「未来のことはわからない」ままでいいのか?

孫正義氏(以下、孫):未来は本当に今、目の前に開かれようとしています。

未来のことはよくわからない、だから現状を精一杯生きるべきだ。そういうふうに、言われる方がいます。

本当にそれでいいんでしょうか。私が思うに、多くの日本のビジネスマンの人々はそういう考え方で、受け身で今起きている現実をそのまま見て、その現実にどう対応していくか。精一杯そこで生きていければそれでいいんではないかと思っている。そういうことに私は危機感を覚えているわけです。

本当に、今の現実をただしっかりと凝視して、真面目に一生懸命に接していけばそれでいいのか、ということです。本当に未来はわからないのか。それはもしかしたら、真剣にわかろうとしていないから、そう思っているんではないかと私は思うんです。

多くの未来のことというのは、すでに今現在、その前ぶれというものが目の前に存在しているということです。その前ぶれを敏感に捉えて、自分のこととして、自分たちの未来のこととして捉えて、一生懸命そこに、真っ先に、人よりも早く、人よりも真剣に、人よりも深く考えて、人よりもそこに対して洞察しようという思いで取り組むのか、取り組まないのか。

そして現状を変えていこうと、自分の現状を変えていこうとする。自分たちの世の中の現状を変えていこうと努力をする人としない人、あるいは会社でも。それで結果は全然違うんではないかと思います。

今日はビックバンについて、少し語りたいと思います。未来について、少し語りたいと思います。そして、ソフトバンクグループがどのようにそこに接していこうとしているのかということについて、語っていきたいと思います。

シンギュラリティは、もう1つのビッグバン

まず最初に、みなさんも知っていると思いますけども、138億年前にビックバンが起きたと言われています。私は宇宙の専門家ではないので、おおむねそんな頃にそういうことが起きたんではないかということでありますが、このビックバンによって、宇宙がどんどん広がっていったと(いうことです)。

さまざまな惑星恒星、銀河系のようなものが生まれてきて、しかもそれは、今も広がり続けていると言われています。今現在も、宇宙は広がり続けている。ビックバンは一瞬で終わったわけではないということです。

シンギュラリティ。もう1つのビックバンとして、私はシンギュラリティがやってきていると思います。シンギュラリティとは、一言で言うと人工知能です。人工知能の叡智は人間の叡智を超えていくということですけど、この人間の叡智を、人工知能のAIの叡智が超えていったときに、超知性が生まれ、その超知性はあらゆる産業を再定義していくということであります。

すべての産業が再定義されるとするならば、我々はどのようにそこに接していったらいいのか、ということであります。これは、人類史上最大の革命だと私は思っています。

「情報革命」=「AI革命」

AIの進化によってさまざまな計算がされていくわけですが、この演算はクラウド側のみでやるわけでもない。エッジ側のみでやるわけでもない。

その両方が、同時に並行して強調し合いながら、より高度なAIの演算処理がなされていくと思います。このエッジ側とクラウド側両方、どちからが大事かではなくて、両方とも大事だということです。

まず、エッジ側について少し語りたいと思います。

私がARM(英国の半導体設計企業)を買収をしたときに、「なんで携帯会社がARMを買収するんだ?」「なぜ今更半導体の会社なんだ?」そう言ったメディアの人たち、あるいは一般の人たちがたくさんいました。

私は、あえて深く説明をしませんでした。今から話す内容によって、なぜARMを買収したのか、なぜARMを大事だと思っているのかということについても、少しご理解をいただけると思います。

ソフトバンクは通信の会社だとこの十数年間思われていますけども、ソフトバンク35年の歴史の中で、通信の会社をやったのは、ほんの3分の1。十数年にすぎません。

ソフトバンクは会社の創業から「情報革命」をずっと今までやり続けている会社であります。その情報革命の中核事業の1つが通信であります。その通信も、AIのための通信だと私は思っています。

情報革命イコールAI革命というような状況が、今からやってくると思います。ARMは、エッジ側のチップとして欠かすことのできないものになっていきます。

ARMを得ることは、オセロの四つ角のひとつを取るということ

ここにいるみなさんは、一般的な人々よりも、より先進的な人々だと思いますけども、おそらくここにいる人の中で、スマートフォンを自分のポケットに今持っていない人は、ほぼ一人もいないのではないかと思います。

去年たった1年間で、世界中で15億台のスマホが売れました。2、3年を平均して、スマホが一人当たり一台使われるとして、30億台から40億台のスマートフォンが、世界中の70億人の人々の中で使われていることになるわけです。

もちろん70億人の中には、赤ちゃんや小さな子ども、あるいはお年寄りという方もいますので、一般のティーンエイジャー、あるいは成人のほとんどの人は、今やスマホを使っているという状況だと思います。

そのスマホの中に、100パーセントあるものがあります。100パーセントです。99パーセントじゃないです。98パーセントじゃないです。100パーセント。100.0パーセント存在しているのがARMのチップであります。

しかもこれは、セントラルな自動車で言うエンジンに相当するものであります。世の中の人々にとって、(スマホは)もはやなくては生活が成り立たない状況になっている状況の現実の中で、100パーセントその心臓部分のエンジンの設計を司ってるのがARMであります。

これは大変重要な意味があると私は思っています。オセロのゲームで言えば、四つ角の1つに相当するものだと、私は思います。

2030年、ARMのチップが世界を埋め尽くす

このARMのチップは、スマホだけではなく、今やあらゆるものに入り始めています。自動車、家電、コンシューマー機器、ゲーム機器など、ありとあらゆるものです。

家の中、あるいは工場の中のセンサーまで含めて出荷されてまして、去年までに出荷された累計は1,000億個を超えました。1,000億個です。地球上の人口が、先ほど言いましたように70億人ですから、地球上の人口の70億人をはるかに超える規模の、1,000億個のARMのチップが出荷されました。

しかも、今から12年後の2030年には、1兆個になるということが予想されています。ARMのチップが1兆個。地球上のありとあらゆるところにばら撒かれる。

それが、ネットワークでつながる。しかもそれらは、人工知能のエッジ側のデバイスとして、これから活躍し始めるということです。

ARMは「Project Trillium」で、ほとんどすべてのチップにAIの機能をこれから搭載していくということを決定し、早速そのチップの提供を開始し始めました。

これによって、デバイス側で人々の動き、例えばみなさんが今スマホを使ってホームボタンを押すと、自分の指紋でその人のIDが確認される。あるいはホームボタンを押さなくても、オープンするだけで自分の顔を自分のそのスマホのご主人だと、持っている所有者だということを理解し、IDとして検知する。これも、いわゆる人工知能です。これもすべて今現在、ARMのチップで行われているわけです。

あるいはSiriに話しかけます。Siriがみなさんの声を認識し、そのことを理解しようとします。これもすべてARMのチップが今現在、みなさんのスマホの中で活躍しているわけです。

それを、よりAIの機能を進化させて、もっともっとその能力を発揮できやすいようにするのが「Project Trillium」であります。