依頼以上のものを返す「リフレ派」とは?

田川:最近川村さんとやった対談の次にもうひとつ別の対談があって、竹村真一さんという文化人類学者の先生とおもしろい話になって。今みたいな広告業界でいうオリエン返しは、竹村さんにとっては「日々それだ」みたいな。

takramで考えている方法の中に、プロブレムリフレーミングっていう、与えられた問題設定を動かしちゃうやり方があって。フレームを動かしちゃうと意外なおもしろいアイデアが出てくるよね、という。だけど、それって言うは易しで現場で本当にやるとなるとかなり大変じゃないですか。

なんだけど竹村先生は「俺、どっちかって言うとそれが普通なんだけど」みたいな。けど(中村氏、川村氏とも)そういう派でしょ? 多分。オリエン返し派でしょ? それを「リフレ派(リフレーム派)」って言う。

川村:何かシャンプーみたい(笑)。優しい感じがする。

中村:リフレクソロジー(笑)。

田川:リフレ派って言って、これを広めたいんです。

川村:結構takramさんとかもう、そうなんじゃないですか? うちもやっぱり、ちょっとそういうふうに見られてるから。

田川:お願いされてないことを、わざわざくっつけて提案とかするでしょ。

川村:しますします。

田川:それのほうが普通でしょ? 多分。

川村:ビデオって言われてるのにビデオやらないでロボ作って、サイト作ってとか、すぐやっちゃいます。それはいいリフレ派じゃないですか?

中村:ほとんどの、このIVSに来ている会社ってクリエイティブディレクターとかっていないと思うんですね、CCOとか。本当に1人いれば変わるんですけどね。

田川:だね。多分、例えば2人の力を必要にしてる人、山ほどいるんじゃないかと思って。だけどつながり方がわかんないんだと思うんだよね。

川村:こっちもそうなんですけどね、どうすればいいのかな。

「勘のいいベンチャー経営者」との出会いを求めるクリエイティブディレクター

田川:IVSの常連の名刺管理のSansanっていう会社のEightっていうサービスは、takramが立ち上げを手伝ったサービスなんだよ。

中村:あ、そうなんですか?

田川:そうそう。takramはベンチャーのビジネスローンチを手伝う仕事って結構やってるんだけど、ふたりも絶対やれる。大変なんだけど。立ち上げは1年とか1年半とかかかるから気が長い話なんだけど、プロダクト作ってそのままコミュニケーションまで行くみたいなのってそんなに違和感ないでしょ。

中村:ないです、全然。

川村:そっちに逆に行きたいなって。

田川:勘のいいベンチャーの経営者と出会いがあって何かやれば、すっごいいろいろな仕事あるんじゃないかなって。

中村:今のところ、そういう会社だと思われてないですね、PARTYは。「実装はできてるからプロモーションお願いしたい」みたいな。サービスとコミュニケーションを作るとこから一緒にお手伝いしたいですね。

川村:そういう、ちゃんと目のある起業家の方とかと出会いたいですね。うまいアナロジーがないんですが、アーティストがビッグになるほどミュージックビデオがおもしろくなくなる問題みたいな事実もあって。もう有名だから、それ以上頑張らなくていいから別に普通のビデオでいいみたいな。

似たような発想で言えば、大きな企業になってしまって回れば回るほど別に安全に、安定飛行すればいいじゃないかという発想になりがちなので。僕らにとってはもっとアントレプレナーっぽい人たちのほうが、マッチングがいいのかもしれないですね。

田川:シリコンバレーの企業って、それこそクリエイティブディレクターとかCCOが入った状態で起業するのっていうのは普通になってきてるじゃないですか? 

日本のベンチャーコミュニティもそこはひとつ、レベルアップのわかりやすい方法として考えてみてはどうでしょう。上場企業の社長レベルの人たちが本当に趣味良くて、みたいなのに遭遇する機会って少ないでしょ。

川村:レアです。

田川:グローバルでブランド引っ張ってる大きな会社・社長ってそこらへんの基礎的理解みたいなのってやっぱりあるから。経営者もそうだし現場でやる人たちもそうなんだけど。何とかなんないかな、みたいことがあったりして。

川村:確かに。

田川:ベンチャー企業の中には「それがぜひやりたいと思ってたんだけど、どうすりゃいいかわからない」って人たちは山ほどいるんじゃないかなと思って。

川村:そんな予感だけはしますよね。でもやっぱり全然そこがつながらないので、僕らも僕らで遠慮しちゃってるのか、こういう場にあんまり出てくる機会もないからっていうのもあるかもしれないですけど。

ビジネス+テクノロジーにクリエイティブを掛け合わせる

田川:何回かやって、やったことで成功がちゃんと出てきたりとかすると違ってくる。さっきも人とちょっと話をしてて。

実名はちょっと出せないんだけど、皆が使ってる超いい感じのスマホのサービスを作っている会社の人で。そこの会社はシリコンバレーベースなんだけど、そこの会社のかなり多くの人が、デザインファーム出身者なんだとか言ってて。完全にデザインドリブンで製品作ってますって、言ってた。

そういうクリエイティブの活用の仕方みたいなものを、もうちょっと広められるといいなって。

川村:ですね。マーケット的にもっとそこが成長すると、とても楽しくなりますよね。

田川:最近本当に、B(ビジネス)とT(テクノロジー)が超しっかりしてるいい会社に、C(クリエイティブ)がポコッとくっつくと何が起こるかって、未開拓エリアがすごいあるから、レバレッジがすっごいきくっていうか(笑)。僕らもクライアントも超楽しい。

中村:いいなあそれ。

田川:大きな日本の企業だと、普通にデザイン部署とかPR部門とか結構しっかりしてて、クリエイティブは一通りわかってるみたいな部分がある。

そうするとクリエイティブ入れたときの伸びしろが少なかったりもするんだけど、そこがゼロの会社ってバーンて行っちゃうから(笑)、結構やってておもしろい。

川村:それはいいな、楽しそうだな。

田川:IVSにマッチングしてもらって。

川村:それはね、(IVS主催の)小林さんに言っとこう。言っときましょう本当。

田川:絶対やったほうがいいし、もっとこういうの普通になっていくとサービスのクオリティとか上がるじゃないですか。明らかに。

中村:そっちのほうが合理的ですね。

田川:自分たちにとっても結構実験的だったりするから、そこはお互いにリスクを取りながらやりましょうという感じで。

川村:いいですね、それは楽しそうだな。

アイデアで突破する喜び

中村:某機器の中のOSをプロモーションしたんですよ。ダメすぎて、OS自体デザインさせてくれ!と思ってしまった(笑)。いかにダメな部分を隠すかずーっと製作チームで「むしろOSやらせてくれ」みたいな話になって。

川村:それは今まさにね、そんなプロジェクトをやってるんだけど、もうその仕組みが酷くて「何でそんなザルな仕様書にしたの」みたいなことになっている。でも片や代理店とかエージェンシーのクリエイティブディレクター出身者としては、意外とそういうパズルの難問を解くのを好きは好きというか、制約があるほど燃える感もあって。

それをアイディアで突破するみたいな喜びってあるじゃないですか。それはそれで楽しくやってて変なものになりそうなんですけど。

田川:そしたら今日ここで目標を決めることにして、IVS参加企業におけるCCOとかクリエイティブディレクターを持ってる率っていうのカウントして、例えば5年以内に今何パーセントという目標を決める。

田川:啓蒙する。

中村:そうしたいですね。今ここに多分、数字デモがテロップで(画面に)出てる。

川村:電話くださいみたいな、番号が(笑)。

中村:あと現状のパーセンテージも多分出てる(笑)。

田川:小林さん、小野さん、田中さん(共にIVS主催メンバー)にそれをコミットしてもらって。

川村:それはおもしろいですね。ぜひIVSみたいな団体に手伝ってほしいです。その啓蒙というか底上げというか。デザイン的な、やっぱシリコンバレーとかで始まってはいるけど、まだそこまで日本はきていないので。

そこをがっつり、例えば日本が一足飛びにやれちゃったりなんかすると、急に日本のスタートアップ何かすごく面白いぞ! となるのは意外に容易なんじゃないかと思います。

中村:お待ちしてます。一方うちは、B(ビジネス)が極限的に弱い僕とかが見ているので、誰か欲しい(笑)。

中村:CFO募集してます!

田川:じゃあ、ちょっと目標ができたんで良かったですね。

中村:来た意味あった。IVS。

田川:流れを作れればと思うんで、ぜひ。

川村:一緒にやって行きましょう。

田川:じゃあ若手に向けての、お2人に。多分2人のファンがすっごい見てるんじゃないかと思うんで。

川村:またそんな、田川さん一番多いくせに(笑)。

クリエイティブディレクター志望の若者へのメッセージ

田川:ちょっと質問返しでもいいかもしれないですね、ひょっとするとね。若手のクリエイティブディレクターとかなりたい人にアドバイスあるとしたら何ですか?

川村:難しいですね。クリエイティブディレクターになる前に、僕よく言うのはいくつかあって、まずはいいものをとりあえず見ろと。自分の目とか自分なりの基準ていうのをちゃんと明確にしてないと、自分の中で基準がないとその基準を相手に伝えることができないんで。

すごくたくさんいいと思うものを見たり、それか自分の中で咀嚼して、何が自分にとっていいと思うものなのかっていうのをちゃんと言語化できるようにしといてほしい。

田川:それさっき中村さんも言ってたよね、パネルのときにも。

川村:やっぱりかぶった(笑)。

中村:できればね、両方リファレンス大事だよね。やっぱ同じ会社ですから(笑)。

田川:一応そこは共通してる。とりあえず今はいろいろ見ろと。

川村:多分阿吽の感じでしてるかな、みたいな。それがあった上で大事なのは要素還元ていうか。

自分なりに何がいいのかちゃんと掴んでおくということ。あとは本当ともかく作るっていうこと、それを実践に移すっていうか。そうじゃないとやっぱり同じようなことですけど、他人に作ってもらうとか一緒に作るときにその経験がないともちろん作れないので。

それをなるべく経験して行くことで、そのディレクションとかはきちんとできるようになってく、ていうことなのかなあって思いますけどね。

田川:なるほどね。

中村:僕は、クリエイティブディレクターは結果論なんじゃないかなあと思うんですよ。ドラクエの戦士や魔法使いのようにデザイナーとか、エンジニア、サーバーサイドという基本職がある。まず始めに自分のプロフェッショナルとか、自分のステージを用意しておいて。

そこを中心としながらスキルを持って、いろんな経験と出会うことによってクリエイティブディレクターになるか他のものになるとかっていうのは、結果論な気がするんですよね。その仕事との出会い方とか自分の仕事の仕方によって。

田川:そうかもしれないね、ジョブチェンジしながら行くから。もう配合の比率は人それぞれだから、目指してもしょうがない(笑)。

中村:たまたま、器用貧乏な奴がクリエイティブディレクターになるっていう。器用貧乏で、ずーっと。

田川:高いレベルで、器用貧乏に。

中村:そうそう、押し上げていくと。

田川:そうかもしれない、それは。

川村:大事なのは、そのtakramさん的な言葉を借りて、領域を横断してるというかそこがおもしろいっていうか。ひとつのプロフェッショナリズムとか、クラフトとかそういうスキルって大事ではあるんだけど、クリエイティブディレクターっていうフワッとした肩書の人は意外にやっぱり横断できるものが見えてるっていう。

田川:そうかもしんないね。なるほどね、勉強になります。

中村:田川さん的には? クリエイティブディレクター目指してる若い人に対して。

田川:さっきのドラクエはすごいピンときてるんだけど、レベルによってやんなきゃならないことが全然違う気がしてて。

最初は言われたことカチッとやるみたいな話あるけど、多分それで上手くやれるようになってきたっていうことにとらわれ過ぎると、どっかで全然上手くならなく・行けなくなる瞬間。それはステージが変わるから。天下一武道会で優勝するやり方と、星を賭けて戦う戦い方は根本的に違う(笑)。

川村:超わかるなぁそれ。

田川:だから天下一武道会で優勝する奴が必ずしも星の戦いではあまり役に立たない。狼牙風風拳じゃないだろみたいな。どんくらいのレベルに目掛けて言うかわかんないんだけど、誰々さんに憧れてるんですとか、あんな人になりたいっていう思いの感じだと、多分ちょっと違うのかな。

どっちかっていうと我が道を1個1個やってるうちに、それこそ結果的になっちゃったみたいな方向がすごい遠回りに見えるけど意外に近道で。だから「どうやったらクリエイティブディレクターになれるんですか」とか聞くメンタリティがまず、もう違う。

川村:難しいよね、答えられないですよね。そんなこと言われてもなぁみたいな、あるからね。逆にでも「倒したい」くらいな気持ちでいてほしいですけどね。絶対倒すわーみたいな。

田川:「俺のやり方で倒す」みたいなそういう感じ? そういう雰囲気の子がこう、甘ったれで青臭いんだけど、やってるうちにそこがキレイに取れて行くと30代の中盤くらいからすごい活躍し始める。だからちっちゃく最初の20代の手前とかで、結構キレイにこなせるいい子ちゃんみたいにあんまりなりすぎない。それはそれで必要なんだけど、スジみたいなのがあったほうがいいんじゃないかな。

中村:難しいですね、クリエイティブディレクターになるのはね。

川村:言っちゃえばそれまでなんですけど。

中村:「今日からクリエイティブディレクターだ」と。

川村:そんなもんですね。

中村:先に言っちゃうってのも手だよね。

田川:「俺はもうクリエイティブディレクターだし」って(笑)。ということで参考になったか、ならなかったかわかんないですけど、ぜひね、皆で盛り上げて行ければと思うんで。

川村:そうですね、盛り上げて行きましょう。

中村・田川:よろしくお願いします。

川村:ありがとうございます。