潜在的に読書に興味がある人にいかに知ってもらうか

木村和貴氏(以下、木村):じゃあ、久保田さんはいかがですか?

久保田裕也氏(以下、久保田):そうですね、2人が話したとおりだと思います(笑)。単純に娯楽の種類が増えたと思うんですよね。やっぱり1995年とか90年代後半がピークだったと思うんです。

その時代と今とを比べたときに、みんなが電車の中でなにをしているか、ふだん何をしているかというと、スマホを眺めているわけじゃないですか。「歩きスマホは危ないです」と言われているくらいですから。

「読書に興味がありますか?」と聞いたら、みんな「興味ある」と言うんです。でも「読んでいますか?」となると、かなりの人が読まなくなってきているというだけ。別に「読書が嫌い」とかじゃなくて「あ、そういや読んでいないな」という感じだと思うんですよ。

先ほど大賀さんがおっしゃった通りで、知るきっかけがたくさんあれば普通に売れるんですよね。うちのサービス(「audiobook.jp」)もけっこう今年の頭くらいから広告を打ち始めて。その前はぜんぜん広告していなかったんですよ。

なんでかというと、自前でやっているのでタイトルが増えなかったからなんです。今はスタジオをフル稼働させて、だいたい毎月500点~600点ずつ増えているんですけど、それまではぜんぜんなかったんです。

最近広告をやってすごくわかったことは、単価はぜんぜん上がらないんですよ。同じ単価でずっといろんなところでお客さんが入り続ける。ユーザーに聞くと、「普通に知らなかったです」ということをどんなユーザーさんからも言われるんですよ。「でも本って売っているじゃないですか」という話をすると、「そうなんですけどね~」とみんな言っていて。

そのきっかけがたまたま広告で見たとか、うちはYouTubeにアップしているものもあるので、それで目にして入ってきて、結果的に本を買いましたとか。うちのコンテンツは音声データなので、「手元に置いておきたいから、本を買いました」という人はけっこう多いです。最近とくにユーザーさんにインタビューしていて、そうした声が多いなと思っています。

単純にほかのものがガンガン広告を打ったり、交通広告やったり、いろんなところで見えることをやっているので結果的に見えづらくなっているだけなのかなと思います。なので「市場がどう」「可能性がどう」ということについては、僕もぜんぜん悲観的には思っていないんですよ。

売れる本・売れない本には理由がある

久保田:データを見ているとわかるんです。僕はすごくデータオタクなので、毎日書店のデータなどをめちゃくちゃ見ているんです。たぶん1日30回くらい(笑)。「この本はなんで売れているんだろう」と全部分析していくと、ちゃんと理由があるんです。

やっぱり、やるべきことやっている本はすごく売れるんですよ。そうじゃない本はおもしろくても、なんらかの理由があって売れない。それを見ていると、「これから先行きはどうなんだろう」と不安になることはないんじゃないかなと思う次第です。

木村:なるほど、ありがとうございます。データはものすごく気になっちゃいますよね。どういうものがどういう人に読まれてるとか。気になっちゃうけど話せるところは少ないですよね? 例えばみたいなものはあります?

久保田:さっき話していた、ああいった特定の著者さんの本は初速が……出版業界の方はよくご存知だと思うんですけど、1回ガッと売れて、そこからぜんぜん伸びなかった本はけっこうあると思うんですけど、そうじゃない本もあるんですよね。

そうじゃない本は、やっぱり地道にWebとオフラインで相互に施策を打っています。例えば僕らが関わった事例で言うと、『スマホを落としただけなのに』という小説があるじゃないですか。あれは実は、著者がニッポン放送の子会社の常務なんです。

その方から電話がかかってきて、「久保田さん、仕事しない?」と言われて。「なんかよくわからないけどいいですよ」という話をしたら、「本をこういう感じで売りたい」「ここで映画があるんだよね。」と。

「映画化予定があるから、その2週間前にオーディオブックを出そう」ということで、絡めたPRを行ったりしました。

それで僕はずっと本のデータを見ていたんですけど、めちゃくちゃ売れるんですよ。そのタイミングでガッと売れるんです。それを絶え間なくやっていると、例えば平均で1日100冊くらいだったのが250冊になって。1日あたりに売れるラインが急にガッと上がって、それがたくさん来るとまたガッと上がるような感じなんです。

そういう例を見ているので、なんとなくみんなが知っていて、それをもうワンプッシュすると「やっぱり買おう」となるんだろうなと思います。

木村:なるほど、ありがとうございます。戦略的におもしろいコンテンツでも、やっぱりなにもしないと目に留まらないと。そこを戦略的に仕掛けていくことで多くの人の目に届くというところでした。

“新しい読書”のカギは隙間時間とスマホ対応

木村:先ほどはマーケット的な質問だったんですけれども、今度はみなさんのサービスにちょっと近い部分の質問です。それぞれの提供しているサービスがあると思うんですが、新しい読書、聴くことや分割、要約などが向いているシチュエーションはどういうタイミングなのかを聞きたいですね。時間とか場所とか。大賀さんからお願いします。

大賀康史氏(以下、大賀):やっぱり客観的に見て、ここ5年、10年の間で電車の中の風景が変わりましたよね。今まで新聞を折りたたんで読まれていたり、本を広げていた人の9割くらいがスマートフォンをご覧になられている。

やっぱり、ここは一番変化のポイントです。もう語られて長いかもしれないですけれども、今でも支配的な端末はスマートフォンだと思っているんですね。

かなりの隙間時間がスマートフォンで消化されるのが世のトレンドなので、ここを変えにいくのは大変なのかなと。であればスマートフォンに合ったかたちで読書サービスを提供していくかたちが自然だし、きっと伸びやすいんだなと思っているんです。

例えばflierは本の要約なので、だいたい読むと10分くらい。flierもオーディオ版というか、AIが読んでいる音声なんですけれども、それですと15分くらいなので、だいたい電車の行き帰りに聴けます。

あとは車通勤の方であれば、日本の場合は、郊外でも2時間3時間かけて車で通勤される方はけっこうレアだと思います。私は宇都宮とかで勤めていたときは、だいたい片道20分くらいの人が多かったかなと思っているんですね。

それくらいの時間で、例えば1冊聴いたり。そういうかたちの隙間時間が一番活用の余地が大きいんじゃないかなと思っていて。

やっぱり隙間時間で見ていただくためには、スマートフォンにはスマートフォンの闘い方があると思っているんです。比較的見かけのものもあって、例えば電子書籍以外では、スマートフォンで縦書きで読むものはあんまりなかったりするんですよね。

長いものをスマートフォンで1,000ページくらい縦書きでめくっていくのは、電子書籍以外だとほとんどのユーザーの人はやっていないんです。

だとすると、もうちょっと電子書籍もかたちがあるんじゃないかなとか思ったり。タブレット端末にはバッチリ合っていると思うんですよ。大きいiPadなどには合っていると思うんですけど、スマートフォンにはスマートフォンに適したやり方がある。

一番空いているのは電車の通勤時間とか、先ほど久保田さんの説明でもありましたけど、家事の最中とか。そういった隙間時間が一番いいのかなと思っていて。

コミックのマーケットは半分以上が電子書籍

木村:10分くらいの尺だと、ちょうど隙間時間にぴったりな感じがしますよね。確かに縦書きでスマホでずっと読んでいくのは大変だなと想像すると思うんですけど。

ちなみにみなさん、どちらかというと紙で読むことのほうが多い、電子書籍で読むほうが多いというのは、ちょっとどちらか手を挙げていただきたいです。ここ数ヶ月の話でいいんですけど、紙で読むことのほうが多いという方は?

(会場挙手)

けっこう大半がそうですね。電子書籍で読むことが多い方は?

(会場挙手)

なるほど。

大賀:もう1回いいですか? 電子書籍で読まれている方はコミックを読んでいますか? テキストを読んでいますか?

木村:じゃあコミックの方?

(会場挙手)

テキストの方?

(会場挙手)

大賀:あ、テキスト! これはめずらしいですよ。ちなみに電子書籍マーケットは8割コミックですからね。LINEマンガとかそういうのがすごく強いんですよね。

木村:僕も『キングダム』を毎週見ているんですけど、いち早く見たいときは、やっぱりネットで買ってその場で見ちゃいますね。

大賀:漫画はスマートフォンで読むのにちょうどいいんですよね。大画面のものであれば、なんとか読める。それに30分くらいで読めたりするので、電子書籍だとかさばらないところもあって、今コミックのマーケットの半分以上が電子書籍に移り変わってきているんですよ。

木村:なるほど、ありがとうございます。じゃあ大西さんはいかがですか?

紙の本をデジタルで読みやすくするための工夫

大西智道氏(以下、大西):うち(ブンゴウメール)もflierさんとすごく近いのかなと思っていて。分割して送るということをやっているので、まとまった時間よりは隙間時間で読んでいただくというのが圧倒的に多くて。

ユーザーさんからよく聞くのだと、やっぱり通勤時が一番多いですね。2~3分で読めるので、通勤時間に読んでいるとか、会社に着いてから仕事を始める前に読んでいますとか。

あとは、本がすごく好きだったんだけど、まとまった時間がぜんぜん取れなくなってしまった子育て中のお母さんなど。やっぱり2、3分ならその場でパッと読めるので、「読書ができるようになって助かりました」という話もよくいただきます。

木村:なるほど。

大西:さっきおっしゃっていた縦書き・横書きでいうと、ブンゴウメールは横書きで送っています。ちょっとだけ工夫しているところは、昔の文豪の作品とかは容赦なく漢字がすごく詰まっていたりするんですよね(笑)。

それをスマホで見ると画面がごちゃごちゃして読む気が薄れるというのもあって、一文ごとに改行を入れるようにしていて、スマホで読みやすいかたちにしています。

実際に使っているユーザーさんからの声を聞きながらやっていて、隙間ができてちゃんとスペースがあったほうが読みやすいというのは圧倒的にあるなと。青空文庫の利用規約の範囲内で、できるだけスマホに向けて読みやすくしているようなところはあります。

木村:大事かもしれないですね。僕らもWebのメディアではあるので、たぶん雑誌の編集の仕方とWebのメディアの編集の仕方はぜんぜん違うと思うんですよ。もちろん横書きとかもあります。そういうところは確かに、今までの本もデジタルデバイスで読みやすいかたちに編集していくのはあるかなと感じました。では久保田さん、いかがですか?

“聴くコンテンツ”はブルーオーシャン

久保田:僕らがやっているのは、音なのでガラ空きなんですよ。本当にスーパーチャンスです。だって、移動しているときも作業しているときも、必ず目は奪われるじゃないですか。

でも、耳は超空いているのにコンテンツがぜんぜんないんですよ。だから超チャンスです(笑)。

なので大量に作って、作れば作るだけたくさん聴いてくれているというデータがあって、今は総視聴時間数でいうと対前月比で2割くらい伸びているんですよ。けっこう異常な伸び方をしています。

時間でいうと、一番サーバー負荷が上がるのは朝の7時から8時の通勤時ですね。なぜ負荷が上がるかというと、最近新聞社さんなどと組んで、その日の朝刊のダイジェストが聴けるようになっていたりするんです。

これ、すごくよくないですか?(笑)。全部は読みきれないじゃないですか。だけど一応チェックしておきたい記事があるじゃないですか。プラス解説が付いていたりするんですよ。聴き放題は常にサーバーにアクセスするので、そこの負荷がガッと上がって、その時間に聴いているんだなぁとわかるんです。

そこから一旦落ちて昼前くらいからまた上がって、夕方から一気に上がり始めて、22時23時くらいにピークになるような感じなんです。基本的にはやっぱり、帰宅時も含めた通勤時間ですね。あとはわりと夜中が多いんです。お風呂の中とか寝ながら聴いている。睡眠学習なんですかね(笑)、人によりけりなんですよ。

よく眠れるものもあって、『おやすみロジャー』とか、うちは有名な声優さんで音声化していたりします。そうするとその声優さんが好きな人にも楽しんでもらえるようにという意識はやはりします。

実際自分たちで作ったものなんですけど、仕上がりで聴いて自分も寝ちゃったので、本当にいいなと思って。悩みごとがあって眠れないときは必ず聴くようにしています。

そういう意味だと、耳は今、あまり競合がいない場所なんですよね。現状はそうなんですけど、どの時間でもシチュエーションに合わせたものを提供できればぜんぜんいけるなという感覚は、データを触っていても手触り感ですごくわかりますね。

木村:なるほど、本当にそうですよね。久保田さんのところだと、お二人とはまた違って音声というところなので、実はビジネスメディアもこぞって、けっこう去年とかから音声系は注目していたりします。やっぱりAIスピーカーが出てきたときにだいぶ話題になりまして。

よくある「コンテンツの供給はすごく増えていて、消費できるのは~」みたいなグラフ、みなさんも見たことある方がいると思うんですけど、「もう消費できないよね」という中で、耳がコンテンツ消費の最後の砦になっていて。

やっぱり今おっしゃっていただいたように、「ながら視聴」ができるんですよね。隙間に入らずに、逆になにかをしている最中に聴けるのがきっぱり分かれたところかなと感じました。僕もすごく車を運転するので、運転中とかにすごくいいなと思いました。