メタバース領域の「三つ巴の戦い」が2022年の見どころ

天羽健介氏(以下、天羽):次に「メタバース」です。これは次世代のSNSの1つと言われています。個人的に、メタバースの領域は3つのまとまりに分かれていると思っています。

1つ目は、Facebook社が改名したMetaや、Microsoft、Appleなど、GAFAMと言われる企業が作ろうとしてるメタバースです。

2つ目は、3D空間としての「フォートナイト」「マインクラフト」「ロブロックス」といったゲーム空間が、先々ブロックチェーンやNFTの技術を取り入れてくるのではないかと言われています。

3つ目は、すでにNFTとかブロックチェーンを使ったメタバースです。「The Sandbox」「Decentraland」「Cryptovoxels」のようなメタバースがあります。

これらが三つ巴の戦いになっていて、どれが主流のメタバースになるか。これが2022年、見どころになってくると思います。

例えば、「The Sandbox」のメタバースで使われている「モノ」は、ざっくり言うと2種類あります。1つが「不動産」です。このメタバース上の土地が、この1年間高騰していて、目安としてはスライドに映っている一番小さいマスで、だいたい120万円〜160万円くらいで取引されています。

もう1つが、そこで使われるアイテムですね。アイテムが、これも今年1年間を通してたくさん作られていくと思います。車やファッション、いろんなアイテムが作られると思います。

メタバースの土地に関しては、海外の取引所でも買うことができます。例えば、我々コインチェックが運営している取引所でも、口座開設をしていただければ購入することは可能です。

ブロックチェーンを活用したサービスの「オープン化」が進む

司会者:ありがとうございます。増田さま、メタバースに関して何か補足などはございますでしょうか? もしくは、その前のものについても、よろしければ(お聞かせください)。

増田雅史氏(以下、増田):はい、ありがとうございます。先ほどメタバースのところでも申し上げましたが、単一のサービスでブロックチェーンを使う必然性って、実はそれほど高くないんですね。

今、NFTブームのような流れもあってか、こういった単一のサービスにもブロックチェーン上でトークン(ビットコインや暗号資産などの取引の履歴を記録することができる仕組み)を発行するようなトレンドが一部でみられます。これからは、実際にNFTとして活躍するもの、つまりNFTである必然性があるもののほうに注目が集まっていく可能性が高いと思います。

ブロックチェーンを活用したサービスは、実はその準備ができているものかもしれないと思うんですね。つまり、これがどんどんオープン化されて、他のサービスと連動するようになっていく。そして、ブロックチェーン上にもともとデータが記録されているので、外部との連動が取りやすい。こうしたことが今後の流れとしてあり得ると思います。

このようにオープン化を遂げることで、他のサービスや他のブロックチェーンとの連動性が高まり、サービスの価値もより一層高まっていきます。

事業者もそういった方向を志向するし、ユーザーとしても横展開ができるサービスにどんどん目が向いていくから、需要が高まっていく。そういうトレンドが今後起こっていくと思っています。

「Meta Platforms」への社名変更にある、示唆的な意味

増田:それに関連するのですが、Facebookが社名を変更しましたよね。よく「Meta」に変更したと言われますが、実際には「Meta Platforms」という社名に変更しています。この「Platforms」が複数形であるところが示唆的だと私は思っているんですね。

つまり、自社が単一のプラットフォームになるのではなくて、複数のプラットフォームが存在し得る状況になると。このことをなんとなく予言している社名なんです。だからまさに、私が今申し上げた話と同じような方向に向かっているのかなと勝手に思っているところでございます。補足としては以上です。

天羽:そうですね。メタバースは次世代のSNSになると言われています。既存のSNSは、FacebookやInstagramなどを運営するMeta社の1強状態になっていると思います。

このメタバースに関しては、マルチバースという言葉も出はじめているぐらい、1個に収斂されるかというと、そうではないんですね。今後は主要なメタバースが相互に接続されていくような世界観になっていくと言われています。

次に、「The Sandbox」と同じく、NFT、ブロックチェーンが使われているメタバース、「Decentraland」です。この中では、いろんな取り組みが現実世界と変わらないかたちで行われています。例えば韓国のSamsungのお店が開かれたり、ファッションショーが行われたりしています。そこで自分の分身、アバターを作ってその空間を楽しむ人が今増えてきています。

ファッションや音楽におけるNFTの価値

天羽:次はファッションです。また違った角度から、メタバース上での利用が期待されている領域となります。有名なブランドとしては、「DOLCE&GABBANA」が、NFTのファッションのコレクションを発表して、落札されています。これに限らず、世界中の有名ブランドにおいて、2021年に多くの取り組みが行われました。

実際に、リアルの服を作るためには、すごく多くの二酸化炭素と水を使用する。それによって、一部環境を悪化させているんじゃないかという議論もあります。その中で、デジタルファッションというものが、ある意味SDGsの観点で、良いものなのではないかと考えられています。さらには、先ほどのメタバース空間で着ることも想定されています。

今は、いわゆるパリ・コレクションやミラノ・コレクションなどでは、リアルの服をコレクションで展示していると思います。でも将来的にはリアルとバーチャルというか、デジタルファッションと半々になっていく世界が、もしかしたら来るかもしれません。

次は音楽ですね。昔はCDなど、(プレイヤーなどの)ハードに対するソフトを買って、曲を楽しむかたちだったと思います。現在では、「Spotify」などのサブスクリプション型のビジネスに移行していると思います。みなさんも生活の中で当たり前になっているかもしれませんが、これが音楽業界の象徴的な出来事だと思います。

そうなったことで、1曲あたりの単価自体はどうしても下がってしまっている。アーティストの権利や収入源が減少したりもしています。

こうした業界の課題に対して、音楽とNFTをしっかり紐づけることによって、限定100曲とか、100人にしか聴けない音楽といった状況を作り出すことができます。場合によっては、それがすごい価値を生み出して、裏側でも売買されることで、音楽を含めアーティストを救うのではないかと言われています。

デジタルなものを、個数限定販売にできることの可能性

天羽:増田先生、ここに関して補足はありますでしょうか?

増田:ありがとうございます。こういう音楽やファッションなど、デジタルなものを個数を限定して販売できるようになるというのが、けっこう大きな出来事だと言われています。

昔、CDでミリオンセラーが大量に出ていたのが、いつの間にかコピーというものに勝てなくなった。リッチコンテンツを大量に、増やしたり送信したりすることが容易になり、なかなかメディアとして売れなくなってしまった問題がありました。

再びこうやって個数を限定できるようになると、昔のように、届けたい人のところに「1個いくらですよ」というかたちで届けることが容易になる。そうやって、音楽ビジネスなどが再び活性化する可能性があるんですね。

サブスク型モデルの場合は、人気の作品以外がなかなか聴かれないなどの問題があると聞いています。そういった難点もこれによって克服されていく、1つの良いきっかけになり得るのではないかと言われています。

ファッションに関しては、メタバース空間内でデジタルな服を売っている企業が、実は今、世界最大のアパレル企業であるという意見もあるようです。このように単にアートとして見るものだけではなく、自分が身に着けるもの、自分が聴くものなど、いろいろな可能性が出てくると考えられています。

司会者:増田先生ありがとうございました。非常に多数の事例をご紹介いただきました。NFTとひとくちに言っても、多様な分野での活用方法があるんだなと思いました。個人的には、音楽への活用に、非常に興味があります。今後も、NFTを活用したいろいろなビジネスモデルが創出されるのが、すごく楽しみだなと思いました。

3つの「今後の成長のキーファクター」

司会者:さらなる市場の拡大が見込まれると思いますが、今後の展望や成長の期待、キーファクターやボトルネックについてお聞きしたいと思います。

天羽:ここに「今後の成長のキーファクター」を載せていますが、これ以外にもたくさんあります。あくまで一例として見ていただきたいと思います。

市場規模自体は急拡大しています。今年、さらなる飛躍として産業規模を確立するために、改善するべきことが3つあると言われています。

1つは、NFTや暗号資産、ブロックチェーンはよくわからないけれど、IP、キャラクター、芸能人の方などはみんな知っていると。誰もが知っているコンテンツが、NFTを手段として使って参入してくると、今まで興味がなかった人たちが買うようになると言われています。

ゲーム、デジタルアート、スポーツ、音楽などで、誰もが知ってる大手企業やアーティストが参入してくると、より盛り上がるのではないかということですね。

2つ目が、UI/UXの改善ですね。(こちらは、それぞれ)ユーザーインターフェース、ユーザーエクスペリエンスの略となっています。暗号資産を購入された方、保有している方は少しイメージが湧くかもしれませんが、現状ブロックチェーンを使っての売買は、まだ使い勝手が良いとは言えない状況となっています。

海外のNFTの取引所で買おうとすると、(まず)国内の取引所で口座開設をし、そこで暗号資産を買って、イーサリアムとかを買って、また別のウォレットに送って、それを海外の取引所に接続して(ようやく)買えるんですね。今の話も、「ちょっと何を言ってるかわからない」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。とにかく、複雑なステップを踏まないといけない状況にあります。

今みなさんが何も考えずにスマホを操作するレベルにまで、これをシンプルにするためにはまだ少し時間がかかると思います。これが実現できれば、インターネット上にのっかる技術として、ブロックチェーン、NFTというものはより普及すると思います。

課題は「使い勝手の悪さ」の解消

天羽:3つ目が、プロトコルの技術革新ですね。これについては、どこから説明したらよいのか、という感じです。NFTのビジネスの裏側の技術基盤として、NFTの技術の代表格である、「イーサリアム」という暗号資産というか、技術基盤があるんですね。そのイーサリアムの代表的な機能が、「スマートコントラクト」という技術になります。

では、スマートコントラクトとは何か。ビットコインとイーサリアムで共通している点は、価値そのものを送ることができるということです。イーサリアムにしかない点は、価値の移転をするだけではなく、そこに契約内容なども付随して内臓することができることなんです。だからビジネス利用に向いているんですね。

そういった契約の内容については、NFTだけでなくいろんな金融分野などへの活用が見込まれています。そのため、そういう処理が殺到して、このネットワーク手数料が昨年、一昨年と高騰してしまうという事象が起きました。

せっかく自動で契約内容などを付随してやりとりをしようとしているのに、使い勝手が悪い状況となっている。そういうネットワークの混雑を防ぐ仕組みがあります。また、ネットワーク手数料が高騰してしまって、使いづらくなっている部分を解消するアプローチも、今世界中でとられています。そういう意味での、プロトコル技術、技術基盤の革新が求められています。

以上、成長するための代表的な3つのキーファクターをご紹介しました。増田先生、他に何か成長のキーファクターってございますか?

成長の鍵は「需要者側の盛り上がり」をいかに作れるか

増田:ありがとうございます。違う角度で同じことを申し上げることになると思いますが、結局、そのNFTを「使いたい」「買いたい」という一般消費者の層が厚くなってこないと、市場の成長は頭打ちだと思うんですね。

いわゆるキャズム理論というやつだと思いますが、アーリーアダプターを越えて、アーリーマジョリティ層、レイターマジョリティ層にどんどん広がっていかないといけない。そうでないと、結局これに詳しい、興味を持っているオタクたちのおもちゃで終わってしまう可能性もあると思っています。

今も、「NFTアートを出品してもなかなか売れない場合が出てきている」「供給は増えているけど、需要が増えていないんじゃないか」という懸念の声を多数聞いています。

話を戻しますが、成長のドライバーとなるのは、需要者側がどれだけ旺盛になるかだと思います。そうすると、一般の方に想像がしやすいようなユースケースが出てくる。これが極めて重要です。

その一側面は、スライドに書いてあるUI/UXの改善だと思います。よりイメージしやすいユースケースとしては、メタバースが有力かなと思っています。

ユーザーのみなさんが、メタバース空間上でコミュニケーションをとることがどんどん一般化していく。しかもそれがオープンなメタバース、マルチバースモデルだとすると、その空間上で持つデジタルアイテムや服、はては自分の家に飾る絵など、いろんなコンテンツが当然のようにNFTでやりとりされるようになります。

NFTだとはみんなは思わないけれども、実は裏側でNFTがバンバン使われる状況になる。そうすれば、需要がグワッと盛り上がって、いよいよビジネスのサイズも大きくなっていき、成長軌道に乗っていくと思っています。

司会者:補足いただきましてありがとうございます。

『NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計まで デジタルデータが資産になる未来』(朝日新聞出版)