会場からの質疑応答タイム

小林雅氏(以下、小林):盛り上がったんですけど、残り10分ちょっとになってきたので、会場から質疑応答を受けたいと思います。

じゃあ、勝屋さんいきましょう。岡島さんもすごくメモってましたね。次は岡島さんにいきましょうかね。

勝屋久氏:勝屋です。出雲さん、本当にすばらしいお話、いつもありがとうございます。(質問は)2つあって、1つは先ほどの「ベンチャーキャピタルはダマせばいいじゃん」ということ。僕はすごく共感するんですね。本気で情熱を持ってやってる場合はいいと思うんですよ。

だけど、人間はそういう側面ではなくて、例えば「裏を取られちゃったらどうしよう」という不安感とか自分の罪悪感とかが足を引っ張ると思うんです。

人生のいろんな局面でそういった罪悪感とか不安があると思うんですけど、出雲さんにもそういうのはきっとあると思います。

リファレンス取られたら一発でわかっちゃうじゃないですか。VCだけじゃなくて事業会社もそうだと思うんですけど。

そういうのがなかったのか、それともそのときは精神状態がいっぱいいっぱいで「もう神様しかない」という状態だったのか。そういうところは経験で培われたのか、というのが1点目です。

2点目はぜんぜん違う視点なんですけど、ここにいる会場のみなさんはベンチャーの経営者が多いと思います。ベンチャーをやるときって、応援団というかファンが非常に大事になるような気がしまして。

僕も小林さんのことが大好きで応援してるし、出雲さんは漆原(茂)さんの紹介で1回お会いしたときから大ファンで大好きなんですよ。

意識的にはしてないんでしょうけど、そういう虜にしちゃうようなのって、客観的に見てご自身でどうとらえてるのか。

例えば、ここにいるスタートアップの会社さんがサービスを広げる、その人のエネルギーをもっと広げていく、渦を広げていくときに、大事なことは何なのかなと。この2点を……質問の意味わかります? 長くてごめんなさい。

ファンや応援団がつくスタートアップの特徴

出雲充氏(以下、出雲):2ついただきましたが、2つ目のほうがシンプルなので先にお答えしたいと思います。ファンとか応援団というのは、スタートアップ、特にアーリーステージのときにはものすごく重要だというのはまったくそのとおりだと思います。

また、結果として重要だと思ってるのは、アントレプレナーのモチベーションやインセンティブがどこを向いてるかなんですよね。

結局、究極的には「自分」に向いてるか「外」に向いてるかなんです。(モチベーションやインセンティブが)自分に向いてる人のビジネスがうまくいくと、いろいろカッコいいこと言ってても、最後の最後で「なんでお前が金持ちになるのを手伝わないといけないんだ」って(結果になる)。

そういうのは、人間絶対にわかりますから。絶対わかります。これは、嘘をついても絶対バレる。

それは、正直に言うべきなんですよ。「昔は貧乏で、いじめられて、非常に大変だった。今回のこのベンチャーはそういった人たちを見返してやりたい」。そういうのがはっきりと出ている人には、それはそれで応援しようっていうファンとか応援団が絶対つきますから。

だから、言ってることと本当に思ってることの向きが一致してるってのが大事で、内側を向いちゃいけないって話じゃないんです。

「こんなに大変で、こんなに貧乏してたから、自分が金持ちになって、周りで一緒に頑張ってくれてる人にもいい車や洋服や時計を買ってほしい」という人と一緒に、一体感があって信念を持ってやっている会社だって山ほどありますから。

「内側を向いちゃダメだ、外側を向け」とか、ソーシャルじゃないとダメだって話ではないんです。

ただ、その人が本当にどっちを向いてるかというのは、本人以上に周りの人が絶対気づきますから。これがずれてると、ファンや応援団というのは1人も獲得できないと思います。というのが2つ目(の答え)です。

投資家、VCへの思いの伝え方

出雲:1つ目は、2つ目の質問ともちょっと関連するんですけど、その……VCをダマせばいいという話ではなくて(笑)。

思いの強度と向き、言ってることとやってることの向きが違うときには、ベンチャーキャピタルの人も含めてファンや応援団にはなってくれない。

本当にどうしようもなく困っていて、かつ「自分は絶対にできる」っていう確信があれば、他の人は「あなたはユーグレナのリードインベスターやるって言ったんですか?」というリファレンスが来たときに「彼は本気なんだ」と。

そのときに初めて「ウチがリードインベスターをします。応援します」という気持ちになられる。そういうキャピタリストの人もいらっしゃったと思うんですね。

ですので、思いの向きが自分の本心と一致していれば、最後切羽詰まったときに、リファレンスを取られた人に初めて勇気と覚悟が伝わって(決断が)変わるということもあります。

初めから「ダマしてやろう」ありきだと絶対にうまくいかないんですけど、最後の土壇場で変わるということは大いにありえると思います。

そのためには、少なくとも自分が不安にならないよう、罪悪感を感じないように、本当に自分がやりたいことと発信してるメッセージの方向性が一致してるのかどうか(を見直す)。この一点にかかってると思います。

メンターとアンカーの効力はどこまで続くのか

小林:じゃあ、隣の岡島さん。何をメモってたんですか? (出雲氏の話の)多摩ニュータウンに反応してませんでした?

岡島悦子氏:プロノバの岡島です。ありがとうございます。私は先ほどの2006、2007年に出雲さんが回っていた500社のうちの1社で、最初に伺ったときに「ミドリムシって名前がよくないんじゃないですか?」と言っちゃったんですけど、ここで懺悔しておきます(笑)。

質問は、メンターとアンカーというところを私はすごくメモってたんですけど、この効力はどこまで続くのかというのを聞きたいなと思ってるんです。

もう上場もされていますが、世界の飢餓・栄養不足の人はまだもちろんたくさんいます。どこまでいっても解消するのはかなり難しい話だと思うし、エネルギーの話もまだまだ先が長いと思うんです。

だから「ここまでいけたら」というゴールはわりと遠い感じもするんです。ある経営者は、もしかしたら上場して社会の器になってというところで、Tシャツの効力が薄れてくるかもしれない。

そういうときに新たなメンターとアンカーが必要になるのか、それともずっとユニスさんが引き続いていくのか。その辺が伺えたらなと思います。

出雲:ありがとうございます。メンターとアンカーの効力。正直に申しまして、ご質問いただくまで考えたことがありませんでした。

これはup to youというか人それぞれで、どういう人をメンターとして慕っているのか、尊敬しているのかということにかかってくるかと思います。

私の場合は、貧困博物館ができるまでやります。貧困博物館ができるまで変わらないです。ユヌス先生はもう75歳ですから、生きてるうちに次に先生とお会いできるかわかりませんけども、アンカーは私の手元に残ってますから。

「昔、栄養失調なんてものがありました。そういう悲惨な時代があったんです」という展示を貧困博物館でするまで、私にとってのメンターとアンカーは不変なものです。

ただ、先ほどにもお話ししましたけれども、「自分が有名になりたい」とか「お金持ちになりたい」とか「小さい頃にできないって言われた自分が本当はできるということを証明したい、見返してやりたい」というモチベーション、強い動機で取り組まれている人にとっては、時計とかずっと欲しかったものが手に入った時点で、次の新しいものにうまくトランジション(することが必要)。

セルフイメージをアップグレード……という単語はよくないですけど、何か新しい形にトランスフォーム、トランジションできると、アントレプレナーとしてもどんどん新しいステージに行けるんだと思います。

それが良いか悪いかはビジネスや人によって大きく異なると思うんですけど、アンカーが効力を失って、単なる石やTシャツと同じようなものになってガッツが出ない。

それはもう「社会に要求されるビジネスの規模がそこまでだった」ということの裏返しなのかもしれないと思います。

ビジョンや事業モデルの修正によるメンバーとのずれ

小林:ありがとうございます。そろそろお時間ということで、最初に池谷さんに「質問してよ」って言ってたんで質問をお願いします。

緑の会社ということで。スマートエデュケーションの池谷さん、最後に締める質問をお願いいたします。

池谷大吾氏:スマートエデュケーションの池谷と申します。ありがたいお話、ありがとうございました。ウチもイメージカラーが緑なんですけど、なぜか赤いポロシャツを着てしまって後悔してるんですが(笑)。

我々は教育というテーマを持ってやっています。(ユーグレナ社は)すばらしいビジョンの会社さんで、かつ上場も果たされて、業績もすばらしいという。ビジョンと業績を合わせていくのはなかなか難しいことだと思うんです。我々もビジョンは負けないくらいすばらしいと思っていて、非常に参考になったというのが感想です。

1点気になったことがあって、先ほど創業時の3名様を拝見しましたけども、やっぱり500社とか回っていく中でミドリムシがすばらしくても売れないということが続くと。

最初のビジョンは「飢餓をなくす」ということで、ミドリムシを服用すれば直接的にその子の体が良くなって健康体になるという話。

そこから最後にはバイオ燃料という、間接的に耕地面積を増やすことによって飢餓がなくなるというストーリーに変わっていっている。

事業をやっていく中で少しずつ、社内では「プチピボット」と呼んでいるんですけど、自分のビジョンをどうにか叶えるために、少しずつストーリーは変えていく必要があるのかなと。

最前線に出ていらっしゃる社長が毎日毎日ストーリー修正をしていて、例えば研究されている方や中で支えている方がそれについていけなくて「おいおい、そういうミドリムシの使い方をするのかよ」みたいな、社長の転換についていけなくなるケースがある。

当社もそうなんですけど、こういうのがあるんじゃないかと思っていて、もしあれば苦労話であるとか、どうやって解決されてここまですばらしい組織をつくられたのかということを、ぜひ教えていただきたいなと思います。

創業メンバーとの信頼関係

出雲:ありがとうございます。いや、池谷さん。最後に神懸かり的な質問ですね。絶対そうなんですよ! みなさんも……今日は社長さんがほとんどなんですよね?

小林:そうですね。

出雲:社長さんは一番たくさん外のお客様の声に触れて、トランスフォームする刺激やチャンスを一番多くもらえますよね。社長だけどんどん変わってしまって、社長と同じくらいの刺激やチャンスを得ることができないメンバーと離れていってしまうというのは、絶対起こるんです。どんなに気をつけてても起こりますし、ユーグレナ社でも同じことが起こってます。

あと、どうするかなんですけど(笑)。私もそれに対する「これだ!」という解決策は……スライドがないということは(ない)。

スライドがあれば「これがソリューションだと思います」とパッパッといくんですけど。正直に申し上げないといけないんですけど、私も答えを探しています。

まあ、2つしかないですよね。1つは、創業メンバーであったとしてもステージが変わってしまったので、チームメンバーをより環境に適合させて効率的にシャッフルする仕組みを導入するということ。ユーグレナ社は、その道を選んでません。まったく同じメンバーでずっとやってるんですね。

ということは、2つ目の道(を選んだ)。これができるかどうかわからないんですけど、適切なロール(役割)を(与えて)、それを信じるしかない。

私が一番外で刺激を受けてくるので、何か路線を変更しようっていうときには社長のアイデアを貫き通すということを、創業メンバーが信じてくれるかどうか。

これと対になるのは……私はどんなに良いアイデアを思いついたとしても、研究を担当している鈴木が「これは科学的に非常に困難で、100年間研究したとしても実用化できるかどうかわからない」と言ったときには、自分がどんなにやりたくてもあきらめます。

ですから、研究については中で研究を管掌している鈴木のことを自分よりも信じますし、マーケティング・営業をしている福本が「社長がどんなことを言ってもこれは売れない」と言ったら、私がどんなに売れるチャンスがあると思っていても、あきらめます。

しかし、売れる売れないとか研究とは違う「会社のビジョン」とか「方向性」、仲間のベクトルを同じ方向に束ねていくために必要なものを「こういうふうに変えたいんだ」というときには、自分がマーケティングとか研究(の担当者)を信じてるのと同じくらい、創業メンバーないし古くからいるメンバーが自分のことを信じてくれる。

そういうコミュニケーション、人間関係になってるかどうかにかかってると思うんですね。

私の場合は、これが良い悪いではなくて、第2の道を選んで進んでいる最中です。「これ絶対研究したほうがいいのに」「絶対売れると思ったのに」というものは山ほどあるんですよ。

でも1回相談して、1回議論して、1回ケンカして、福本が「絶対にやりません」、鈴木が「これはあきらめてください」と言ったものは、どんなに未練があってもきれいに忘れて、二度と蒸し返さない。

私がそうしている限りは、一緒にやってくれている仲間は、方向性については私のことを信頼してくれるんじゃないかなと。それでうまくいかないこともあろうかと思いますけど、私は今のところこの第2の道(を選んで)、「何に責任を持つのか」というロールとポジションを非常にクリアにしている。

社長は一番変化を受けるんですけど、社内で信じてる人間を自分以外にちゃんと作って、あきらめるときにはきれいさっぱりあきらめる。そういう対処をしていきたいと思っています。

ミドリムシビジネスから得た最大の学び

小林:最後にIVS初登壇の感想も含めて会場のみなさんにメッセージを一言いただいて、終わりにしたいと思います。ミドリムシを代表して、お願いいたします。

出雲:冒頭にも申し上げましたけれども、ミドリムシを呼ぶなんて大変な決断をしてくださった小林さんとスタッフの方に、最後に改めて心から御礼を申し上げたいと思います。

ミドリムシはみなさんの分野と違うので、役に立つ話ができた自信はないんですけども、でも同じベンチャーなわけですよね。

どんなに難しいと言われてても、本当に500社営業するとか1000回実験する人がいないっていうのが、私の最大の学びのひとつなんです。

ですから、周りの人に「それ絶対無理だ」って言われても、IVSに来るようなマインドセットを持っている我々で100回、500回、1000回、2000回といろんなチューニングや開発をすることによって、社会課題を解決する。

冒頭に出てましたけど、スタートアップって本当にインフィニティ、可能性は無限なわけですよね。

私もまだまだわからないことだらけなので、これからも一緒に「どうしたらインフィニティになるのか」というナレッジを、ミドリムシにも分けていただけたら大変ありがたく存じます。お招きいただきまして、誠にありがとうございました。

小林:大きな拍手をお願いします! どうもありがとうございました!

(会場拍手)