モチベーションを左右する、人間の“3つの心理的欲求”

水野敬也氏(以下、水野):(1つ目の)質問で来ている「やるべきこと」の場合はどう(対応)されるんですかね?

島村華子氏(以下、島村):そうですね。交渉事ではない「絶対にやらなきゃいけないこと」とは、それこそ「寝る」「歯を磨く」とか、衛生上の問題や健康に関することです。子どもはまだ経験も知識も足りないので、ここは親御さんのガイダンスが必要なところなんですよね。

子どもの自発性やモチベーションを考える時って、私はだいたい理論を使って説明します。「自己決定理論」という自発性やモチベーションでよく知られている理論があるんですね。

この理論によると、子どもも大人もなんですが、人には最大3つの基本的な心理的欲求があると言われています。この3つのどれが欠けても、自発性やモチベーションというのがなくなっちゃうよという理論なんですね。

まず1つ目は「自律性」。要は「自分の意思で選ぶことができる」という実感が自分にあるということですね。2つ目は「有能性」です。自己効力感と似ているんですが、「自分でもできるじゃん」という感覚。

3つ目は「関係性」。親御さん、先生、お友だちとかもそうですが、大事な人たちと愛情や信頼にあふれている関係が築けているかどうか。すごく面倒くさいんですが、この3つをそれぞれの生活のタスクにいかに取り込めるかが大事なんですね。

子どもの自律性を高める声がけのコツ

島村:理論で言うとちょっと難しく聞こえますが、本当に簡単に言うと、例えば「着替えません」という時に、「自分で選んでいるよ」という自律性を満たすためには、やはり本人に選んでもらうのがすごく大事です。選択肢を与えてあげることが、自律性の欲求を満たす1つの方法なんですよ。

なので朝の着替えであれば、前日の夜に明日着るシャツを本人に選んでおいてもらう。翌日になって、朝起きて気分が変わって「どれもやだ」となる可能性はぜんぜんあるんですが(笑)、とりあえず「クマさんのシャツとユニコーンのシャツ、どっちがいい?」というふうに、本人に選んでおいてもらう。

ご相談をしてくださった方のお子さんの年齢はわからないんですが、例えば「靴下を自分で履けた」という達成感を味わうためには、3歳だったら完全には自分でできないこともあるので、途中まで履かせてあげて、あとは自分で引っ張ってもらう。そうすると、「最後は自分でできた」という感覚が味わえる。

この作業を一緒にしていることで、本人は「大好きなお父さんとこれが一緒にできた」と思えて、3つの心理的欲求が満たされるんですよね。

宿題を嫌がる子どもには、あえて“教える側”を任せてみる

島村:3歳ぐらいの時期って、特に自律性に対するすごく欲求が強いので、親にとってもオッケーな選択肢を用意してあげるというのは、けっこう面倒くさいは面倒くさいんですが重要なポイントですね。

宿題に関しては「お疲れハイチュウ」も、それもしょうがないと思うので(笑)。たぶん前の対談でも出たと思うんですが、「お父さんに問題を作ったよ」と(いうエピソードを)おっしゃってたじゃないですか。

宿題が嫌なのであれば、大人が子どもに教える立場になるんじゃなくて「まずはわかるところを教えてよ」というふうに、子どもに家庭教師の立場になってもらうことで、誰かに教えるという有能感を感じてもらうとか。

「まずはどれが自分でできるかを選んで、それを教えてよ」というかたちで、自分で選ぶ自律性もそこで刺激する。本当にちっちゃなことなんですが、そういうのをやっていくことはモチベーションを保つのには役に立ちます。それでも、もちろんイヤだって言うことはありますけどね。

親子間のバトルはお互いのストレスを生む

水野:島村さんがおっしゃった段階を経ていくじゃないですか。これができるだけですごくすばらしい親だと思うんですが、例えばそれでも歯を磨かないといった時に、手をガンッてやって、足で押さえつけてやるっていう技がありまして……(笑)。すみません。

これをやるのか、もう「じゃあ今日は歯磨きはやらなくていいよ」と言うのか、最後に迷ったらどっちにしたらいいんですかね?

島村:それも本当に親御さんのコンディションによると思うんですよね。「もう今日はこのバトルをする気力は私にはない」って思ったら、別に1日では死なないと思う。

ただ、それが重なると治療代もかかるし、歯がボロボロになると食べるのも楽しくないし困るので。そうならないように、楽しい状況や本人に選んでもらう状況を作り出すのは大事なことです。そうでないと、毎日のことなのでどちらもしんどいですよね。

水野:本当にそうですよね。

島村:子どもも疲れて、すごくストレスだと思うんですよね。押さえつけるのも、どちらもすごく嫌だと思うし。

水野:そこですよね……。鼻水を吸ったり、歯を磨く時に、最終手段としての「ガッ」というのを(笑)。

島村:押さえ込み(笑)。

水野:そう、押さえ込み。伝家の宝刀じゃないですが、これを出すか出さないかをちゃんと迷った上で、伝家の宝刀を抜く時もあるという状況なんです。抜かずにいければいいんですが。

島村:本当に、仕方ない時は仕方ないと思うので。やはり「親御さんも人間だもの」っていうのが、私がいつも言ってることです。

英語でもよく「自分のバトルを選べ」という話があるんですが、「このバトルは私のエネルギーを使うのに価値があるのか」と考えて、「(今日は)平和に寝て、明日の朝やろうね」というふうにしたほうがいいんだったら、それでいいとは思うんです。

ただ、それが毎日になるのは困る。なので押さえ込みの必殺技は、本当にたまにしか使わないようにはしたほうがいいですよね(笑)。

水野:そうですよね(笑)。

田中亜紀氏(以下、田中):ありがとうございます。私もメモをいっぱい取りました。

癇癪を起こした子への対応の難しさ

田中:では、続きの質問にまいりたいと思います。「勉強や習い事などで、自分の思うように行かないとき、すぐに「できない」と言い、すぐ結果がでないとふてくされて怒ってしまいます。そのような子どもに対してどの様な声かけをしたらよいでしょうか?」。

あとは「少しでもうまくいかなかったり要求が通らないと、乱暴な言葉を叫びます。どうしたらやめさせることが出来るでしょうか」。なるべく本人の意思を尊重しようと思っても、手がつけられなくなってしまう。泣かせてしまうとこちらもつらいというお悩みです。こちら、お願いいたします。

島村:これ、お子さんはどうですか?

水野:「宿題やりたくない」って机を蹴ってるのもまさに癇癪なので、さっきの質問と地続きですよね。

島村:確かに。娘さんもつらいですね。

水野:そうなんですよ。癇癪を起こした時にそれに対抗すると、こっちも「わっ」ていきそうになるので。とりあえず「無」になるしか、もう選択肢がないっていう(笑)。でも、それもたぶん正解じゃないんだろうなと思いながら。

島村:いえいえ。ネガティブに反応するよりは無でいるほうがいいと思うので、その状態を保てることはすごいことだと思います。やっぱりそういう時って、ついつられちゃうので。結局、昨日の癇癪は「お疲れハイチュウ」で収まったんですか?

水野:結局ぐちゃぐちゃして、僕も疲れていて……。とりあえず宿題が終わったら動画を見られるっていうのが(家の決まりで)ありまして、それを見せるからということで、一応宿題をやったんですよね。でも、明日からどうしようかなって。

もう宿題をやらなくていいんじゃないかな、みたいな。「先生の連絡帳に書こうかな」とか思いながら寝ましたね(笑)。

島村:なるほど(笑)。

水野:それで、今日このセミナーに来たっていう状況なんですよ(笑)。

島村:なるほどね。

「学ぶ」ための手段は宿題だけじゃない

島村:宿題でいうと、さっきのように「漢字を学んでほしい」という目的があるんだとしたら、私の目線からですが、学びたい漢字があるなら宿題じゃなくても学ぶ方法はいっぱいあると思うんですよ。

たぶん、昨日やったことは娘さんの頭には残ってなくて。娘さんの頭に残ってるのは、「とにかくハイチュウが食べられたこと」と「動画を見たこと」で、たぶん実際は漢字に対する記憶はあまりないと思うんですよね(笑)。

漢字をおもしろく覚えたいんだったら、例えばモンテッソーリの教室でも、習字の筆でキャンバスに水で書くと黒い墨みたいに(文字が)浮き上がって、10秒ぐらいすると文字がふわっと消えるものがあるんですね。

それがすごく子どもたちに大人気で、文字を紙に書くのがあんまり好きじゃない子も、それをやるとすごく楽しいから文字を書いたりします。

本当に何かを学んでほしいという目的があるんだったら、宿題じゃないところに工夫するポイントがあるのかなと思ってしまうんですが、それは本当に「宿題やらなくていい派」の私からの意見なので(笑)。なかなか難しいところですが。

水野:いやぁ、そうですね。(現状では)本気で「漢字が楽しい」という思いが、動画に勝てないんですよね。つまりこれをやるんだったら「動画を家からなくす」という状況(を作らないといけない)。

例えば、お菓子がなければめちゃくちゃ果物がおいしいし、「え、白米ってこんな甘いんだ」とか。でもそこにハイチュウってやつが来ることによって、ハイチュウ無双が起きるんですよ。

島村:確かに(笑)。

水野:ハイチュウ無双が起きたら「もうご飯食べたくない」。でもご飯のあとにハイチュウにしないと、(ご飯を食べずに)ハイチュウにいってしまう。

お菓子にゲーム……子どもを誘惑する“中毒性の高いもの”

水野:だから僕からすると、栄養のある生活・健康な生活というのは、ある種、文化やエンタメを削ぎ落とす家にしたら全部がうまくいくんです。

僕は迷って「いや、それは違う」と。なぜかというと、僕自身が漫画やゲームをやりまくってきた人間なので。「今一番おもしろいもの」がないので、失われるものもあるんですよね。そこで今、ハイチュウと動画の戦いの中でもだえながら生きてるという(笑)。

島村:(笑)。壮絶なバトルが水野さんの頭では行われてるんですもんね。

水野:そうなんですよ。

島村:お子さんからしたら動画って中毒性が高いものなので。あとはハイチュウも、やはりお砂糖も中毒性のあるものなのでね。なかなかそのバトルに勝つのは難しいですから。

完全になくすと反動が起きることももちろんあるので、それこそ「これは体に悪いから食べちゃだめだよ」と言われていれば言われているほど、思春期になった時にリバウンドしてそれを食べまくるという研究もあったりするので。

水野:ありますよね。

島村:完全になくすのではなく、そのバランスをいかに見つけるかがすごく難しいところではあると思うんです。