「HRテクノロジー」は日本で活用できるのか

司会者:ここからは「HRテクノロジーによって変革する人材マネジメントの今 人事・経営・技術・サービスの変わりゆく姿」と題してパネルディスカッションを行います。北崎さま、よろしくお願いいたします。

北崎茂氏(以下、北崎):本日モデレーターを務めます、PwCコンサルティングの北崎と申します。どうぞよろしくお願いいたします。「HRテクノロジーが変革する人材マネジメントの今」ということで、4名のパネリストの方たちとお届けしていきたいと思います。

この「HRテクノロジー」というキーワード、何名かの方は「バズワードなんじゃないか?」と思われた方がいらっしゃるかなと思いますが、実際どうですかね? 

「HRテクノロジー」という言葉が何を実現できるのか。具体的にどういうものなのかイメージがついている方はどのくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

北崎:逆にイメージがついてない方は挙手いただいてもいいですか?

(会場挙手)

北崎:半分くらいいらっしゃるようなかたちですかね。私自身、20年くらい人事・コンサルティングをやっていますけれども、HRテクノロジーというキーワードが出てきたのは本当にここ数年くらいです。急にブームとして上がってきたようなかたちになります。

ただ、欧米を見てみると、かなりこのキーワードがビジネスを変えると言われています。日本の中でも、徐々にHRテクノロジーをどう使っていくかという機運が高まってきている状況です。

今日は「実際にHRテクノロジーは使えるのかどうなのか」ということについて、有識者である4人のパネリストの方をお招きして、忌憚のない意見をいただきたいと思っています。

(会場拍手)

HRテクノロジーがもたらす「効率」と「効果」

北崎:パネリストの方に自己紹介とHRテクノロジーをどのように捉えているのか。ひと言コメントをいただきたいと思います。では曽山さんから。

曽山哲人氏(以下、曽山):みなさん、こんにちは。サイバーエージェントで取締役の人事責任者をしている曽山と申します。私はサイバーエージェントが設立した1年後の社員が20名のときに入社をいたしました。現在、有期雇用の社員も含めると8500名の会社になっている状況です。

HRテックのツールというところで言うと、「カオナビ」のツール今日いらっしゃる柳橋さんと一緒に作らせていただいたということで、「カオナビ」を一番最初に導入させていただきました。

あとは今「Geppo(ゲッポウ)」という、社員にアンケートを取って経営課題を発見するツールを作って、実際に販売もさせていただいています。

ポイントとして、HRテックには効率と効果という2つの切り口があると思っています。

HRテックは、もともとやっている作業の効率化にものすごくいいということが1つ。あとは経営の選択肢を増やすということで、業績を上げる効果に次の段階で行けるといいなと思っています。以上です。よろしくお願いします。

(会場拍手)

北崎:ありがとうございます。では続いて、柳橋さんお願いします。

柳橋仁機氏(以下、柳橋):株式会社カオナビの代表をしている柳橋と申します。

お客様にご提供しているサービスも「カオナビ」という名前です。顔写真を使って人材をマネジメントできるITツールを提供する会社をやっています。

6年間くらい事業をやっておりまして、現在、約850社のお客さまに対して、人材マネジメントのご支援をITサービスを通してやらせていただいています。

これまでサービスを通じて、さまざまな企業の人材マネジメントの事例を拝見してきましたので、今日は具体的な事例を交えながら、HRテクノロジーがどう変わっていくのかを私なりにご意見させていただければと思います。本日はよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

リクルートの「HRインテリジェンス」

仲川薫氏(以下、仲川):みなさま、こんにちは。リクルートジョブズの仲川と申します。どうぞよろしくお願いいたします。今日はこんな立派なホールで、多少緊張しているのですけれども、よろしくお願いいたします。

私はリクルートジョブズという会社で、求人広告の商品企画担当の役員をしております。併せて、リクルートホールディングスのお仕事でHRテック領域の投資およびサービス開発、アライアンスなどを担当しております。今日はみなさまと一緒にいろんな議論ができればいいなと思っております。

リクルートでは、HRテクノロジーという言葉に変えて「HRインテリジェンス」という言葉を使っております。HRインテリジェンスというのはどういう意味かと言いますと、HRテクノロジーを使って人事の業務を効率化することに加えて、そこから得られるデータを収集分析予測することで、組織の戦略目標の達成に役立てていきます。

先ほど曽山さんがおっしゃられたように、単純に効率化というだけではなく、そこからどのように戦略目標達成につなげていくのか、ということが重要なのではないかなと考えています。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

楽天技術研究所の多拠点マネジメント

森正弥氏(以下、森):みなさん、こんにちは。楽天の森と申します。楽天では主に技術戦略を担当する役員をしております。主な職掌としましては、楽天技術研究所という研究開発組織のマネージをしております。

こちらは世界4ヶ国、日本・アメリカ・フランス・シンガポールにそれぞれ複数拠点がありまして、全体で約130名ほどの研究者が主にAI、とくに現在、破壊的な技術として注目されているディープラーニングを、実際にビジネスや組織にどう活かしていくかというところをを研究しております。

HRテックとの関わりですけど、やはり最近はAIと主に自然言語あるいはディープラーニングという技術が、今までは非常にデータ化しにくかった人事領域のデータも解析するというところで最近さまざまな事例が見えてきました。そのようなところで、我々も実際にAIやさまざまな技術のHRへの応用をやっています。

研究所の組織全体の8割以上がノンジャパニーズで構成されていて、4カ国複数拠点なのですが、全体で1つの拠点として運営しておりますので、その複数拠点のマネジメント的な視点からも今回のHRテクノロジーの議論に貢献できるところがあるのではないかと思います。よろしくお願いします。

(会場拍手)

北崎:ありがとうございました。技術の領域と人事の領域、あとサービスプロバイダーというそれぞれの視点を持って、HRテクノロジーが今後何を変えていくのかというお話を進めていきたいと思います。

マクロ環境の変化と日本が直面する課題

北崎:まず最初のトピックとして、今の経営環境や労働環境がどのように変化しているのか。そこに対してHRテクノロジーをどのように使えていけそうなのか。もう少しマクロな視点で見たときに、今、どのような変化が起こっているのかをみなさんにお伺いしていきたいと思います。

柳橋:一気に結論まではいけないのですが、今起こっているマクロ環境的な変化を私からお話しさせていただきますと、やはり労働人口が減っているということが圧倒的に日本の全産業が直面している課題です。

労働人口が減っている中でやることは、増えているころとは明らかに変わってきています。カオナビのお客さまは、「減ってきている社員をどうするのか?」というところにかなり悩まれています。そのような悩みを持つお客さまに接する機会が圧倒的に増えています。

もう1つマクロトレンドとして重要なのは、産業構造が変わってきているということだと思います。僕らが生まれたころは製造業が日本の中心だったのですが、やはり労働人口がサービス業にシフトしてきているのではないかと思います。今、確かなデータは手元にないですが。

製造業の人材マネジメントのやり方とサービス業の人材マネジメントのやり方は根本的に違うと思っていて、人口が減っているかつ産業構造が変わっている。この2つの呪縛……と言ったらちょっと大げさですけど(笑)。

そこからは逃れられないので、その中で僕たちがどのようなことをしなければいけないのか、というところが非常に重要なテーマかなと思っています。

北崎:ありがとうございます。第2次産業から第3次産業へシフトしてきている。もしくは第4次くらいまでシフトしてきていますけれども、日本国内の労働力のポートフォリオはすごく大きく変わっていると思います。

楽天の森さんから、従事している人材の方も日本人だけではなくて、外国人の方も増えてきているというお話があったかなと思います。最前線にいらっしゃる森さん、いかがでしょうか?

:研究所というのはまた少し違う文脈があるかなとは思います。

実は研究所の研究者においては、世界共通の価値観が存在しています。それはアカデミックにどのように貢献していくかという価値観です。

彼らは企業で働いていても、企業の価値観よりも研究者としての世界共通の価値観のほうを優先します。例えば、英語を使っていてアカデミックな価値観の中でコミュニケーションやマネジメントをしている限り、あるいは管理をしている限り、あまり違いは出てこないというとことがあります。そのような意味では、研究者というのはけっこう楽なんです。

北崎:なるほど。世界共通の言語に近いですからね。ご経験上、HRテクノロジーがそのような環境の中で役に立てそうな可能性はありますか?

:ジョブ・ディスクリプションとか、実際に参加したあとの目標設定とそのフィードバックというところでは、明文化していかなければいけないということはもちろんあります。

明文化ができていると、日本語の「わかるよね?」というところが、世界共通で握れるというところだけではなく、それをコンピュータに食べさせて処理させることができる。データにすることができるというところは非常に重要です。

明文化させて、残して、面談の記録を取っておくということをやっていくと、やがてデータになって、それがHRテックに活きていくということがあると思います。

キャリアの多様化で企業の「才能開花競争」が行われる

北崎:ありがとうございます。(森さんは)かなりグローバルな環境下で働かれている印象があるのですが、日本企業を代表して曽山さん、仲川さん、何か違いがあればお願いします。

曽山:グローバルなところのお話は、そのとおりだなと思います。先ほどの柳橋さんのお話に戻すと、労働人口減少などマクロ環境の変化の話で、企業の人事が見なければいけないものが1点あると思っています。

それは何かというと、キャリアの多様化です。

今、若い人たちは転職もしやすい、副業もオッケー、基本的に「変わっていいよ」というメッセージが国から出ているので、今までの自分たちが考えていた企業のルールではなく、彼らのルールで(キャリア)選択をするようになってきているということが1つあると思います。

その次に企業側で何が起きるかというと、僕が「来るだろう」と思っている競争が1つあります。それは何かと言うと、僕らはよく「才能開花の競争が企業間や組織間で行われる」と言っています。

「うちの会社に入ればめちゃめちゃ成長するよ」「市場価値の高い人材になれるよ」という事例がどれだけあるか。私たちは「若手を抜擢してます」ということを具体的にたくさんやるようにしているのですけれども、そのような才能開花競争が行われます。

そのために企業が何ができるかというと、タイムリーにコンディションをチェックしていくことが、企業がいち社員に向けて求められているものです。

例えば、僕らの「Geppo」というツールは何をやっているかというと、毎月全社員に簡単なアンケートを取っていて、「先月のあなたのコンディションはどうでしたか?」と毎月聞いています。

いい場合はぜんぜんオーケーなんですけど、少し変化があったときや「相談させてほしい」という場合には面談などをするというかたちです。年に1回の面談だとちょっと間に合わなくなってきているので、企業人事にはタイムリーさが求められているという感覚があります。

北崎:今まで人事の中で持っていたデータでは、そのタイムリーさをちゃんと追求できないということになるんですか?

曽山:はい。私は1回自爆したことがあって(笑)、私が人事本部長になった13年前に、従業員満足度調査を取ったんです。

質問量がめちゃくちゃ多くて、大量に取ったんですけど。まあ集計に2、3ヶ月かかるんですね。読んでいるうちにいろいろ問題が発見できちゃって、でも2、3ヶ月経ったら「そろそろ言わなくてもいいか……」みたいな感じで(笑)。

北崎:なるほど(笑)。

曽山:打つ手が遅い、最悪打たないとなっている自分をすごく反省していて、(現在は)もっと小さい単位で聞いて、すぐ手を打つほうが効果的なんだということを意識しています。

北崎:もう少しデータの小回りさを重視したほうが今の人たちには合っていると。

曽山:合っています。データを取ることの重要性に、タイムリーさというのは大事なんじゃないかなと考えています。

北崎:わかりました。ありがとうございました。仲川さんはどうでしょう?

人事の仕事に「HRテクノロジー」は必要不可欠

仲川:今、組織のみなさんの経営の課題はおそらく働き方改革やイノベーション、ダイバーシティなど、このような目標は必ず経営の重要項目に入ってくるとは思うんですけど、これらは必ず人事に直結している課題だと思います。

数十年前と比べると人事の仕事が格段に大変になっていて、格段に複雑になっています。私たちがいつも人事の方たちとお話しすると、やはり課題が大変多いと。でも何から手をつけていいのかわからない、どこからやればいいのかわからない、どこまでやればいいのかわからないというお話を伺います。

正直にいうと、HRテクノロジーの効果が出るかどうかというよりかは、使わないともう無理ではないかという領域まで来ていると思っています。なので、いかに活用するかということに目を向けて、HRテクノロジーを使ってどのように効率化していくかを考えるほうがいいと思います。

マクロな話でいうと、(課題の)1つは採用です。人口が減っているのでそもそも人が採用できないということに加えて、適切な人材、活躍していただける人材をどのように採用できるのかということにみなさんの問題がシフトしていると思っています。

AIでエントリーシートを見るとか、採用の効率化が非常に重要になってくると。ここはやはりアメリカも日本も含めて、テクノロジーが非常に発展している分野だと思います。

もう1つは、そもそも採用が難しいので内部の人材の方たちにどのように活躍していただくか。配置、評価、育成をどのように回していくのかが大変重要になります。

社内でイノベーションを起こせる人材はどこにいるのか。イノベーションを起こす人は本当に少ないので、どのようなポテンシャルの人たちが起こせるのか、どのようなチームを作ったらイノベーションを起こせるのか。そのようなことは、今までの私たちの経験からチーム分けをしてもなかなか難しい。

ですので、先ほど森さんがおっしゃられたように、データを貯めて、自分たちが気がつかない人材を発掘してくることが非常に重要になってくると思います。

ただ言うは易し、やるは難しということなので(笑)、そもそもデータがないとか、あるけどまとまっていないとか、そのような話が今のタイミングでみなさまの課題としてあるのかなと思います。

人事領域の課題はデータで話す

北崎:ありがとうございます。みなさんのお話を聞いていると、やはり労働環境が変わってきて、従業員それぞれのキャリアの考え方も多様化してきましたと。そこに対して(従来の)勘と経験がどんどん効かなくなってきていると。

おそらく、今までの人事の仕事の仕方では通じなくなってきているというのは推測できると思うのですけれども、では具体的に、今後の人事はどのようなかたちに変わっていけばいいのか。HRテクノロジーもそうですけれども、人事そのものの在り方としては、どのようなことが求められるか。このあたりはどうですか? 曽山さん、笑ってますけど(笑)。

曽山:めっちゃ難しいなと思って(笑)。ただ、数年前からすごく意識しているのは、完全にデータドリブンですよね。例えば、HRテックやHRサイエンスという前に、社員数や部署ごとの退職率など、分析ができる集計データは作れるはずです。

なので10年くらい前に、まず経営課題になっているいろんな指標、部署ごとの社員数や退職率などを可視化してA4 1枚でまとめるようにして、そこから僕自身がすごく会話できるようになりました。

今までは1個の「〇〇君が辞めちゃいます」という悩みに対して「これは問題じゃないですか」と1対1で言っていたものが、全社の俯瞰をしてデータで会話するようになってから、ファクトベースの議論として非常に経営と人事の会話がうまくいくようになったということがあります。

まず経営側からのリクエストや人事のトップのスタンスで言うと、経営とファクトで会話することがどれだけできるかということが重要な切り口で、そこにツールがあるとさらに加速するのではないかなという感じがしています。

北崎:ファクトという面でいうと、マス的なトレンドを見るという話と、個を見るという話の両方あるような気がします。それは両方とも重要になってくるということですか?

曽山:そうですね。まず私は、会社全体のマクロデータを見れるようにして、退職率や休職の発生などのいろいろな経営課題になるものを可視化することを先にやりました。

それと同時で個別の面談などはやっていましたけれども、人事がけっこう陥りがちなのが、個別の面談はすごく目に入りやすいので、こちらに時間をかけがちです。

悪くないんですけど、全体を見たうえで個にもいけると非常にバランスが良くなるなということは、10年くらいやってみた苦肉の策からの学びです。

北崎:ファイナンスなどに近いような動き方ですね。

曽山:CFOの方は数字で経営としゃべっているというイメージというか、ファクトがあって、それがすごくかっこいいなと思っています。CHOは逆に感情や直感で言っているからダメ出しされてる感がどうしても嫌で(笑)、ファクトで話したい。まだそれがやり切れてない感じですけどね。

カオナビ創業のきっかけ

北崎:森さんはいかがですか?

:今、曽山さんがおっしゃったことはまさにそうだなと思いました。確かに個別案件は非常にわかりやすいし、究極的には「個の問題だ」という話で、個にぶつかっていこうとするところがあって、(課題解決は)そこで培われた経験と勘で……みたいな話になるんですけど。

ただ実は、応募者側はファクトを持っているんですね。インターネット上で会社の評判を全体の統計データで持っていて、個別のレビューも見ながら「福利厚生を外にはこう出してたけど、実際はこうなんだ」という情報を持ってしまっています。

それに対して、会社側が個でしか戦えない、あるいは個でしか「うちはこんなにいいんだよ」ということが言えないのは、やはり持ち手としては弱すぎます。

なので、全体として(人事領域における)ファクトを持っていて、全体としてアクションを取っていくことが重要なのかなと思います。

北崎:なるほど。採用市場においても、自分たちのポジションを俯瞰したうえで、それぞれの個性に合ったかたちで戦略戦術を考えていくということですかね。柳橋さんはどうですか? おそらくいろいろなクライアントさんを見られていると思いますけれども。

柳橋:僕の経験からがお話ししますと、会社を始めた当時は、まだ企業の人事情報や人材情報は、人事部門の中に閉ざされた状態で管理されていました。

例えば、営業部長や開発部長が、現場でがんばっている部下の人材情報をぜんぜん活用できてないということを目の当たりにしたときに、「これはいかんな」と思ったのが創業のきっかけだったんです。

さらに、営業部長が部下5人をどう配置しようかと考えたときに、その5人の過去のキャリアやどのような資格を持っているかをその都度人事部に問い合わせて、人事部から3日後に書類をもらって見ているのを見た瞬間に、「これはきついな」と思いましたね。

なので、僕らが最初に取り組んだのは、会社の中で人材情報をちゃんと共有できる状態にすることが大事だと一生懸命訴えました。

人材情報といっても、家族の情報や社会保険の情報まで全部開放しろと言っているのではなくて、「どのような職歴を歩んできたか」「どのようなことが得意なのか」「どのような資格を持っているのか」という情報を共有するということです。これらの情報を人事部門の中で閉じて管理していてもなんの意味もないと思うんです。

それをマネジメント層で共有できるツールがあれば、人材の配置や抜擢も機動的になるんじゃないかなということを(創業時に)すごく思いました。

昨今のお客さまの状況を見ていると、先月取ったキャリアのアンケート情報はもう古くなってしまっているんです。今日とか明日、先週のレベルで、今その社員が「どのような状態なのか」「どのような希望を持っているのか」を機動的に把握できる状態になっている必要があるんです。企業側の在り方として、そのような状況がすごく大事なんじゃないかなと思っています。

現場への権限移譲とデータ可視化の重要性

北崎:ありがとうございます。仲川さんはいかがでしょうか?

仲川:少し違う視点で申し上げると、例えば、今後リモートワークやテレワーク、ダイバーシティなど、先ほどの曽山さんのお話のようにキャリアの多様化が進んでくると何が起こるかと言うと、おそらく現場にどんどんマネジメントの権限を移譲していかないと、その多様性に応えられないのではないかと思っています。

人事の方たちのやっていることの多くを現場のマネージャーさんに移譲していく。今後このような流れが来るでしょうし、そうしないとマネジメントが回らないと思います。

そのときに必要なのが、共通言語としてのデータです。これがあれば現場のマネージャーにどこまで権限を委譲しているかわかって、移譲したことに対するモニタリングができるようになります。

これがないと、現場が何をやっているのかを人事側で把握することができなくなってしまいますので、権限の移譲ともに共通言語としてのデータの管理・整備が非常に重要になってくると思います。

北崎:ありがとうございます。個人的な考え方だと、そこは非常にポイントだと思っています。先ほどお話したように、個人がいろいろと多様化していきます。それを人事部が後ろのほうにいて、その変化をトラックするのはかなり難しいんじゃないのかなと。

人材マネジメントは現場にどんどんシフトしていく傾向にあるのかなと思うんですけど、曽山さんの会社ではどのようなかたちで、誰が主役で人材マネジメントを行われていますか?

曽山:やはりマネージャーです。ちょうど今、サイバーエージェントの中でも人事課題というか、経営課題に入れているものの1つが、ミドルマネージャーの才能開花をどうするかということです。

やることがすごく複雑化していて、コンプライアンスもあれば、業績も上げろということで、よく考えたらマネージャーって超大変だなと。

それを要求している僕らが冷静に見て、もっと取り除いてあげないと難しいだろうなということで、マネージャーがうまく機能しているところだとメンバーが育って業績が上がっているというかたちになるので、そこに対する権限移譲はすごく大事だなと思いました。

現場のマネージャーの負担をどう解消できるか

北崎:楽天さんでは、人事と現場の関係はどのような見方をされていますか?

:曽山さんがおっしゃったように、現場への負担はすごく大きくなっていると思います。さらに言うと、いわゆる技術系においては半分以上がノンジャパニーズなんです。楽天研究所も8割以上がノンジャパニーズで、事業部サイドも(外国人比率が)3〜4割を超えています。

基本的に、ノンジャパニーズの人たちは日本語をしゃべりません。そこで、日本文化に暗黙的に存在しているコミュニケーションに日々気づかされる毎日みたいな。仕事の中で常識だと思っていた価値観がまったく通じないみことがよくあります。

それを現場のマネージャーが負わされているのは相当大変だなと。最近ではとくに、日本人のマネージャーをグローバルな働き方での価値観へ持っていくためのトレーニングが行われていまして、ダイバーシティを前提とした考え方は何かとか、ビジネスの場におけるグローバルの常識は何かとか、何を言っちゃいけなくて、何を言うべきなのかというトレーニングをしています。

それは今、非常に良くなっているというフィードバックをもらっているんですけど、逆に言うと、今まで現場には相当な負担があったのかなと思います。

北崎:なるほど。今の話でいうと、どんどん現場に人材マネジメント(の権限)がシフトしていきます。ではその中で、人事は何をやればいいのか。仲川さん、どうですかね? 

仲川:私はこれからの経営課題の一番真ん中が人事になってくると思います。CHRO(最高人事責任者)という言葉も出ましたけれども、日々のマネジメントは現場に移譲しながらも、次の継続的な成長やイノベーションを起こしていくための戦略的人事と言いますか、そのようなところに人事の方たちの軸足をシフトしていくのがいいのかなと思います。

データの話をたくさん申し上げましたけれども、そうは言ってもそこに人の温もりというか、人らしさをどのように乗せていくかということが本当に大事になってくると思いますので、そこはぜひ人事の方たちには守っていただきたいなと思っています。

人事の重要性は今後間違いなく拡大していくと思いますので、人事の方たちがどのような戦略を持って、会社を経営されていくのかというのがすごく重要だと思います。

北崎:ありがとうございます。柳橋さんがマイクを持って準備万端な感じですけど(笑)。

柳橋:人事からサービス提供側になったので、当時のことを思い返しながらお伝えしますが、僕はやはり現場視点が大事じゃないかなと思います。

僕も人事をやっているときには、どうしても人事視点でいろいろな施策をやってしまって、結局現場に何もいいことない、という失敗をたくさんしてきました。なので、現場が何を求めているのか、現場がどうしたいのかなど、現場視点でやることが大事だと思っています。

北崎:なるほど。ひと昔前はどちらかと言うと、金太郎アメ的な人材マネジメントが主流だったのかなと思いますけど、現場でいろんな変化が起こってきているので、主役はあくまで現場のほうです。人事はそれをサポートするために、いろんなデータを提供したり、そのような役割分担にどんどんシフトしていくという流れですね。

柳橋:あとはHRテクノロジーという絡みでいうと、現場で起きていることを簡単にデータ化する仕組みを考えることですね。データの入力を現場に強いてしまうと、時間もかかりますし、彼らの負担が増えるだけです。

やはり僕らがテクノロジーで解決しなければいけないことは、データ入力という行為がなくても蓄積されていく状態。

例えば、ウェアラブルで見たものがそのままデータになるとか。今後、「入力」という行為そのものがなくなっていくし、なくなっていかなければいけないんじゃないかなと思っています。

北崎:確かにデータ入力というと、いろいろな申請書であったり、異動の情報を入れましょうということで、人事やラインマネージャーの負荷が相当高いので、それがどんどん効率化されていって、意味のあるデータだけがラインマネージャーに届くような未来があるというかたちですね。