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ミドリムシが世界を変える(全3記事)

ユーグレナ出雲氏「社長になるなんて考えたことがなかった」ミドリムシ研究との出会いを語る

2015年6月11日に開催されたIVS 2015 Springの本セッションに、株式会社ユーグレナ・出雲充氏が初登壇。モデレーターを務めるIVP(Infinity Venture Partners )共同代表・小林雅氏の進行で「ミドリムシが世界を変える」をテーマにディスカッションをしました。ごく一般的な家庭に生まれ、「自分が社長になるなんて考えたこともなかった」と語る出雲氏は、ミドリムシの研究に出会うきっかけとなったバングラデシュでの体験や、農地を使わない「次世代のバイオ燃料」としてのミドリムシのポテンシャルの高さを紹介しました。

IVS 2015 Springにユーグレナ・出雲氏が初登壇

小林雅氏(以下、小林):みなさん、こんにちは! ありがとうございます。IVSへようこそお越しいただきました。

ちなみに2009年11月の開催以来久しぶりの宮崎なんですけども、「宮崎初めて」という方はどれくらいいらっしゃいますか?

……結構いらっしゃいますね! それだけ6年間で参加者が大きく入れ替わったと。正確に言うと、入れ替わったというより人数が増えてるので、新しい人がどんどん増えてきて、産業が活性化した6年間だったんじゃないかと感じています。その産業をさらに発展させるべく、こういったコミュニティ活動をやっています。今回はいろんなテーマを用意してます。

おなじみのテーマはもちろん、明日はIoT(Internet of Things)など新しいハードウェアのトレンドもございますし、Launch Padも一番初めは「空飛ぶ車」の実機デモがありますので、次のトレンドを感じるためにぜひ朝早く起きて、来ていただければなと思います。

ということで、2日間という短い時間でございますけども、よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

小林:ネット系とはまったく関係ないんですけど、最近「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」という名前を聞いたことがある方は多いんじゃないかと思います。

今回は初めてのIVSのご参加ということでお越しいただきました、ユーグレナ社の出雲さんに登壇していただきたいと思います。拍手でお迎えください!

(会場拍手)

小林:「緑はミドリムシの緑だ」と昨晩言っておりましたので、ぜひ盛り上げていただければと思います。セッションの進め方としては、出雲さんにプレゼンテーションをしていただいて、茶々を入れながら、後で質疑応答という感じで進めたいと思います。よろしくお願いいたします。

出雲充氏(以下、出雲):よろしくお願いします。みなさま、こんにちは。ただいまご紹介にあずかりましたユーグレナ社の出雲でございます。私、自分のスマホの中にLINEもTwitterも入っておりません。

小林:笑うところですよ、これ!

出雲:出澤(剛)さん以外は笑っていただいて結構だと思うんですけども(笑)。でも、スマートニュースは使ってるんです。

本当にインターネットと非常に遠い世界で仕事をしております私をこのIVSにお招きくださった小林さんとIVSのみなさまに、まず冒頭で5億5000万年の歴史を誇る全ミドリムシを代表して、厚く御礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。

(会場拍手)

出雲:でも、本当にうれしいですね。今日は中国からもお客様が来られてるんですか? 大家好! 我是~(中国語であいさつ)。……あんまり通じてないですかね?

(会場笑)

出雲:今日は前半と後半の2つに分けて(お話しします)。おそらく、一度は「ユーグレナ」もしくは「ミドリムシ」についてお聞きいただいている方もいらっしゃるかもしれませんけども、でもやっぱり知らないという方のほうが多いと思いますので、前半では私が取り組んでいる「ミドリムシはいったいどういうものなのか?」をお話しします。

その上で(ユーグレナも)広い意味ではベンチャーですから、同じベンチャーで取り組んでいるみなさまに私のミドリムシに関する気づきをシェアさせていただいて、お役に立てればと思っております。

日本で一番「一般的な」家庭で育つ

出雲:いきなりスタートからなんですけども、ここが私の家ですね。団地の3階なんですけど、この(スライドの)写真を見て「近くに住んでいる」という方はいらっしゃいますかね。なかなかわからないと思うんですけど(笑)。これは多摩ニュータウンの写真です。私の家が写っているので、1枚目に持ってきました。

父親は普通のサラリーマンで、お袋は専業主婦ですからずっと家にいます。弟が1人いまして、私も含めて4人家族がこの多摩ニュータウンで暮らしていると。

私の家は、日本で一番「一般的」だと思うんですね。ですから、小さいときから「ベンチャーをやろう」とか「自分は社長になる」なんてことは本当に考えたことがないんです。

多摩ニュータウンにお住まいの方がいたら申し訳ないんですけども(笑)。私の理解では多摩ニュータウンは公務員とサラリーマンの家庭しかいなくて、社長をやろうとかベンチャーとかは(考えられない)……少なくとも「アントレプレナーシップ」という言葉は一度も聞く機会がないんですね。

いま自分がベンチャーでミドリムシに取り組むきっかけとなったのが、この国なんです。

日本の国旗の白い部分が緑色になっています。これは1972年、旧東パキスタンが独立するときに日本がかなり早く独立を承認して、日本に対して親近感を持っているので、日本の国旗を参考にしてつくられたバングラデシュの国旗です。

私はこのバングラデシュに、大学1年生の夏休みに生まれて初めて行きました。今日、バングラデシュに行ったことがあるという方はお越しになっていますか?

上からは見えないですけど、いらっしゃいますかね……1人! すばらしいですね。なんでバングラデシュに行ったんですか? 乗り換えで!?

(会場笑)

人生を変えたバングラデシュでの体験

出雲:そうですか(笑)。私は今までいろんな方にお会いしましたけど、乗り換えでバングラデシュの方は初めてですね。びっくりです。しかし、バングラデシュといえば、みなさんほとんど同じイメージを持たれるはずなんですよ。

人口が1億5500万人、日本人よりも多い。北海道のわずか2倍の面積しかないところに1億5500万人が生活してますから、もっとも人口密度が高い。そして、ほとんどの人が1日の所得が1ドルです。年収でも300ドル、3万円。1日の生活で電気を1秒も使わない人が、まだ4割もいます。6000万人の人が電気にアクセスすることができない。

世界でも貧しい国の1つなんですけど、携帯電話の普及台数はついこないだ1億台を超えたという、非常に特徴的な発展をしているのがバングラデシュなんです。ここで私は1ヵ月、グラミンバンクというNGOでインターンシップに参加したんですね。これで私の人生が変わったんです。

バングラデシュに行くときに「お土産は何を持っていったらいいかな」と考えたんですが、当時世界で一番貧しい国に行くわけですから、こういう野球ボールや折り紙ではなく食べ物がいいだろうと考えなおしました。

結局、私はカロリーメイトをお土産に持っていったんです。100個くらい買いました。当時はチーズ味しかなかったと思いますけど、それを全部スーツケースに詰めて貧しい子どもたちに(配りました)。カロリーメイトで元気を出してもらおうと。それが1998年の8月でした。

出雲:これはぜひみなさんにも一度見ていただきたいなと、本気で思います。到着したら、ご飯が食べられなくて、お腹がすいて、ひもじい思いをしている人は、少なくともバングラデシュにはいないんですよ。山ほどカレーが食べられます。豆カレー、ベンガル語では「ダール」と言うんですけど、これがとってもおいしいんですね。

山ほどカレーがありますから、子どもたちはみんな別にお腹がすいて困ってるわけじゃないんです。でも、非常に足が細くてお腹がふくらんでるこういう体型の子どもが、バングラデシュには大勢いました。

原因は非常にシンプルで、カレー以外のものが途上国では不足してるんです。ジャガイモもにんじんも玉ねぎもカレーの中には入ってないんです。お肉やお魚のようなタンパク質もないですし、牛乳や卵のようなものは電気がないと腐ってしまいます。

ミドリムシの研究との出会い

出雲:つまり飢餓、starvationで困ってる人はちっともいないんです。一番の問題はmalnutrition、栄養失調なんです。栄養失調で、こんなに大勢の人が困ってる。それを私は知って、「じゃあ栄養について勉強してみよう」と。

それで、大学3年生のときにミドリムシと出会いました。今はミドリムシの研究をして15年経つんですけど、100種類くらいのいろんなミドリムシがいるんですね。今日はIVSでのミドリムシデビューですので、100種類の中からもっとも美形の、センターにふさわしいキレイなミドリムシを(紹介します)。

これなんですけども、ユーグレナ・グラシリスという品種です。これがミドリムシです。動いてますけど、植物のように光合成をします。ミドリムシというのは、ワカメの仲間の藻の一種なんですね。

0.1ミリメートルの小さいワカメです。植物の栄養素も入ってますし、動物の栄養素も入っている。人間が生活するために必要な59種類の栄養素が全部入ってるんです。これが、ミドリムシが栄養の問題(解決)にすごく適している最大のポイントです。

しかし、ミドリムシがそんなに良いものだということは、農芸化学やってる人じゃないとなかなか通じないじゃないですか。その理由は大きく2つあります。

1つ目は、ほとんどの人、今日お越しになっているみなさま方も、「ミドリムシ」と聞いて一番最初に「ああ、あのワカメの親戚ね」と想像される方はあまりいらっしゃらないと思います。

ほとんどの人がこれを(想像すると思います)。これはモンシロチョウの幼虫の青虫という生き物で、これはミドリムシと何の関係もありません。だけれども、ミドリムシと言うと、特に女性は芋虫とか毛虫とか青虫とか(を想像しがちで)。

ミドリムシはワカメなんですよ。植物と動物の両方の栄養素があります。その名前が独特だから流行りにくいというのと、

2つ目はミドリムシって育てるのが本当に難しいんですね。栄養がたっぷりなので、ミドリムシを培養しているとすぐいろんな害虫が食べにきてしまう。培養できないんです。

ミドリムシの最大の売りは「栄養価の高さ」

出雲:ミドリムシは栄養価が高いということはよく知られてたんですけども、どうやって大量に培養したらいいのかというレシピは、20年以上研究されていても誰も(発見できなかった)。

良いものなんだけども、培養できない。増やし方がわからないという状況がずっと続いてました。1980年代からです。

私どもはどうしたらたくさん増やせるのかという研究にチャレンジしまして、2005年12月16日、沖縄県の石垣島でみなさんに食べていただけるくらい膨大な量のミドリムシを屋外で育てる技術を確立しました。これでようやくミドリムシをお届けできると。

ミドリムシの中にはたくさん栄養素が入ってます。植物の栄養素でいったら、例えば梅干し10個分のβカロテンとミドリムシ5粒のβカロテンは同じ量なんです。うなぎの蒲焼き1枚に入っているDHA(ドコサヘキサエン酸)……ω-3の多価高級不飽和脂肪酸ですね。炭化水素ですから、カーボンが20個つながって最後に不飽和基がくっついている油のことなんです。

こういうドコサヘキサエン酸とかエイコサペンタエン酸とかアラキドン酸などのω-3高級不飽和脂肪酸が、50グラムのうなぎの蒲焼きと1グラムのミドリムシとでは同じ量が入っている。ミドリムシのほうが50倍入ってるんですね。このように非常に栄養素があるというのが、ミドリムシの最大の売りなんです。

ミドリムシと地球温暖化の関係性

出雲:私はこれがやりたくて、栄養の問題にはミドリムシが良いと思ってずっと仕事をしてきたんですけども、あるとき「ミドリムシにはいろんな使い道があるよ」というのを、大勢の人が教えてくれました。その中で一番ポテンシャルがあるなと思ったのが、温暖化ガスの削減なんですね。

私が学生のときは、CO2の濃度って教科書にはたぶん370ppmと書いてありました。でも、日本で観測される大気中のCO2は去年400ppmを突破したんです。今までの地球の40万年間の歴史の中で、初めてのことです。

南極に行って氷を掘ると「何年前はこれくらいのCO2の濃度でした」というのを測定することができるんですけど、40万年間はCO2の濃度は300ppm以下で安定してたんです。産業革命で猛烈な量の石炭とか石油を使うようになって、どんどんCO2を放出して、今400ppmを超えたところなんですね。

これは40万年間のうち150年しかない地球の現象なんですけど、CO2の濃度が上がるとどうなるか。2つ有名なはたらきがあります。

1つ目はみなさんが体感されています。今日、大勢の人がお集まりになっているこのホールや映画館などでは、みなさんが酸素を吸って二酸化炭素を吐きますから、CO2バランスがすごく高くなっています。

たぶん今この部屋は1000ppmくらいあると思うんですけど、それくらいあるとどうなるかご存知ですか?

CO2の濃度って、1000ppmを超えると眠くなるんですよ。だから、いまみなさんが眠いのはミドリムシの話がつまんないから眠いんじゃなくて、CO2の濃度が高いから眠いんですよ。

普段は非常に鋭いみなさんが(スライドの)下の写真みたいな目をしてますけど、これはミドリムシじゃなくてCO2のせいなんですね。これは非常に重要なポイントです。

2つ目です。「CO2はたいして重要じゃない」とか、温暖化に対して懐疑的な人が今日もお越しになっているかもしれません。しかし、一番新しい去年のIPCCの報告書でも、95パーセント以上の科学的なエビデンスが「地球の急激な温度上昇は温室効果ガスによって引き起こされている」とあり、科学的な事実としてシェアされています。

これ以上温暖化が進行すると非常によくないので化石燃料からバイオ燃料にしようという動きは、みなさんもお聞きになったことがあると思います。

ただ、15年間議論してまったく答えが出ないのが「農作物を育てて食べるのか、燃料にするのか」という点です。15年間ずっと議論し続けられています。

アメリカでは去年たくさんトウモロコシをつくったんですけど、4億人分のトウモロコシを発酵させてガソリンとして使いました。

普通に考えて、今まで毎日お米やパンを食べてて「テレビ番組でおいしいって言ってたから毎日トウモロコシ食べます」という人が1年間で4億人増えるというのはありえない。だけど、そういうありえないことが去年1年間で本当に起こったんですね。

アメリカではカーギルとかADMとかのトウモロコシ屋さん、穀物メジャーは非常に儲かったんですけど、食べ物としてのトウモロコシは非常に少なくなってますから値段は急激に上がると。

バイオ燃料に関わる方は今日はいらっしゃらないかもしれませんけども、今使われているバイオ燃料って、全部使えなくなるんですよ。これらは第1世代、旧世代のバイオ燃料です。次のバイオ燃料がミドリムシなんです。

なんで(旧世代のバイオ燃料が)使えなくなるかいうと、農地を使っちゃいけないからなんです。

今、地球でもっとも貴重な資源は農地なんです。農地でバイオ燃料をつくると食料と必ず競合するので、これからはミドリムシのように砂漠や海や耕作放棄地のような「農地でないところ」で育てて、それをバイオ燃料にするというのが、次世代のバイオ燃料の前提条件なんです。農作物と競合しない、食べ物と競合しないやり方で、農地を使わないで育てる。

農地を使わない次世代のバイオ燃料

出雲:今、私どもはミドリムシを絞ってバスを運転しております。JR湘南台駅といすゞ自動車藤沢工場の間を、毎日20往復、このミドリムシで動く緑色のバスが走っています。

ちょうど今2万キロ走り切ったところなんですけど、将来的にはそこら中で走るようにします。

バスの燃料だけではなくて、「日本はエネルギー資源がない国だ」というのは世界中の誰もが知っているわけです。

総理は先日までウクライナでG7に出席されてましたけれども、例えば日本の総理が政府専用機で外国に行くときに「実は国産の燃料で飛んできたんです。しかも農地を使ってません」(と言えるようになる)。

これは非常に夢があると思ってますし、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催の年には、政府専用機だけではなくみなさまが出張や旅行でお乗りになる飛行機の燃料を「国産で農地を使わないで育てた、ミドリムシを絞ってつくるもの」にするというのが、私の仕事でございます。

ミドリムシは非常に栄養がありますから健康になっていただくということと、農地を使わない次世代のバイオ燃料としてミドリムシ技術を活用すること。それが私どもユーグレナ社の仕事でございます。小林さん、以上でございます。ありがとうございました。

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