今までのロボット会社には、AIがほぼ無かった
孫正義氏(以下、孫氏):さて、これから具体的な産業に少し入っていきたいと思います。例えば、製造業。もともとの歴史で言うと、製造業には手で一生懸命作る「手工業」がありました。
現在は機械工業として人間が機械を操作しながらやっています。しかし、これからは自動工業ということで、同じ工業でも「マニュファクチュアリング」でも、「人間がコントロールしながら、人間が操作をして、一緒に機械を動かしながらやる」というのでもありません。コンピューター、AIがメカニクスのハードウェアのロボットに命令をし、AIが分析をし、AIがその工業を直接ドライブしていくという時代がやってくるということであります。
ソフトバンクはロボットの会社にもいろいろ投資しています。ソフトバンクについて、ロボットの会社としては、スタートしたばかりだと思っている人が多いと思います。世の中には、ロボットの専門の会社がすでにたくさんあるのに、なぜソフトバンクが今さらロボットに取り組むのか。
私に言わせれば、今までのロボットの会社は、AIがほぼまったくなかった。つまり、同じ携帯電話でも、スマホ前の携帯と、スマホ後の携帯では、まったく似て非なるものになった。
同じように、我々はAIを搭載したスマートロボットにしか興味がないということです。操り人形のように操られて動くというものではなく、自らがAIの力を持って、自動的に判断し、自動的に学習し、自動的に進化させていく。問題解決していく。そういうAIの力を使ったロボット、あるいは工業に我々は興味があります。
未来を否定し、過去を守りたがる日本
つまり、今までの工業は、人間がコントロールするから、人間が働く8時間に合わせて工場が動いていく。ツーシフトスリーシフトしたとしても、やはり人間がコストの高い部分の根本になっていたわけです。人間が操作するから、不良在庫が出たり、ジャストインタイムでやると言っても、なかなか難しいという問題があったわけです。
自動工業になると、AIロボットが人件費よりも安いコストで、24時間より正確に、より素早く、ミスのないかたちで、ストライキもない状態で、しかも在庫も最適化して、在庫のミスあるいはロスが出ないということが起きます。
さらに移動。モビリティです。先ほどから言っておりますように、AIで需要を事前に予測し、天気、曜日、イベントといったいろんな出来事のデータをもとに、人間あるいは物を運搬する。
今日本ではライドシェアが法律で禁止されている。こんなバカな国が今だにあるということが、僕には信じられない。しかも我が国がそんな状況だということが信じられなくて。わざわざ政府が、未来の、これからやってくる世界を、未来の進化を自分で止めている。そういう危機的な状況にあるということを、僕はあえて公の場で政府の人から睨まれることを覚悟で、今発言しておきます。過去を守りたい。未来を否定する。そんなバカな国の日本があるという、もう考えられない状況です。
ライドシェア世界トップ4がソフトバンクファミリーに
単に白タク対従来のタクシーという正義論ではなくて、未来を予測する。需要を予測することによって、より交通の混雑が減り、より事故が減り、より需要と供給がマッチングできるというようなことが、アメリカや中国や世界中のヨーロッパだとか、いろんな国々で現実に起きている。
このライドシェアの最先端をいっているDidiのJeanにそこのところを少しご説明いただきたいと思います。Didiだけでなく、Uber、そして東南アジアをやっているGrab。インドを中心にやっているOra。この世界トップの4会社が全部ソフトバンクグループのファミリーになったわけです。
彼らの取扱い金額……タクシーでいう運賃は倍々で伸びておりまして、この状況でいくと、今から3年後か4年後には、今日現在のAmazonの取扱高に並びます。
もちろんAmazonも、3年後4年後は、今日より大きくなっていると思いますが、今から3年後あるいは4年後には我々のライドシェアの4社が取扱い金額でAmazonの今日現在の規模に並ぶ。しかもAmazonよりも、大きな伸び率で伸びていて、Amazonよりも粗利率が高い。僕はこれからこれらの会社は、その存在感を一気に増していくと思います。
乗車回数では、去年1日当たり3,500万回を超えています。現在はもっと伸びていて、4,000万回をはるかに超えていると思います。この代表的な会社DidiのJeanに説明をいただきたいと思います、Jean。
(会場拍手)
全都市に共通する交通の課題
Jean Qing Liu氏:みなさんおはようございます。今日は参加できて非常に嬉しく思います。旧交を温めることができ、新しい友人に会うことができ、また孫さんの将来のインスピレーションに溢れた話を聞くことができました。
また、私もAIの未来は魅惑的だと思います。AIのもっとも楽しめるところは、人間にどれだけ役に立つかという点です。ですので、今日は私たちがAIを使って、どのようにこのライドのクオリティを上げているのか、どのように輸送を再定義しているのかについて、話したいと思います。
孫さんがおよそ140億年前の宇宙の話をしました。私は故郷である北京の美しい街の話をしたいと思います。300メールの高いところから見ると、非常に近代的な、東京のように美しい街であることがわかります。しかし、少しズームインすると、こんな感じになります。
これが、世界中の全都市の課題です。ニューヨークからサンパウロ、ジャカルタ。どこに行っても同じ問題があります。
ワンストップ交通プラットフォームとは
都市は巨大化し、都市の生活を楽しむ人が増えている中で、今の状態では、この伸びる需要に公共輸送インフラが対応できません。一方で、都市はこれ以上車を増やすこともできない。北京を例に取ると、3,000万人が住んでいて、600万台の車があります。でも、実際に駐車できる台数は300万台しかありません。
ですので、実際にナンバープレートで制限をしている都市が多いです。ビュイックやキャデラックといった美しい車を運転していても、シンガポールや上海などのような都市では、実は車よりもナンバープレートが高価だったりするんです。
これがジレンマであり、課題なんです。もっと快適で、便利で安全な運転ガイドを、誰もが使えるようにしたい。政府が何百万台分の駐車代、駐車スペースを用意するのではなく、もっと木や病院のスペースを確保したいと思っているはずです。
私たちはそういった問題を解決したいと思っています。AIの力を借りた交通プラットフォーム。これはワンストップ交通プラットフォームと言われています。
中国で実現できたことは、他の市場にも適用できる
アプリで1回クリックすることによって……シェビー(シボレー)やキャデラックなど、あるいはタクシーのカープール(相乗り)から。バスでもバイクでもいい。便利でいつでも使える快適な交通手段が手に入るようにしたい。これは世界最大の交通プラットフォームになっています。世界の交通は、年間におよそ100億回のトリップを、このプラットフォームで賄っております。
実際に(このプラットフォームには)3,000万人のドライバーがいて、毎年5億人のユーザーがいるんです。しかし、これはまだ始まったばかりです。この業界は、まだ揺籃期にあります。中国の消費者が車に支出する金額は1兆3,000億ドルですが、Didiのネットワークを使った我々のプラットフォームで落としてくれるお金はその3パーセントに過ぎません。
eコマースのシェアが15パーセントになっていますので、今後もっと大きく伸びる余地があると思っています。控えめに見ても、この5年間のあいだに、トリップの数が年間100億回から500億回に伸びると思っています。中国の問題を解決したいだけではありません。Grab、Ola、Lyft、Taxify、99といった多くの会社とパートナーを組んで、取り組んでいます。
もっとも複雑で、厳しい市場である中国で、実際にAIテクノロジーを育てたということは、ほかの市場でもこれが使えるということであり、ほかのネットワーク同様に、この地球上のおよそ60パーセントの人口に、サービスを提供することができるようになります。
車の交通事故はどうしたらなくせるか
「ビッグデータ」「AI」は、このプラットフォームを作り、問題を解決することができる鍵だと思っています。幸い、私たちは毎日1.2億マイルのデータを集めています。
そして100テラバイトの車両走行軌跡データがあります。また、毎日400億のルーティンリクエストがあります。AIが作る巨大なAIデータによって、この業界は再定義されています。
どのようにその再定義が行われているのか、まず安全性を見ていきましょう。輸送は、ほかの業界とは違います。安全が第一課題だからです。毎年、120万人が交通事故で亡くなっています。銃や麻薬や列車の事故など、いろいろあり、もちろんこれも改善したいですが、交通事故の数をとにかく減らしたい。
ドライバーの許可を得たうえで、スマートフォンにSDKを装備し、運転者がどのように曲がって、加速して、ストップしているのか、運転行動をモニタリングしました。また、長時間の運転が、事故とどれぐらいの相関性を持っているのかを研究し、安全な運転をする人たちに対しては、何らかの報酬を提供するようにしています。そういったプログラムによって、安全運転を続けてもらえるようにしています。
需要と供給をあわせるためのマシンラーニング
また保険会社と協力しながら、こういった運転者向けにより良い保険商品を計画できるようにしています。
経済でも1億マイル当たり1.6人というのが、道路交通事故率の世界平均なんですが、こういった努力をすることによって、道路交通事故率を大きく減らすことができました。1億マイルの走行距離あたり、少なくとも一人の命がAIによって救われる計算になります。
この経験をどのように再定義するか。輸送運用では、供給が少ないことが問題。つまり、みんな早く乗りたい。AlibabaやTmallなどのECの場合、何時間も商品を待つことができますが、輸送には、今移動したいという要求があります。
今日のイベントのあと、おそらく多くの方がこの美しいホテルを出て、どこかに移動すると思います。100人が乗りたいと言っても、20台しか車がなければ、このリクエストをかなえることはできません。つまり、需要を予測しなくてはならないということです。
このホテルからどれぐらいのリクエストが出てくるのかということを、実際に乗客がボタンをクリックする前に予測できなくてはなりません。
AIテクノロジーのデータサイエンティストが、この取り組みをしています。都市を、何十万というセルに分割して、AIのシステムを例えば雨の日や晴れの日、平日、ウィークエンドというように1つずつセルを充て、ここのセルからどの方向にどれぐらいのリクエストが出てくるのか、またどれぐらいのリクエストがこの中に入ってくるのかということを、マシンラーニングによって予測しています。
誰もがハッピーになるシナリオ
より賢くなって、Didiはそれぞれのエリアから15分前に予測できるようになり、その精度は85パーセントまで高められるようになりました。
コスト……つまり料金も大事です。予測アルゴリズムを汲んだインテリジェントな配車システムを使うことによって、ドライバーの利用も増え、1回当たりの乗客の使用料金を減らすことができるようになります。
それだけではなく、カープールのプロジェクトもあります。カープールテクノロジーの狙いは、より多くの人たちが少ない車でそれを共有し合うということです。ドライバーは通常料金の40パーセント増しで、同じルートを必要としている2人の乗客を乗せることができて、その乗客は(通常料金の)70パーセントの料金で乗ることができる。
相乗りは、誰もがハッピーになるシナリオです。予測アルゴリズム、AIテクノロジー、高度なルーティング、そしてマッピングテクノロジーがなければこれは不可能です。
信号を変えるタイミングの最適化
問題は大規模な自走です。600万台の車が今カープールに入っていて、50パーセントの需要を満たすことができるようになりました。また、サービスの質も重要です。カスタマー評価も行われています。一人ひとりのインセンティブを提供できるようなドライバーのブログがあって、ユーザーのためによりよい運転ができるようにしております。
これがサービススコアカードです。すべてのドライバーがこのスコアカードを使用しています。この3,000万人の乗客に毎日サービスを提供するにあたって、一番のメリットはたくさんのデータを集められることです。
消費者のみなさんがもっと快適に移動でき、市の政府に対しても貢献ができます。クラウドベースのスマートシティ管理システムを中国の市長に提供していることになるのです。
1つの例を見てみましょう。我々のシステムはAIシステムによって一台一台の車からリアルタイムのデータをとることができますので、AIシステムでそれぞれの道路の渋滞を評価することができます。
そして信号が変わるタイミングを最適化できるんです。人口700万人の済南という中国の都市で、3ヶ月トライアルをしました。それだけでも、主要な目貫通りにおいて、20~30パーセント渋滞が改善され、市長が大歓迎してくれました。現在、私たちは20都市と取り組みを進めて、このような渋滞を改善しようとしています。
抗生物質の活躍と同じくらいの効果がある
これも主要なページです。AIで行っている取り組みに加えて、自動車業界のパートナーとともにソリューション業界の強化も行っております。
車を所有しているドライバーのみなさんに、車の充填サービスや保守、あるいは自動車のローンをもっと簡単に使えるようになってもらいたいということで、ソリューションビジネス部隊をつくりました。また、個々の自動車所有者のニーズがわかりやすいということで、30社の自動車メーカーと協力しているところです。
Didiは最大の配車業でもあり、26万台のEVの車から、2020年にはさらに増えて100万台になると思います。ですので、実際に充電ステーションのスロットを予約しておくことができるようになります。
シェアリングについては、運転側だけでなく乗客のためにも、次世代の車で自動車メーカーと協力したいと思っています。 また、非常にエキサイティングな部分で、自動運転のテクノロジーにも関わっております。これにより、最終的なソリューションとして車の事故がなくなります。つまり抗生物質の活躍と同じぐらいの効果があると思っています。
もちろん大きな責任があります。人類は人間には甘いんですが、ロボットがミスを犯すことを許容しません。ですから、私たちは注意が必要です。
ですので、すべてのテクノロジーソリューションプロバイダと協力したいと思っています。研究ラボをマウンテンビューに設立し、世界中の才能を集めて、自動車自動運転の技術について問題を解決したいと思っています。
Didiは交通領域の完全なプラットフォームとなる
最後に、我々の「トランスポーテーション2.0」の定義をご紹介します。より安全、より安い、よりクリーンなトランスポーテーションにより、快適なトランスポーテーションを実現したいと思っています。
最後になりますが、Didiは、ソフトバンクとジョイントベンチャーをつくり、従来のタクシーを大きく変えて、中国、ブラジルですでにタクシー業界をエンパワーしております。ビッグデータを預かって、AIテクノロジーをうまく活かしていますので、タクシー業界の便宜性、効率化をともに上げていきたいと思っています。
ありがとうございました。
孫:すばらしいですね。日本のメディアでは、Didiについて単なる配車アプリとタイトル付けられることがありますが、それはまったく理解してない。配車アプリではなくて、完全なプラットフォームだということであります。Didiはタクシーの会社と競争する、あるいは駆逐するのではなくて、協調し一緒に交通手段を進化させていくと。重要なパートナーとしてやっていけると思って、Didiと一緒にジョイントベンチャーもつくり、これから提案をしていこうとしているわけです。