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トークイベント「忙しい大人のための『児童書』入門」(全5記事)

ライフネット出口氏が語る“忙しい大人”のための児童書入門「子どもには本質を見抜く力がある」

本当に優れたものは、子どもも大人も楽しめるようになっているーー。ライフネット生命の創業者である出口治明氏が著書『教養は児童書で学べ』の出版トークイベント「忙しい大人のための『児童書』入門」を開催しました。大人になった今だからこそ知っておきたい新たな読書論とはなにか。“大の読書好き”とも言われる出口氏が自身の読書法や本を選ぶ時のポイントだけでなく、「大人にこそ児童書」と語る理由などを明かしました。(写真提供:光文社写真室)

子どもには本質を見抜く力がある

司会者:それでは、講演会をはじめさせていただきます。出口さん、どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

出口治明氏(以下、出口):みなさん、こんばんは。

会場:こんばんは。

出口:ずーっと昔にこのホールに来たことはあるんですが、そちらのほうに座っていて、楽屋に入るのは当然初めてで、なんかブザーが鳴ったりするとドキドキしていましたけれど(笑)。今日はみなさんお忙しい中、集まっていただいてありがとうございます。

先ほど、「許可なき撮影はあかん」というお話だったんですが、紀伊國屋さんに許可をいただきましたので、僕がしゃべってる間はスマホで自由に写真を撮っていただいてぜんぜん構いませんし、TwitterやFacebookをやりながら聞いていただいてもOKです。

こんなことを言ったら、いつも「お前、被写体として自信あると思てんのか?」とか言われるんですが(笑)。自信はないんですが、僕はインターネットで商売をやっている人間ですから、「スマホで商売してる人がスマホを使ったらあかん」というのは絶対に矛盾だと思うので、気楽にパチパチやっていただいてけっこうです。

時間は1時間いただいているんですが、せっかくこんなにたくさんのみなさんに集まっていただいたので、お互いにディスカッションとか質疑をたくさんしたいと思います。できるだけ僕の話は手短にして、みなさんといろいろ意見交換をできたらうれしいと思っています。

それで、今日はこの本についてお話をしようということなんですが。僕は子どもが2人いて、孫も2人いて、兄弟も2人なので、ちょうど2・2・2ときてるんですが(笑)。児童書は昔からけっこう好きでした。

教養は児童書で学べ (光文社新書)

なんで好きなのかと考えてみたら、本にも書いたんですが、みなさんアンデルセンの『裸の王様』ってどんな物語か知っていますよね? 王様の偉い家来たちはみんな、「なんか怪しいなあ」と思っても、「立派な服を着ておられます」とか言うわけですが、子どもは「王様は裸やで」と言ってしまう。そういうストーリーなんです。

なにを語っているかといえば、子どもってやっぱり本質を見抜く力があるんだなと。だから、むしろ大人のほうが騙しやすいんやなと。大人は、いろいろかっこつけたりするので、そういうことを教えてくれる物語だという気がします。

練りに練って作られているから児童書は残る

子どものほうが、なんにも世間のしがらみに毒されていない分だけ、本質をつかむ力を持っている。ということは、児童書を書く人もいい加減に書いたら、子どものほうが「これ、おもろないで」とか、すぐ言われそうな気がしますよね。

なんか大人だったら、ものすごく偉い大先生が書いたら裸の王様と同じように「わからへん僕のほうがアホなんや」とか、かえって思ってしまったりしますよね。そういう意味で、「なんで児童書が好きなんだろう?」と考えてみたら、やっぱりよくよく考えられて練りに練って、本当にいいものを作っているから、児童書って残っていくんだろうなという気がします。

大人の本も一緒ですけれどね。でも本当にいい児童書はそういう意味で、丁寧に作ってあるということがずっと記憶に残る鍵なんだろうなと思うのです。

僕は、本はひたすら好きで読んでいるので、おもしろい本しか読んでいないので。今まで仕事に役立つとか、なにか読んどいたら得になるなどと思って読んだことは、たぶん一度もないと思います。本はおもしろいかどうかというのが、僕にとっては本を選ぶすべてです。

だから、児童書や大人の本、純文学、大衆文学、あるいはマンガなど、僕にとってはあまり意味がないので。おもしろいかどうかだけがすべての価値基準なので、「大人の本のほうが上や」とか思ったことは一度もありませんし、そういう意味では「こういう本を作りませんか?」と光文社さんに言っていただいた時は、本当にすごくうれしかったです。

でも最初に、新書では、100冊も紹介できませんから、「まあ10冊ぐらいやな」とヤマカンはついたんですが、正直に話しますとこの10冊を選ぶのが一番しんどかった気がします。だって、いい本が山ほどあるので、どのようにして選ぼうかというのにけっこう時間をかけた記憶があります。

最初と最後の本はすんなり決まったが……?

この本を作ろうと思った時に、最初と最後は素直にひらめいたんですよ。最初は絶対、『はらぺこあおむし』から始めようと。最初のページは点(卵)ですからね。宇宙もビッグバンから、点から始まっていますから。

最初は『はらぺこあおむし』で、これは迷いがありませんでした。『はらぺこあおむし』はちょうど本に親しみ始めた子どもが読むと考えたら、最後は小学校の5、6年生かなというイメージが湧いたので、最後は『ナルニア(国物語)』にしようと。これもわりと迷いがなくて、最初と最後の2冊はすんなりと決まったんですよね。

でもそれからあとは、ああでもない、こうでもないと、いろいろ悩んで。僕は保守的な人間だからだと思いますが、やっぱりユーラシアの東と西と真ん中があったほうがええなと。すごく単純なバランスですけれど。

そうして東の世界、東洋の世界ではなにがあるだろうと考えたら、やっぱりあのハチャメチャな『西遊記』しかないなと。それから西の世界は、グリムやアンデルセン、ギリシャ神話などたくさん頭に浮かぶんですけれど、やっぱり完成度という面ではすごく『アンデルセン』が高いなと思って。それで、じゃあ真ん中はというと、これはもう『アラビアン・ナイト』しかない。こういうことで、これで5冊選びました。

なんで迷ったかといえば、『長くつ下のピッピ』『メリー・ポピンズ』とか、好きな本がいっぱいあったからです(笑)。でも、好きという感じで選んだらあっという間に数十冊ぐらいになっちゃうので。『ニルスのふしぎな旅』も好きですし。

だから好きな本は1冊か2冊にしようと思ったら、自然と『エルマーのぼうけん』は絶対に入れようと思っていましたし、あと『モモ』がどうしても入ります。これでようやく7冊になりますよね。

それから、僕は歴史が大好きなので、歴史オタクとか言われているので、古い本はやっぱりどう考えても……もちろん『古事記』もすばらしいんですが、『ギルガメシュ王ものがたり』を比べたら……。やっぱり『ギルガメシュ』には人間や社会のすべてが描かれているので。友情とか愛とか冒険とか、生と死の物語とか。だから『ギルガメシュ』が、古い物語では一番やなと。

そうしたら、なんか俗に言う文化系の本ばっかりになっちゃったんで、「理科系というか、やっぱり自然科学の本も絶対に必要だよな」と思って。人間は動物なので、一冊選ぶとしたらバートンの『せいめいのれきし』しかないと。

これで9冊なんですが、選ぶ時に1冊は、僕の知らないいい本が……。僕には今は孫がいますけれども、一緒に生活しているわけではありません。僕の最後の子育てからは少し時間が経っているので、最近にも絶対すばらしい児童文学が出版されているに違いないと思って、時間を見つけてクレヨンハウスさんに3時間ぐらい行きました。

そこで僕の知らない児童文学を順番に読んでいって、『さかさ町』を見つけたのです。こういう経緯で、なんとか10冊選びました。このプロセスが一番時間がかかったような気がしています。

作家と作品は不即不離ではないか

それから、本については2つの考え方があって。作家はどうであれ、書かれたものがすべてです。だから作家のことなんか、書いた人のことなんかは考えなくていい。書かれた本だけをちゃんと読めばいいという考え方があると思います。

でも僕はどちらかと言えば、やっぱり生身の人間が書くわけですから、作家と作品というのは不即不離のような感じがしていて。こういう物語を書きたいと思う、そういう時代の要請、その人の人生など、いろんなものが背後にあると思っているので。

この10冊を紹介する時は、「僕が読んでこんなことを考えたで」だけではなくて、「どんな人がどういう状況のもとでこういう物語を書きたいと思ったんだろうか」と。……あの、後ろのほうも聞こえますか? 聞こえなかったら手を挙げて、「聞こえへん」とか言ってくださいね。

そう思っていたので、できるだけ作者と物語をセットで書いてみたいなと、そういう気持ちがありました。もちろん、優れたライターの方と編集の方に手伝っていただいて、やっと本ができました。この本は1年ともうちょっとかかってやっとできたんです。

僕の20年来の友人がですね、25年ぐらいになりますかね。わりと本好きな友人がいるんですが、僕の友人ってだいたい横着なんで、僕の本なんかだれも読んでくれないんです(笑)。「またいつも言うてること書いてんのやな」という程度なんですが、その友人はわりと義理堅くてずっと読んでくれているらしいのです。

この前、(一緒に)ご飯を食べていたら「お前の書いた本の中で、これが一番ええで」と言うてくれたんで、すごくうれしい気がしましたね。

本を読むことでいろんなところに橋がかかる

この本の冒頭にも書いたんです、「本を読むって、どういうことや」と。読書論の最高峰は、皇后陛下の『橋をかける』だと僕はずーっと思っているんですが。このタイトルが秀逸で、本を読むことによって自分と作者の間に橋がかかりますよね。「こんなこと言いたい人なんだな」「こんなこと書いてるんや」と。

でもそれだけではなくて、作者だけではなくて、本の中にはたくさんの登場人物やいろんな人が出てきます。社会の縮図と言ってもいいと思うんですけれど、人生の喜怒哀楽のすべてが入っていますから、やっぱり社会や人との間にも、本を読むことで橋がかかりますよね。

さらに、それだけではなくて、実は本を読んでいろんな気づきが自分の中にも生じるので、自分と自分の間にも実は橋がかかると思うんですよね。本を読んでいて、自分の知らないところ、「あっ、こういうところも自分にはひょっとしたらあるんじゃないか」という経験を持たれたみなさんも多いと思うんですけれど。

だから本を読むことによって、人はいろんな橋をかけて、社会で生きていくための知恵とか力をもらうような気がするんですよね。そういう意味では、僕は本を読むことが趣味です。おもしろいから読んでいるだけなんですが、でも結果としてはいろんな本を読むことで、いろんなところに橋をかけることが自分はできているんだと、そう思っていますよね。

子どもの頃、まだ社会の物事がなにかわからなかった頃に『アラジンと魔法のランプ』を読んで、確かかわいがってくれた叔父に「魔法のランプがほしい」と言ったのを思い出すんですが(笑)。でも、それもやはり橋がかかっているんですよね。「こういうものがあったらいいな」という。

とくに児童書は、ピュアに作られていますから。子どもは複雑なことはわかりませんから、橋のかかり方も、素朴だけれども非常に力強く頑丈な橋がいろんなところにかかっていて、そのことでその人の人生ってすごく楽しくなるような気がします。

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