失敗を学びの機会ととらえる

田久保善彦氏(以下、田久保):大きな話題として2つ目が起業家に必要なリスク対応力みたいな話で、1つは胆力みたいなのがあるんじゃないかっていうことを、この間ちょっとお目にかかった時におっしゃっていて。胆力ってないとねみたいな部分。

それからもう1つは全然真逆で、実はものすごい臆病じゃないとリスクに対応しきれないんじゃないかみたいな話があったと思うんですけど。胆力っていうことからまず2人どんなふうに思われているか教えていただけたらなというふうに思います。佐々木さんからいいですか。

佐々木大輔氏(以下、佐々木):僕の場合には事業をどうして始めたかっていうと、本当に日本の中小企業のテクノロジーの活用度っていうのが世界に比べて圧倒的に遅れているっていうのを、Googleでの経験を通して感じていて、それを解決したいっていうのが自分のモチベーションになっているんですよね。

その問題を解決するっていうのが目標なので、そこに対して自分が失敗しても、例えうまくいかなかったとしても、それが先例になればある意味目的を達成しているかなと。

何か世の中の課題解決をしようというなかで、ひとつの先陣切って駒になって死んでもそれはそれで何かの参考になればそれで良しっていうような考え方っていうのがひとつあるのかなと。

もう1つは、そういう小さいことであれば常にアウトプット出してフィードバックを受けてっていうことを実践しているので、何かいちいち小さな失敗があっても、ありがたいフィードバックだなっていうふうに感じる。そういったところにあるのかなと思います。

田久保:今日の最初のセッションからも、失敗を学びの機会ととらえたらみたいな話がありましたけれども、そのサイクルが回っている限りにおいては、佐々木さんの中ではあまり失敗っていう定義にはならないんですかね?

佐々木:そうですね。死なない限り。死んでしまったらその後何もサイクル回せなくなってしまうので、そういうような命にかかわるようなことに関しては僕はすごく臆病なんですけれども、そうじゃないことに関してはドライにわりと学びだなって思うような、そういうスタンスを取るっていうこと。

田久保:使命感に基づく何かみたいなことですかね。

佐々木:そうですね。

欲しいもの以外はすべて捨てることで、胆力が身につく

田久保:吉田さんはどうでしょうか。

吉田浩一郎氏(以下、吉田):胆力ということはひとえに捨てることだと思います。自分の本当に欲しいもの以外はすべて捨てるということによってしか、胆力は生まれないと思っていまして。

それに気づいたのは36歳で、3年間やっていた役員が取引先を持って出て行ったと。しかも調べたら半年くらい前からメールとかで準備しているんですよね。私にはその取引先は任せといてくださいって言って、取引先には吉田さん来ないですよね、おかしいですよねみたいなことを言って引き剥がしにかかっていたっていうのを全然知らなかったんですね。それ知った時にめちゃくちゃ憎くて、本当に1カ月ぐらいそいつの笑い顔で毎晩目が覚めるぐらい結構憎んで。

結局その後、私海外でも事業をやっていてそこで1億ぐらい赤字を出してて、その担当役員も疲れたって言って出て行って、36歳の年末にオフィスで1人ぼっちだったんですね。社員とかいたんですけど辞めるっていう方向で、どうしようみたいな。

36歳がどっかのベンチャーに入れるかなみたいな感じで結構悩んでいる時に、上場企業からお歳暮が届いたんですよね。わかります? マンションの1室で1人でぽつんとしている時に、誰も訪ねてくるわけないのにピンポーンってきて、見たらお歳暮なんですよ。

これがめちゃくちゃうれしくて。私お歳暮ってちょっとバカにしていたんですよ、形式的なもんだろうみたいな。でも本当に気持ちが届いた気がして、アーっと思って。人の役に立って、人からありがとうって言われることがうれしいんだと。孤独が嫌なんだということを、その時初めて受け入れられたんです。

余談なんですけど、29歳の時に私熊谷さんにも会いに行っているんですね、熊谷さんの手帳で願いがかなうって本が出た時なんで会いに行って。熊谷さんが当時、今日おっしゃっていた、人々の感謝に100%貢献する気持ちがないと成功しないって、29歳の時わかんなかったんですよね。

その後、ドリコムの役員で上場してっていう中で振り返ると、上場とか社長とかお金儲けとか、そういったものに目がいっていたっていう自分を振り返って、そこで徹底的にリセットをかけて。車を持っていたんですけど車を売って、当時2,500万貯金があったんですけど、その2,500万を全部突っ込んで、ここから1年は給料最低限で1日1000円で過ごすと。

37歳で起業した時ですね。37歳で資産0にして1日1000円で過ごすというところまで覚悟すると、もうこれは胆力になるんですよね。俺は人々の感謝以外何もいらないって決めて、それ以外全部捨てるって。

今回の上場は胆力を身に付ける意味でも1つ選択したのは、上場の鐘を鳴らさないということですね。上場の鐘はユーザーさんのおかげで上場させていただいたんでということで、5回の鐘は全員ユーザーさんがたたきました。クラウドワーカーの皆さんで、ある時は66歳のシニアの方、ある時は子育てのママ。普通だったら東証の鐘に触れられない人ですよね。

その人たちを主人公にするということが我々の使命なんで、上場の鐘も今回たたきませんでした。上場のパーティーも行っていません。だからそういう捨てることで胆力は生まれるんじゃないかなというふうに思っています。

田久保:なるほど。ありがとうございます。

恐怖をなくしていくことが事業創出のモチベーションに

田久保:次はですね、さっき佐々木さんから、命がかかるような物理的な怖いものにすごい臆病なんだよねみたいなことおっしゃって、やっぱり経営者としての臆病さっていうのがすごく大事なポイントかなというふうに思うんですよね。

昔インテルの創業者のアンドリュー・グローブっていう人が、パラノイアだけが生き残るみたいな、そんなサブタイトルの付いた本を書いていたんですが、異常に細かいこととか常に気にかけているような人だけが生き残るんだみたいなことを書いた本があったんですけれども、その臆病さというか、繊細さというか、細部に神は宿りますみたいな話で、何か語っていただけることがあればと。

佐々木:僕は大学の頃、選考はデータサイエンスだったので、データ分析の仕事がしたいなと思って、アンケート調査の分析をするような会社でインターンを始めたんですね。始めたら僕はデータをいじることはすごい好きなんだけれども、すごい間違いをいっぱい犯すんですね、それこそグラフの数字が違っていましたとか、一桁ずれていましたとか、平気でいろんなことをやって、徹底的に怒られて。自分はデータを分析することは大好きなんだけど、すごい向いてないなっていうのをその時に感じたりとか。

その後投資ファンドで働いた経験もあるんですけど、投資ファンドで働くと何千行っていうファイナンスモデルっていうか、お金の将来の予測みたいなのをやるんですけど、そこでもしょっちゅう式を間違えたりとかして、めちゃめちゃ怒られことがあって。本当にそういったところから、何か人が数字を手で入力しているとか、なんかこれ間違いそうみたいなのを見るだけで嫌だっていうのがあって、そういうのにすごい臆病なんですよね。

ベンチャー企業のCFOやっている時に、隣で僕のチームの中にも経理の人間がいたので、日々領収書とか請求書とかの入力をやっているんですけど、それも本当に見てられないというか、見ているだけでこの人違えちゃったらどうしよう、怖いなっていうのを自分事のように感じてしまうっていうのがあって。

それ自体が実は今事業になっているっていうのが、意外とおもしろいなと思うんですけれども。なんとか人が何かものを入力するとかってやると、間違えるし、間違えたって言って責任感じるとまた更に萎縮しちゃいますよね。

これって振り返ってみてわかったんですけど、僕は本当にそういうのが嫌で、徹底的に世の中から無くしていきたいなと。そういった思いっていうのはプロダクトを作る中でもひとつひとつ気になってというか。

これ本当にいちばん楽になっているのかな、本当に間違えないようになっているのかな、本当に最小工数でできるようになっているのかなっていうのを、自分が怖いからこそそういった気持になって考えるっていうのもすごくよくやっているのかなと。

臆病なことは、実はとても大事なポイント

田久保:それがビジネスになったと。ありがとうございます。吉田さんは。

吉田:臆病さは非常に重要だと思っていて、私実は法律上は採用の決定権はありますけれども、社内の運用上は決定してないんですね。これ大丈夫かな上場企業で(笑)。

どういうことかと言うと、実績としてドリコムで上場した時に営業部隊が必要だということで、30人採用したんです、1カ月で。1年後に25人辞めたんですよね。その後1回目起業して3年やって、役員が取引先を持って出て行ったんですよね。つまり私の結論は、私は人を見る目がないと(笑)。

今回の採用はどうしたかっていうと、役員の合議制に完全にしています。やっぱり3人の役員で合議制にすると、おもしろいぐらい私が採用したいって言った時に、残りの創業の2人がノーって言うんですよ(笑)。えー、俺やっぱり見る目ないなみたいな感じで。今役員6人ぐらいいるんですけど原則は全員面談という形で、最近は私も入らないぐらいの形で、現場主導で、現場の合議制で決めるという形でやっています。

そのおかげで実績としては180度真逆で、創業から労務トラブルもないし、正社員が2人しか辞めてないし。1人は子育てで辞めているんで、純粋に辞めていただいた1人ぐらいなんですね。っていう、この臆病さ(笑)。

1人1人が主体的に働ける仕組みをつくる

田久保:もしかすると吉田さん自身が不得手なことは、人に任せるっていうコンセプトを、最初に起業した会社を駄目にしてしまった時に学んだことだって、雑誌の記事とかいくつかあったんですけど、それに近い感じですかね。

吉田:そうですよね。こう言うとあれなのかもしれないですけど、人が辞めるの本当怖いですからね(笑)。でもちゃんと辞める時は辞めてもらわないといけないと思うんですけど、現状はやっぱり、日本とアメリカのコミュニティ、働き方とか比べると、実はアメリカって個に対してコミュニティが複数あるんですね。

例えば会社っていうのがあって、夜は会社以外の友達と飲むわけですね。で、家族があって、宗教があるんですよ。ところが日本って分析するとこれ全部一つの器で会社が担っているんですよね。だから夜は会社のメンバーで飲みに行こう、土日は一緒に家族でバーベキューを会社でやろうみたいな。

そういう意味でいくと日本での経営っていうのは働きやすさとか、ファミリーであることっていうのはひとつニュアンスとしてはすごく重要だと思っていて、そういったものが私はたぶんあまり得意じゃないということで(笑)。そういうのが得意なメンバーと一緒にやっているという感じですね。

佐々木:それは意識的に最初得意なメンバーを探したんですか?

吉田:CFOの佐々木っていうのは、わりとちょっとおふざけが好きなんですよ。人を斜めに揶揄したりとかですね、ちょっとおもしろいことを言うのが好きなんですよ。

私と創業当時のCTOの野村は完全に体育会系で、仕事がつまらなくても全然やれるタイプなんですよね。やれって言われたことは徹底的にやるみたいな。でもこれだとこれからの経営って人がついてこないなっていうふうに思っていて、やっぱり楽しく笑顔で毎日働ける組織を作っていきたい。

これからはこれだけインターネットで情報が行き渡っているので、本当に自分がワンマンでやるんではなくて、現場の1人1人が主体的になって動くっていう。だから採用も私入ってないで決めてもらって、自分たちの責任で決めたんだから、自分たちでちゃんとやろうぜっていう運用にしていたりしますね。

田久保:なるほどね。ありがとうございます。

制作協力:VoXT