世界的イノベーターが意識するのはユニークさ

中西哲生氏(以下、中西):じゃあ例えば、ここが誰も到達してないすごく高い、世界一みたいな場所だとするじゃないですか。濱口さんはそこを目指すのではなくて、ぜんぜん違うところに「まだいろんなものがあるんだよ」というところを探すタイプなんですか?

濱口秀司氏(以下、濱口):なんだろう……あんまり意識してないんですよね。その時のクオリティが高ければいいと思ってるだけなんで。それこそ、USBのフラッシュドライブとかを作りましたが、確かに「これはヒットするであろう」と思いながら作ってるし、技術も開発してるし、プロモーションもかけたんですけど、ここまで大きくなるとは思ってないですからね。

中西:そうですよね、と言うのもすごく失礼ですけど。

濱口:そこまでやっぱり予測はついていない。でも、考えているのはそこのクオリティだけで、アイデアとしては本当にユニークなのかとか、立ち会い方としてユニークなのかという、わりと本当に目の前のことしか見てないので。

今は「ちゃんとしたゴールに向かいなさいよ」という、ゴールの話が推奨されますが、僕個人はあまりそういうタイプじゃないです。しこしこと目の前のことを楽しくやってる感じですかね。

中西:「人が考えないことを考えよう」ということが前提じゃないかもしれないですが、テレビも見ないっておっしゃって、例えばさっき言った大谷選手のことを「野球やってる人ですね」というぐらいの知識だとすると、あえて知識を入れてないということなんですかね?

濱口:それはありますね。かっこよく言うと、意図的に知識を入れていないです。半分ぐらいは面倒くさいというのがありますが。

中西:でも、面倒くさいって言っても入ってくるじゃないですか。ふだんテレビもWebも見ないですか?

濱口:Webもあんまり見ないですね。見るとしたら、車好きだから車のサイトを見たりするぐらいで(笑)。

中西:じゃあブックマークとかもぜんぜんないですか?

濱口:ほとんどないですね。ニュースも見ないし。

中西:ニュースも見ない。情報として見るのは何かあるんですか?

濱口:仕事の現場で、クライアントとミーティングしてる時に、なんか言われて検索したりとかはしますけど。ふだんは本当にeメール見たりとか、それこそ車のサイトを見るぐらいで、あんまり見ないですね。

アイデアを生むための、徹底した先入観の排除

中西:それが自分にもたらしてくれるものというのを、やっぱり感じてるからそうされるわけですよね。

濱口:自分の脳のメモリの容量が少ないので、あんまりパンパンにしたくないというのと、先ほど言ったように、仕事であっても自分で調べたらやっぱりバイアスが生まれちゃうので。Webから得た情報によって、クライアントさんとしゃべる前に先入観が生まれてしまうんです。それを正しいとは思っていないので。

先入観から抜けるのはけっこう難しいんですよね。例えば、ミーティングに行く前にすごいアイデアを思いついちゃったら、それが大切になりますよね。そういうのがすごく嫌なので。

中西:その場でアイデアが生まれるのを待ってる?

濱口:待ってます。で、その場でそのクライアントさんと一緒に考えて見つけるのが、僕は正しいと思ってるので。

中西:それまではなにか余計なものを混ぜたくない?

濱口:本当に混ぜたくないですね。逆にそこは徹底的に自分で情報管理をしています。「見たいな」と思っても見ないですね。クライアントさんの口から聞いて考えたい。

中西:実際に本人たちが思っていることから。

濱口:普通のコンサルタントとはぜんぜんアプローチが違うと思います。特に日本だと「事前に調べなきゃ失礼だ」みたいな。でも、それは僕はないですね。

成功パターンの使い回しで遠ざかる、真の問題解決

中西:じゃあ毎回、自分としてはなにもない真っ白な紙に「1から一緒に絵を描きますか」みたいな。逆に、ジグソーパズルに絵ができてて、それをはめ込むようなことはしない?

濱口:同じ解法は使いたくないので、ないですね。

中西:いろんなところで問題解決されると思うんですけど、その問題解決の方法は毎回違うんですか?

濱口:あえて同じものを使おうとは思わないので違いますね。例えば、「過去に使ったこのやり方はいいな。今回もこれを使おう」みたいにパッケージ化をするのがすごく怖いので。パッケージ化してる時点でユニークじゃなくなるので、毎回新しいもの作ります。

中西:じゃあ毎回リビルドしてるってことですか?

濱口:はい。だから、精神的負担が非常に大きく、めちゃめちゃ怖いですよ。だって、なにもないところから作らないといけないし、自分のルールとして、同じものは絶対作ってはいけないと思ってるので。

中西:「あのパターンは使えるな」みたいなのも、あえて禁じ手みたいな。

濱口:思いついても、あえて使わないです。

中西:なんかこのパターン似てるから、あのパターンになるかもしれないなみたいな。

濱口:そういうのを脳が避けるようになっていますね。昔、会社に勤めてた時に、ちょっと年配の方が「俺って最近冴えてんだよね」と。「経験を積んできて、めちゃめちゃ頭の回転も速くなった」みたいに言ってる人がいて。よく見ると、同じパターンを繰り返してるんですよ。

中西:(笑)。

濱口:1回ハンマーを使って成功しますよね。そうすると、同じやり方でハンマーを打つスピードが上がります。なんでもかんでもそのハンマーでやってくみたいな。コンサルティング会社の分析の仕方にもそういうのがあるわけです。ポートフォリオ分析やバリューチェーン分析をしたりと、同じハンマーを使う。

でも、僕は同じハンマーをみんなが使って本当の問題解決ができると思ってなくて。それ見ててすごく怖いなと思うんです。「俺もいつの間にかそうなるんじゃねえか」と。

中西:いつの間にか知らないうちに。

濱口:自分では頭の回転が速くなったり、能力が上がったんじゃないかと思ってるんだけど、実は同じハンマーを打ち下ろしてるだけっていう。

中西:早くなりますよね、自分の頭の中は。

濱口:それはちょっと悲しいなと思って。他の人から見たら「あいつ同じハンマー打ち下ろしてるだけじゃん」って言われるの恥ずかしいし、それをどうやって避けようかなと思ったわけです。その時思いついたのが、「そうだ! 同じ方法を使わなければいいのだ」と。過去使った方法と違うものを常に生み出すということをルールにしておけば大丈夫だ、と。それができなくなったら引退だな、要は能力が落ちてきたんだなと考えるようにしています。

プレゼン資料をゼロから書くことで生まれる「一言一会」

濱口:それはプロジェクトのソリューションでもそうです。例えばプレゼンをする時ってみんなテンプレートを使ったりとかしますよね。僕はテンプレートを絶対に使わないです。同じプレゼンスタイルは二度と使わないし、毎回毎回ゼロから作る。

一般的な論理構造みたいなのがあって多くの人はそれをコピペしますよね。僕はしないです。それであっても、ゼロから書きます。書くことによってやっぱり発見があったりとか、「一言一会」ですね。クライアントさんや状況、時間も常にユニークで、同じことは二度とないと思ってるので。

だから、同じプレゼンスタイルにはならず常に新しいものを作るようにはしています。ソリューションもそうだし、プレゼンの仕方もそう。繰り返しになるんですけど、なにもないとこからいつもスタートするので緊張感は高いです。

中西:それは高いですよ。

濱口:プロジェクトやる時は緊張感マックスです。賢い会社や賢いコンサルタントは「ああ、これはこうやって解くんだ」と思いながらプロジェクトを受けて、「やり方があるからなんとかなるね」と思ってやるじゃないですか。僕はそれをやらないので、そういう意味では精神的には強いと思います。

どんな場合でも、今ここに存在していないユニークな答えが必ずある

中西:そういう話を聞くと、どうしても気になることがあります。どういうふうに1個1個、毎回新しいものを作り上げていくかというところなんですけど。例えば僕であれば、自分のメソッドを作る時に、日本の文化やいろんなものを見たり聞いたりして着想をして、「これヒントになるな」と考えたりするんですけど。

さっきWebやテレビを見ないとおっしゃってたんで、インプットはなくてもいいのか、ないほうがいいのかとか。

濱口:基本はやっぱりクライアントさんからの情報なんですけど、一番大きなところは、「絶対にユニークな答えがあるはずだ。そこで語られていない絶対に新しいものがある」と信じていることだと思うんですよ。

それはなぜかというと、人間がやってることなので。僕が「宇宙物理学の問題を解け」と言われたら、これはけっこう難しい。でも、ビジネスは人間がやってることだからけっこうゆるい。先ほど言ったバイアスとかがあるから、その時々で絶対どっかに偏重したりとか、傾向があったりするので。

中西:1個のところに偏りがちだってことですね。

濱口:僕は、「必ずユニークな答えが、それも今そこに存在していないものがどんな場合でもある」という考えを一番のお守りにしています。だから、ちょっとがんばれるのかなと思いますね。

中西:その話を聞いてちょっと勇気をもらいました。僕も、こんなに多くの人がサッカーをやってるけど、「絶対まだ誰も考えていないことがある」と思ってるんですよ。日本の文化や歴史みたいなことを、そこまでさらってる世界の、ヨーロッパやアメリカの選手がいるとは思えないので。

それを考えると、日本のワールドカップ優勝に向けて、僕のメソッドが活きてくる可能性はあるなと思っていて。もうブルーオーシャンはないとはまったく思ってないんです。まだ絶対サッカーには誰も考えていないことがたくさんあると思ってるんですよ。

濱口:過去を振り返れば絶対そうなっていると思うんですよ。冷静に見ようってことです。僕はサッカーを知らないですけど、いろんなテクニックや攻め方が生まれたり、常に発展してますよね。、ビジネスも常に発展しているんですけど、みんな「もう終わりだ。これでもうゲームセットだ」と思うわけです。

中西:もうやり尽くしたぜ、みたいな。

濱口:はい。でもそんなことはなくて。誰かが絶対になにかやるわけですよね。

「絶対なんかあるはずだ」と思えれば、人生は楽しくなる

濱口:昔Googleが上場した時とかも、「Googleが神だ」「Googleがすべて取る」みたいになったけど、その後からFacebookとかTwitterとかバーって出てくるわけで、常になにか新しいものが出てきます。時定数が10年に1回か、5年に1回かわからないけど、必ず変わっていってるものがあって、それはビジネスもそうだし、たぶんスポーツもそうだと思うんです。

その事実を目の前にしたら、自分が「もうこれで手詰まりだ」と思っていても、なにかあるわけで。それを自分がやるのか、どっか海外の誰かがすごいものを持ってきて「うわー」と思うのか。

中西:嫌です。僕は自分でやりたいです。

濱口:「どっちになりたいの?」というだけで、人にやられるぐらいだったら自分でやるほうがいいんじゃないのという感じで。そこを信じるか信じないかだと思うんですよね。

中西:自分が見てる限りは「これはたぶんやってないんじゃないか」みたいなことが見つかった瞬間、たまーに見つかるんですけど、もううれしくてたまんないんですよ。それを実現するためにどういうふうにしていこうか、みたいなことを考えるんですけど。

濱口:「絶対なんかあるはずだ」と思ってると、手詰まり感がなくなって人生を楽しいと思うようになるんですよね。

中西:いつも「なんかあるはずだ」と思ってます。

濱口:今はなんかスタック(停滞)してるけど、誰かがなんか違うものを見つけるはずで。絶対あるはずで。5年後には変わってるはずだと信じてれば、いくらでもがんばれるという感じですかね。

中西:僕は濱口さんとお好み焼きを食べながら話をして、この後自分にすごいことが生まれるかもしれないと思ったわけですよ。濱口さんのお話はぜんぜん僕が考えてることの範疇にはないことばかりで、もう衝撃的すぎて。今回こうやってお話しさせていただいて、しかもこんな公の場で、聞きたいことも聞ける状況で。

それは濱口さんの感覚からすると当たり前なのか、意図的にそうしているのかというのはは、どっちなんですか?

濱口:……生きていくためにそうしているだけですかね。本当にあんまりなにも考えてないんですよ。

中西:「考えてない」と、口癖のようにおっしゃるんですけど。考えてないのはもちろん考えてないし、いい意味で考えてないとは思うんですけど、それを自分が意図的にそういう方向に持っていってるのか。

濱口:何年か、たぶん何十年もかけて、だんだんそういう形になってきたんだと思いますよ。やっぱり人間だから失敗は嫌だし、痛いことは嫌だから、「こうやったら失敗で、なんでだろう」と思ってやってるうちに、だんだんこういう型式が生まれてきて。なんか調べたほうがだめだとか、人の話をちゃんと分析したほうがいいとか、ちょっとずつテクニックが重なっていって、こういう型式になったんだと思いますけどね。