従来型メディアの場合というのは、そういったスマートフォンの流れに対して、どう対応していくべきだとお考えですか?

佐々木:スマートフォンの流れですね、それはどうしたらいいんでしょうね……。

古川:タブレットで読む、専用のものとか作ったりしないんですか?

佐々木:それはもう、いろんなところがやっていますし、やるべきですよね、確実に。さっきおっしゃったのが面白かったですよね。新聞社、雑誌者のノウハウが、スマホででもできるんじゃないかと。パッケージングのノウハウが。

古川:アップルさん、ニューススタンドとかで雑誌をまた定期購読するようになって、これは結構、雑誌社これからくるんじゃないかと。アスキークラウドさんとか僕、紙だと読んでなかったんだけど今定期購読していて、これは非常に品質も高いし面白いなと。となるとですね、500円、1000円払って雑誌を買うって全然やってくれるんじゃないかという気はしていてですね。今、お金がないから雑誌に払っていないわけではなくて、紙だからかさばるなとか、わざわざ買うというアクションが面倒くさかったりするだけだと思うで、その辺、可能性がありそうだなと思います。

佐々木:雑誌がスマホに奪われたとか嘆いているんじゃなく、スマホ空間の中で存在感高めるための、売り方とかいろいろ考えていくってことですね。そういう意味では、課金が一番重要ですね。

古川:そうですね、課金は多分あるなあと、最近また思い始めました。

佐々木:そうすると、通信キャリアと組んで、課金もスムーズにできたりとか……。

古川:そうですね。

佐々木:そういうのじゃないとだめですね。

司会:タブレットが、世界的に見て日本って普及率が低いじゃないですか。それはどういう理由だと思われますか? そして、タブレットの普及が例えば3年後に来るというんだったら、そのとおりに照準を当ててビジネスのことを考えていけばいいと思うんですけど、何年後ぐらいに来ると思われますか?

佐々木:古川さんにちょっと聞きたいのは、最終的にメディアを読む媒体というのは、タブレットになるんですかね、もしくはスマホになるんですかね。それとも違う、何か新しいデバイスができるんですかね? 紙でできてる、ペーパータブもインテルなんかが開発していたりしますけど。

古川:多分、多様化していくだろうなとは思ってますね。タブレットでもスマートフォンでも読むっていうのが、基本になるのかしらと。

佐々木:タブレット、今後、日本でも配られますよね学校で。そうすると、そういう世界がどんどん増えてきて、全然違ってくると思うんですけど、2年、3年ぐらいで大きい変化がありそうな気は、私はあんまりしないっていうか。スマホが中心であり続けると思うんですけど……。

古川:そうですね。日本人は特にスマホが好きな感じがするので、その辺だと、まだまだかなという気もするんですが、一方でようやく周りでもタブレットを持ち始める人が増えてきたので、2~3年後にはもしかしたら、そこそこいくかもなとは思ってます。

司会:雑誌とかをね、スマホで読むのはちょっと小さすぎるしという方が結構いらっしゃって、タブレット7インチとかが、読書用としては軽いし最適だという話をよく聞くんですけど。そこが広がってくると、雑誌の復活があるのかなという感じですかね?

古川:そうですね、あると思いますね。

佐々木:タブレットとおっしゃるとき、kindleとかも含まれますか?

司会:そうですね。Kindleも。

佐々木:最近、漫画はタブレットで読んでる人、かなり増えましたよね。

古川:そうですね、漫画は増えてるって聞きましたね。30冊とかだと、一気に買うと場所をとる、日本だと場所の問題は大きいので、そのとき電子書籍がいいんだろうなと。

佐々木:ばんばんタブレット、きてますね。

メディアのブランドから個人で書く時代へ

司会:メディアのブランドと、それから記者ひとりひとりのブランド、個人のブランドが強くなっていくんじゃないのかという話もありますけれども、そういう傾向というのは出てくるんでしょうか?

佐々木:それは私は確実に出てくると思いますね。どっちかというと、これからの編集部というのは、芸能事務所みたいな形で才能をどんどんピックアップしていくというのが役割で、例えばホリプロとかジャニーズって名前を覚えてますけども、この人はホリプロ所属だというのは、あんまり覚えていないじゃないですか。それに近くなっていくのかなという気はしてきます。ブランド力っていうのは、媒体の比重としては落ちてくると、私は思いますね。

古川:私もまさにそんなイメージです。

司会:じゃあもしかしたらその方法で、組織のあり方も変えていこうという検討は始まっているんですか?

佐々木:検討というか、オンラインからどんどんやりたいとは思っていまして。みなさん、どこに行っても食っていけるように頑張ってくださいってことは言ってまして、アメリカからしたら当たり前のことなんですけど、古川さんのほうがお詳しいと思いますが。こんなにサラリーマンばっかりのジャーナリストになってしまった事態が異常だと思ってまして、この流れを戻したいというか、基本的に専門職であり、自立したプロの仕事なんだってことを、もっと意識から変えていきたいなとは思っています。

古川:Googleでも検索結果に、誰が書いたかを表示するようになってきていて、いいものを書いてる個人というのが上位にくるという流れがきているんですね。今まで、ドメインが強ければ、ドメイン下の記事は上位に上げるという力は働いていたんですけど、これからは誰が書いてるかによって、Googleのランクが変わってくると。そうなると確実に媒体としてはいいものを書く人を集めなきゃいけなくなってきますし、いいものを書く人は媒体に所属しなくても、どこでも書けるふうになってくるんじゃないかなと、予想しています。

これからの編集の役割

司会:将来予測をする上で、究極の未来を予測するのはそれほど難しい話じゃなくて、難しいのが2~3年後なんですけど。究極の未来というのは、どんな形になっているんでしょうか? 個人で食べていける人が増えるのか、個人を束ねた芸能プロダクションのような出版社、新聞社が食べていけるのか。どういう形に10年後、20年後、なっていると思いますか?

佐々木:私はAmazonが面白いと思っていまして、ニュース版のiTunesみたいなのができるんだろうなと思っています。例えばAmazonは優秀なニュースの編集者だけを雇って、そこがプラットフォームを握り、そして、その人たちが優秀なジャーナリストとつながっていって、ジャーナリストはAmazon向けに書くと。そこで読者のかたは、サブスクリプションモデルのような形で、例えば3000円ぐらい払えばその中から自分が読みたい記者のものであるとか、そういうものを全部組み合わせて読めるような形で。ネット企業がメディア企業になり、そこが編集者だけ雇っていくんじゃないかなという気が、個人的にはするんですけど。

古川:2~30年後だと難しいなと思っていて、二つあると思っています。1つが今、佐々木さんがおっしゃったようなジャーナリズムを持った個人がどんどん台頭してきて、個人に価値がある時代。あと一方は、個人で情報発信をしているけどそういうのをあまり意識しない層というのが、出てくるんじゃないかなと思っています。例えばGoogle Glassをつけていて、何かの事故現場に遭遇した人がすぐに写真をとってアップできますと。そうすると、ストレートニュースというのはほとんど個人で賄って、しかもそこは、素人でもいいというのが出てくるんじゃないかなと。素人でも、客観的事実を出せる場所と、それを解釈して、咀嚼してメッセージを伝えられる人っていう、二分化されていくんじゃないかなというのが、2~30年後の世界かなと。

佐々木:面白いですね。

古川:ストレースニュースはかなり、価値としては落ちていくというか、こんな感じで動画にとって全部配信してもいいですし、記者会見も全部書き起こしでいいですと。それをもって、ジャーナリストの人がピックアップして、分析とかも入れてくというふうになると、面白いかなと。

佐々木:そうすると情報をとってくる、特にストレートニュースの記者の価値というのは下がると思うんですけど、それを選んでいろいろ組み合わせる編集者の価値っていうのは、今の時代、どんどん上がっているなというふうには感じますね。

古川:そうですね。今、こういうIVSとかの講演などを書き起こすログミーというサービスがあるんですけど、そういうものが出てくると、わざわざ直接行って取材をしなくてもいいじゃないかと。そこに全部書き起こされているから、それを見て、自分なりの分析を日本中、世界中の人がするというふうになると、また違ったメディアの形が出てくるかなと思ってますね。

佐々木:そういった中では、パッケージング化するとか、誰と誰を話させるとか、組み合わせの価値というのが相当上がってくるので、編集、プロデューサー的なものはこれからもっと求められるだろうなという気は、私もします。

編集力+ビジネスセンスが求められる時代へ

司会:コンテンツがお金になるのか、ならないのか、いろいろな議論があると思うんですけど、そこは置いておいて。コンテンツで集客して、コンテンツでブランドをつけて、その上でのビジネスモデル、先ほどおっしゃった手帳を売るであるとか、物販するというのもあると思うんですけど。その他の有力なビジネスモデルってどんなものがこれから出てくると思われるでしょうか?

古川:広告か課金か物販の3通りしかないと思ってるんですけど……。

司会:サービスとかはないですかね?

古川:ああ、そうですね。イベントとかは、例えば日経BPさんとかはイベントにかなり力を入れていて、1人5万円のイベントとかを開いて、1000人集める、すごいよねみたいなことをやってたりするらしいんですけど。そういう、経験のところを課金化するっていうのは、あると思いますね。結局、全てを組み合わせて、お金を稼いでいくという道かなあと、個人的には思いますね。

佐々木:そうですね、なかなか思いつかないですね。

司会:個人が書き手になり、コンテンツメーカーになっていく方向だということだと思うんですけれども、個人を束ねるのは、テクノロジーで束ねるという1つの方法はあると思います。でも、人間が束ねる、先ほどおっしゃったようなプロダクションみたいなことをやっていくというビジネスは、あるんでしょうか? 全部、個人とテクノロジーだけになっていくのか?

佐々木:私はテクノロジーだけにはならないと思っていまして、スマートニュースであるとかグノシーも伸びてますけども、あのままの形では、どこかで止まるんだろうなと。人が選んだコンテンツと、パーソナライズドされたコンテンツと、それをパッケージングしたようなニュースサイトっていうのが、本命なんじゃないかなと私は思っています。

古川:私は、記事を書く人の能力を引き出す編集者みたいな存在が絶対に必要だと思っていて、日本とか、海外もそうですけど、ブロガーさんが増えて質が高いものも上がるようになってきた一方で、メディアや媒体がやってきた、書き手をちゃんと教育して質の高いものにしていくというところを、今どこも担っていないので、そこが一番問題かなと思っています。なので、例えば東洋経済オンラインでは、どんなに未熟な書き手でも最初にお金をお支払いして書いてもらって、教育もして、そこからステップアップしていって、一流になってどこでも食っていける世界になると。そういうことを考えると、育てていく編集者みたいな存在は、テクノロジーではちょっと無理かなと。

司会:佐々木さんも先ほど同じようなことをおっしゃっていたと思うんですけど、そういう編集者というのが、実はこれから重要になってくるんだと。今までの編集者との役割の違い、スキルの違い、これからの編集者はこういうことまでできないといけないよというのは、どんなスキルになっていくんでしょうか?

佐々木:それはテクノロジーと、儲けに関しての、ビジネスの感度だと思いますね。これまでは編集者も、あんまりお金のことは考えませんでしたし、テクノロジーは弱い人間ばかりでしたので、その二つはこれから強化しないと新時代の編集者としては厳しいんじゃないかなというふうに思います。

古川:全く同じように考えていて、テクノロジーももちろんですし、やはりビジネスのところですね。日本の編集者の人ってお会いすると、レベルが高いんですね。ものを作ることですとか文章で伝えることについては、かなりレベルが高い。一方でビジネスに関して言うと、そこに会社の方針などはそんなに触れられてきていなかったと。これはこれでいい面がたくさんあると思うんですけれども、これからの時代というのはビジネスまで考えて、いいものを届けるっていうところまでできる編集者が、より価値が出てくるかなと思ってます。

2人の注目するメディアサービス

司会:世界的に見てですね、このメディア企業が面白い、このメディア企業が一番先端をいっているんじゃないのかなというような企業は、どのようなところでしょうか?

佐々木:私が思うのは、最近、買収提案が出ていましたけど、フォーブスとか、アトランティックとか、そういうところが面白いなと思います。伝統的な目で、私、見てますんで。

司会:どういうところが面白いんですか?

佐々木:例えばフォーブスですと、どんどんいろんな書き手をオープンにしていて、社内だけじゃなく社外の人もどんどん取り込んでいくとか。あと、彼らが最初に始めたブランドボイスという、いわゆるネイティブ広告って今流行ってますけれども、ああいう編集力を生かして、今の広告をもっと面白くして、広告単価を上げていく。あそこからはすごく学んでいまして、同じようなビジネスを我々も始めています。今までより面白くない広告ではなく、広告でもっと儲けていくというところでは学んでいます。

古川:個人的には、Upworthyという、ビデオとかYouTubeの動画とかであまり取り上げられていないのに、イケてるタイトルをつけて配信するということをやっているメディア企業があってですね。そこが急激にページビューを伸ばしていて、10か月で5000万PVぐらいになっているって話を聞いて、そこがちょっと面白いなと。要は、彼らが言っているのって、インターネット時代だとタイトルが7割、8割だよねということで。なのであとは自分たちでコンテンツを探してきて、タイトルをつければそのぐらいトラフィックが稼げると。これはちょっと面白いなと思いましたね。

司会:では最後に、これからお二人がどんなふうに仕事をしていきたいのかという意気込みをお聞かせいただきたいなと思います。

佐々木:わかりました。今の日本のメディア業界は100年に1回ぐらいの変化が起きていると思っていまして、そして日本のメディア業界というのは、日本に残された、最後のガラパゴス産業の1つだと思うんです。メディアと医療と教育だと思ってるんですけど。その中で新しいメディアを作っていって、これからメディア業界が変わるということを、いろんな業界の方に知らしめていきたいなというふうに思っています。

古川:私はですね、今までnanapiでやれてこれたのは、顕在化している問題を探すというところはできていたと思います。ただですね、これからは問題を発見する、潜在的な問題にユーザーさんが気づいて、そこを解決していくというところまでできるようなものを作れればなあと思っています。

司会:大変面白いお話、ありがとうございました。