世の中の関心と情報をつなぐ「NFTの教科書」を制作

司会者:今回のセミナーは、ディスカッション形式で進めていきます。それでは、天羽さま、増田さま、本日はよろしくお願いいたします。

天羽健介氏(以下、天羽):よろしくお願いします。

増田雅史氏(以下、増田):よろしくお願いします。

司会者:まずは簡単に、それぞれ自己紹介をお願いします。

天羽:コインチェック株式会社で新規事業の担当の執行役員をしている、天羽と申します。新規事業でいろいろなことを行っておりまして、今回のテーマであるNFT事業の責任者をしております。

加えて「日本暗号資産ビジネス協会」において、NFT事業のルールなどを作っている「NFT部会」の部会長を務めております。また、先ほどご紹介にありました書籍(『NFTの教科書』)を出したり、今日ご参加いただいているみなさまがNFT事業に参入しやすくなるようなルール作りも行っております。

『NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計まで デジタルデータが資産になる未来』(朝日新聞出版)

司会者:ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

増田:弁護士の増田雅史と申します。よろしくお願いいたします。私はもともと、デジタルコンテンツ分野などのIT全般を専門としていたのですが、最近金融庁にてブロックチェーン関係の改正法の立案担当をいたしまして。

そこでブロックチェーン方面にも強い専門性を獲得したのですが、そんな中デジタルコンテンツ分野とブロックチェーン分野が突然くっついて「NFT分野」というものが世の中にドーンと出てきました。

私は何年か前から、NFT分野に関してもアドバイスを提供していましたが、去年あたりから突然この分野が大きな盛り上がりをみせています。他方で、世の中の関心に、情報がまったく追いついていないという問題意識がありまして、NFTの教科書のような本を作りたいと考えました。

ちょうど私も、「日本暗号資産ビジネス協会」の「NFT部会」にて、法律顧問としてガイドラインの作成などに関与していたので、部会長であった天羽さんに「教科書を一緒に作りませんか?」とお声がけしました。そして、本書の企画をさせていただいた結果、みなさまにお読みいただける本ができあがりました。

本日は、NFT関係のアドバイスをたくさんさせていただいている弁護士という立場からお話ししたいと思います。よろしくお願いいたします。

司会者:増田さま、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

そもそも「NFT」とは何なのか?

司会者:本日、書籍『NFTの教科書』の著者のお二人をお招きしまして、「NFTが創る、未来のビジネス」を進めていきたいと思います。

昨今、メディアで頻繁にNFTに関するニュースが取り上げられており、ビジネストレンドとして非常に注目されていると思います。しかし、率直に申し上げて専門性が高く、難解でつかみどころがない印象も抱いておりまして。

非常に恐縮ですが、まずはそもそもNFTとは何なのか、初歩的なところからお話をいただいてもよろしいでしょうか? 

増田:これ(スライド)は、コインチェックさんが作られた資料ですが、私からさわりだけ説明いたしますので、後ほど補足いただきたいと思います。

NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)とは、要するにデジタルデータをあたかも1つの「モノ」であるかのように扱うことができる技術、ないしはコンセプトでございます。技術的には、ビットコインなどに使われているブロックチェーンと呼ばれる技術を使っているんですね。

まず「ブロックチェーンとは何なのか」について、さわりだけお話しします。インターネット上に、「トークン」と呼ばれるビットコインや暗号資産などの取引の履歴を記録することができる仕組みを作って、みんなで運用しようという考え方があります。その記録の方式を「ブロックチェーン」といいます。

その上で、いろんなトークンを発行する時に、一つひとつに個性を付けて区別できるようにするんですね。ビットコインだと、0.5ビットコイン+0.5ビットコイン=1ビットコインになるという話なんですが、そうではなくて。

「このトークンとこのトークンは、それぞれ違うものですよ」と発行できる仕組みを使って、ブロックチェーン上取引できるようにしたものが「NFT」であり、それによって生まれるのが「NFT関連のビジネス」なんです。

デジタルコンテンツの「所有物」として、証明ができるようになった

増田:おそらく、もう少しユースケースを基にお話ししたほうがイメージが湧くと思いますので、ここで天羽さんにマイクをパスしたいと思います。

天羽:補足しますと、このNFTというアルファベットは「Non-fungible token」の略です。聞き慣れない言葉だと思いますが、日本語に直すと「非代替性トークン」なんですね。

さらにわからなくなっていくので、一言で言い換えると「デジタルコンテンツの『所有物』」であると。今日は、デジタルのコンテンツを所有する時代が来ているということを覚えていただきたいと思います。

そこで使う、ブロックチェーンやNFTという技術は、言い換えれば「ハンコ」のような技術なんですね。インターネット上でも「唯一無二であることを証明することができる」ように、これからはなっていきます。

次に、NFTにまつわる法律や、今の動向について簡単にご説明します。前提として、今は法律などの公式なルール自体がない状況となっています。これは、インターネットの時も同様でした。事業の進み具合と並行して、今(ルールが)作られている最中なんです。

なので、所轄官庁や、規制の法律は、すでにあるものを参考にしながら、一つひとつ個別具体に結論を出しながら、各事業者が進めている状況です。

ブロックチェーンを使った4種類のモノの違い

天羽:(スライドに)よく比較される金融商品や種類について、簡単に4つ並べました。

ここに書いてある「暗号資産」「NFT」「セキュリティトークン」「CBDC」は、共通している点があります。それは何かというと、ブロックチェーンという分散型台帳、デジタル台帳を活用している点です。でも、それぞれ法律や所轄官庁が違います。

まず「暗号資産」から説明します。ビットコインやイーサリアムをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、いわゆる金融商品で、資金決済法(資金決済に関する法律)という法律の下に運用されています。日本円とビットコインを交換するには「暗号資産交換業者」というライセンスが必要です。私が所属しているコインチェックも、暗号資産交換業者の1つとなります。

次は「NFT」です。これは今のところ、金融商品ではないということになっています。スライド上部にあるのは、パブリックコメントといって金融庁によって集められた見解を提示したものです。(現在は)これによって、いったんの見解が示されている状況です。

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、今NFTはいろんな産業・業界において、多岐にわたる利用が期待されています。なので、法律に関してはいったん例として書いていますが、景表法(景品表示法)や著作権法など、いろんな権利がここに絡んできて、既存の法律の修正・改正が期待されている状況です。

あと「セキュリティートークン」はいわゆる株や債権などをブロックチェーンに紐づけたものです。不動産などですね。

もう1つが「CBDC(Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨)」です。これも最近よくニュースで出てると思います。日本円をブロックチェーンにのせてデジタル通貨のようにしたものです。

今、この4つが共通してブロックチェーンという技術を使っているのですが、いろいろな管轄の下、今ルールが作られている最中だということを覚えていただきたいと思います。

NFTの特徴を活かせる場所が、次世代のSNS「メタバース」

天羽:NFTを利用する場所や用途の説明をする時に、わかりやすい例として「メタバース」の話をします。この言葉は避けて通れないので、先にご説明しておきますね。

今日はみなさんと一緒に、こういうWeb会議システムを使ってコミュニケーションをさせていただいてます。こういうバーチャル空間とリアルの空間というものが、コロナ禍の後押しもあって、今どんどん進んでおります。

最終的には、こういう平面のPCの中でのやりとりだけではなくて、バーチャルの3D空間の中で、現実世界で起こっていることと同じようなコミュニケーションが行われるようになると言われています。

このメタバースは、みなさんも使われているFacebookやInstagramから移行するかたちで、「次世代のSNS」と言われています。3D空間というと、今まではゲームをする空間というイメージがあったと思います。

これからは、それだけではなく、3D空間の中で、本当に日常と変わらないことが行われるんです。例えば、こういうイベントが行われたり、ファッションを楽しんだり、時には恋愛をしてみたりとか。本当に現実と変わらないコミュニケーションが取られるので、そこで経済圏が発生し、経済活動が行われるんです。

その時の「デジタルデータ」「モノ」がいわゆるNFTであり、そこで交換するお金のようなものが先ほどのデジタル通貨、CBDCや暗号資産のようなものになると思ってください。

これはブロックチェーン、NFTの技術の1つである、「価値そのものを移転させることができる」という特徴をうまく活用したユースケースです。そして、活用される場がメタバースと呼ばれています。

暗号資産に関するライセンスがなくても、NFTビジネスはできる

司会者:ありがとうございます。増田さまはいかがでしょうか?

増田:若干補足させていただきますね。

司会者:ありがとうございます。

増田:1つ前のスライドで、法規制に関するお話がございましたが、今いろいろと進んでいるのは、法改正に関する議論ではないんですね。もともとNFTというものは、それ自体は法規制がされていなくて、法令上の概念もないんです。だから、今の法令に基づいた場合にいったいどう解釈されるかが問題となります。

とりわけ、「暗号資産に該当するかどうか」といったことが非常に問題になりました。なぜかというと、ブロックチェーンを使っているからなんですね。先ほど天羽さんからもお話がありましたが、金融庁では、事務ガイドラインというドキュメントを改正する時に、いろいろ意見の募集を行うんですね。

そこで出てきた意見に対する回答として、金融庁が明らかにしたことがあります。それは、「ブロックチェーンに記録されたトレーディングカードやゲーム内アイテムなどは、いわゆるビットコインなどと同じように、決済手段等の経済的機能を有しているわけではないので、規制しません」というものでした。

それで「暗号資産に関するライセンスがなくてもNFTビジネスはできますよ」という方向性がある程度はっきりしました。これが、2019年のけっこう大きな出来事だったんですね。

「マルチメタバース」が実現したときに、共通資産のNFTが必要になる

増田:他にもいろいろと、NFTに関連するビジネスをしようとする時に引っかかってくる法令があります。例えばゲーム関係だと、賭博にあたるかが問題になることがあります。

また、メタバースに関しても補足させてください。特定の会社が提供する閉じた空間である場合、必ずしもブロックチェーンを使う必要がないんですね。この話は後ほどもしたいと思います。

今も「何がメタバースなのか?」という議論はいろいろあると思いますが。バーチャル空間でいろいろやるようなサービスでは、みんながブロックチェーンを使っているわけではありません。

一部の方はピンとくると思いますが、今、「Web 3.0」(web3)というトレンドがあると言われています。「Web 2.0」は、中央集権的で、特定の大きなプラットフォーマーが提供するサービスをみんな使うといったモデルでした。

それに対して、Web 3.0はユーザーが自主性を取り戻すと言われています。いろんなサービスをユーザーが主導的に使えるようにするというコンセプトなんですね。

そうすると、データの保管場所は、特定企業ではなくてみんなで共通のものになりますよね。そういう未来が考えられています。そうなった時に、共通するデータの基盤として、ブロックチェーンというものがあるんですね。その上に、NFTとしていろんなデジタル資産みたいなものを記録していく。そうすれば、たくさんのサービスを共通化して使えるようになります。

そのたくさんのサービスが、いろんなメタバースであることを「マルチメタバース」と呼びます。そういうオープンなメタバースのモデルを志向して、それらが共通のデジタル資産を使おうとした時に必要になってくるコンセプトがNFTなんですね。以上、補足でした。

司会者:増田さま、補足をいただきましてありがとうございました。NFTについての概要をつかむことができたかなと思います。