元リクルートの起業家に聞く、あえて外で起業した理由

鷺山昌多氏(以下、鷺山):今日はお仕事後のお忙しい時間にお集まりいただき、本当にありがとうございます。今日はリクルートOBの起業家の方々と語り合う会なんですが、ご存知のとおりリクルート社といえば「Ring」という新規事業提案制度ですね。社内から爆発的に新規事業を量産している会社としても有名です。同時に言えば、起業家輩出企業だと昔から言われています。

リクルートの人材力については、2000年代前半からいろんな本にもなっています。かくいう私もそれに憧れながら過ごした世代の1人です。リクルートから出られて、あえて外で起業されている方々、経営をされている方々に、その背景や今やっていることをうかがってみたいというのが、今回のイベントを企画した原点です。

ごく簡単に、自己紹介をさせていただきます。今日主催しております「Beyond Next Ventures」という、私がおります会社は、いわゆる研究領域、テック領域のベンチャーキャピタルです。ヘルスケア・アグリ・環境など、ディープテック領域で挑戦する起業家に投資をしています。私はこの新しい領域で、起業家になる方たちのキャリア応援の担当している、鷺山(サギヤマ)といいます。

このディープテック、ザ・研究領域でも、文系経営者の方々が増えています。細胞治療・AI医療・ゲノム編集。なんか難しいなと思う領域でも、投資銀行さんとかコンサルさん、そしてリクルートさんとか、いろんな方々が経営陣としてその事業を支えておりまして、私たちもすごくうれしいことだと思っています。

今日ご登壇いただきます磯野さま、森脇さま、宮原さま、田中さまの4名も、リクルートさんの事業の延長線にないもの、新しい領域を経営者として手掛けています。こういうチャレンジがこれからも続くんだと思います。そういう新領域をどういうかたちで始めるのか、あえて社内ではなく社外でやるのはなぜなのか。このへんを掘り下げていくのが今日のメインテーマです。

お話を聞いていただいて、「自分も何か新しいチャレンジを、遠くにジャンプしたところでやりたい」と思う方が1人でも増えれば、今日はハッピーかなと思っています。

東日本大震災の原発事故をきっかけに会社を立ち上げ

鷺山:今日のテーマは3つです。「起業テーマをどう見つけるか」。そしてそれを「どう見極め決断するか」。「大企業の中でやるか外でやるか、いつやるか」。このへんを聞いていきたいと思っています。

ということで、まずご登壇の4名に自己紹介からお願いできればと思います。まずは磯野さま、ぜひ自己紹介いただけますでしょうか。よろしくお願いします。

磯野謙氏(以下、磯野):よろしくお願いします。では7分時間をいただいているので、簡単な自分の自己紹介と、今やっている自然電力の会社の事業概要をお話しさせていただきます。

今回、今日一緒に登壇させていただく宮原君にお誘いいただきました。彼は僕のリクルートの同期です。こういう会はものすごく久しぶりです。僕はもうだいぶ昔に独立したので、過去のリクルートの人間です。

リクルートには2004年から2006年まで在籍しました。2年で辞めて、その後は今の再生可能エネルギー業界にいます。今、「再生可能エネルギー」という言葉をご存知ない方はあまりいないんじゃないかなと思うのですが、自然電力を起業する前の20代の最後は風力発電のベンチャーで働いていました。そのさらに前の20代はぷらぷらしていまして、屋久島に移住して住んでみたりしていましたね。

30歳の時に2011年の東日本大震災に伴う原子力発電所の事故が起きました。その時に「自分たちにできることはないか」と。国や電力会社のせいにするのではなくて、自分たちでできることをやろうということで、その時、風力発電のベンチャーにいた3人で作ったのが、この自然電力という会社です。

仕事が作れれば、世界中どこに行ってもいい

磯野:「Take action for the blue planet」を存在意義に掲げています。存在意義、つまりパーパス(Purpose)を昔から大切にしてきました。

事業の概要としては、専門用語が並んでるので分かりにくいのですが、小さい電力会社のようなイメージです。ちょっと分解すると、不動産業と建設業の掛け合わせです。発電所を作る場所を探して、建設して、運営して、電気を届けるということをやっています。

エネルギー会社をやってますが、組織的にお堅い会社を作りたいわけでもない。仕事が作れれば世界中どこに行ってもいいと思っています。私たちは地球全体の問題に取り組んでいるので、場所はどこでもいいから再生可能エネルギーをとにかく早く広げてくれ、みたいな会社の文化がありまして。それで事業が世界のいろんなところに広がっています。

今は日本と東南アジアとラテンアメリカでの事業を行っています。どこも再生可能エネルギーの発電所を作っていくという同じことをやっています。

数か国で事業を展開していますが、グローバルとローカルの間に立つことを非常に大事にしています。我々は単なるグローバル企業ではなく、ローカルをつなぐ企業だと思っています。

例えば、一部の人はご存知かもしれませんが、洋上風力の事業をカナダの会社と東京ガスさんと我々3社の合弁会社で開始しています。

ちょうど先日(2022年1月25日)の日経の新聞に我々の名前が出ていたようです。今情報がオープンになっているところでは、千葉県でこの洋上風力の開発をやっています。

あとはベトナムのローカル企業と我々の合弁会社がありまして。そこで所有する発電所に、ENEOSさんに入っていただきました。ローカルというのは日本の地方という意味だけではなく、世界中にローカルがあるので、そういったところとどんどん組んで、世界中の資本を集めてくるという進め方をしています。

「脱酸素」の流れから、世界各国での相談が増加

磯野:最近、再生可能エネルギー業界は、発電所を作るという、どちらかというと政策とかエネルギー会社主体の産業から、「脱炭素」という世界の大きな流れの中にあります。企業や電気を使う側からの要望も非常に増えてきました。例えばこの写真は愛知県に本社を構えるアイシングループさんのタイ現地法人の工場で、電力供給をさせていただいています。

アイシンさんだけではなく、いろんなグローバル企業の再生可能エネルギーの調達・供給を行っています。我々は「世界中どこでもできます」が謳い文句で、そういったことが最近、かなり増えてきています。東南アジア各国の工場などに電力供給をしてほしいという日本のグローバル企業もありますし、欧米の企業からアジア全域でやってほしいという話も増えています。

あとこれは日本の地域の話ですが、私たちのグローバルのノウハウを、日本の地域に落とし込んで、新たなインフラを作り出すという事業も行っています。

これは長野県の小布施町と地域のケーブルテレビ会社と我々の合弁会社で、エネルギーや新たな通信、モビリティといった形で、次世代のインフラを構築するというテーマでやっているプロジェクトです。

あとは最近「エネルギーテック」と言われてますが、再エネ発電所の需給管理やEVや蓄電池のエネルギーマネジメントなどを行う、アグリゲート・エネルギーマネジメント・システムを自社で開発しています。

例えばap bank(小林武史氏、Mr.Children櫻井和寿氏、坂本龍一氏が拠出した資金で設立された非営利団体)の、小林武史さんがやってらっしゃる「KURKKU FIELDS」のエネルギー自給の仕組みとして、太陽光発電とテスラ社のバッテリーを組み合わせて、我々がそれをインテグレートして提供するということもやっています。

すみません、7分過ぎちゃいましたが、以上が事業の概要です。ありがとうございます。

鷺山:ありがとうございます。コメントにいただいたとおり、「リクルート卒起業家」というよりは、もうこのエネルギー領域の起業家として話すほうが、本当はお話ししやすいのかもしれませんが。ぜひちょっと昔のことも思い出しながら今日はお付き合いください。ありがとうございました。

「睡眠の解明」と「治療の開発」に踏み込む

鷺山:では宮原さん、続きまして自己紹介をお願いいたします。

宮原禎氏(以下、宮原):宮原と申します。1982年生まれの1月1日生まれで、リクルートには新卒で2004年に入社して、7年弱働きました。働いている時は半分システム開発をやってまして、その後、事業開発をやっていました。

30歳ぐらいから会社経営を始めまして、今の会社の前に、2社ぐらい会社を経営しています。前職は、一昨年上場した「JMDC」という会社です。パーソナル・ヘルス・レコードの事業開発をして、今現在その事業自体が、日本で最大のパーソナル・ヘルス・レコードの事業になっていると思います。

その時はあくまでデータ分析のビジネスとサービス開発でしたが、そこからいろいろ課題感を感じて、今は睡眠特化のデバイス開発の会社「ACCELStars」の経営をしています。

このようなビジョン(「睡眠を解明し、新たな治療を創造する」)になっていまして、まず「睡眠の解明」。睡眠って脳の表現型(形質・特徴)なんですけれども、その解明と、あと「治療の開発」に踏み込んでいくというものを目指しています。

設立自体は2020年8月です。今年の4~5月から本格的に事業を立ち上げて、シードの資金調達をして一気にがんばって会社を立ち上げています。

いわゆる大学発ベンチャーと地方発ベンチャーの両方の特徴を持っています。東大発ベンチャーとして、今は東京大学の本郷キャンパスの中にオフィスがありまして。かつ日本に科学技術拠点が4つありますけど、(そのうちの1つである)久留米リサーチ・パークにも実はオフィスを構えております。

睡眠リズムの解析し、治療や診断に活かす

宮原:ビジネスとしては、まず睡眠と疾患の関係を解析することをやっています。睡眠は、脳の好感度のデジタルバイオマーカー(デジタルデバイスを介して収集される医療用のデータ)なんですけど、精神疾患とか中枢神経疾患、神経変性疾患、例えばパーキンソン病とかアルツハイマー病、あと発達障害などには特徴的な睡眠の問題が出るんです。

日常的な睡眠相(睡眠リズム)を把握して解析することによって、治療の効果を把握したり、そもそもの診断に生かすようなことを進めています。

今週、理化学研究所と東大医学部側から、『アイサイエンス(iScience)』というところに論文を投稿しまして、無事acceptされて、来週ぐらいからグローバルにパブリッシングされます。我々のウェアラブルデバイスから取得するアルゴリズムが、現時点だと他社に比べて非常に特異度が高いんです。

ここで言っている「特異度」というのは、覚醒時ですね。睡眠における覚醒を覚醒として捉えるというアルゴリズムの技術が非常に高い。これを社会実装するために、実際ウェアラブルデバイスの開発もしています。

論文のタイトルは「A jerk-based algorithm ACCEL for the accurate classification of sleep– wake states from arm acceleration」です。アクセラレーション(加速度)をさらに微分して、その加加速度(躍度)をベースにしたアルゴリズムですよ。すごく精度の高いアルゴリズムですよ、ということなんですが。機会があればこの論文を読んでいただけると、その背景とか技術的背景が見えるのでおもしろいかなと思います。

薬の効果を最大化・最適化する「育薬」の事業開発を開始

宮原:事業の全体像としてはこういうものをやっているんですけど、1次予防として「睡眠健診」をやっています。いろんな企業とか大学と提携をしていて、今日本で20個ぐらいの臨床研究のプロジェクトを、半年で立ち上げまして。すでに、かなりのいろんなデータを集めてきている状況になっています。

社会実装していきたいコンセプトとしては、この「Systems-based medicine」と 「Circadian medicine」というものです。人の体ってすごく複雑なシステムなんですけど、そのシステムをベースにした医療の開発を考えています。

例えば抗がん剤でいうと、「概日リズム」といわれる、起きてから寝るまでの身体の1日のメカニズムを把握しながら投薬するのと、そうじゃないのだと、薬の効果は非常に変わってくるんです。そのようなものを「Systems-based medicine」と我々は呼んでいます。これは「Circadian medicine」とも言えるかなと。

このようなものを今、製薬企業とコラボレーションしながら、育薬という分野ですね。薬のパフォーマンスを最大化・最適化していく事業開発を始めています。

実際は虎の門病院とか桜十字のグループとか久留米大学だったりとか、さまざまな日本の大学、医療機関と業務提携ないし共同研究を開始して、実証を始めながら、さまざまな医療を提供するという事業をやっています。以上になります。

鷺山:ありがとうございました。宮原さんからはディープな医療のお話が出てまいりました。補足をいたしますと、宮原さんは医療研究のプロフェッショナルではいらっしゃらないのですが、今どうしてこの事業に取り組んでいるのかも聞いてみたいと思っております。ありがとうございました。

「スタディサプリ」生みの親の考えに触れ、リクルートに入社

鷺山:では続きまして森脇さん、お願いします。

森脇潤一氏(以下、森脇):どうぞよろしくお願いいたします。株式会社エンペイの森脇と申します。私は2020年4月にリクルートを辞めましたので、創業してから1年半が経ちました。

少しキャリアについてもお話しさせていただければと思いますが、最初はメディックス、博報堂DYという広告会社を経て、リクルートに入りました。

今(参加されている方々は)大企業の方が多いと聞いているんですけれども、広告ビジネスをやっていると、自分の仕事の社会的な価値とか、果たして何に本質的な価値を提供しているんだろうということを悩む機会がずいぶんありまして。もっと手触り感があって、自分のやってる仕事が社会に必ず価値を届けているんだということを、身をもって感じたいなと思うようになりました。

今は「スタディサプリ」という名前に変わってますが、当時の「受験サプリ」というサービズを、リクルートの山口(文洋)さんという方が作ったんです。彼は「教育の機会格差をテクノロジーによってなくしていくんだ」と。かつ、それはNPOではなく、事業としてのアプローチで社会を変えていくというものに触れまして。「すばらしいな、この会社で働いてみたい」と思い、リクルートに入りました。

そういうものを目の当たりにしてましたから、自分も事業開発をやっていきたいということで、先日上場されたKAIZEN PLATFORMの須藤(憲司)さんの作った事業開発室に、2013年に入りました。そこからもう一貫して、7年間ずっと新規事業開発を担当していました。

「Airペイ」のプロダクトマネージャーから起業家に

森脇:一番大きく仕上げた仕事として、リクルートは「New RING」という社内の事業開発コンテストがあるんですが(※注;2018年に「Ring」にリニューアル)、そこでグランプリをいただいて、自分で事業を1個立ち上げて、最後は外部にイグジットするところまで経験できたというのが一番大きかったかなぁと思っています。

フィンテックのベンチャーを立ち上げたんですけれども、(リクルートでの)最後1年間は「Airペイ」のプロジェクトマネージャーをやっていました。(中国のネットサービス大手企業)テンセントや国内のQRコード決済事業者とのアライアンス交渉を行ってました。結果として、キャッシュレス界隈での知識を非常に得られたというところで、今に活きております。

あとは今、社会福祉法人の保育園の理事をやらせていただいています。自分の事業の経営と、「社会福祉における経営はなんぞや」というところの両方に携わらせていただきながらキャリアを築いております。

現在会社はシリーズAのステージで、累計で4億7,000万円調達し、それを資金に事業運営に臨んでおります。従業員は約25名で、今期~50名ぐらいを目指して採用活動もがんばっているところです。今現在は、少数でこの新しいマーケットに対して価値を出していこうとチャレンジをしております。

学校や保育園の「現金集金作業」をクラウド化

森脇:会社のミッションですが、「やさしいフィンテックを。テクノロジーの力で、新しいお金の流れと社会をつくる。」と掲げております。この「やさしい」というのは、人に「優しい」という意味と、簡単である「易しい」、そのダブルミーニングです。

もともとフィンテックは優しい社会作りに寄与できるだろうと思っておりますし、もっともっと簡単な仕組みによって、社会を発展できるんじゃないかなぁと思っております。

あとはこういう会社ですから、NPO法人への寄付活動を積極的に行っております。今、弊社の決済流通額の一定割合を毎月「こども宅食」ですとか、養子縁組事業に寄付をしています。我々の事業が大きくなればなるほど、寄付のほうにもお金が流れていくような、新しいお金の循環モデルにもチャレンジをしたいなと思っています。

最後に具体的な事業は、「enpay」というサービス一本で勝負させていただいております。今日お聞きのみなさまの中でも、集金ですね、学校や保育園にお金を払うとか、お月謝を払うといった、どこかの施設にお金を払う経験をされたことがあるんじゃないかなと思うんですが。

今は現金集金が主流です。現金集金の業務を行っていると、非常に生産性も悪いですしミスも起こりやすいというペインが沢山ありました。そこを撃ち抜いて、今完全に課題がないような状態まで導いていけるサービスがこの「enpay」です。

流れは非常にシンプルでして、クラウドの管理画面から請求の品目等金額を打ち込んで送信を押せば、相手のスマートフォンに届いて、そこから支払いが完了する。そうすることによって、データ管理も会計処理もできるし、銀行への接続なんかもできるという。

これ1つで今までの業務が、クラウド上で全部完了するということで、お客さまに喜んでいただいています。全国的にどんどん普及が進んでいる状態です。

僕はリクルートでクラウドのSaaSを作っておりました。その後、フィンテックを経験し、自分のキャリアの延長線上で起業したわけですけれども。そのあたりで何かしら、みなさんに少しでも感じていただける部分があればいいなと思い、今日はお話しさせていただければと思います。よろしくお願いします。

鷺山:ありがとうございました。森脇さんといえば、リクルートの新規事業請負人ということでいろんな記事にも出ております。今日のご登壇者さまの中でも特徴がある(ご経歴か)と思いますので、ちょっとそのへんの話を楽しみにしております。ありがとうございます。