子どもを尊重する関わり方について考える

田中亜紀氏(以下、田中):それでは本編をスタートしてまいります。申し遅れましたが、私は本日の司会を務めます、ディスカヴァー・トゥエンティワンの田中と申します。よろしくお願いします。

本日は「Discover Edu! 創刊記念セミナー」と題しまして、ベストセラー『夢をかなえるゾウ』作家であり、4人のお子さんのお父さまでもある水野敬也さん。

それから、『モンテッソーリ教育・レッジョ・エミリア教育を知り尽くした オックスフォード児童発達学博士が語る 自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』著者で、児童発達学博士の島村華子さんをゲストにお迎えしています。

島村さんに書籍のポイントをご紹介いただくコーナーや、事前に参加者のみなさんから集めた質問に回答していただくかたちで、島村さん、水野さんのトークセッションをお届けします。

短い時間ではあるんですが、「子どもを尊重する関わりって何だろう?」「どんな声かけができるだろう?」というところをみなさんと一緒に考え、お届けできたらと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

それでは、さっそく本日のゲストをお呼びしましょう。水野さん、島村さん、よろしくお願いします。

島村華子氏(以下、島村)・水野敬也氏(以下、水野):よろしくお願いします。

田中:お願いいたします。うれしいです。島村さんは、今日はカナダからご参加いただいてます。カナダは夕方ですよね?

島村:そうですね。

ベストセラー作家2名が語る子育ての難しさ

田中:では一言、自己紹介とごあいさつを水野さんからお願いします。

水野:ベストセラー作家の水野でございます。

島村:(笑)。

田中:(笑)。はい、ベストセラーです。

水野:しかし「子育て」という前では、ベストセラーがまったく通用しないんですよね。自分が積み上げてきたものが、一気に子どもにガッシャーンと壊されるような毎日を送っている。そんな中で島村さんの本と出会ったので、そんな話もできればと思います。最初に言っちゃうと、島村さんの本を読んでおけば間違いないです。

島村:あはは(笑)。いえいえ。

水野:まずは島村さんの本を読んで、今日は実際にお話をおうかがいできるすごく貴重な会だと思うので、僕も一緒に学ばせていただけたらなと思います。よろしくお願いします。

田中:ありがとうございます。では島村さん、自己紹介をお願いします。

島村:島村華子と申します。エセベストセラー作家です(笑)。

水野:(笑)。いやいや、普通にベストセラーですからね。

島村:とんでもないです。そんな、足元にも及ばない。カナダから参加させてもらっています。ふだんはカナダの大学で、幼児教育者になりたい学生さんたちの指導に当たらせてもらっています。日本では、親御さんに向けてセミナーをさせてもらう機会もけっこうあって、いろんな活動をさせてもらっています。

本日は読者の方の声を直接聞ける機会ということで、前回も水野さんとお話しさせていただいてから、またお話ししたいと思っていたので、すごく楽しみにしていました。よろしくお願いします。

水野:よろしくお願いします。

子どもの自己肯定感が低い原因は「ほめ不足」ではない?

田中:2人は今回が2回目の対談になるんですよね。

島村:はい。

水野:そうなんですよ。一度「ほぼ日」で(対談を)させていただいて。

島村:周りからめちゃくちゃ好評なんですよ。

水野:本当ですか。僕もあらためて音源を聞き直して、島村さんの優しさに包まれているというか、カウンセリングを受けているみたいな。

島村:途中で言ってましたよね。

水野:本当に幸せな時間だったので、今日はあの楽しみをもう一度、みたいな感じで参加をしている僕もいます。

田中:ありがとうございます。今日は私もお二方からお話をうかがうのをすごく楽しみにしてきました。

今日のイベントには、水野さんも絶賛してくださった島村さんの書籍『 自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』をすでにお読みの方も、そうでない方もいらっしゃると思います。簡単に島村さんに本書で伝えたかったポイントをご紹介いただきたいと思います。

その前に私から、簡単に本書の紹介をさせてください。「すごい! よくできたね。さすがお姉ちゃんだね」と、良かれと思ってそんなほめ方をしてしまうことはありませんか? あとは「ダメって言ったでしょ」「早くしなさい。どうして約束が守れないの?」と、しつけのためにそんな叱り方をしてしまうこともあるかもしれません。

でも実は、「ほめる」「叱る」の声かけ次第で、親子関係や子どもの育ち方に大きな影響が見られるそうです。日本人に多いとされる自己肯定感の低い子どもは、謙遜文化によるほめ不足が原因と思われがちですが、実は非効率なほめ方や叱り方が原因かもしれないのです。

本書はモンテッソーリと、近年再注目のレッジョ・エミリアを知り尽くした児童発達博士の島村華子さんによるものです。エビデンスに基づく最先端の教育メソッドを、「ほめ方・叱り方」という声かけに落とし込んだところが非常に画期的で、新世代の子育てバイブルとして評判を受けています。

親子関係で一番大事なことは「子どものイメージ」

田中:では島村さん、さっそくポイントをお話しいただけますでしょうか。

島村:ほめ方・叱り方は、本を読んでくだされば具体例もたくさん書いてあるからわかるかなと思ったので、今日お話ししたいメインのポイントとして、「『子どものイメージ』がなぜ大事なのか」をお伝えしたいなと思いました。

「子どものイメージ」が親子関係の一番の根本で、一番大事なことだと、ふだん私も思っているので、それをお伝えさせていただければなと思いました。

「子どものイメージ」なんですが、それに伴うすごく好きな言葉があります。「ものの見方を変えれば、あなたが見ているものは変わってくる」です。要は同じ出来事でも、その人の視点によって見ている事象や出来事の意味が変わってしまうということなんですよね。

私たちが子どもたちに対して持っているイメージによっても、子どもたちのあり方も見方も変わってしまうというのが、今日の一番のメッセージかなと思います。

イメージとは何かと言うと、子どもの存在、立場、役割、能力をどういうふうに捉えているかということなんですね。これは「確証バイアス」ともつながってきます。確証バイアスとは、自分が信じている考えや信念を裏付ける情報にだけ目が行く現象のことです。

成長とともに、子どもの「性格」も変化する

島村:例えば「うちの子はすぐに諦める子だ」というイメージを持っていたとしたら、うちの子が諦めることだけに目が行って、そうでない時はなかなか目に付かないというのが確証バイアスであり、イメージが私たちの行動に与える影響なんですよね。

なので、どういうふうに子どものことを捉えているのかは、私たちの行動にすごく影響があって、さらにその行動に子どもが反応して、子どもの成長にも影響があります。水野さんは自分のお子さんに対して、生まれる前と生まれた後で具体的にイメージが変わったことってあります?

水野:もうたくさんありますね。例えば、しゃべり始める前としゃべり始めた後で、「あ、この子はすごくしゃべる子だ」とか。

島村:確かに(笑)。

水野:あと、いろんな状況で意地悪な面と優しい面が出てくるので、何か大きな出来事があると、本当はわからないのに「この人はこうだ」「この子はこうだ」みたいに思っちゃっている時もあるので、すごく耳が痛い話ですね。

島村:でも確かに、頭の整理ができるという意味では、思い込むことで救われるところがあるのかもしれないですね。

ただ、子どもは成長段階によっても性格がけっこう変わったりするので、今までのイメージを引っ張っていくと、水野さんがおっしゃったようにいきなり違う子に見えてがっかりするとか、びっくりしちゃうことがけっこうあるとは思うんですよね。

無意識のうちに存在する、人種やジェンダーによるバイアス

島村:偏ったイメージの例を紹介してみます。人種やジェンダーの問題なんですが、残念ながら日本だと、まだあまり取り上げられる問題ではないのかなとは思います。

お話ししたいのは、問題行動が予想された時に、先生がどの人種・ジェンダーに一番注目しているのかを調べたイェール大学の研究です。すごくおもしろいのは、先生たちにアンケートをとってもらう代わりに、先生たちの目の動きをトラッキングしたという点です。

アンケートをとると、「ソーシャルデザイアビリティ」といって、人は「自分がどういうふうに見られたいか」という自分のイメージを気にして嘘をつく人が多いんですよ。しかも、嘘をついているとわからない。

自分でも気づいてないのに、良いように自分を見繕うというか。なのでこれは、先生の目の動きをトラッキングしたという点ですごくおもしろく画期的な研究です。

黒人の男の子と女の子、白人の男の子と女の子4人が出てくるビデオを先生たちに見せて、「問題行為がありますよ」と、先生に嘘の情報を伝えるんですね。でも実際には、問題行動が何もないビデオを見せているんです。

けれども、先生たちの頭の中には「問題行動はある」というバイアスが入ってしまっている。じゃあ、そういう行動が予想される時に誰のことを一番見ているかと言うと、先生たちは黒人の男の子に一番注目していることがわかったんです。その次によく見ているのが白人の男の子で、その後に女の子。

なので、問題行動が予測された時に先生が注目している子は、人種やジェンダーによってすごく偏っているということなんですね。

息子を持つ親のほうが“子どもは理数系が得意”と思い込んでいる

島村:例えば、黒人の生徒やヒスパニック系の子どもたちよりも白人の子のほうが、算数、化学、物理ができていると思い込んでいる先生が多いという研究結果もあります。

また、親御さんもそういうイメージを持っているケースが多いです。アンケートをとると、娘さんを持っている親御さんよりも、息子さんを持っている親御さんのほうが、「うちの子は数学や化学ができる」と思っている方が多いんです。

ただ、実際にお子さんのSTEMの科目の成績を見てみると、実は女の子のほうが平均の学力が高い。なので、親御さんの思い込みと実際の学力には差があるのです。

「イメージが行動に与える影響」は3.6倍。プリスクールは北米だと3歳~5歳ぐらいの子どもが対象なんですが、黒人のプリスクールの子どもたちが、白人のプリスクールの子どもに比べて退学させられる確率は3.6倍もあるんですよ。

でも、さっきの研究でもわかったように、実際には問題がなかったのにもかかわらず、「問題がある」と勝手に決めつけられていたのは黒人の子どもたちなんですよね。

本当に行動に問題があったのか、それとも先生たちが「そもそも悪いことをする」というイメージを持っていたからこそ、確証バイアスによってそういうところに目が行って退学させられたのか。そこを考える必要があるんですよね。