サイボウズと自治体の連携で生まれた、コロナ対策システム

笠松慎平氏(以下、笠松):こんにちは。『ここだけの話、自治体コロナ対策システム構築の裏側。」のセッションに来ていただいてありがとうございます。

本セッションは、サイボウズ、埼玉県、相模原市の3者がコロナの中で構築したシステムや、そのシステムを構築していくにあたってどんな課題を乗り越えてきたのかをご紹介するセッションとなっております。

前半部分では、コロナ対策システムの構築に責任を持って取り組まれた方々、埼玉県さま、相模原市さま、サイボウズからそれぞれがどんな取り組みを行っていたのかをご紹介させていただきます。

後半部分ではトークセッションとして、現場で実際にシステムを構築された方々にもご登壇いただき、より深い裏側の部分までご紹介させていただければと思っております。本日はどうぞよろしくお願いします。

後半部分のトークセッションに向けて、1つご紹介しておきたいことがございます。埼玉県さま、相模原市さまとはシステム構築の時も、今回のセッションに向けても何度もお打ち合わせをさせていただいたんですけれども、実は登壇者の方々とは初めてお会いしており、先ほど名刺交換を行ったところだったりします。

本当にコロナになる前は、自治体の方々とリモート会議なんてすることはぜんぜん考えられなかったのですけれども、そういったところでもコロナの影響を大きく感じました。Cybozu Daysの歴史の中でも、登壇者の方と初対面で一緒に登壇することはないので、そういった登壇者同士の距離感もぜひ見所としてご覧いただければと思います。

中央省庁や地方自治体が次々にkintoneを導入

笠松:さて、今ここに立っている2人のサイボウズ社員のご紹介からさせていただきたいと思います。本日ファシリテーションを務めさせていただきます、ソリューション営業部の笠松と申します。

2018年にサイボウズに新卒入社しまして、ふだんはkintoneとはじめとするサイボウズ製品のご紹介をさせていただいております。昨年から技術支援の案件にも携っておりまして、埼玉県さま、相模原市さまのシステム構築の支援もさせていただいたので、本日、裏側を聞くというところでファシリテーションを務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。

そしてもう1名、サイボウズの公共チームの瀬戸口さんも自己紹介をお願いいたします。

瀬戸口紳悟氏(以下、瀬戸口):ご紹介に預かりました。サイボウズ株式会社パートナー第一営業部の瀬戸口と申します。パートナー営業部とありますが、公共のお客さまを専属に担当しております。昨年サイボウズに転職したんですけれども、前職は大手のSIerにいました。

ふだんはグループウェアで、公共向けのGaroon(ガルーン)案件などを中心に対応しているんですけれども、今回のコロナのプロジェクトで、公共チームとしてお客さまと直接やりとりさせていただいていました。

笠松:ありがとうございます。それではさっそく、「サイボウズのここだけの話」と題しまして、サイボウズがコロナの中でどういった取り組みを行ってきたのか。どんなことが大変だったのかについて、瀬戸口さんからお話しいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

コロナ禍によって発生した、今までにない業務への対応

瀬戸口:今回コロナウイルスの広まりに合わせて、自治体さまでkintoneを活用した多くの事例が生まれました。中央省庁をはじめとして、県から市まで広くkintoneが活用されました。事例を目にされた方もいらっしゃるんじゃないかと思います。

なぜkintoneが自治体さまで活用されたのかという部分なんですけれども。今回コロナウイルス対応の自治体さまでの業務が急を要するものだったということが1つあります。

今までになかった業務がコロナ対応という文脈で発生し、そういった業務に対応するシステムがなかなか市場になかったところがあると思います。

市場にシステムがなく、急な業務をやらなければいけないというところで、どうしてもアナログなやり方で対応せざるを得ないところに、非常にスピーディーに業務を構築できるkintoneの強みがうまくハマったのかなと思っております。

例えば、大阪府さまでは従来1日2回コロナの感染患者に対して電話で健康状況をヒアリングする業務がありました。今までこれをアナログなかたちでやっていたため、患者が増えるにしたがって、職員さまの負担も非常に大きくなっていました。

これをkintoneとフォームブリッジを組み合わせて、コロナの感染者の方にはモバイルで状況を登録する。その情報をkintone側で府の職員が参照できるようなシステムを構築しました。

こちらのシステムに関しては非常に速いスピード感でシステム稼働まで持ち込みまして、最初に問い合わせを受けてからわずか2週間でシステムを公開できました。さらにその1週間後にはまた別のシステムが稼働するというところで、kintoneのシステム稼働までの圧倒的なスピード感が活かせた事例かなと思っております。

システムの横展開・共有がしやすい自治体ならではの利点

瀬戸口:もう1つ、システムの横展開がしやすいというところが大きくあげられます。kintoneにはアプリテンプレートという機能があり、kintone上で構築したアプリを横展開していくことができます。

例えば加古川市さまでは、10万円給付があったと思うんですけれども、マイナンバーを使った仕組みがなかなかうまくいかない自治体さまが多くて。加古川市さまの場合はkintoneを使って申請自体を代用する仕組みを構築されたんですけれども。

これは完全に加古川市の職員さまが一からkintone上でシステムを構築したというモデルになります。さらに作ったアプリテンプレートを、加古川市のオープンデータのカタログサイトで公開した事例がありました。

規模は違えど、自治体さまでは業務の内容は大きく変わらないといった側面があるので、こういったシステムの横展開がしやすい。さらに自治体さまの特徴として非営利で運営されているので、システムの共有もしやすい土壌がありました。

さらに(こうした取り組みを)非常に大々的に発信してくださった自治体さまも多く、kintoneの活用を後押ししてくださいました。例えば大阪府の吉村知事や埼玉県の大野知事のTwitterで「kintoneを活用してこういった取り組みをしています」と広く発信いただいたことによって、kintoneの認知も非常に広がったと思っております。

結果として、2019年に自治体のプレスリリースとしてサイボウズからは3件出させていただいたんですけれども、2020年はわずか3ヶ月でコロナ対応という文脈で5団体のプレスリリースをお出しできました。

パンク寸前の部会を救ったサイボウズのチームワーク

瀬戸口:そういった事例が生まれる中で、サイボウズの社内事情はどうだったのかという裏側の部分を少しお話します。ちょっと話が逸れるんですけれども、今年営業部でサイボウズの部会制度というものが始まりました。これは名前のとおり、与えられた本職以外で自分の興味のある分野の活動に取り組める制度になります。

この部会制度の1つとして公共部会という部会が発足し、最初はコロナの自治体さまからの問い合わせにも、公共部会のメンバーが中心に案件対応していました。けれども、ありがたいことに問い合わせが日増しに増えていって、チームがパンク寸前の状況になりまして、これを乗り切れたのがサイボウズのチームワークというところになります。

そのような状況のもと、部会メンバー以外からも「コロナ対応チームとして取り組んでいきましょう」といった発信を社内のkintoneでしたところ、すぐに手をあげてくださる方が多く、わずか2日間でコロナ対応の特設チームとして15名ものメンバーが集まりました。

さらに、社内的に広くkintoneの環境は公開されているので、営業メンバーだけではなくて技術職からも自主的に参画いただくパターンが非常に増えました。こういったところで一気通貫で自治体さまの課題解決ができた部分があるのかなと思っております。

さらに、ふだん自治体業務に関わらないようなメンバーも、社内のkintone上で随時案件の状況が共有されているので、ノウハウなどをうまく引き継ぎつつ案件対応することでこういった状況を乗り切ることができました。私からは以上になります。

笠松:瀬戸口さんありがとうございました。私も実際社内にいて、コロナの対策のシステムの案件が非常に増えてきている中で、本当にパンクしてしまうんじゃないかと思ったんですけれども。

そういった時に広く情報発信、依頼ができるサイボウズの風土と、相談するためのツールがあるというところでkintoneの強みを感じたできごとだったなと思っております。瀬戸口さん、ありがとうございました。

瀬戸口:ありがとうございます。

コロナ対応で、競輪事業担当から突然システム担当へ

笠松:さて、ここからは実際に自治体でシステムを構築された方々にお話をいただきたいと思っております。まずは埼玉県さまから、kintoneを使ってどんなシステムを構築されたのか。その裏側ではどんなことが行われていたのかについてご紹介いただきます。埼玉県からは佐々木原さんに登壇いただきます。よろしくお願いいたします。

佐々木原剛氏(以下、佐々木原):みなさん、こんにちは。埼玉県の佐々木原と申します。私は一応システム担当者ということで今回お呼びいただいたんですけれども、実は本業は公営ギャンブルである競輪事業を担当しておりました。

私自身、10年以上県庁に勤めているんですけれども、私はシステムの素養も業務的な経験もまったくない立場でございます。今日はそんな私がkintoneをどういうふうに導入していったのかをご紹介させていただければと思っています。

まず導入に至りました経緯について、簡単にお話させていただければと思っています。こちらのグラフは、埼玉県内でのコロナの陽性患者の累積の数になります。3月頃はそれほど増えていなかったんですけれども、4月を境にものすごい勢いで増えていって、ご覧のとおり、4月19日には667人というかたちで激増していったわけです。

そうした中で、コロナに対応するというところで陣頭指揮を取っていた県庁内部の保健医療部の業務が圧迫されてきたことを受けまして、全庁から応援要員の招集がございました。

実は私もこの応援要員の1人として4月13日から実際に派遣されることになったんですけれども、お恥ずかしい話ながら、先ほどサイボウズさんのお話にあったコロナの有志メンバーとは違ってですね。どちらかと言うとドナドナみたいな感じで連れていかれたんですけど(笑)。そんな感じで派遣をされました。

派遣も実際は3日前に「お前来いよ」と声掛けをいただいて、実は土日を挟んで3日だったので、金曜日に言い渡されて月曜からよろしくね、という感じで応援の派遣の依頼が来たかたちです。

4月中旬頃から埼玉県の医療機関がパンク状態

佐々木原:先ほど患者の数がすごく増えてきたという話をさせていただいていたんですけれども、実際に患者が増えると当然医療機関に負担が増えまして、埼玉県においても4月中旬頃くらいから医療機関がパンク状態になっていました。

県内の医療機関については、基本的には重症者等の患者の対応をメインにして、比較的軽症な方はホテルで隔離的に療養していただく手法を取ると県が判断し、4月15日にホテルをオープンさせて、軽症の方はそちらで療養するかたちを取りました。

4月15日にオープンしたわけなんですけれども、ゴールデンウィークにはもう70人まで増えていきました。実際ホテルの方も、先ほど大阪府さん事例の紹介にもございましたとおり療養中に健康観察、健康管理をしなくてはならないということで。

実際にホテルにいらっしゃる方が増えれば、当然現場で健康観察、健康管理をする方の事務の手間暇もかなり増えてきて、「なんとかならないのか」という話が県庁の中でも出てきました。

私自身は応援要員として働いていたんですけれども、なにも最初からシステムをやれというかたちで配置されたわけではなくて、いわゆるなんでも屋的なかたちで仕事をしていたんですけれども。

たまたまホテルがパンクしている時に、たまたまタブレットの調達をしていて。その際に、「お前、なんかシステムっぽいことやってるな」ということで、素養もなにもないのにシステム担当者を命じられまして。

その中で「大阪府さんのようにツールを使って健康観察を効率にやっている事例があるから、それをちょっと研究してこい」と言われました。結果的には、サイボウズさんも含めましていろんなところから情報収集をさせていただいて、kintoneを選ばせていただいたんですけれども。

埼玉県がkintoneを選んだ4つの理由

佐々木原:実際に準備期間というのは、ここにも書かせていただいたとおり1週間で組み上げました。なぜkintoneを選んだのか、お話をさせていただければと思っています。

選んだ理由は大きく4つです。まず1つ目は、大阪府さんなど、ほかの自治体で先に事例があったということです。我々も実際に医療機関の事務の手間暇がパンク状態でしたので、1秒でも早く入れるんだと言われておりました。

「スピードを優先せよ」ということだったので、大阪府さんの事例をフォーマットにすれば最短モデルを作るのもさほど手間ではないかなと直感的に感じたところです。

2つ目は初期費用が無料で、維持費もローコストだったところです。リアルな話、初期費用は1円も取りませんよということで、基本使用料はだいたい数万円だったかなと記憶しているんですけれども、あとは1ユーザーあたり月額900円というくらい安いコストだったと。

自治体ですと、実際にシステムを組むにあたっては予算を計上することはあるんですけれども、予算を組まなくても執行の中でできそうなくらいローコストだったということですね。

もう1つが、無償のトライアル期間が一定程度いただけるということでした。多少失敗して「あ、これ間違って選んじゃったな」となっても、トライアル期間だったら大丈夫かなというところも魅力的でした。

3つ目は私のような素養のない人間でも、いろいろと柔軟に変更ができるところです。ドロップ&ドラッグで簡単に作れるような仕組みになっていまして、私も直感的に「これだったら自分でもできるかな」と感じたところが大きかったです。

最後、これが一番大事だったのかなと思うんですけれども、サイボウズのみなさんから手厚いサポートを受けられるとお約束いただいていたこと。ぶっちゃけて言うと、システムを作った時はゴールデンウィーク真っ只中だったんですけど。

「それでも問い合わせしちゃって大丈夫?」という話をしたところ、お二人から快い返事をいただいて、これは安心だなと思ったところが決め手だったかなと思います。

わずか1週間でコロナ対策システムを構築

佐々木原:こちらがわずか1週間でできあがった埼玉県のモデルです。ちょっと抜粋になるんですけれども、ご覧いただくとわかるとおり、異常があったことについては識別的には赤色でアラートを示していただけるということで、管理する医療従事者が異常があることが一目でわかるような仕組みになっています。

あと、ここには書いていないんですけれども、こういったものをエクセルで吐き出したり、入力の有無についてもソート機能を使えばきちっと管理ができるところが特徴だったのかなと思っています。

実際に導入してみて、医療従事者の方からも評判でして。医療従事者のみなさんが健康観察の項目として把握したい項目をすべて網羅できていて。かつ、実際に確認したことがワンクリックで相手方にも伝えられます。

実際に管理する側からも非常に操作もしやすいですし、患者さんからも確認いただいたという安心感が持てる。そんな特徴があったのかなと思っています。

この項目も、我々がkintoneを導入した以降に現場の医療従事者からこういった項目を付け加えてくれないかとオーダーがあった項目です。それ以外にも、専門家の方や医療従事者の方から「こんなことができないか?」「こんな項目が付け加えられないのか?」というオーダーを受けてやったところでございます。

実際には導入したあとに項目を付け加えたり、機能を追加することがすぐにできるシステムというのも、特徴として1つ挙げられるのかなと思っています。こういった機能は、kintone以外のツールを使っていたら非常に難しかったのかなと思っています。

システム構築にあたっての最大の鍵が、サポートという話をさせていただいたんですけれども、やっぱりサイボウズさんと埼玉県で密なコミュニケーションが図れたことが最大の鍵だったのかなと思っています。

こちらの画像にございますけれども、kintone内のスレッドや、Webの会議でのやりとりをずっと駆使しておりまして。我々も現場から毎日のように「こんなことできないのか?」「これじゃダメなんだ」という声をいろいろと拾い上げてきたわけなんですけれども。

そういった要望の内容によって、我々が自分自身でカスタマイズをするのか、ちょっと手に及ばないものはサイボウズさんにお願いするのかを判断しながら、迅速に切り替えていったところです。

我々は今日初めてお会いしたんですけれども、実際に面と面を合わせなくてもシステムってできるんだなぁということを、今回初めて実感いたしました。

濃厚接触者の管理やホテルの医療物品の在庫管理もkintoneで

佐々木原:繰り返しになるんですけれども、現場からは非常にご好評の声をいただいていまして。「おかげさまで楽になったよ」ということを言われて、私も非常にうれしい思いでした。加えまして、県庁の中から「こんなにいいツールがあるんだったら、コロナ以外のほかの業務でもなにかいいことができるんじゃないか」といった声もございました。

おかげさまで、知事の定例記者会見でICTツールを使って宿泊療養中の健康観察を効率的にやったということで、対外的に情報発信することもできましたし。冒頭にご紹介があったとおり、知事のTwitterでも情報の発信をさせていただきました。

健康観察以外でも、埼玉県で運用した事例を挙げさせていただいています。両方ともコロナ関係ではあるんですけれども、濃厚接触者の管理やホテルの医療物品の在庫管理も、実際にkintoneを我々の手でカスタマイズして運用させていただいた例としてございます。

またコロナを飛び越えるんですけれども、いわゆる結核管理、結核の患者さんの情報管理というところも今後入れるようなかたちで検討を進めさせていただいています。

システム1つのドメインで実際に増えゆくニーズをどんどん追加できるところも、このkintoneの大きな魅力なんじゃないかなと思っています。私からの発表は以上になります。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

笠松:ありがとうございました。埼玉県さまにうれしいお言葉を言っていただきましたが、自分たちでやっていくと意思を固められて、我々もなんとかコロナ禍で貢献したいという中で本当に二人三脚でこのシステムを作っていただき、実際、成果としていろんなところから褒めていただいたことは非常にうれしいものでした。佐々木原さん、ありがとうございました。