日本の旅行事業で業界ナンバーワンを目指す

佐俣アンリ氏(以下、佐俣):今まで(過去)のところを簡単に伺ってきたんですけど、今は何を考えてどういうことに挑戦してるのかを伺いたいんですけども。

柴田啓氏(以下、柴田):僕らはひとつの経営判断として「しばらくは旅行事業に特化してやろう」というのを2年前に決めたんです。日本の旅行業界の中でナンバーワンになろうというゴールを明確に決めていて。

やっぱり旅行市場って市場が大きいんですね。チャンスはたくさんあって、既存のプレイヤーもたくさんいて、その中でディスラプションを起こせる可能性が十分ある市場だなと思ってるので、そこに経営資源を特化してやっていこうというのがひとつ。

もうひとつは、旅行事業に特化してるからこそできるという意味で、掛け声じゃなくて本当に海外展開をちゃんとやるということを考えはじめてまして。

2ヵ月前にシンガポールの旅行系のスタートアップを傘下に収めて、他の国でも展開する準備をしてるんです。

日本で今までやってきたことが、どうやら世界でも通用する可能性があるんじゃないかなということが仮説として立てられるようになったので、真剣にやろうじゃないかと。そういうことで、今は2つのことを考えてやってます。

旅行の需要が世界的に増えている

佐俣:客観的に伺うと、めちゃくちゃ攻めてる時期のような気がするんですけど、いろいろな時流がある中「今は攻めどきだな」ってイメージなんですか?

柴田:それは間違いなくそうですね。モデルという意味でいくと、旅行業界ってすごく旧態依然としてるところがあるんですけど、やっぱりインターネットで変わってきた。さらに今度はモバイルによって変わってきている。非常に環境としてはやりやすい時期だというのがひとつ。

もうひとつは、地域という意味でいくつかのことが起きていて。世界的に旅行の需要がものすごく増えてるんですよね。例えばアジアひとつを見てもエアアジアなどのLCC(ローコストキャリア)。

ああいう新しい旅行事業者が出てきたことによって、旅行のコストがものすごく下がった。中国とか東南アジアの人とかが爆発的に訪れるようになったわけですね。

佐俣:国が豊かになってきたし、移動コストも下がってきているからどんどん旅行に行くと。

柴田:日本を見ても、新聞は毎日のようにインバウンドの話じゃないですか。

佐俣:平日の昼間に銀座に行くと、日本人より圧倒的に中国の方のほうが多い。

柴田:それはみんなが言う話で。あれも氷山の一角で、世界中でそういうことが起きてるわけなんですよね。だから、マクロの環境としては我々にとってものすごく良いわけです。いま攻めないといつ攻めるんだってくらいの時期だと思ってて。

この14年間やってきていろんなことを学んで、プラスいろんなネットワークもできたんで、それを最大限に活かせるのはやっぱり今のタイミングだなと思ってますね。

JTB、H.I.Sに並ぶブランド認知度が目標

佐俣:なるほど。抽象的な質問になっちゃうんですけど、旅行というセグメントの中でどういう会社になると「自分たちはイケてるじゃないか」となるのか、どう定義してるんですか。

柴田:わかりやすく言うと、「旅行」というとやっぱり「JTB」とか思い出すじゃないですか。同じくらいになりたいと。簡単に言うとね(笑)。

「あ、Travel.jpだ」と。すごくわかりやすく言うとそういうことだと思うんですよ。シンプルに、日本なら日本の旅行に行く人が「旅行」と聞いてどういうブランドを想像するかというとき、「Travel.jp」になってもらいたい。

佐俣:「旅行いこうか」となったら「とりあえずTravel.jp見ようか」となるといいじゃないかと。

柴田:そうですね。

佐俣:僕は31歳なんですけど、ちょうどH.I.S.がすごく伸びてる時期に大学生だったんです。僕の世代は「とりあえずH.I.S.だ」と。逆にJTBのイメージはないんですよ。

柴田:H.I.S.でもいいんだけど、本当にそういうことですね。誰でも知ってる、認知されるブランドを作らないとダメだと思うんですよね。インターネットってブランドが作りにくいじゃないですか。だから結構大きなチャレンジだけど、うまくやればたぶんできるんじゃないかと思ってて。

世界では、そういうブランドが旅行業界でも出はじめてますね。例えばExpediaもそうだし、Booking.comもそうだし。10年前、20年前とはぜんぜん違う世の中になってきている。日本でも楽天トラベルとか、じゃらんっていうブランドが出てきてるんだけども。

でも楽天トラベルにしてもじゃらんにしてもJTBとかH.I.S.に比べると、旅行分野の事業規模だけで見たらぜんぜん小さいし、ブランドの認知度もJTBやH.I.S.のほうが高いんですよ。

佐俣:(JTB、H.I.S.は)さすがに強いですね。

柴田:僕らはネット業界だけ見てるんじゃなくて、「旅行」というくくりの中でJTBとかH.I.S.と肩を並べられるようなブランドを作るというのが最大の目標ですね。

佐俣:なるほど。壮大ですね。

柴田:でもベンチャーって、そういう「ディスラプションしよう」っていうのがないと、やっぱりおもしろくないじゃないですか。

海外で勝負するための組織作りが重要

佐俣:わかりやすい何かがあるといいですよね。事前に伺っておもしろいなと思ったのは、社員に日本人/外国人比率というか……その言い方もちょっとナンセンスかもしれないんですけど、それも大分変わってきたと。

柴田:そうですね。いろんな経緯があってそうなってきてるんですけど、ひとつは海外事業を本腰入れてやれるようにするには、どうしても日本人だけじゃできないから。

例えば中国や韓国の事業とかで……すごくバカらしいと思うんですけど、中国で成功した外国人のアントレプレナーって知ってます?

佐俣:わからないですね。

柴田:ほとんどいないと思うんですよ。韓国でもそうだと思うんですよね。ローカル性の強いマーケットはやっぱりローカルの人が必要だし、欧米のマーケットでもなかなか日本人だけで行って勝てないじゃないですか。

グローバルで強い会社は、ちゃんと混成チームでうまくできてるわけですよね。やっぱり組織から作っていかないと海外で勝負するのは無理だなと思ってたので、それを今まで徐々に進めてきて。ようやく「こういう感じになるんだな」というのが見えはじめてるのが今の時期ですね。

そうするとどういうことが起きるかっていうと、ざっくばらんに言うと今までいた社員で「日本チーム」みたいな部分があって、「混成チーム」みたいなのが出てくると「あれ?」みたいなことが起きる。だけどそれを乗り越えていかないと、海外で事業したりとか世界戦略を考えたりというのはできないと思うんですよ。なので、それは結構真剣に今やってます。

挑戦し続けない組織は停滞する

佐俣:こういう言い方は失礼かもしれないんですけど、創業2、3年のスタートアップみたいな挑戦感がありますよね(笑)。

柴田:(笑)。僕もスタートアップとか大好きだから、無理にそういうふうにしようってわけじゃないんですけど、チャレンジしないとね。

佐俣:大変なことをしゃべってるときのほうが楽しそうなんで(笑)。

柴田:まあ、結構Mっぽいのかもしれないけど(笑)。よく言うじゃないですか、経営者の人ってそういう人が(多いって)。

そういう部分はあるかもしれないですけどね。でも、やっぱり新しいことをやり続けないと。会社って、成長しないと絶対ダメだと思う。

それはベンチャーの人だけじゃなくて、(名が)知られた経営者の人も皆さんそう言ってます。例えばセブン&アイホールディングスの鈴木(敏文)さんとか、ユニクロの柳井(正)さんとか、しきりに言ってるじゃないですか。

確かにそうで、成長し続けてないと綻びが出てくるんですよね。組織も停滞するし、例えば新しい人も雇えなくなってしまう。雇えなくなると、組織がどんどん停滞してしまう。

だから本当に成長、成長、成長。成長していくために新しいことにどんどんトライしていかないと、ひとつだけの事業でうまくいって左うちわでずっと伸び続けるなんてこと、めったにないじゃないですか。

佐俣:なかなかないですね。

柴田:コカコーラみたいなのもすばらしいと思うんだけど、大変じゃないですか。あとハローキティじゃないけど、絶対に強いものを作れたら本当にいいんですけど、なかなか作れないから。

昨日、守安(功)さんともそういう話をちょっとしたんですけど「強烈なブランドで、黙っててもスパイラルが起きるみたいなのを作りたいけどできないから、一生懸命新しいことにトライしなきゃいけないね」って話だったんですよね。

佐俣:確かに。挑戦し続けないと淀んでいきますよね。新しいことをずっとやっていれば、今のメンバーも挑戦ができるし。

柴田:そのバランスは難しいですけどね。既存の事業をちゃんとやって足腰を強くしていって、きちっと確実に儲けながらも、新しいことにも挑戦していく。そのバランスは常に考えさせられますよね。

佐俣:いいですね。そういうの楽しくなっちゃうんですよね、やっぱり。

柴田:ほとんど中毒状態かもしれないんだけど(笑)。

世界のエグゼクティブから刺激をもらう

佐俣:個人的な興味なんですけど、そういうスタイル、テンションを長く保ち続けるのはすごく難しいなと思っていて。

僕もスタートアップにはいろいろ関わらせてもらっていて、長い会社は6年くらい一緒にやらせてもらってたんですけど、十何年テンションを保ち続けるってやっぱり(すごい)。途中でゆっくりになっちゃう人もいるじゃないですか。どうやって保ち続けてるんですか?

柴田:ひとつは、いろんな人に会う。特に、日本だけじゃなくて世界の市場で活躍してる人たちと会うっていうのは、僕にとって非常に大きな刺激ですよね。旅行業界で良いところは、業界としてすごくコミュニティができてるんです。

例えばトリップアドバイザーとか、プライスラインとか、Booking.comとか、いろんな会社があるじゃないですか。ああいうメガ級の会社の社長さんと僕は、Eメールでやり取りできる仲なんですね。

佐俣:すごい。

柴田:もちろん業界がかなり特化してるってこともあるんですけど、その一方でいろいろネットワークを広げて。常にこういうカンファレンスじゃないけどそういうのに出たりというのもあって、いろんな人と会うじゃないですか。会っていくとそういうことができるようになって、そして刺激をすごくもらうんです。

佐俣:海外に行かれることも多いんですか?

柴田:海外はすごく多いです(笑)。

佐俣:どれくらいですか?

柴田:今だと、日本には年に半分いないかもしれないですね。旅行業界の人はやっぱり旅行好きなんで……。

佐俣:あ、やっぱり旅行好きなんですか?(笑)

柴田:そうなんです。で、世界各地でそういう(旅行業界の)イベントをやったりするんです。

佐俣:なるほど。イベントも旅行してるわけですね。それ自体が。

柴田:そういうこともあって、いろんなところに駆り出される。変な話、日本人でオンライン旅行業界について英語である程度説明できるような人は、そんなにたくさんいらっしゃらない。

そういうこともあって「啓、来い」とかよく言われるわけですね。そうすると今度はダブリンだとか、マイアミだとかということでそういう機会が多くて。

そういうところでさっき言ったようなエグゼクティブの人と会うと、「グローバルスタンダードは何なのか」とか、守安(功)さんも言ってたけど「成長に対する執着心」というのは、日本人と海外の人とでものすごく違いを感じたりするんですよね。

おおいに刺激を受けるから、日本に戻ってきてチームのメンバーと話すと、彼らは「イヤだなー」と思ってるかもしれないけど「成長し続けなきゃダメだから」ってことを自然と口に出して言うようになりますね。

佐俣:良い影響を受けて帰ってこれるんですね。

柴田:そうですね。

佐俣:なるほど。僕はまだ自分で事業をやって3、4年目なんで、14年って……。

柴田:あっという間です(笑)。本当にあっという間。

14年やってきて、いまが出発点

佐俣:そろそろ時間も迫ってきたので……。14年やられてきてますが、僕から見ると「完全にスタートアップモードだな」と。創業2年くらいで「よし戦うぞ!」ってときのテンションに近いと思うんですけど。

柴田:(笑)。

佐俣:会社として挑戦していて、いま一番楽しいなっていう課題は何なんですか?

柴田:今は、掛け値なしに世界に挑戦したいって思ってまして。もちろん、同時に日本でナンバーワンになりたいっていうのもあるんですけど。

十何年かかってようやくここまで来たなって感じがするんですよね。やりたいことはいろいろあったんだけど、経営の自由度がなかったこともあるし。

いろいろあってできなかったことがようやくこの1年でできるようになってきたので、ようやく出発点に立ってきたなって思ってます。「十何年経ってようやくその段階か」って、怒られるかもしれないんですけど(笑)。

そういう意味で「本当に世界で通用するものができるかもしれないな」と思いはじめてるので、それをここから実現させていけるかどうかというスリルが、いま一番楽しいですね。

佐俣:「今から俺の会社おもしろいぞ」っていうのが、すごく伝わってきます(笑)。

柴田:やっぱりこういうのが好きなんですよ。たぶんね。こういうことを考えるのが。「ああでもない、こうでもない」「こうやったらこうなるんじゃないか」って、常にそういうことを考えてるので。それが楽しいですよね。

株式会社ベンチャーリパブリックのおもしろさ

佐俣:完全にワクワクモードで僕も楽しくなっちゃってるんですけど(笑)。

この動画を見られてる方って、ベンチャーリパブリックという会社や柴田さんに興味を持っている(と思うんですけど)、例えば採用を受けにくる方とかサービスに興味がある方とか、いろいろいらっしゃいます。

最後にこの動画を見ている方に、メッセージを1分くらいでいただければと思います。

柴田:なんか、だいぶ大人のベンチャーっぽい会社なんですけど(笑)。一方でウチはダイバーシティがかなりあって。わかりやすく言うと中国から来たエンジニアの人がいたり、フランス人がいたり。

海外とのやり取りということでは、シンガポールとか他の国とかと頻繁にやり取りするような会社になってます。

あと、女性の比率。別に意図してやってるわけじゃないんですけど、今は女性が半分以上になってきてたり。

そういう意味では、働く職場としては非常におもしろい環境になってます。国際的なことをやりたいとか、ダイバーシティを考えてとか。

十何年経ってるにもかかわらず新規事業をどんどんやっていってるので、そういう新しいことに関わりたいという人にとっては、すごくおもしろい。

あと、旅好き・旅行好きの人にとっても非常におもしろいと思います。例えばいま僕らの中で一番大きい、ワクワクしてることとしては、Travel.jpの中で「たびねす」っていうサービスをやってまして。

これは簡単に言うと、オンラインを使ったガイドブック。あの世界をちょっとディスラプトしちゃおうと。

日本国内外で旅好きのライターさんとか旅行ブロガーさんとか、ああいう人たちを400人弱くらい囲って……囲ってという言い方はいけないのかな(笑)。

そういう人たちと一緒に、オンラインの観光ガイド、旅行ガイドを毎週100記事以上アップしてるんですね。これがいま急成長してまして。

そうすると、今度は自分にとってもおもしろいことが起きる。例えば、どこか旅行するときに必ず自分たちの記事を見るんですね。すると思わぬ発見が出てくるんです。そういう新しいことをどんどんやってますんで、思い当たる人はぜひ来てくれたらいいなと思います。

佐俣:ありがとうございます。IVS特別番組「ベンチャーリパブリックの今」ということで、ベンチャーリパブリック代表取締役社長の柴田さんにお話を伺いました。柴田さん、ありがとうございました!

柴田:ありがとうございました。