"文脈"を創造する PARTYの理念

川村真司氏(以下、川村):よろしくお願いします。

田川欣哉氏(以下、田川):どうもこんにちは。今日はPARTYの中村さんと川村さんをお迎えして、「クリエイティブディレクターの仕事とは」について話ができればと思います。よろしくお願いします。

中村洋基氏(以下、中村):よろしくお願いします。

田川:takramの田川です。takramはデザインとエンジニアリングの両方をやるデザインエンジニアという人たちが中心になって、その人たちがクライアントの企業の中にだいたい3人1組くらいで入っていって、新しい製品をゼロからバーンと立ち上げていくっていう仕事をしている会社です。よろしくお願いします。

中村:PARTYの東京のクリエイティブディレクターの、中村洋基と申します。PARTYは「クリエイティブ・ラボ」と称しているですけど、「デザイン」「テクノロジー」「ストーリーテリング」ストーリーテリングっていうのは「文脈」です。

世の中の文脈とかクライアントの文脈とか、自分たちのそのそういうものをまく掛け合わせて、今まで世の中に見たことがない新しいものっていうのを、実際に自分たちで作って行くっていう会社です。よろしくお願いします。

川村:僕はもう話されちゃったんであんまり話すことはないですけど(笑)。僕のほうはPARTYの同じく設立メンバーなんですけど、今はニューヨークのオフィスのほうを仕切らせてもらってる川村と申します。

やってる内容はだいたい同じですね。日本で4年やって来たことを、日本の外でも通用するのかどうかっていうのを試したりとか、あともう少し少数のメンバーでニューヨークではもうちょっと実験的なビジネスモデルを試そうとしています。

日本の活動に加えてビジョンとしてやってることとしては、クリエイティビティをもうちょっと別の形でマネタイズするっていうか、新しいサステナブルなクリエイティブビジネスモデルみたいなものを探したいなと思って。

トライ&エラーの連続ですけど、いろんなやり方で自社プロダクトを作ってみるみたいなこととか、もうちょっとテレビ番組的なコンテンツの開発に力入れてみるとか。

片や、もうちょっとデザインコンサルティング的な入り方でクライアントと付き合うとどういう素晴らしい結果が生まれるか・生まれないのかとかっていうのを1年間やってきている、という感じですかね。もうちょい実験場感が高いというか、野生の王国というか。そんなことをやってます。

PARTYのクリエイティブディレクターは他社とココが違う!

田川:じゃあ僕がまず質問しようと思います。PARTYって今パートナーが4人で、クリエイティブディレクターとテクニカルディレクターもいる。

中村:います。

田川:幹太さん(PARTY クリエイティブディレクター・清水幹太氏)とかはテクニカルディレクター?

川村:幹太さんは何かもう、超越しちゃってる。彼はCTOっていうポジションでやっていて、テックディレクターとクリエイティブディレクターの素養も兼ねてる感じです。優秀な人ほど両方の素養があるのだと感じます。

田川:まず聞きたいのが、PARTYの仕事の特徴って、そのテクノロジーとクリエイティブとかストーリーテリングをちゃんと言葉にしてやってるじゃないですか。そのスタイルってすごく新しかったわけで、今までのクリエイティブディレクターがやってる仕事とは多分違うんじゃないかと思うんだけど。

旧型のクリエイティブディレクターがやってる仕事と、今PARTYがやってるクリエイティブディレクターとしての仕事って、どこが差でどこが一番すごいのかっていう部分を聞かせてください。

川村:田川さんにもまったく同じ質問聞きたいですけど。

田川:実際にやってる2人からぜひ聞きたいなと思ってます(笑)。

川村:旧来のクリエイティブディレクターな仕事をディスるつもりもないし、別に僕らもそういう仕事はしてたんで判るのですが、そもそもクリエイティブディレクターって、もっとテックとストーリーテリングを組み合わせて、きんと作れる人であるべきっていうか。

コンサルティングとかプランニングとかストラテジー、コンセプトだけでは止まらず、作れるがゆえにフィージビリティーもわかった上で、狂ったものを提案できたりもするのが大切だと思います。さらにそこにビジネスの視点も持ち込めるから、ちゃんとワークするソリューションも出せるというのが仕事なんじゃないですかね?

田川:なるほどね。

中村:以前、電通にいたんですけど、当時はHTMLをちょっと組めるくらいの人ぐらいしかいなかったんですよね、技術でいうと。だから「これができる」とか「これちょっと作ってみたんだけど」っていう技術発の提案はないんですよね。

皆やっぱり優秀な人だから、すごくアイディアおもしろいんですけど、フィージビリティをあんまり考えないで話して、企画だけ通ってプロダクションに投げて「できません」って言われて終わるみたいな。

その技術側面をサポートするスキマ産業みたいな仕事をしてるうちに、何かニーズが増えてきて「じゃあそもそも作れる奴が考えたほうがいいんじゃないか」っていうことで間を作ったみたいなところがありますよね。

トライ&エラーは恐れない

田川:中村さんは電通の中で、とりあえず作っちゃいながら提案するみたいなスタイルだったんですね。

中村:組むんですよ。自分で提案して。アウトプットまでやるときがあります。営業さんに「あれ、これってどこに外注しているの?」「ありません」と言って不思議がられたりとか。

田川:僕らって、年代的に大学時代とか若かった頃に、アイディアを持ってる人が実際に作れちゃうようになった初めての世代でしょ、多分。

中村:そうそう。

田川:映像にしても完パケまで何とか自分でいけるみたいな。

川村:そうですね。本当にDTPやらビデオ編集やら簡単に出来るようになったし、これをうまく享受しているっていうか。だからこそできる、もっとリアリティを持ってつくるっていうこともあるかもしれないですね。

田川:これ共通の感覚かもしれないんだけど、手を結構使いながら、アウトプットしたものを自分で見ながらさらに考える。そのプロセスが特徴なんじゃないかなと思って。プランニング力で先を見通せてしまう人たちは、僕もすごいなと思います。高い集中力で最後の部分まで決め切っちゃう人もいるじゃないですか。だけど、それとは違う感覚で仕事してますよね。

川村:トライ&エラーは恐れない感じはしますね。だから「ちゃぶ台返しちゃっても別にいいや」みたいな感覚があるのだと思います。それはプロトタイプするという制作プロセスに慣れてるから、作っては試してダメなところを改善するということが当たり前になっているんですね。

壁に突き当たったらもう1回「じゃあプロトタイプに戻るか」とかが簡単にできる。それだけ時間と予算のある理想的なプロジェクトもそんなにないことも多いけど、メソッドとしてはそれでどんどん良くしてくっていうのが健全だと思います。

田川:それって作り方っていうか進行が変わるでしょ? 今日のパネルでの中村さんの話の中にもありましたけど、ウォーターホールの中に、アジャイルをポコッと入れたプロセスの話はすっごい勉強になりました(笑)。

今までとは全然違う方法で進行させるとクライアントも混乱してついていけないこともあるじゃないですか。中村さんが言ってたバランスの取り方あたりがギリギリ、クライアントも許容できるレベルになってるのかなと思ったりもしたんだけど。

中村:そうですね、やりながら「結局全部アジャイルじゃダメなんだなあ」というか。

田川:いろいろ試しながら、そうなっていった感じなんですね。

中村:一回その、全部アジャイルっぽくやってこうみたいな。やっててちゃぶ台全部返して、また全部返してっていったときに、本当進まなかったんですよね。

田川:実際やってみたんですね。

中村:実際やってみた。やってみて何かちょっと納品遅れて謝ったりして。やっぱり伝統は大事だ、伝統と刷新だと(笑)。

田川:じゃあ一周して、いいとこ取りで。

成長には簡単で小刻みな"死亡"が必要

中村:そうそう、今そんな感じっていうとこですけど。逆に質問返しになっちゃいますけど、takramはアジャイルに近い、つまりプロトタイピングをしてから考え直すんですか?

田川:大きな塊で言えば、最初にリサーチしてプラン・コンセプト考えてプロトタイピングやって最後プロダクションにいくっていうのは、大きな流れではあるけど。そのそれぞれはお互いにオーバーラップしてて。プロトタイピングならプロトタイピングの前半だったら、コンセプト側に戻れる余白を自分たちで作りながらやろうとはしてます。

実際のプロジェクトであった話なんだけど、最終に近いプロトタイプを作って、素材感とか色とか決めて「じゃあこれでいきましょう」みたいな場面。そこでは2案出して、僕らがすごく気に入ってる案とクライアントの要求を完璧に満たした案とがあって。そこでは「現実的に考えたらこっちの案かな」ということで、クライアント向けの案が通ったんだけど。

次の週にやっぱりもう1回コンセプトに立ち戻って考えたら「やっぱり自分たちが考えてた案のほうが正しい」と思って。そこでちゃぶ(台)を返すときに……ただひっくり返すんではなくて、コンセプトの精度を一段高めながらプロトタイプの精度も高めて、それで通していくみたいな進め方でした。

川村:それを納得してもらう。

田川:そんな感じで、オーバーラップしてる部分では、行ったり来たりをある程度意図的にやってます。

川村:なるほどね。

中村:決断ってリスクを伴うじゃないですか、だから「そっちをやったほうが絶対いいよ」って言って決断して動かすのがクリエイティブディレクター。絶対、勘だけじゃなくて経験が必要になる仕事かなと思いますね。

田川:それは絶対ある。最終的にクリエイティブの仕事ってロジックだけじゃないところがあるから、やっぱりやってる本人がどれだけ言葉で、力をこめて言うかはすごく大事ですよね。

川村:そうですよね、プレゼンテーションも大事です。そこにもコミュニケーションのスキルが必要。自信なく見せられるのよりも「よくわからないけど、根拠ないけど自信たっぷりだからこれに乗っかろう」みたいなことだってありえる。まずは自分がそのアイデアを信じられるかどうか。

田川:若手のディレクター目指すタイプの子と接してて思うのは、クライアントの要求を取りあえず100点満点叶えようってなりすぎるのは、成長という意味では実は遠回りというか。自分が「この案は自分にとって本当だ」みたいなところまで高めたものがクライアントの意向と違ってたら、戦ってでも言うみたいな部分。

そういう芯の部分を持ってる人のほうが後半の伸びがいい。成長には何段階かあると思うんだけど。さっきのドラクエのレベルでいくと、ボスみたいなのと戦おうとすると、そういう部分のが必須で。レベル1とか10くらいだと、クライアントから言われたこと取りあえずやるので精一杯みたいなのもありますけど。

中村:例えばプレゼンして、ITとかよくわかんないクライアントのお爺ちゃんとかもう寝ちゃって「何でだろうな」とかって思って。年配のクリエイティブディレクターがしゃべったらパッと起きて「うんうん」みたいな。「この差はなんだ?」みたいな。

僕も「それなりにわかるようにしゃべってるつもりなのに、なぜ?」っていう体験をやんないと次に行けないっていうか。あとから伸びるっていう人は、そういう場面に立ち合える。軽い死亡。オーバーキルされて会社やめるんじゃなくて、簡単な死亡で小刻みに成長できるみたいな。

田川:中村さんの例えがすっごい染みる。

中村:(笑)。

田川:ドラクエとかドラゴンボールとかでしょ。天下一武道会終わったらフリーザ出てきたみたいな(笑)。

川村:世代がね。PARTYの名前もそこからだもんね。ドラクエのパーティーからきている。完全にそうですね。

際立っている人を捕まえてキャリアに活かす

中村:でも僕とマサ(川村氏)で違うのは、僕とか幹太さんは(PARTY CTO/Founder 清水幹太氏)フロントエンドのデベロッパーだったんですよ。いわゆるWebデザイナー。いろんな運が重なって、クリエイティブディレクターにいつの間にかジョブチェンジした。マサさんの場合、もっと複雑だよね。

川村:僕はよくわからないですね。

中村:海外も行きまくって、会社も変えまくって。

川村:いろいろやってましたからね。行くごとにコピーライターとか、アートディレクターって言われたりとか。インタラクティブの奴とか言われたりとかしながらクリエイティブディレクターだったんで。そのジョブチェンジいろいろしたみたいなことじゃないですかね。武闘家もやって、僧侶もやって魔法使いもやってから賢者みたいな。

田川:川村さんは、話聞いてると計画的にやってる感じですね。

川村:そうかもしれませんね。

田川:「誰々の仕事が近くで見たいからとりあえず行く」みたいな。目的がすごいはっきりしてる。

川村:そうですね。好きでも嫌いでも必ず学ぶところはあって、ひとしきり見たいなと思ったんですよ。コーディングもちょっとやっぱりやって、せめてしゃべれるようになっとこうみたいな。

田川:川村さんとこの前、別の場所で対談したんだけど、そこで川村さんいいこと言ってるなと思ったのは、すごい有名なエージェンシーとかでも結局「最後のところで1人の人間がどうやってるかという部分にしかエッセンスはない」っていう話をしてて。際立っている人の動きを間近でどんだけ見れるかという。

川村:そういう人どう捕まえるかというのが人生なんだと思います。だから本当に、優秀って言われるクリエイティブディレクターの人と仕事すると皆そういう経験があるように見受けられます。課題のみつけ方が大事なんだと思います。「実は問題そこじゃないんじゃないか」とかっていうのをちゃんとアイデンティファイできるのがクリエイティブディレクターの役目っていうか。