産業医から見た「離職」

上村紀夫氏(以下、上村):こんばんは、寒い中ありがとうございます。めちゃくちゃ寒いですよね。ご紹介いただきました上村と申します。

僕はわりとスライドをパッパッと動かすタイプなのですが、ちょっと映像的なことも含めて楽しんでいただければいいかなと思っています。

今日ご紹介させていただくのが、私はだいたい2つの柱を持っています。1つはメンタルヘルス、もう1つは離職のお話です。今日はどちらかというと離職寄りのお話をさせていただきたいと思っています。

テーマとしては、「なぜ従業員の心は会社から離れるのか」。みなさんも属性はそれぞれいらっしゃるかとは思いますけれども、人事の方であれば離職のことで困っていたり、心が離れたことによってトラブルが起きたりすると思います。本日は、そのあたりでヒントを持ち帰っていただければと思っております。

なにか気になることがあったら、その都度、手を挙げてご質問いただければと思いますので、よろしくお願いします。

医師から経営コンサルを経て起業

では、私の自己紹介をさせていただきます。若干キャリアが曲がっているのでわかりづらいと思いますが、軽くご紹介したいと思います。

生まれは神戸なのですが、親が転勤族でいろいろと行きまして、埼玉の春日部高校に通って名古屋の大学に行きました。

その後、メイヨー・クリニックというアメリカミネソタ州の病院でのトレーニングや東京の女子医大などで勤務しました。

医師として働くにつれて「私にしかできない医療をしたい」と強く思いました。さまざまな方に相談し、その結果、その当時はかなり新しかったのですが、MBA(経営学修士)を取ろうと思い、ロンドン大学に2年間MBAを取りに行きました。

その後は、外資系の経営コンサルの会社を経てエリクシアを設立し、今11年目ということでやらせていただいています。

キャリアが紆余曲折していますが、今はなにをしているかというと、このエリクシアという会社を経営しています。

「働く幸せの最大化」を目指す産業医集団

弊社の一番の特徴としては、弊社では産業医をだいたい14~15人抱えていることです。登録制とは違い、直接雇用の上で教育をし、メンタルヘルスや健康事案の対応もそうなんですけど、離職などを含めて、お客さま先でいろんな相談を受けています。

そして、トラブルケースの時は弁護士さんに相談する・しないも含めてシナリオを書いたりもさせていただいている会社です。ちょっと特殊だと思います。

今、実際の領域としては個人の心や集団の心ですね。あとは今日のテーマにしていますけど、「マイナス感情の最小化」をミッションとしながら、働く幸せの最大化を目指しましょうということで動いております。

主な領域としては、4つの領域で活動させていただいております。1つは衛生管理。要は産業医のベタな部分ですね。これは当然、プロとして対応しております。

2つめは教育。教育に関しては、今日はちょっとテーマが違うんですが、メンタルヘルスを見える化するということで、とくにメンタルダウンの状態の見える化、原因の分析と見える化をテーマに研修等を回させていただいております。ハラスメント研修とかですね。

あと3つめの領域としては労務です。労務と離職対策。この領域に関してどういうプロかというと、いわゆる弁護士さんや社労士さん、どちらかというと弁護士さんですね。トラブルケースになって揉めた時に弁護士さんに頼る会社さんもあると思うんですけれども、「そうなるまでになにかできるんじゃないの?」という領域ですね。

あとは人事コンサル。「いる」とか「いらない」とか、きっといろんな会社さんが考えられると思うのですが、その際にもプロと会社さんの間にギャップが発生すると思うので、この部分を気軽に埋めさせていただくのがうちの会社です。

ですので、とくに中小企業さんなどの業務をさせていただいていて、日々メールや電話に追われる毎日を送っているというのが、私どもの活動になります。

産業医や研修、あとはメンタルヘルスのWebツール、うちはストレスチェックもちょっと特殊なんですけど、従業員の意識調査をがっつり書いたやつをやっております。シンガポールでもやらせていただいております。

定着率と従業員満足度で企業を分析

では、今日の本題に進ませていただきます。本日のテーマは「離職」ということでやらせていただきます。

実際になにをやっているかがわかりづらいと思うので、最初にご説明させていただきます。「なんだ、これ」と思うんですけれども。

横軸は定着のスコア。定着率でもいいです。定着率は離職率の反対ですね、左側に行くほど低く、右側に行くほど高い。つまり右側は離職者がなかなか出ないということですね。左側は離職者が全開に出るという会社さんです。

縦軸は今回のテーマとは違うんですけど、仮に従業員満足度という表現をさせていただいています。従業員満足度そのものである必要はまったくないんですけれども、いわゆる会社にいて「ハッピーだな」と思えるかどうかの指標だと思ってください。

これだけで、けっこういろんなことがわかります。とくに人事の方は、各会社さんでサーベイ(調査、測量)をやられたりしている。この頃とくに多いと思うんですけれども、そのサーベイの活かし方をどうするのかも、こういった話に関係してきます。

従業員満足度で見る「パラダイスと荒野」

まずは従業員満足度が高くて定着している会社さん。もちろんこれはパラダイスです。我々は「パラダイス」と呼んでいるんですけど、(従業員が)辞めないので、一見するとハッピーというかたちです。

一方で、ハッピーじゃなくてみんなが辞めていく会社を、弊社では「荒野」と呼んでいます。「その呼び方はどうなんだ?」という話もあるんですけれども、荒野と呼んでいます。人がいなくなるという話です。出入りが激しい会社さんですね。

さらに、その2つだけじゃなくていろんなパターンがあります。例えば従業員満足度が高いけれども定着しない会社さん。これは後で説明しますが「ステップ」と呼んでいます。ステップアップのための離職が発生する会社さんですね。

「この会社は好きだけど離職していく」という会社さんがあると思うんですが、そういった会社さんは左上に入ってきます。コンサルティングファームなんかもそうですね。

あとは右下。右下は従業員満足度が低くて定着率が高い会社さんです。「そんなのあるの?」と思われるかもしれませんが、人事の方はけっこうこのゾーンで頭を悩ませているんじゃないかと思います。

実を言うとこれが一番痛いです。ぶら下がり系。この頃はいろんなメディアでもそうなんですけれども、「50代問題」とかさまざまな問題が出てきています。

ぶら下がりに対しても、今後ぶら下がり化をどうやって減らせばいいか、そういったものが発生しづらい組織はどうなのかということに取り組まれている会社さんが多いと思うんです。

なので、これの発生機序をつかんでおいたほうが今後の対策につながりますよ、というのが今日の1つのテーマになります。

会社を荒野にするのは、マイナス感情の蓄積

ちなみに、いきなり荒野やぶら下がりにはなりません。例えば1人の方が、転職してきたり、新卒で入ってきたとします。みなさん、ある程度希望を持って入ってくると思います。ですので、意欲としては、みなさん最初は必ずこのパラダイスやステップにいらっしゃいます。

これが時間が経過していくうちに悪化すると荒野化します。「ちょっと会社も気に入らないし、もう辞めようかな」みたいな感じになります。ここで問題なのが、辞める場合には必ず優秀人材が抜けていきます。次が見つかりやすいから。その後はどうなるのかというと、必然的にぶら下がり人材がたまっていきます。

なぜそうなるのか。「他の会社に移動しづらい」「変化を好まない」なんてこともけっこうありますね。ですので、従業員満足度、会社に対して満足はしていなくても会社を辞めないという方々がどんどんたまっていくという現象が起こります。

今日はその中のファーストステップとして、荒野化に至るまでになにが起こるのか。ここに本日のテーマの「マイナス感情の蓄積」があります。これのメカニズムなどをお話しさせていただきながら進めていきたいと思っています。

ということで、会社と従業員のすれ違いがちょくちょく入っています。これはみなさんの会社でも、ある程度経験されていることはあるんじゃないかと思います。例えば従業員のために「残業禁止」「残業を削減しましょう」となったら不平不満が出たと。

新しい言葉で「ジタハラ」がありますよね。これは「時短」と言われるのがハラスメントだという話なんですけれども、これがジタハラの典型ですね。

2つめ、よかれと思って導入したフレックス制度で従業員のやる気が下がった。これもけっこうあります。フレックスを外そうという会社さんは最近増えていますね。リモートワークなんかも、この頃ちょっと外し始めているかな、というのがちょっと見えてきていますね。

3つめは、やる気を上げるために全社的に給料を上げたら、全体的に士気が下がった。矛盾しているような感じですが、これは実際にあるんです。なぜそれが起こるのか。おかしいなと思いません? 

従業員と会社の「欲しいもの」のギャップ

あとは結果が出ている従業員をマネージャーに昇格したら離職してしまったとか。これはけっこうみなさんも経験されているんじゃないかと思います。管理職にしたら辞めてしまった。「いやいや、せっかく管理職にしたのに」みたいな感じが多いんですけれども、こういったことはけっこう起こります。

それはなぜかというと、基本的には会社が従業員のために提供したいものと、従業員が欲しいものとの間に「欲しいのはこれじゃない」というギャップが発生しているからなんです。つまり従業員側のニーズや思い、状況を把握できていないケースがけっこうあります。なぜそれが発生するのかが最初のテーマになります。

私は今日こんな話をしていますけれども、「もともと産業医じゃないの?」「もともと心臓外科じゃないの?」という話もあると思いますが、これまで百何十社で仕事をさせていただいております。

いろんな会社さんで産業医やコンサルタントというかたちで関わりを持たせていただいていた中で、けっこう生々しい話も含めて、すべての会社さんでいろいろとお話を聞いて、いろいろと組織のサポートをしてきました。

そこで実際に多くの会社さんで問題となっている、いわゆる人事的なもの。とくに心理が絡むような話は大抵マイナス感情の蓄積で起こっているといっても過言ではないと思っています。

「その蓄積を解消することで、すべてが解決するんじゃないのか」と、かなり実感することが多かったんですね。今日のセミナーでお届けしたいメッセージとしては、「マイナス感情の蓄積に意識を向けましょう」ということになります。

組織の中、あとは個人の中でもそうです。どんなかたちでマイナス感情が蓄積しているのかをぜひイメージしながら考えていただいたり、質問等もしていただければと思います。

マイナス感情とプラス感情のどちらに着目すべき?

ちなみに、このマイナス感情について簡単に言うと、「諦め」「落ち込み」「疲労」「妬み」など。最近は妬みが多いですね。平等とかを含めて今はけっこううるさいので、少し不平等があったりすると一気にいろんなかたちで出てきます。

あとは「不安」「怒り」。こういったマイナス感情があります。これらの感情をちゃんと解消できているかですね。

なんでマイナス感情が大事なのかというと、意外とみなさん、とくにイケイケ系の会社さんは、プラスの感情を増やすことによってマイナスの感情の影響を減らそうとされることが多いです。

なぜならば、プラス感情は多くの会社さんがやりたがるんですよ。「従業員によく思われたい」とか。あとよくあるのは、「課題を改善するよりもなにかを足したほうが楽」という足し算の発想は多くの会社さんで行われます。

ですが、実を言うと、スライドに書いちゃっていますけれども、プラスのほうの影響はけっこう少ないんです。

なぜプラスの影響を起こすことのほうが、従業員の方々の感情に影響が少ないのかということは、ちょっと後のほうでご説明させていただきます。

多くの会社は社員のマイナス感情を把握できていない

一方で影響が大きいマイナス感情をなぜ放っておくのかというと、多くの場合は把握できないから。なんとなく想像をして、実際にどういうふうに従業員が思っているのか、ちゃんとつかみきれていない点が多いですね。

あとは、わかっているけど取り組めないケース。一番わかりやすいのは、過重労働でめちゃめちゃ忙しい会社さんで、なにをすればいいのかわからないと。確かに「その状況でなにができるのか?」という話もあるんです。ですので、問題は見えているけど取り組み方がわからないので取り組めない、という会社さんもけっこう多いのが現実ですね。

実際に弊社が会社さんでお話をさせていただく時は、「まずはマイナス感情の発生機序を理解しましょう」ということでお話をしていただいています。今日はそのお話をさせていただきます。

そのうえで、ちゃんと現状を把握していますかと。組織の中でなにが起こっているか、個人の心の中でなにが起こっているかを把握されていますか、というところを見ます。

そこからマイナス感情を拾い出していくと、けっこういっぱいあります。その中でちゃんとカテゴリーを分けて取り組みができるかどうか。

もっと言うと、それはいっぱいあるので全部を解決するのは無理です。なので優先順位をどこに立てるのか。その優先順位の立て方をどうすればいいのかがかなり重要になってきます。そのうえで具体的な施策を練ることが大切です。

私も人事コンサル的な感じで動いているので、いろんな会社さんや人事の取り組みを見ているんですが、みなさんなんとなく現状把握をしたあとに、いきなり具体的対策を練るところにいっちゃうんですね。

例えばよくあるのが「福利厚生を上げたらなんとかなるんじゃないか理論」。なんとかならないです。なんともならないです。意外と従業員はここを重要視していません。あとは「給料を上げたらなんとかなるんじゃないか」。これも実を言うと、給与の問題ではなかったりします。

ですので、そういったことをちゃんと会社の中で、とくに部門別を含めて把握できているかどうかがすごく大事になります。