メタップス・佐藤航陽氏の仕事と学び

今野穣氏(以下、今野):じゃあ、佐藤さん個人の話を。表にあんまり出ないですよね?

佐藤航陽氏(以下、佐藤):飲み会にはいないですよね(笑)。

今野:うん(笑)。いつも何してるんですか?

佐藤:調べ物してます(笑)。

今野:ちょっと知りたいんですけど、ご自身を高める訓練ってどういうふうにされてますか? 今日は起業家の方も結構いると思うので、「どうやって佐藤さんは佐藤さんでありえたか」みたいなところで、どういう訓練や努力をされてきたんですか?

佐藤:努力はしてるというか、させてるっていう感じなんですけども。ちょっと宙ぶらりんな表現になっちゃいますけど、私は「前に倒れる」っていうのが大事だと思っているんですよね。

走るって前に倒れるってことじゃないですか。それで、強制的に前に倒すと足が出るんで、それが成長なのかなと思っているんですよ。

だから怖くても、自分ができないと思っても、いったん前に倒れてしまう。そうすると強制的に足を出さないと鼻を怪我するので。そこの必死感みたいなものが成長につながっているのかなって思います。

今野:人と何が違うんでしょう?

佐藤:そんなには違わないと思いますけどね。ストレスですかね。常にストレスがある環境にいるようにしていて、ストレスがない場合にはすごく焦りますね。「今、ストレス受けてない」と。

結構「イージーだな」と思うと嫌なので、慣れてないこと、わからないことだらけのほうが心地いいなって思っています。

組織・チーム内で行っている情報のコントロール

今野:今までで一番大きな失敗って何ですか?

佐藤:今も失敗だらけですけど、どれかって言うと難しいですよね。ただ、本当に再起不能になるぐらいの失敗はまだしていないので、まだまだ経験が浅いのかなと思いますね。

今野:よく「起業家は失敗を失敗と思わない力がすごい」なんていう話もしますよね(笑)。

佐藤:ポジティブなんですかね(笑)。

今野:そうですね。あとは、佐藤さん個人が広いビュー、高い視座でものを見るときに、それを企業として成功させるには、一定の組織やチームが必要だと思うんですけど、その辺はメタップスとしてやっている内在的な強みというか、何かコツがあるんですか?

佐藤:リテラシーによって話す内容を分けてますね。やっぱり社員にもものすごく先が見える人間もいれば、現場しか見えないっていうメンバーもいて、リテラシーっていうのは世界中で全員違うと思っているんですよね。

だから、リテラシーが高いメンバーにはこれだけ話して、まだまだだなって思うメンバーには抑えておく。情報っていうのはありすぎると混乱するじゃないですか。

だから、どこまでを話してどこまでを話さないかという調整をけっこう細かくやっています。

今野:佐藤さんが全部コントロールしてるんですか?

佐藤:情報はコントロールしてますし、あと例えば、中華圏のメンバーは中国市場しか見ていない。それでもOKだと。東南アジアのメンバーなら東南アジアしか見ない。それでもOKで。

数名だけ全体が見えていて、世界中のマーケットをハンドリングする人間がいると。それで全然OKだなと。やっぱり全てが見えていると、みんなパンクしちゃうんで。

今野:じゃあ、結構細分化してものを決めているんですね。

佐藤:はい。おっしゃる通りです。

テクノロジーを起点にした世界の変化

今野:あとやっぱり、最後にもうちょっとテクノロジーのことを伺ったほうがいいかな。

佐藤:はい。

今野:20年後、30年後の世界ってどうなると思いますか? テクノロジーを起点にした社会とか、国家、政府、人民っていう話で、どんな世界を考えていますか?

佐藤:そうですね。20年、30年っていうスパンで考えるかどうかは誤差だと思うんですけど……。私が長期で考えるのは、たぶん「人間が働くと、お金を稼ぐ」っていうのはオプションになると思いますね。

あと私の視点からすると、テクノロジーっていうのは「人間を労働と資本から解放してるかな」っていう感覚があります。私たちが労働するのは、結局お金が必要だからじゃないですか。

一方、経済の中で、必ずしもお金がなくても生きられるっていう人たちが増えてきたとしたら、働く人って減ると思うんですね。

今ユニクロが、週休3日制みたいなことをやってるじゃないですか。たぶん、ああいう取り組みはどんどん増えていって、200年で考えると人間の労働者は減っている。

根本の「労働の必要性」が減っていって、ベーシックインカムみたいなものを政府が出すのか、企業がサービスで代替するのかはわからないんですけど、人間っていうのはどんどん働く必要性が失われていくのかなって。

逆にもうちょっと人間らしいというか、創造性のある活動にフォーカスできるようになってくるのかなと考えています。

自分の手柄にこだわらなければ、人間は何でもできる

今野:そうすると、もう国家とか政府っていう概念も変わるという感じですかね?

佐藤:そうですね。まあ、50年っていうスパンで考えるとそれほど変わってないと思いますし、まだ国境もちゃんと残っているとは思います。

ただ、その境界線っていうのはどんどん消えていくと思っていて、GoogleとかApple、Amazonみたいに、国家に近い企業がいくつか出てくると。

一方で、今のアメリカもそうですけども、企業に近づいてうまく吸収していって、彼らの力を活用して国家の力を強めていくという「国家の企業化」もどんどん進んでいくと思うので。

国家と企業っていう境界も消えていったり、いろんなものの概念が溶けて、もう1回混ざり合う瞬間なのかなと思います。

今野:そうするとやっぱり、地主にならないと、国家とか政府と近づいたり……国民というか、ユーザーと近づくことって、なかなかコントロールできないんじゃないかなと思うんですけどね。

そのルールをつくったり、地主になるということに関してはチャレンジしていかないんですか?

佐藤:それも全然ありかなと思ってはいますけど、目的が何によるかですよね。「時価総額世界一の企業になります」っていう会社もあれば、ルールをつくる、そのルールを使って、いろんな人に何かをつくってもらいたいという会社もある。それはたぶん、価値観の問題なのかなと思っています。

よく言うんですけど、私は「ドミノの最初の1つを倒したい」って思ってるんですよ。アイデアだったりやり方だったりを世の中にポーンって投げると、それを見ていろんな人が「これを使ってもっと稼げるんじゃないか」とか「もっといい生活ができるんじゃないか」という彼らの欲望や個々人の思いで勝手に動いてくれるので。

昔、アメリカの大統領の話をしていて、おもしろい言葉があったんですよね。「自分の手柄にこだわらなければ、人間というのはなんでもできる」と。

私はその通りだと思っていて、必ずしも「自分がやった」「自分の利益だ」と言い切らないんであれば、やりたいことは実現できると思っている人間ですね。

あと、おっしゃっていたプラットフォームで支配する、一番になるということは、 必ずしも目的じゃない場合もあるかなと。そういうあり方も、企業としては1つ別の選択肢なのかなと。

それでみんなが便利になれば、それはそれでいいんじゃないかなと思っていて。アプリなんてまさにそれかなって思ってました。

ガラケーっていうガラパゴスの市場から、Apple、Googleっていうアプリのプラットフォームがきて。それで、私たちは彼らが普及するお手伝いをしていたので、そういう意味では、今言った活動の一部になっていたのかなと。

日本のベンチャーの良いところ・悪いところ

今野:ちょっと話変わりますけど、日本のベンチャーの良いところと悪いところってどんなところですか?

佐藤:良いところで言うと、すごく細かいんですよね。まあそれは当然かなと思っていて、アメリカとか中国はユーザーのパイが広いので、細かい必要がないのかなと。ザクッとユーザーを取ってしまえば結構儲かるみたいで、細かさは求められていない。

一方、日本だと1ユーザーのARPUをどう上げるかというところにいかないとマネタイズができない。なので韓国、日本に関しては細かさ、緻密さっていうのが世界一かなと思いましたね。

今野:そうすると、日本のベンチャーって海外を目指すべきだと思いますか?

佐藤:それも価値観(による)かなと思っていて、必要性がないんだったら(必ずしも)目指す必要はないと思っていますし。

今野:生き残れる?

佐藤:長期でいうと生き残れないと思いますけど。100年続きたいとか、200年続きたいとかじゃなくて、そこそこの会社をつくるにはとても良い市場だと思っています。(海外に)出る必要もないと思っています。

今野:そうすると、エコシステムとしては、もうちょっと新陳代謝が早くなったほうがいいっていうことですかね?

佐藤:そうですね。小さなイグジットでエコシステムを回したほうがいいのか、時間がかかって失敗するかもしれないですけど、海外でヒットする企業に対して応援する雰囲気をつくりたいのか。そこは……グロービスさんのほうで(笑)。

今野:ははは(笑)。

(会場笑)