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中西哲生|ビジネスデザイナーによる再解釈とは!「中西メソッド × 中西メソッドを知らぬ者」ー Park College #18(全5記事)

勉強好きじゃなかったから、イノベーションの鍵に気づいた 世界的イノベーターの原点は、高校時代の数学の難問への挑戦

独自に構築したサッカー技術理論である「中西メソッド」で、日本を代表するサッカー選手のひとり久保建英氏らのパーソナルコーチを務める中西哲生氏が、さまざまな分野の専門家をゲストに迎え、その功績の秘密を言語化する講座「哲GAKU」。 今回は、イノベーション・シンキング(変革的思考法)の第一人者であるビジネスデザイナーの濱口秀司氏をゲストに迎え、問題解決をする上でのパターン化の重要性や、ゴールよりメソッドを重視する理由などを聞いています。

友人への対抗心で気づいた、問題解決のアプローチ法

中西哲生氏(以下、中西):今言った、「調べないほうがいい」というところですが、人の話をちゃんと分析するというのは、クライアントの企業の方の話を聞いて、その方の思考をパターニングするってことですか?

濱口秀司氏(以下、濱口):例えばそういうことですよね。原体験ってもっと昔にあると思うんですけど。覚えている体験で言うと、例えば、コンテストでむちゃくちゃ難しい数学の問題を解けみたいなのがあるわけですね。高校時代あんまり勉強が好きじゃないんですけど、たまたま僕の遊び仲間で、3人アホなやつがいたんですよ。僕はその1人なんですけど。

そのうちの1人のHくんってやつがいるんですね。そいつが数学のコンテストで優勝するんですよ。「ええ!? お前バカだろ!?」って言ってたのに、そいつが「おら~」みたいな感じで(メダルのようなものを見せるそぶり)。

それでちょっと悔しくなって、そのまま諦めるか、僕もそこで優勝して「やっぱお前バカだ」と言うのか、どっちかちょっと迷ったんですけど、これはいてまわなあかんなと思って。珍しくちゃんと数学をやろうと思って、そのコンテストに応募することになるんですね。

でも、問題がむちゃくちゃ難しいんですよ。『大学への数学』というすごく特殊な雑誌があるんですけど。

中西:僕もう文系なんで、ぜんぜんわかんないです(笑)。

濱口:その後ろに出てくる問題を解くんですけれども、むちゃくちゃ難しくて。当時は東大の数学科の学生が解いても20点しか解けないくらい。そこに名前を載せようと思ったら、100点か99点じゃないと載らないんですね。それにヒシダくん、あっ言ってもうた(笑)。Hくんは載るわけです。

僕も「しょうがねえ、やる」と決めたわけです。でも、まずその問題がわかんないんです。書いてある問題そのものが。

中西:問題を解釈することがね。

濱口:そこをちゃんと解釈することは、クライアントさんが言ってることを解釈するのと非常に近くて。やっぱり、そこにあるものをちゃんと解釈しようと思うんですね。

次に考えるのは、この問題は普通に勉強している人が解けないってことです。ということは、普通とは違うアプローチでしか解けないので、それを見つけなきゃいけないという。

中西:新しいパターニングをしなきゃいけないわけですね。

濱口:だから、勉強するのではだめだと。学校でいい成績を取ろうと思ったらそのパターンを勉強したらいいんですけど、その(ものすごく難しい)問題を解こうと思ったら、むしろどうやって解こうとするのかというパターンだけ理解して、それとは違うパターンを見つけよう、という発想で解き始めたんですね。

それでやり始めて、ぶっちゃけ言うと98点だったんです。ところがその月だけ、99点からしか載らなかったんですよ。むちゃくちゃ悔しくて、そこで諦めようかと思ったけど、ヒシダくんにぎゃふんと言わせないといけないから。

中西:もうHくんじゃなくなっちゃいましたけど(笑)。

濱口:もう1ヶ月やろうと思って。で、2ヶ月目に載って、ヒシダくんに「お前も大したことないんだ」と一応言って。でも、そこで味をしめたのは、すごく難しい問題を解く時には勉強してもだめで、賢い人たちが教えられてることのパターニングをして、そこを外すほうが効率がいいのだということを、なんとなく体感で覚えるわけですね。

難問に立ち向かう時は、「パターン化」したほうが良い

濱口:その時にはまったく意識をしてなかったけど、思い返すと、例えば大学で研究やってた時も、いわゆる光触媒反応っていう反応をやってたんです。東大の「本多・藤嶋効果」と言われてるやつで、水にある触媒、酸化チタンを入れといて、光を当てると水素と酸素が生まれるという、夢のような考え方で。

ただ、ちゃんと水素が生まれますが、反応スピードがめちゃめちゃ悪くて、効率がめちゃめちゃ悪いんですね。その反応効率を上げようということを日本中の、いわゆる触媒学会、触媒関係の人たち、化学系の人たちが、学生も含めて研究やってるわけです。

たまたま先生から「やれ」と、その研究を僕に与えられて。日本中の、それから世界中の研究者がその酸化チタンの反応効率を上げようとしてるわけです。「こんだけたくさんの人たちがやってるのに、そんな勉強もしてないし、バイク乗りまくってて、急に今から研究しろって言われた人間が考えて、その問題解けるわけないじゃん」と思うわけですね。諦めが早いんで、無理だろと。

中西:テストのパターン。

濱口:まったく同じパターン。賢いやつらが考えてもだめなんだから、僕が一生懸命考えてもだめなはずだと。その時にまったく同じことを考え始めて、「その賢い人たちはどう考えるのか」ということだけを考えた。

中西:考え方のパターンを見つけた。

濱口:その時わかったのは何かというと、みんな化学系だから化学反応を見てるってことです。これが物理的なものだとしたら、どうなのかと。要は反応律速が、いわゆる化学反応律速じゃなくて、単なる物理的なものだったらどうなのだと。

その時に、いろんな酸化チタン用意して表面積をバーっと計ったんです。そうすると、バシッと線に乗るんですよ。それはけっこうブレークスルーで、その後僕が出した論文で、「酸化チタンの反応って物理律速じゃん」みたいな話になったんですね。

それもまったく同じで、なんとなく時々そういうことで味をしめながら、会社に入ったり仕事をしたりしながら、「難しい問題を解く時はパターン化したほうがいいのだ」と。ノーベル賞獲ってる人いるじゃないですか。半分ぐらいはそうだと思うんですよ。

中西:思考的に言うと、今までの同軸線上にいないってことですよね。

濱口:普通こういう考え方はしないけど、(パターンをちゃんと解析して)もしかしてそこで生まれたらすげーなという発想をするタイプの人と、もう天才的にパーンと思いつく人と、たぶん2タイプいて。

天才には勝てない、ひらめきには勝てないから。でも、解析することによって見つけられるんじゃないかなと、味をしめて育ってきたので。

中西:見るアングルをちょっと変えるとか、思考のアングルを変えるみたいなことですか?

濱口:僕はそういう感じですかね。質問に戻ると、「どうしてそう考えるんですか?」ってことに関しては、だんだんそうなってきたという感じですかね。

世界的イノベーターが重視するのは、ゴールより再現性のあるメソッド

中西:自分の中で少しずつそれがパターニングされてきて、それが他の人とは違う線を作れるようになった。1個の線でみんなが考えてるところを、違うアングルの線を、矢印を出せるようになったみたいな。

濱口:会社に入ると問題がたくさん出てきますし、コンサルティングをやるとたくさんの問題を見ることになります。そうするとある日、明示的に「そうやったらいいんだ」ということに気づくわけですよ。高校の時も大学の時もそんなことはわからなかった。でも、何回も繰り返していくうちに「あ、もしかしてこうやって考えたらいいのか」と気づいて、意識してそういうことを考えるようになり、わかってからの加速は速くて。

中西:1個の同軸線上の考えの中でいくら高い視座になっても、それは限界がありますもんね。僕自身も、視座を上げるという意味で、「日本はワールドカップで優勝できる」というのを前提としています。

日本は世界的にも珍しい1個の文化を有した島国で、建築様式や思想、思考などさまざまな独自のものを持っている。そこから着想して、サッカーの技術や戦い方などにどう当てはめていくかみたいなことを考えていくと、ぜんぜん違うベクトルに行ける。

高くなるか低くなるかは別として、違うアングルで動くことで、わけがわかんないと思ってたような問題が解けるようになるとか、そういう可能性はあると思ってもいいですか?

濱口:あると思いますね。さっきの話に戻ると、ゴールがあって、プロセスがあって、セーフティゾーンがあるっていうのはけっこう重要で。最初に効き目があるのは「ワールドカップで優勝する」みたいなゴールだと思うんです。これは初期起動としては強いですが、最終的に強くなってくるのはプロセスだと思うんですよね。

「中西メソッド」のように、メソッドってすごく重要です。僕の仕事の仕方も、やっぱりメソッドがあるわけで。もっと言うと、僕にはゴールはないですが、メソッドはあります。メソッドのほうが再現性があるし。

ゴールはすごく重要だし、「あのゴールに行け」となればがんばって行くけど、もしかしたら死んじゃうかもしれないし。

中西:気合じゃ行けないですよね。

濱口:高いゴールや目的は重要だし、それがあるに越したことはないんですけど、やっぱり本格的に重要になってくるのは、メソッドだと思うんですよね。

パターン化は、サッカーのトレーニングや技術向上にも有効

中西:例えば僕がある企業だとして、濱口さんが「中西メソッド」をコンサルするんであれば、どういうことをおっしゃいますか? お答えいただける範囲で構わないんですけど。

濱口:今からお好み焼きを食べに行って、いろいろ話を聞きますかね(笑)。まずはお話を聞きます。

中西:今話をさせていただいた、フラットさとか。もちろん、いつもフラットでいる必要はなくて、一番重要な場面でフラットになれればいいと思うんですけど。それとか、日本人だからこそできるプレーや日本人だからこそ持ちやすい思考とか、さっき言った調子にのらないみたいなこととか。

そういうことをサッカーの中に取り入れていきながら、日本的な高い視座を目指していくっていうのは、あながち間違ってはいないと思ってもよろしいですか?

濱口:いいと思いますね。例えばフラットのお話も、たぶんそれの実現方法は複数あると思うんですよね。先ほど申し上げたように、神社に行ってフラットを学ぶみたいな。でも、すごく重要なのは、「それがフラットな状態なのかどうなのか」というモニターができないといけない。

モニターができても、フラットから外れてる時にどうやってフラットに戻すのかというのもある。これがたぶんメソッドに入ってくると思うんです。でも、僕が言ったような「モニターできなくていいのだ」という考え方もあります。アンフラットな状態を行き来すれば、総和ではフラットの状態の時間があるじゃないかという。

中西:さっきのお話ですね。

濱口:いろんな人にフラットを教えるんだったら、フラットをモニターしてその状態を維持することを教えるより、アンフラットな状態、ダメな状態とむちゃむちゃハイな状態を、ちゃんと時間別でやりなさいと。例えば、「1時間こっちだったら1時間はこっち」みたいな感じで行き来すれば、総和でいけばフラット状態を通っているという、ソリューションもあると思うんです。

そんなふうにパターン化して考えていくと、今のフラットメソッドもノービスクラス、要は自分でモニターできない人は、この行き来でフラット感を覚えなさいと教えればいい。モニタリングセンスが高い人に関しては、もうちょっと高いレベルのフラットコントロールを教える。

相手によってレベル1、2、3みたいに分けて、分解して、メソッドを形成したりできるような気はしますけどね。

「次の新しいやり方」が加わることで、スポーツも終わりのない進化をする

中西:今、実際に選手たちに伝えている部分で言うと、「シュートを打ちたい」もしくは「決めたい」という感情が入っている時は、自分のベストのフォームじゃなくなる可能性が高い。それを実現するために、決まるフォームを遂行するための呼吸とテンポ感を維持するという思考で動こうとしているんですね。

さらに目の前にいる選手には、自分とは違う論理が働いているので、自分がシュートを打てない状況であれば、最終的にシュートを打つのを止める。最後にキャンセルできることで、相手が食いついてきた時にその逆をとることもできます。プレーをキャンセルする動作ができることが重要だと話しています。

また、決まるフォームを遂行するための呼吸とテンポ感を維持することで、美しく力みのないシュートフォームになるし、キャンセルもできる。シュートの場面ではそういうことを伝えています。

濱口:おもしろいですね。スポーツはあんまり詳しくないんですけど、例えば「メンタルトレーニングが非常に重要です」「イメージトレーニングが重要です」「技術はすごく重要です」という感じで、なんとなく分解して教えているような気がしますが、今のお話はその先の話をしていて。連携プレーみたいなものを教えているというか、メソッドにしているようにも見えるので、すごくおもしろいと思います。

中西:キャンセルのプレーに関して言うと、まさに分解して再構築するという機械系のメカニズムではなくて、生態系のメカニズムというか、自分自身が動いた時に相手がどう動いてきたからこうしなきゃいけないとか、判断を伴った技術の変更みたいなことですね。

でも、相手があるスポーツなので、最終的にそこに行くのが必要かなと思っています。

濱口:でも、スポーツがイボルブ(発展)するのってそういうところかもしれません。ある時期は、トレーニングしたことを正確にやる。それにはパターニングがあって、「この時はこれ」という感じで、反射神経的に動くわけですよね。

でも、その反射神経、パターンの中に若干思考と意思決定が入ってくるみたいな。そうすると、ゲームが1枚変わってきますよね、という感じで。やっぱりどっかで次の新しいやり方が、どんどんできあがってくるようには思いますね。

中西:その1個上にもさらに行ける可能性がある。

濱口:どんどん変わっていき、それに終わりはないような気がします。

中西:それをこの「哲GAKU」という講座の中でいろんな方から着想を得ながら、さらに新しいものを生み出していこうと思っています。

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