本を耳で楽しむ「audiobook.jp」

木村和貴氏(以下、木村):ありがとうございます。続いて久保田さんお願いします。

久保田裕也氏(以下、久保田):はじめまして、オトバンクの久保田です。本を耳で楽しめる「audiobook.jp」というサービスをやっています。うちも広報が気合を入れすぎて、スライドが20枚以上あるので、適当に端折っていきます。

(スライドを指して)これは私です。大学を卒業したタイミングで、なにを血迷ったかこの会社に……売り上げがなかった状態なんですけど、この会社に入ってあらゆることをいろいろやらされて。創業者は別にいるんですけど、イメージしてもらいたいのは「ビジョナリーなのび太」みたいな感じですね。

ビジョナリーなのび太と仕事をしているので、「いろいろやるよ」と言ったら結果的に全部やることになった感じで社長になって7年ですね。(スライドを指して)ちなみにこれは東京マラソンのときですね。趣味でマラソンをやっていて、フルマラソンを2時間40分くらいで走ります。

一応これが会社のメンバーなんですけど、これはたぶん3分の1くらいです。残りの3分の2はどういう人たちかというと、制作や開発に絡んでいる人たちです。あんまり顔を出したくないという恥ずかしがり屋さんが多い会社です。

うちがやっているのは、書籍をまるごと1冊プロの声優さんやナレーターさんに読んでもらって、それをインターネット上で配信をします。昔はPCでしたが、今はスマホやタブレットなど、いろんなかたちで配信しています。

売れ筋の本や新刊をコンテンツ化して続々配信

audiobook.jpというサービスをやっております。昔はFeBeという名前だったんですけど、「FeBeという名前はよくわからんわ」という話で、去年からaudiobook.jpというわかりやすい名前に変えました。

この1年半くらいで急激にユーザーさんが増えてきて、先月くらいから100万人を超えてきたところです。最近急激に伸びています。この2年くらいで3倍以上になっている感じで、けっこうお客さんが増えている状態です。

うちの特徴としては、自分たちでコンテンツを作って配信するところですね。出版社さんと直接契約して、あるいは作家さんというパターンもあるんですけど、売れ筋や新刊をできるだけ早いタイミングで出すというサービスになっています。

昔と比べてだいぶ変わってきたのは、新刊がオーディオブックになって出るまでの期間が相当早くなってきていますね。「新刊と同時に出してください」とオファーされることも多いです。

(スライドを指して)基本的な仕組みはこんな感じで、出版社さんあるいは作家さんから許諾をいただいてから先はすべて自分たちでやります。

会社にスタジオがいくつかあって、そこに制作の社員も業務委託とかじゃなくて正社員で雇っていて。全部ワンストップで、サービスの開発も自分たちでやっているので、全部自前でやって売れた分を権利元さんにお戻しすると。

最近audiobook.jpという自前のサービス以外にもGoogle、Apple、ソニーのReader Storeとか、そういった主だったサービスさんと連携していろんなところに出せるようになっています。そこのある種取次ぎのような機能も、今は自分たちでやれるようになっています。

移動中や育児・家事や仕事中も、音で読書

これはオーディオブックの礎を築いた人みたいな感じです。業界の人もほとんど作ったことがなかったので、最初にオーディオブックはどういうフォーマットが一番聴きやすいか、聴き続けられるかを研究しなきゃいけなかったんですね。

最初の2年間くらいは本当に誰からも相手にされなかった会社なのに、なにを血迷ったかスタジオを作って社員も雇ってしまって。人とスタジオはあるんだけど仕事がないという状態で、暇すぎたんですね。

暇すぎて、売れない声優さんやライターさんがたくさん集まっていたので、とりあえず原稿を書いていろんな人に聴いてもらいました。それこそ日比谷公園に行って「これ、どう思いますか?」とか聞いたりして。「なんだこりゃ」とか言われながら、どういうフォーマットが一番適正なのかをずっと研究してきたんですよ。

2018年の春から月額750円の聴き放題サービスを始めて、それがきっかけでガッと伸びました。基本的には移動中ですね。通勤通学はすごくわかりやすいですけど、大都市圏以外はやっぱり車移動の人が多いので、そこで使われていることが多いです。

最近ちょっと増えているのは、育児中や家事をやられている時間に使っていただいたり、あとエンジニアさんが内職的にプログラミングしながら聴いていたりします。

女性にビジネス書を読んでもらうためのアイデア

うちのサービスはわりと読書離反層というか、「読書に興味はあるんだけど、実際はほとんど読んでいません」という人が戻ってくるようになるサービスかなと思っていて。

ふだんはゲームをやっていたけど、これを見て、なにを選んだらいいかよくわからないからとりあえず聴き放題に登録してみて、「いろいろザッピングしたらおもしろそうだったから続けています」みたいな感じで。結果的に「10冊聴いています」というような人はけっこういますね。

わりといろんな利用スタイルの人たちがいます。働くお母さんとか、あと意外と農家の人が使っているのはおもしろいかなと思います。

とはいえ「聴く」というのはハードルが高いので、高速バスや飛行機、JALやANAですね。最近は海外の航空会社さんと組んだりすることもちょっと始めています。コナミさんとか、アイドルとコラボとか、あとは書店でオーディオブックと本を同梱して売ったりとか。わりと裾野を広げる活動を始めています。

ビジネス書はやっぱり男性のほうが読みやすいので、「それをどうしたら女性に読ませられるか?」と相談されたので「じゃあ全部イケボにしたらどうですか?」というのでイケボでやりました。かつビジネス書は全部読むと7時間くらいかかっちゃうので、1時間にしましょうと。

「脚本に起こしていいですか?」と言ってうちで脚本に起こして、それをアニメイトや書店さんで売ったりして、けっこう売れました。だいたい男女比1対9で、9割が女性だった感じですね。

という感じで、これは会社の理念なんですけど「聞き入る文化」「究極のバリアフリーの達成」「出版文化の振興」という3つを軸に据えてやっています。よろしくお願いします。

(会場拍手)

三者三様の“新しい読書”の楽しみ方

木村:ありがとうございます。お三方とも、めちゃめちゃおもしろかったですよね。太宰からメール届くとかやばいですよね(笑)。編集する側の人間からすると、太宰の担当編集になったような、毎週原稿が届くような感じになるのかなと思って、ちょっとわくわくしながら聞いていました。

トークセッションに移る前に、会場にどういった方が来ているのかをお聞きしてから入れるといいなと思います。最初に本とか出版とか、読書領域に仕事として関連している方はどのくらいいますか?

(会場挙手)

けっこういますね。半分くらい、5割~6割くらいですかね。続いて、そういうビジネス領域にこれから新規事業で入っていきたい、もしくはご自身のキャリアとしてそういうところで働いてみたいと考えている方は?

(会場挙手)

少ないですね、ありがとうございます。じゃあ純粋に個人的に読書が本当にすごく好きですという方?

(会場挙手)

多いですね、ありがとうございます。あとは、本はすごく好きで読みたいけれど、忙しくて実際あんまり読めていないなという方は?

(会場挙手)

けっこうみなさん読まれていますね。新しい読み方をしなくてもけっこう読まれているという感じなんですけど。

(一同笑)

僕はけっこう読みたいんですけど、腰が重くなってしまっているところがあるので、トークセッションでいろいろお話を盛り上げていければと思います。まず、現状の本や読書のマーケット、市場について思うこと。バクっとしたキーワードではあるんですが、これについてお三方に聞いていきたいなと思います。大賀さんからお願いします。

出版不況でも、認知度が広がれば本は売れる

大賀康史氏(以下、大賀):私はもともとコンサルティング会社にいて、出版業界に近しい業界で起業しているわりにはもともと出版業界にいなかった、珍しいパターンなのかもしれないです。

あらゆる産業が1996年、1997年で1回ピークを迎えていて、そこからなだらかに落ちているのはかなりの業界で言えることなんです。百貨店、大型のスーパーなど小売の領域ではかなり起きていて、生産年齢人口のピークがそのへんにあったからだと言われているんですね。

その中でも出版業界はそこで一度ピークがあって、長らく少しずつ縮小していると言われてはいますね。今日、このイベントがあったので調べてみたんですけれども、直近は電子書籍と紙の本とを合わせると、ほとんど横ばいくらいになっているんじゃないかなと。

2019年の上半期で、全体のうち書籍が確か1.1パーセントで7,743億円。電子は22パーセント増で、紙は4.9パーセント減とは言われています。でも、flierはビジネス書や新書を多く紹介させていただいているんですけれども、その2つの領域は紙の本で伸びているんですよ。

flierは創業時、出版社さんにご相談しているときからずっと言っていたのは、「こういうふうに認知度が広がっていく中で、まず認知度が広がることが本の購入の一番のドライバになる」と。もちろんflierから要約を読んだら直接本を買えるようにリンクも飛ばさせていただいてますけれども。

例えば、LINEなどで全文公開してしまってあとで本にするとかですね。けっこう堀江さんの本とかもそうなんですけれども、さまざまなメディアで特集を組まれて、ほとんど全文入っている状態のあとで本にして出版するとものすごいヒットになるとか。そういう例がものすごく出てきていますね。

『統計学が最強の学問である』という5、6年前の本もほとんど公開されていたり、『世界から猫が消えたなら』という小説も全文公開されていたりします。

なのでまず認知度が広がって、手に取る人が出てくる。その人が「読んでよかったよ」とか。flierだったら要約でも「読んでよかったよ」という話を周りの人に言うので、その人たちがまた買う。その人がまた広めていくっていうことで、はじめの起爆剤がすごく大事なんじゃないかなと。

これからの本の売り方とその仕掛け

大賀:今までのように本を出版して流通に流して、そのままじっと待っていたらバカ売れするという時代ではないのかもしれないですね。はじめにちゃんと仕掛けをしているものに関しては、初速がしっかり保たれているものであれば大きなヒットにつながりやすい。そのポイントは認知度の向上だと思っています。

年間8万タイトル以上が出る世界ですから、いかにその1冊に注目してもらえるかだと思っているんです。flierはそれを信じて、今けっこう提携メディアを増やしています。ダイヤモンドオンラインさん、NewsPicksさん、SmartNewsさんなどで、書評の部分や要約の部分を提供したりしています。

あと直近では、書店でflierのフェアを展開しているんです。今だとTSUTAYA438店舗でflierの閲覧ランキングを基にした棚が1つできていて、インターネットで話題になった本がTSUTAYAさんに行くと読めると。あと未来屋書店というイオン系の書店でもフェアをさせていただいています。

インターネットで話題作りをしながら、実際に書店に行っても触れることができるんですね。認知度を上げておいて実際の店舗でも手に取ることができる。この組み合わせはけっこう効くんじゃないかなぁと思っています。

今はビジネス書や新書の領域が先に行っているかもしれないですけれども、私は将来はそういう本の売り方をいろいろなところでできると思うので、案外楽観的に見ています。

木村:ビジネス的な視点で見ると4P。よく聞くとは思うんですが、製品、価格、流通、プロモーションですよね。そこでいくと、プロモーションのところが一番の課題と。

まず知ってもらえれば売れるんじゃないかというところで、試食じゃないですけど、最初に知ってもらう起爆剤を作るといいんじゃないかというお話でした。確かにキングコングの西野さんの絵本とかも無料で公開したあとに本になった感じでしたよね。続いて大西さん、いかがですか?

ブンゴウメールのサービス作りのために書店で修行

大西智道氏(以下、大西):その前にちょっとだけ今の……さっきブンゴウメールでコラボしていると言った『ビジネスモデル2.0図鑑』、あれも全文公開されているんですよ。先にウェブで知ってもらって、結果的にファンが増えているので、すごくおもしろいなと。

木村:ちなみにブンゴウメールさんの場合だと、例えば太宰治の『走れメロス』が出されて1ヶ月が終わったあとに、それを毎日読んで読み終わった人が、今度は本を購買するという流れはあったりするんですか? 追いかけられるかわからないですけど。

大西:太宰治を初めて読んで興味を持って、他の作品ももっと読んでみたいという人もいらっしゃいます。

木村:作者に興味をもったりとか。

大西:それは仕組みとしては、今はぜんぜんフォローできていなくて(笑)。新しく作った青空文庫を検索できるシステムとか、それで次のおもしろそうな本を探してもらうという導線は作っているんですけど、なかなかできていないですね(笑)。

木村:いえいえ、ありがとうございます。ではこちらのテーマについてはいかがでしょう?

大西:私はもともと出版とは全然違う業界にいたので、業界全体がどうかというプロの話はできなくて。あくまで個人的な感想にはなってしまうんですけど、読書系のサービスを作るなかで、ちょっと現場を見たほうがいいんじゃないかなと思って、しばらく本屋で働いてみたことがあるんですよ。

木村:おお~。

すぐに役立つ実用書でなくても、大切な本はある

大西:本当は本屋向けのシステムを作っていて飛び込みで営業していたんですけど、売れなくて、うまく言いくるめられてバイトにされちゃったんですね(笑)。「君はちょっと現場を見たほうがいい」と。それでしばらくレジ打ちをしていたんですよ。

でも、やっぱりそれを経験したのはすごく良くて。そのときに売れている本を見ると、めちゃくちゃ売れている本には2種類ありました。自己啓発系の本と、資格の本が圧倒的に売れていたんです。本屋によってもぜんぜん違うと思うんですけど、私が働いているところではそれがすごく売れていました。

「なんでかな?」と思って考えると、仕事の分類とかで重要性と緊急度、重要かそうじゃないか、緊急かそうじゃないかの4つに分けて仕事を分類する話があると思うんですけど、本に関しても似ていることがあるのかなと思って。

今売れている本は、緊急度がすごく高いもの。それは本を買うしかないので、どうしても買いますよね。例えば文学作品は、人によってもちろん価値観は違うんですけど、重要だと思う人はけっこう多いかもしれないけど、緊急度があるかというとぜんぜんないわけですよね。「今週中に太宰を読まなきゃ死ぬ」とか絶対にないじゃないですか(笑)。

そうするとどうしても人間は緊急のものに手を出しがちで、大事だと思っていても緊急度が低いと後回しにしちゃうことがあるのかなと思って。個人的にはそれは人間のシステムのバグというか、とはいえ「本当はやっぱり大事なことに取り組んだほうがいいよね」とは思っていて。

なので半強制的にでも、そういうものが読める仕組みを作りたいなと個人的に思っています。それでブンゴウメールを作ったことが背景としてあるんです。なので、マーケットとしてはどうしても、放っておくとそういう傾向になっちゃうと思うんですけど、ときどきは戻ってこられるような仕組みが作れるとおもしろいのかなと思います。

木村:なるほど。確かに緊急度が低くて重要なことをやっていこうというのが『7つの習慣』などでも出ていて、けっこう流行ったと思います。言われてみれば、それを読んでいるのも自己啓発本だなと思って。そのとおりになっているなとすごく思いました。