だらだらしたり休んだりでいる自分を全肯定する

司会者:次の質問いきましょうか。

犬山紙子氏(以下、犬山):「(出産後や子育て中に)寝落ちされるという話があったのですが、時間を無駄にしたとか、もったいないと感じることはありますか?」。あぁ~! これもわかるなぁ(笑)。

これについては私、かなり自分の考え方を変えまして。だらだらしたら、「だらだらして私偉いわ」と思うようにしました(笑)。

司会者:変えたってことは、その前はちょっともったいなさみたいなものを感じていたんですね。

犬山:そうですね。その前は「この時間内でこの仕事をやってしまわないと」とか、「この時間内でなにか生産性のあることをしなくちゃ」って、ずーっと追われていたんですよね。生産性って言葉が大嫌いなのに、自分が生産性にとりつかれて、自分のことを物のように扱っていたなと。それで介護でもめっちゃ失敗してたので、産後は休んだら「ばり偉い」と思うようにしました。

寝たり休んだりして体調を整えるって、その後にとってはめちゃくちゃ大事なことやん。だらだらYouTube見たって、「私、ばり偉いな」って(笑)。「だらだらしないと生きた心地せんって!」みたいに、とにかくだらだらする自分を全肯定していました。

司会者:あぁ、その視点は救われますねぇ。

犬山:いえいえ。でも、そのためにだいぶ環境を整えるんですけどね。だから寝過ごしたりとかしても、「めっちゃ寝たわ」「いやぁ、体回復したわ。自分えらい」みたいな感じなんですよね。綺麗事じゃなくて、本当にそうしました。

司会者:自分のマインドを変えた。無理矢理にと言ったらアレですけど、自然に変わっていったというよりも、そう考えようと意識をして、そう自分のマインドを持っていったという表現のほうが合っていますか? 

犬山:そのとおりです。意識しました。なのでみなさんもよかったら「めっちゃ寝ちゃったなぁ」とか、「だらだらしたなぁ」「休んで偉いなぁ」って思ってください。

司会者:やってみます。

育児でのイライラを、子どもや家族にぶつけてしまった時の対処法

犬山:次の質問はどうでしょう。

犬山:「育児でイライラしたり気持ちが抑えきれずに家族に強く当たってしまい、後から罪悪感に苛まれたりするのですが、犬山さんはそういうことがありましたか?」。

めっちゃありますよ。私はカウンセリングに行って、理不尽に怒らないようにがんばっていたけれども、それでもやっぱり子どもに対して怒ってしまうことはありました。

さっきちょっと話したんですけど、(子ども1人に対して)まず大人が私1人で、かつ時間に追われてる時か、それか周りの目がある公共の場の時。そういった時に、私はそういう感情的なスイッチが入っちゃうって自覚してるんです。みんなはどうなんでしょうね(笑)。やっぱりイライラしちゃったりとか、子どもに対して強い言い方をする時はあるんですよ。

司会者:そうです、そうです。

犬山:頭ではわかってるんですよ。育児書とか読んで、そんな言い方してもだめとか、「お母さん知らないよ」なんか言っちゃだめってわかってるけど。でも、もう延々朝ごはん食べへんやんみたいな(笑)。保育園に遅れるという時に、「もうお母さん知らへんねん!」みたいなことを言っちゃうというね。

司会者:「ママ怒ってる~」とかって言われません? 

(一同笑)

犬山:「怒ってへんわ!」ってめっちゃ怒ってる時ありますね。

司会者:(笑)。子どもに言われて、もうあかんなとか思うんですけどね。

必要なのは、「子どもに対して親が権力を持っている」という自覚

犬山:がんばっても、どうしても月1月2とかでPMSだったりするじゃないですか。だけど、人間なんて絶対に失敗するから、その時はちゃんと子どもにごめんなさいができる親であれば、ええんちゃうかなって。そういうのは本を読みながら学んだことですね。

やっぱり対子どもなので、どう考えても私のほうが権力がある。親の方にすごく勾配がついている関係性じゃないですか。そこで私が「あんな言い方しなくてもよかった」ということを謝らないで、もう過去のことはすべて正しいという感じでいくと、やっぱり子どもにたまっていくんです。

母親が大声を出して子どもがビクビクしてしまうとか、子どもが自分の意見を言えないとか。顔色をうかがってしまう子どもがどんどん出てくると思うんですよね。

そういった時に、ちょっと同じ目線に立って、「あんな言い方することなかったな」「本当にごめんなさい」って、ちゃんと心から伝えるということだけは、意識してやっております。

司会者:私も子どもに謝る時があるんですけど、謝りながら泣いてる時とかありますよね。

(一同笑)

司会者:ないですか?(笑)。

犬山:だいたい保育園に行く前にけんかして、帰ってきた後はめちゃくちゃ愛おしいんですよ。「なんでこんなちっちゃな子に、私はこんなんこと言うたん?」って、「はぁ~!愛おしい!」みたいになりますよね。

司会者:私が「朝はごめんね」って言ったら、子どもは「なんのこと?」って忘れてたり(笑)。親が1日めっちゃ悩んでたのに、本人は忘れている時もあったりね。なるほど。素直に「強い言い方しちゃってごめんね」とか言った方がいいんですね。

犬山:やっぱり自分の子どもに対して、親である自分が権力を持っているということは自覚的でありたいなと思いましたね。

夫婦の育児家事バランスは、「その日1日の総量」で決める

司会者:次の質問、いきましょう。

犬山:どれにしようかな。「犬山さん、いつも劔(つるぎ)さんと仲よさそうだなと微笑ましく拝見しているのですが、家庭内の育児とか家事はどうバランスをとっているんですか? 話し合いをしようとしても、結局こちらの負担が多くなったり、けんかっぽくなったりで嫌になります。自分でやったほうが楽かもと思ったりもします」。もう、きついね。

司会者:一応知らない方のために説明すると、犬山さんの旦那さんが劔樹人さんですね。

犬山:そうですね。うちの育児や家事のバランスは、「お互いその日1日の総量がとんとんになる」というのをベースに考えています。外の仕事も、家の中の家事とか育児も全部ひっくるめて、その日1日どれぐらいその人が働いたかで考えて、それがちょうどお互いとんとんになるように。それはだいたい、お互いのごろごろしている時間の総量で見えてくるので、そこを意識していますね。

あとは、私はすごくしゃべるし、自分の権利はめっちゃ主張するけど、夫は本当に優しい人なので、なかなか自分の権利を主張できないんです。なかなか自分から「疲れた」とか、SOSを出すのが苦手な人なんですよね。

だからそこは私が先回りしてヒアリングをします。家事育児は、夫のほうが担っている割合が多いので、私側がちゃんと夫に「今どう? なにか変える?」だったりとか、「しんどい?」だったりとか聞いてあげる。あとはスケジュールを2人で見ながら「どのへんがきつくなりそう?」とヒアリングして、私が調整できるところは調整する。できないところはベビーシッターさんに任せるとか。そのヒアリングをめっちゃ大事にしていますね。

司会者:犬山さんから「苦しくない?」って聞くってことですよね。

夫婦のバランスを知るための「名もなき家事」の可視化

犬山:そうですね。ただこれは、どっちかっていうと本当は家事育児の割合が少ないほうがやるべきことだと思っています。うちの場合は私になるんですけど、基本的に家事育児は女性が担っていることが多いと思うので、ヒアリングは男性がやるべきことになっちゃうと思うんですよね。

ただ、社会のバイアスで「育児家事は女性がするもの」というところがどうしても出てきてしまって、男性側がそこに気持ちが追いつかないところがあると思うので。

司会者:(質問者さんが)この「自分でやったほうが楽かもと思ったりします」って書いているんですけど、先ほど犬山さんが「自分さえ我慢すればいい」ってならないようにってお話されたことと、ちょっと似てる台詞だなと思いましたね。

犬山:そうですね。ぜひこれについてはおすすめの本がありまして。前田晃平さんが出された本で、『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』って、すごいタイトルなんですけど。でも、本当にそのとおりで。

パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ! ママの社会進出と家族の幸せのために

この前田さん自身が、「いや、自分はけっこう家事育児をやってるほうの夫やで」って思って、妻と話し合って、お互いの家事と育児をどれだけやってるかって書き出して、可視化されたんですね。

そうするとやっぱり圧倒的に妻側のやっていることが多かった。「えー! 俺けっこうやってると思ってたけど……」みたいな。「名もなき家事」がいろいろあって、「ぜんぜん平等ちゃうかったわ」って可視化されたことによって、それでガラッと変えていったという。実際に男性側が行動を変えたという本なんですけれども。

あとは、まさに家事育児分担を可視化するアプリとかも今出ているはずなので。

司会者:え、アプリでそんなんあるんですか? 

犬山:あるんですよ! それを利用されるのがおすすめかなと思いました。ぜひ、冷静にデータと共に夫側にプレゼンをしてみればと思います。

司会者:なるほど。ご質問してくださった方、ぜひやってみてください。

誰にも相談できず、フリーランスしかないと決めつけていた

犬山:「家事を書き出すの、犬山さんっぽい(笑)」ってコメントをいただきましたね。

司会者:(笑)。次の質問はどうでしょう。

犬山:「フリーランスを選んだきっかけって、介護や子育てと関係ありますか?」というご質問なんですけれども。これは確かに、介護でフリーランスにならざるをえない状況になったんですよね。そもそもは会社に出勤して取材したり文章を書いたりしてたんですけど、母親の横でできる仕事をということで、フリーランスか作家を目指したので。まさにこの方のおっしゃるとおり、関係はあったんですが、結果、すごく性に合ってたなと思います。

司会者:なるほど。

犬山:私はフリーランスしか道がないと思ってたんですよ。会社勤めをしながらお母さんの介護なんて無理やろって決めつけていて。でもその時は、自分の将来、ケアラー側の将来を相談できる人がいなかったからそう思っちゃうと思うんです。

今はもうインターネットでいくらでも情報を取れるので。例えば国の使える制度だったりもきっとたくさんあるはずなので。あの時みたいに「私はもうフリーランスじゃないとできないんだ」ではなく、今ならいくつかの選択肢を見ることができると思います。

司会者:なるほど。介護と会社勤めの仕事の両立を実現するために、その方法を探してみて……。

犬山:そうですね。使えるものは全部使って。情報がその人に届かないことが多いんですよね。行政って告知も下手ですし、ホームページにいってもどこに何があるかわからないこととか、けっこうあると思うんです。そこはNPOさんとかでもいいので、プロに教えてもらっていいと思うんです。積極的に人に甘えるべきところだったんだろうなと感じています。

母乳育児、2人目の出産、子どもの性別……育児中の「クソバイス」

司会者:ありがとうございます。みなさんから続々とコメントをいただいております。

犬山:ありがとうございます。「ママは完璧にできて当たり前だよという状況や、そういった情報がよくあります」。ありますねぇ。「ママ同士で話をしても、みんながんばりまくりです。それを気にしない方法はありますか」ということです。ありがとうございます。

まずは自分で自分に声をかけることだと思うんですよ。周りから言われた時に、ブロックできると思うんですね。私はクソみたいなアドバイスのことを「クソバイス」って呼んでるんですけど(笑)。「こっちの事情もよう知らんのに、ようそんだけ口出してくるなぁ」みたいな。育児してたら、特にいっぱいありますよね。

『言ってはいけないクソバイス』

司会者:(笑)。そうですねぇ。

犬山:「あんた、母乳ちゃうん!?」とか。もうそういうのでいっぱいなんで、「この人、クソバイスを出してきてんな」という時は、「あぁ、はいはい。クソバイス」って思うのもいいですし。

以前、上野千鶴子さんにイベントでご相談した時に、「その人らは、あなたの人生に責任取ってくれへん人やん」って。あ、上野さんは関西弁じゃないですね。すみません(笑)。

司会者:(笑)。

犬山:「その人たちはそうやって口を出してくるけれども、責任を取る人じゃないですよね。だから気にしなくていいですよ」って言われた時に、めっちゃそうやんって思いましたね。

例えば今の私だと、子どもが1人なんで「絶対2人目も産み!」ってめっちゃ言われるんですよ。「ひとりっ子はかわいそうやで」とか「兄弟おったほうがええで」とか。それって善意なんですよ。善意で言ってるけど、そもそも子どもを産むって命がけじゃないですか。そして、それぞれで事情が違いまくるじゃないですか。

司会者:環境もね。

犬山:そうなんですよ。本当は安易に口出しちゃいけないところなんですよね。あとは性別について言ってくる人とかもね。「あぁ~、女の子か。次、男の子がんばりや」って。「どうやってがんばんねん!」みたいな(笑)。

クソバイスをする人は、自分の人生の責任を取ってはくれない

犬山:そう言われた時に、「あぁ、でもこの人たちは、別に私たちの人生に責任を取ってはくれないし」って、まずはブロックして。

それでも自分で自分のことを責めちゃってるなって思った時には、ちっちゃい自分を大きい自分が抱きしめてるイメージで、ポンポンして。「大丈夫、大丈夫」って(笑)。そういう認知行動療法的なアプローチを取ることもあります。

司会者:うーん。なるほど。質問者さんの「がんばりまくりです」というの表現が、世の中のお母さんたちにぴったりだなって思いました。

犬山:もうノーベル賞ものですよ。

司会者:がんばってますよね。

犬山:本当にがんばってます。だって正直、仕事に出たら楽だなって思いましたもんね。育児につきっきりのところから仕事に出たら、「え、仕事のほうがめっちゃ楽だわ」って。

司会者:そうですね。大人と話せるというのも大きいですよね。過ぎていく時間が違いますね。

犬山:そうですよね。

司会者:他のコメントでは、「クソバイスって言葉大好きです」(笑)。「クソバイス、使います!」などもいただいています。

犬山:ありがとうございます。汚い言葉を……(笑)。

楽しく働きながら介護も育児もできる社会をつくる「助け合いの気持ち」

司会者:そろそろ時間が迫ってるので、最後の質問にいきましょうか。

犬山:えー、早い。最後の1個ですね。

司会者:ずっとしゃべってたいんですけど。

犬山:「介護や育児で休職期間が生まれることに、怖さはなかったですか? すでにお話しされていたらすみません」。

これは先ほどお話ししたとおり、不安はあったんですが、今考えると、ビビりすぎて早めに復帰しすぎたことを後悔しているので。根回ししつつ取れる育休はがっつり取ってください。

あともう1つ。「自分の母親が怒ったり優しくなったりするのを見て、幼いながら『めっちゃ不安定やん』と思っていたんですが、子育てのトークを聞きながら、『なるほど、きっとこういう感情に直面しながら自分のことを育ててきたんだな、ありがとう』と思いました。母が私に向き合ってくれたように、介護にも向き合えるように考えていきたいと思いました」という。はぁ~! 

司会者:やってよかった……(笑)。

犬山:はぁ~、癒やされた(笑)。本当に癒やされました。そんなふうに言ってくださって、ありがとうございます。

司会者:本当に名残惜しいんですけれども、時間になってしまいました。「使えるものはなんでも使え」というところと、なんでも「母親だったらできて当たり前」「できないあなたが悪いんでしょ」っていう自己責任の世界ではなくて、「助けてほしい」という言葉を聞いた時に、みんなが助けるよって気持ちになれるとか。「助けて」って言えることも大事ですよね。

みんなもう今すでにがんばっているんですけれども、その助け合いの気持ちを受け入れていけるような社会になっていったら、もっと笑顔で楽しく働いて、子育てして介護もしていける状況になっていくのかなと、お話を聞いていてすごく思いました。

自分や誰かがしんどいときの「傾聴」の大切さ

司会者:なにより、つらいこともいろいろ経験されたけれども、今すごく輝いていて、満面の笑顔で前向きに語っている犬山さんのお姿に、本当に元気をもらえた会だったなと。個人的感想なんですけどそう感じました。

犬山:いや、私こそカウンセリングを受けたような気持ちになりました。気持ちが浄化されてて、化粧もだいぶ取れて赤くなってしまいました(笑)。

司会者:私も話しながら、育児のシーンがばーっと思い起こされて、ちょっとうるっときちゃうようなところもあったんですけど。

犬山:司会者のタガワさんのように、傾聴してくれる方の存在はめちゃくちゃ大事だと思うんですよ。私が話をすると言っておきながら、逆に聞いてもらったぐらいの感覚です。

やっぱりこうやって聞いてもらうことで、心ってすごく楽になるから。この「傾聴スキル」というか、自分がしんどいって言った時に周りに傾聴してもらえて、誰かがしんどい時は自分も傾聴できる。そういう関係性が増えていくといいなと思います。

司会者:ありがとうございます。いろいろ悩まれている方に向けて、ぜひ犬山さんの元気と経験をどんどん情報発信していただいて、これからも世界中の女性に元気を与えていただけたらうれしいなと感じました。ありがとうございました。

犬山:ありがとうございました。