2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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上村紀夫氏(以下、上村):では、ちょっと話がそれます。今日の参加者のみなさまの属性を見させていただいたところ、けっこうIT系の方々が多いので、アジャイルの話をさせていただきます。先ほど言ったように変化は全部ストレスです。変化が起こるとメンタル不調が増える。感覚としては、みなさんもなんとなく持っていらっしゃると思います。
そこの流れを、最近のトレンドで「心理的安全性」と言ったら変になるかもしれませんが、よく使われる言葉を使って、ちょっとご説明させていただこうかなと思います。「心理的安全性」という言葉を聞いたことがある方?
(会場挙手)
ありがとうございます。みなさん人材系の勉強会とかに行かれるとわかるかと思うんですけど、5年前は「ウェルビーイング経営」「幸福」とか、そういったものが流行っていました。
いわゆる「ハッピーになりましょう」という、僕は「ハッピー論者」と呼んでいますけれども、ハッピーで引っ張るという作戦ですね。別に否定的ではないですよ、でも若干あるかもしれないです。
それで引っ張るというのが5年ぐらい前は流行っていました。それがこの2年ぐらいに、心理的安全性という言葉が出始めて、ハッピー路線の方々もこちらにシフトしてきています。
ですので、この2年ぐらいは心理的安全性というのが、専門系の勉強会ではよく出てくる言葉です。ぜひ今日持ち帰っていただきたい言葉の1つです。
これはGoogleのプロジェクトで出てきたワードですね。プロジェクトアリストテレスという、「機能するチームにはなにがあるか」ということをさんざん研究したものがあります。そこで、「一番大事なのは、実は心理的安全性じゃないか」と言われていました。
それはなにかというと、ここでの定義、心理学的な定義ですね。他者の反応におびえたり羞恥心を感じずに、自然体の自分をさらけ出すことができる環境とか、雰囲気のこと。これを心理的安全性と言います。正式な定義です。
ですが、ちょっとこれは扱い方が難しいんです。それで研究がどんな感じだったかというと、(スライドを指して)いきなり英語が出てきてなんだと思うんですけど、チームを成功に導くための5つの要素があります。
みなさまがもし、今日帰って調べられることがあったら、「心理的安全性」で調べるとだいたいこの5つ(心理的安全性、お互いへの信頼、明確な役割・目標、仕事の意味づけ、業務成果の影響)が出てきます。
この中で最初に満たさなきゃいけないのは「心理的安全性」です。これがあって、次の段階として「お互いへの信頼」があるともっといい。その次に「明確な役割・目標」がある。
最終的には「仕事の意味づけ」があって、自分の業務の成果・影響がいいものとして捉えられる。「社会への影響」とかそういったものですね。それがあると、チームは成功に導きやすいというんですね。
今、例えばパーパスなどはこの辺り(業務成果の影響)ですね。業務管理などでいうと、「明確な役割」。ここは、そういったものがあったとしても心理的安全性がなければぶらつくというものです。
「組織生産性」という言葉でこの5年ぐらいよく使われていますけれども、これを上げるために一番必要なのは心理的安全性だと言われています。それはこの研究から始まって、いろいろなところで取り扱われているからなんですね。その中で「コンフォートゾーン」という言葉が使われますが、聞いたことのある方?
(会場挙手)
ありがとうございます。コンフォートゾーンの話はおもしろいので、ぜひ今日ご説明したいと思います。
コンフォートゾーンを説明する前に、ちょっといろんな理論があるんですけど、私なりの訳も入っています。横軸は「業務の難易度」と考えてください。業務の難易度が高いか低いか。右に行けば行くほど、業務の難易度が高いですね。
一方で縦軸は「心理的安全性」なんですけれども、先ほどの定義で考えるとごちゃごちゃしちゃうので、みなさんは安全かどうかで考えてください。組織の中で気持ち的に安全に働けるかどうか。気持ち的に安全かどうか。シンプルにしましょう。
この2つがあった時に、まず1つめは「両方ともない」。つまり難易度はないけど、心理的安全性もない。
これはよく日本語訳で「無関心」と訳されるんですけど、「Apathy」とはちょっと意味が違うのかな。「無気力」というふうに見ていただいたほうがわかりやすいと思いますね。「無気力」というのは思考を放棄している状態ですね。この状態はなかなかきつい。
2つめの段階は「不安ゾーン」。これは心理的安全性がないのに業務難度が高い。これは不安ゾーンですね。これは高い水準、基準が求められるということで、プレッシャーがものすごく多いということですね。
属人的組織なんかも、こういうふうになりやすいですね。変化が多い会社さんもこういうふうになりやすい。不安が起こりやすいということですね。
3つめは「コンフォートゾーン」。コンフォートゾーンとは、心理的安全性が担保されていて、さらに難易度が低い状態。これがいい状態かどうかはけっこう悩ましくないですか? 難しいところなんですよ。これは必ずしもいい状態かどうかと言い切れないんですよ。
ということで、「楽しく仕事ができる陽気な組織」と書いていますけど、でも求められない組織というか、「ぬるま湯系」に若干近いんですよ。
4つめが「学習ゾーン」ですね。難易度も高いけれども、安全性が高い。今日は「学習が最高だ」ということを言うつもりはないです。
僕はあんまり理想論(者)ではなく、わりと現実派なので、お互いに学びながら進めるんですが、常にこれだとちょっとしんどいです。常に学習ゾーンにいるとつらくなる。ですので、「コンフォートゾーンと学習ゾーンを上手に行き来するのが本当はいいかたちかな」というのが理想です。
消極的定着というのはちょっとしたテーマですけれども、だいたいいわゆる難易度が低いところにあります。コンフォートゾーンも、けっこう消極的定着が起こりやすいです。これがコンフォートゾーンがいいか悪いかというと、いいとも言い切れないという理由なんですね。
では、弊社がよく使う「組織の成長痛」という言葉についてです。「なにか新しいことをやりましょう」「業務の難易度を上げましょう」となった場合のことです。仮にみなさんがコンフォートゾーンにいらっしゃった場合、これ(快適な状態)を移動するとしたらどちらに移動すると思いますか?
業務の難易度が上がりました、新しいことをやることになりました。横(学習ゾーン)に行く?
参加者4:(スライドを指して)その下(不安ゾーン)に。
上村:あ、下(不安ゾーン)に行く。そうなんですよ、なにか新しいことが起こると、実際に必ずそうなります。先ほどから言っているように変化はストレスなので、不安感が出ます。不安ゾーンに入りますね。
実際に「新しいことをやりなさい」と言われたら、だいたいコンフォートゾーンから不安ゾーンに落ちます。これで終わりだと大変なことになりますので、そこから先はどうなるかというと、担当が決まって難度が上がって、心理的安全性が下がった。そこからちょっと上がってきます。
なぜかというと、実際に業務をやってみると「なんとなくやっていけるかな」「最初の印象よりもなんか違う」ということで、回復はします。ですが難易度は変わらないです。
なんとなくやってみて、不安感が少し出る。安全性が少し上がる。そして業務に慣れてくると、最終的にまたコンフォートゾーンに戻っていって、相対的に難易度が下がってくるというふうになります。
このループ(コンフォートゾーン→不安ゾーン→学習ゾーンの繰り返し)を弊社では「組織の成長痛」と呼んでいます。それで学習ループということですね。これがだいたい伸びていく会社さんの1つのルートになります。
実際にこれはアジャイルに関係します。アジャイル環境。なにが起こるかというと、コンフォートゾーンから不安に落ちます。やってみて「ある程度いけるかな」と思ったところで、もう1段階変化が関わってきます。これに慣れてきて「いけるかな」「やれるかな」となり、そしてもう1回変化が起きるような感じで、不安から抜け出せない。
これからビジネススピードがどんどん上がるんですけど、これにはまる方、もしくははまる会社さんは絶対にすごく増えてきます。
では、この不安ゾーンからどうやって抜けるか。もっと言うと不安ゾーンにどうやって入らないか。これが今後組織を、そしてビジネススピードを上げていくために経営者の方や人事の方にとって非常に重要なパーツになります。
変化への適応が追いつかないということで、働きやすさが下がって消極的離職が起こったり、あとはメンタル不調が起こったりということが現象になります。これを「アジャイル環境の罠」と呼んでいます。
では、対策1つめ、心理的安全性を上げる。もう「なんだこれ」という話ですけれども、持ち上げちゃう。(心理的安全性を上げて)ループ自体を持ち上げるということですね。そうすると不安ゾーンから遠ざけることが可能になる。おそらく心理的安全性という言葉が使われ出して、今どんどん使われていますが、たぶん最終的にはこういうことだと思います。
そうすることで不安ゾーンから遠ざけることが可能なんですけど、そのためにはなにが必要か。これは現場でもあるんですけど、「精神サポート」です。これは部下に関心を持つとかですね。
存在承認、「いてくれてありがとう」をどうやって強化するかとか、1on1ですね。「あ、1on1をやっている目的はこれか」と初めてつながる方がいるんですけど、1on1の目的はこれです。
1on1は業務管理のためではなく、精神サポートのためにやっています。とくにこのアジャイル環境の1on1は、こういう効果があります。(心理的安全性を)底上げするためですね。
あとはキャリアサポートやラインケアが関係する。こういったものが不安ゾーンから遠ざける効果があるというのが対策の1つめです。ちょっと時間がないので飛ばしますが、存在承認が重要ですよという話ですね。言葉の最後に「ありがとう」をつけましょうと。
2つめは(右下の不安ゾーンに落ちる)角度を甘くしちゃえばいいんじゃないかという話ですね。「できるの、これ」となりますが、角度を甘くすればいい。できるためにはどうするかというと、不安への落ち込みの角度を減らすためには業務指示と精神サポートです。
この業務指示、具体的にはスモールステップですね。業務の設計がちゃんとできているか、小さいステップにちゃんとできているか、大きなチャンク(塊)でボーンと投げていないか、フィードバックをちゃんと出しているか、そういったことが重要になります。
あとは全体像を見せることも重要です。それで不安感が減ります。あと優先順位づけとかリソースの提供です。そして精神サポートというのは、上司からの報連相です。
上司側からちゃんと報連相をかけているか。「全体の話としてはこんな感じなんだよ、それで、お願いしてあるのはこういう意味だから」ということを含めて、「報連相は上司からやるものだ」という感覚でやられている会社さんはうまくいきます。あとはフィードバック強化ですね。これが対策の2つめになります。
対策の3つめはもっと簡単です。この時間(変化を避け、不安から抜け出す時間)をとることです。「ビジネススピードは落ちても確実にやりましょう」という会社さんですが、これもありです。
変化への適応プロセスをしっかりとりましょう、時間の確保をちゃんとしましょうということで、進捗管理とか。旧来型の業務管理はここの引き合わせが強い。
あと精神サポートは、上司からの報連相とプロセス承認という言葉と経過。「途中まではよくできているね」みたいな感じの話をするのがいいというふうになります。
この3つの対策の組み合わせなので、アジャイル環境の部分でメンタル不調が多い会社さん、離職が多い会社さんは、大抵このループの回し方が早すぎる。もしくは回す時の対策がすごく甘いケースが多いです。
ですので、この3つの対策のうち1つ2つをとれるとかなり変わります。そこで、1つの提案としては「マネジメント研修をちょっと変えませんか?」という話です。別にこれは僕が営業をしたいわけではないです(笑)。
営業ではないんですけど、マネジメントはそもそも業務管理と評価と精神サポートの3つの要素をとることです。ここをある程度明確に切っておかないと、教育の対象がごちゃごちゃしてしまいます。
業務管理に関してだと、目標設定をするとか、ちゃんと進捗確認できるかということが重要になりますし、精神サポートに関しては先ほど言ったように、部下に関心を持つとかですね。あとは1on1。
1on1を失敗しやすい会社さんはどういう状態かというと、1on1の対象を業務管理に持っていっているケースが多いです。1on1は精神サポートに持っていかないと失敗します。これを同時にこの2つを同じタイミングでやると、精神サポートの効果がものすごく薄らぎます。
ですので、1on1を成功させたい場合には、極端に言うともう精神サポートをするだけの時間としてとらないと失敗します。それぐらい割り切ってやらないとうまくいきません。
ということで、実際にみなさま、とくに人事のみなさまは管理職研修もなんとなくやるのではなくて、なんの目的でやるのか決めていると思います。
例えばビジネススピードを上げるために、離職を止めるためにがなにが必要なのかというところだと、単純に「精神サポートをやればいいんでしょう」という話ではなくて、どんな目的でやるのか。
簡単に言うと「スピードを上げても不安ゾーンに入らないためにやる」とか、そういった目的を持ってやっていただかないと無駄になってしまうという話でした。
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