給与計算の自動化の流れ

北原佳郎氏:続きまして、給与計算の自動化の話を少々させていただきたいと思います。

これは当社で作っている、当社の給与計算ソフトの仕組みでございます。実際に給与計算するうえでのコーディング、プログラムを会社別に書く作業がないというところまで、今自動化は進んでおります。

実際にこのフローチャートを書いて、それぞれのフローチャートの中で、どのような作業をするのかを、あるツールを使って定義することによって、一連の給与計算作業が全部自動化できるようになっています。

今まではテンプレートがあって、それに対応するものを選んでいくとか、人間がひたすらその作業を毎月毎月繰り返していたんですけれども、それを1回定義してしまえば、毎月毎月の作業が自動化できるようになっています。

この部分は、こちらがオペレーターで、こちらが、SQN(Sine Qua Non:必要不可欠なもの)と呼んでおります、うちのソフトウェアでやる仕事になっていますけれども、SQNと書いてあるところのこの赤枠の部分は1回定義さえすれば、作業が全部自動的に進むところまでできるようになってきています。

先ほど知識労働者の生産性向上という話をいたしました。私どもが考える知識労働者の生産性向上は、繰り返し業務をさせないということです。日本企業というわけではなく、他の業務でも同じなんですけれども、給与計算などのひたすら繰り返せばいいような業務をRPAに置き換えたり、あるいはこういった自動化に置き換えたりしています。

作業をするか、作業を定義する仕事をするか

問題は、その作業に知識労働者の知識を毎月毎月使っているということだと思います。私どもの考える生産性向上というのは、一番最初に定義する部分。「こういうかたちで当社の給与計算を進めるんですよ」ということを定義する仕事。これは知識労働者がまさにやるべき仕事でございます。

けれども、単なる作業を毎月繰り返すことは、まさに知識労働者の生産性を阻害するものでしかないと感じております。

ただ、なぜか日本人はけっこうそれが好きでございまして。間違いのない作業をやっていること。それができあがったということに関して、大変幸せを感じる方が多いというのが、また非常に不思議なことなんですけれども。

そうじゃなくて、その部分はRPAなり、こういった自動化技術なりに任せて、それをそもそも定義する部分に対して、人材を登用していくことが、これから重要になってくると思っています。

たぶん、エンジニアの方に、「今、忙しいんです」という話をしても、その中には、「毎月の運用業務がけっこう入っているんです」という話があるに違いありません。そこからは付加価値というものは生まれてきませんので。

これから先、繰り返し業務になるのか、それともその繰り返し業務を定義する仕事になるのか。その2つは峻別していく必要があると考えております。

複雑に見える給与計算も、やっていることは1つだけ

先ほどの「フローチャートがあるのはいいんだけど、どんな作業をするのかを定義するのが大変じゃないか」という話があります。ですが、その定義そのものは、実はExcelに書くだけでございます。

Excelに書くんですけれども、給与計算というのは、ちょっと人事の方以外……。(人事の方が)あんまりいないんで恐縮なんですけれども。

社会保険があったり、税金があったり、何があったりですごく複雑に見えるんですけれども、やっていることはただ1つしかありません。実は、給与計算は「どの対象者の、どの項目に、どの値を入れるか」ということしかやっていないんです。

例えば家族が生まれたといったら、家族手当を払うとか。要は家族が生まれたから、先月と今月を比較して、家族の数に差があったら、それに対する家族手当を支払います。税金も同じことです。

ですから対象者を……。例えば役職が上がりましたという方を選んで、課長手当、役職手当を払うとか。すべて、対象になるのは誰かを探しだして、それに対して、該当する人のその項目に対して値を入れるということしかやっていないんですね。

その項目が社会保険だったり、税金だったり、家族手当だったり、担当がこうであったりするわけですけれども、やっていることはすべて同じでございます。

ですので、定義表には、「誰が」「どの対象になっているか」を示しています。また、対象になった箇所に対してどういう値を入れるのかという値の定義がしてあります。それから全体の流れの定義。この3つをExcel上で表現しますと、給与計算はすべて定義できるようになっております。

定義したものが当社のシステム上では自動的に動くというふうになっております。これも1つの考え方として参考にしていただければいいんじゃないかなと思います。

給与計算にAIを使う必要はまったくない

これも、ちょっと細かいことですけれども、先ほど申し上げました、選ぶというものですね。抽出条件を書いている部分です。それをExcelに書きますと、システムのほうでは「あなたの言っていることを数式に表すとこういうことですね」ということを確認して決めると。

それからもう1個は値ですけれども、「この項目にこういう値を入れるんですよ」とExcel上に指示すると、それがコンピュータ上でわかりやすい文章に変わっていると。

それがそれぞれのフローチャートの役割ということもあって、作業が進んでいるというかたちになっております。なにか新しい処理が加わるのであれば、フローチャートを1個付け加えて、そこで何をするのかをExcelに書き込めば作業が進んでいくようになっております。

このようなかたちで、給与計算という本当に専門家の仕事と。給与計算の専門家に見せれば、間違いがあったところが“臭い”でわかるというんですね。そういう方々もいるんですけれども、そうじゃなくて、あくまで計算式として論理的に物事を進めていくことができると考えております。

よく「給与計算にAIを使えないんですか?」という話をされます。使えないです。使えないですし、使う必要はまったくないです。

本来は全部数式で表すことができて、規則演算で表すことができますので、そこにAIの出番がまったくございません。次に話しますけれども、AIができることというのは、複数の集合の間の隠されたルールというものを見つけ出すこと。これがAIのできることです。

今までは人間がその部分を一生懸命、「こうであるためにはこうあるはずだ」というのを考えたんですけれども、そういうことを考えなくても、サンプルさえ教えてあげれば、AIは隠れたルールを見つけ出すことができます。ですけれども、給与計算に隠れたルールはありませんので、そこにAIを使うことはございません。

画像認識AIで年末調整ができるようになる

次は画像認識AIで、年末調整ができるようになる事例をあげております。

人事の方じゃなくても年末調整って毎年やっているじゃないですか。12月にはたぶん紙に書いて人事部に提出したと思います。そのときにけっこう面倒くさいのが、保険料の控除や住宅の申告の控除というのがありまして。保険料の控除というのは保険会社毎に控除申告証明書のフォーマットが全部違うんですよね。

ですので、実はあれを全部人事部でチェックしているんですけれども、従業員が書いたものはだいたい3割ぐらい間違っているんですね。それぐらい読み取るのが面倒くさいですし、従業員の方にとっても本業でもなんでもありませんから、そんなことに頭使うのも面倒くさいと。できれば自動的にやってくれないだろうかと思われると思います。

そういうのが、年末調整の面倒くささなんですね。一例ですけれども、控除証明書からしかるべきデータを読み取って、それを紙に書いて、あるいはWebでやっている方などはWebに入力すると。それを人事部の方々は全部チェックしているんです。

ですから、大きい会社ほど大変です。期間は全部11月いっぱいに決まっていますから。そのときに1万人の会社のほうが100人の会社よりもはるかに工数を取らなきゃいけないと。工数をかけなきゃいけない理由は、先ほど申し上げました紙の処理ですので。1件に3分かかるのであれば、1万件には絶対3万分かかるということになってまいります。

そこをAIでなんとかしようというのが今日のお話でございます。

保険料の控除証明書の種類は500種類以上

年末調整をペーパーレスにするクラウドサービス、今はたくさんございます。SmartHRさんとかfreeeさんとか、いろんなかたちで出しておられます。

ただ、それで入力が楽になる。それはもうみんな紙よりもスマホのほうが得意ですから、楽になるんですけれども、先ほどの控除証明書から読み取らなきゃいけないとか、あるいは人事部がチェックしなきゃいけないという仕事は一切なくなりません。

なぜかというと、繰り返しになりますが、控除証明書の上に書いてある、契約者名と保険料とか、新旧の区分とか、一般・介護・年金という制度の違いとか。適用制度ですね。

そういったのを読み取らないといけないんですけれども、全部フォーマットが違いますので、どこに書いてあるのかわからないということが起こっています。

本当は一般保険なんですけれども、『年金一生安心』という商品名がついていたりしますと、それだけで従業員の方々は年金を選ぶんですけれども、実は税務の区分からいうと、それは一般にしなきゃいけないということを人事の方はチェックしているわけです。これは大変さが書いてあるんですけれども、その保険料の控除証明書の種類は500種類以上ございます。

数百種類の証明書の特徴をAIが判別

もう1個、住宅ローンの残高証明書というものがあるんですけれども、これも100種類以上あります。当社の画像認識AIというのが何をやっているのかというと、ここにいろいろある証明書が、一体全体どこの保険会社が出しているものなのかを認識してくれます。これを認識させるのは簡単でして、AIというのは特殊なものじゃなくて本当にコモディティで、誰でも手に入るものでして、いろいろなツールが出ています。

AIが出る前の昔だったら、例えばこのソニー生命の証明書を認識させるためには、「こんな線があって、ここにはこんなのがあって、こんなのがあるんで、ここには社印が押してある」というような特徴点を探しだして、それをコンピュータに教えていくことしか方法がありませんでした。

AIのすばらしいところは、「ソニー生保案件のこのパターンは、こういうものなんだよ」というもののサンプルを、5,000枚とは言いませんけれども。一番少ないAIだと20枚ぐらい。多いところでも100枚ぐらいを読み込ませるだけ。スキャン画像として取り込めば、それだけで特徴点を探しだしてくれるのがすばらしいところです。

今の話はけっこう重要な話をしていて、AIに教えるためにはサンプルがいるんです。サンプルも多ければ多いほうがいい。だから1,000枚ぐらいあるとほとんど間違えがなくなるんですけれども、100枚ぐらいですとまだまだ間違いが出てきます。ですので、AIを使いたいと思う場合、AIのテクノロジーと同時にひたすらデータを整理しておかないといけないのが大変だと思います。

ですが当社の場合は500種類、控除証明書があると申し上げましたけれども、500種類分の証明書の画像サンプルを、少なくとも数十枚ずつ持っているので。全部分類してあるということです。その分類が大変だったんですけれども、全部分類してあります。

それを覚え込ませると、AI的には「なんだかわからないけれども、これのはずですよ」ということを選んでくれます。スピードもそこそこ速いです。

こういったかたちで、これはアクサダイレクト、これは太陽生命、これはソニー生命、これは太陽生命みたいなことを、本当に何百種類もあるんですけれども判断してくれます。

人間がチェックするべき部分を画像で切り取る

その上で「ここはあなたを読み取るんですよ」というところだけを切り取ってくれます。切り取るのは簡単で、このライフネット生命保険会社のこのパターンの控除証明書であれば、読み取る場所ということさえわかってしまえば、読み取る場所はこことここだとわかるわけです。

ですので、単にAIにやらせてこの数値まで読み取っちゃおう、というふうに考えちゃうんですけど、そうじゃなくて。

あくまでも、これは保険会社の種類を選ぶだけで、そこから読み取るべき場所を切り取るためのテンプレート、ひな形を載せるということだけをAIがやってくれております。

それができますと、切り取るべき画像が出てきます。これは、まず保険料控除証明書のときは年度をチェックしないといけませんので、すべてこれは年度の部分だけを切り取っています。

今年の分は令和元年という会社と令和1年という会社と、たまに平成31年と書いてある会社もあるんですけれども、そういった画像だけを見ますので、ここはAIじゃなくて人間が見ています。

あまりにいっぱいパターンがありますので、人間が見て、バーッと画像で出てきますので、もう令和元年以外のものがあったら、今年は使えないのでエラー等が出てきます。

こちらは新旧というのがありますけれども、新と旧だった部分を選んでありますので、その部分を読み取って、違うものがあったら、間違っているものがあったら、新と旧を区分しているといったことをやってまいりますと。

AIやOCRによる全自動化は「絶対に不可能」である理由

ですから、AIを使って何をやったかというと、結局人間を使っているんですけれども、ただ、使う人間の種類がまったく変わったということです。

それまで、もしも控除証明書から読み取るのであれば、なんらかの知識であるとか、なんらかの教育を受けた、控除証明書というのはこういうものですよと、実は500種類ありますよと。でも、すべての控除証明書のどこかにこういう文字があるはずですから、それを読み取ることを教育しない限りは、できませんでした。

ただ、今回の場合はこのシステムの場合はAIを使うことによって、まったくのド素人、未熟である作業者であっても、画像さえ読めれば、日本語さえ読めれば作業ができるというところが大きな違いでございます。

ですから、まったくの全自動にすることは、実はできません。AIを使って、もしもこれを進めていけばAIとOCRで勝手に全部読んでくれると、技術者は思っちゃうんですけれども、それは実は不可能です。絶対に不可能なんです。

なんで不可能なのかというと、AIは97パーセントか、98パーセントか、99パーセントとかでもいいですけど、どんなに正しくても、絶対どこかは間違えるんです。どこが間違えているかは決してわからないんですね。なぜかというとAIがどういう判断をくだすかというのがわからないからです。

ですので、ざっくり97パーセントあっている仕事にAIを使うのはOKなんです。ただ、私どもの仕事のように、お金に関する仕事のように間違えてはいけないものに対して、AIやOCRだけに100パーセントの信頼を置くことはできない。

お客様に説明するときに、説明できないんですね。「100パーセントだけど、これはどうやって保証してくれるんだ」と言っても、「いや、AIで読んでますから」「OCRが、2つのOCRロジックを使ってますから」と言っても、証明にはならないんですね。

ただ、不思議なことに、「人間が2人で読んでいます」と言うと、「なら安心だ」と言ってくれるんですけれども。それも本当は間違っているんですけれども、少なくともAIだけで、あるいはOCRだけで100パーセントの保証ということはできないというふうになっています。できません。

AIと人間が協働し、人事部と従業員の工数を削減

次は、今度は数字を含む読み取りですけれども、保険料の数字の部分だけが切り取られていますので、これを元に人間が読み取っております。豆知識ですけれども、この2つの金額があります。

先ほどの控除証明書は金額が2つあるものが多くて、上の金額は9月までに実際に支払った額です。下の金額は、このままいくと12月までにこれだけの額を支払うんですよ、という額です。

税控除に使えるのは、この下の額、大きい額を使えるということです。みなさん、来年やるときに間違えないでください。2つ数字があったら大きいほうで控除できますので。そちらのほうを使っていただきたいと思います。

ただ、それをAIにやらせようとするとけっこう大変です。「もしも下に数字がなかったら、上の数字を使いなさい」なんてことをやらせていくだけで大変なんですけれども、人間様であれば、2つ数字があって下が入っていたら、下の数字を拾うだけですので。

そういった判断はやはり人間のほうがはるかに速いですし、間違いないと思っております。

今のように当社が読み取った結果は、ご本人にメールで通知しておりますけれども、このメールにあるURLにログインいただきますと、ご自身の年末調整の内容を詳細まで見られる仕組みになっております。

人事部と従業員の工数を、AIと人間の目視の組み合わせで大幅に削減するという事例でございます。

人事の方にとっては、このデータをアップロードするだけで社員がクラウドに入力して、クラウドに入力するときには、先ほどのいろんな証明書からの読み取りは不要ですし、その入力も不要ということです。

原本だけ当社のほうに提出いただきます。そうしますとメールが飛んできますので、本人は内容を確認すると。あとは人事部が結果をダウンロードするだけというところまで作業が簡単になっております。

人間とAIのすみわけの前提

さて、時間がまもなくまいりますけれども、最後にAIと人間のすみわけ、今ちょっとお話ししたことも含めてお話しておきたいと思います。(1番目は)AIもOCRも100パーセントを保証できませんというか、保証してくれません。

ただ、当社のような、あるいはみなさまの経理などを含めてですけれども、100パーセントの正確性を求められる就業・給与・福利厚生。または経費精算といった業務に関しては、人間の目視とどう組み合わせるかといったことがたぶん永遠のテーマとして残ってくるというふうに思います。

2番目ですけれども、AIの教育に十分なだけのデータを蓄積していなければAIは機能してくれません。これもIBMの営業の方から伺ったんですけれども、「ワトソンを使いたいんだよね」という話なんですけれども、「じゃあ、どういったデータがあるんですか」と言うと、データはまだないんですね。

データはきれいに区分されていないという返答が返ってくるという話をしていました。まず、十分なだけのデータ(を用意する)、データベースを充実させた分だけAIは賢くなります。それから、AIの知識の源は過去データということ。先ほど話した、履歴書の話ですけれども、過去データであるところに注意が必要だと思っております。

最後に、コンピュータは人間に取って代わって反復業務を行いますし、かなりの部分の本当の判断をやってもらえるようになってまいります。ですけれども、反復業務の内容や判断の基準、こういったものを定義するのは、これからも変わることなく……。

少なくとも、シンギュラリティといわれているものが2045年に来るか来ないかわかりませんけれども、それまでの間は何をしたいかを決めるのが人間ということは変わらないと思いますし、それまでは知識労働者の知性を使っていくことが重要になります。

以上、40分なんですけれども、お話をさせていただきました。人事労務のみならず、少しでも、バックオフィス業務のなんらかのアイデアになれば幸いでございます。今日はご清聴大変ありがとうございました。

(会場拍手)