生活拠点を東京から逗子に、その理由とは

司会者:藤野さんは生活の基盤を東京から逗子に移されたそうですが、その理由を教えていただけますか?

藤野英人氏(以下、藤野):ちょうど5年前ぐらいにキャンプをしたことがあるんですよ。もともと僕はキャンプがぜんぜん好きじゃなかったんです。山や森の中で薄いテントで寝るなんて、ちょっと怖いじゃないですか。

勿論、キャンプが好きな人もいて、楽しいって気持ちはわかるけど、自分がやるにはちょっとどうかなと思っていたんです。だって、真っ暗な中であんな薄い布ですよ。

司会者:鍵をかけられるわけでもなく。

藤野:鍵をかけられるわけでもなく、そこに寝る、という……。

世界株を見ているということもあって、いつも3時ぐらいに目が覚めてマーケットを10分見るんですよ。アメリカ株のマーケットとかをザーッと見てまた寝る、みたいな生活習慣だったんですよね。なので、そういう生活サイクルでやっていた僕は「寒くて土の上で寝られない」と思ったわけです。

東京と同じような部屋でも、なぜか逗子だとぐっすり眠れる

ーーしかし実際にキャンプに行き、テントで寝た藤野さんにある変化が起きたそうです。

藤野:朝、「チュンチュン」っていう鳥の声で目が覚めたんです。その時に限っては3時に起きず、日の出とともに朝の6時とか7時ぐらいに起きたんですよね。すごく深い眠りだったんです。それから、気分も快適だったんですよ。それで、「焚き火をしたり田舎で暮らすことがすごく必要だ」と思いました。

なので、いつかそういう暮らしをしようと思って、コロナ前に逗子に別荘を買ったんです。同じように冷暖房が効いて、同じように良いベッドで寝ているのに、なぜか東京よりも逗子のほうがぐっすり寝られるんですよ。

そのことに気がついてからコロナになって、もっぱら在宅ワークになっていった時に、「別に東京に住んでいる必要はない」と思って。より深く寝られて、そこで在宅勤務をやるんだったら、空気や水のきれいな海の近い逗子に住んだほうがより良いよねということで、逗子に越すことになったんです。

司会者:完全に移住してみて、やっぱり「良かったな」という感じなんですか?

藤野:生活の豊かさが非常に変わったところが大きいです。まず逗子は、夏は東京よりも2度から3度低くて、冬は2度から3度高いので、わりと快適なんです。たぶん、海が近いということもあると思います。

あと、東京と違って大きな庭があるので、庭を使って果物を育てたり、家庭菜園したり。家が広くなったということもあって、犬を2匹飼って散歩したりコミュニケーションしたりと、生活の真の豊かさがすごく大きく上がりました。

「仕事に疲れたから会社に行こう」と思えるオフィスを目指して

司会者:逆に、仕事面ではどうなんでしょうか?

藤野:当社はかなり在宅ワークを勧めていて、多くの人が在宅ワークになったんですが、「別にオフィスがなくてもいいよね」というところがある。もちろんオフィスにはオフィスの価値があるから、別にオフィスをなくそうとはしていないけれども、(コロナ禍で)働き方を大きく変えていったところがあります。

「公私混同」というと、仕事とプライベートが混在するので、一般的には良くないと言われている言葉です。というか、そもそも在宅ワークは公私混同なわけですよ。だって、自宅の中に仕事が入り込んでいるわけですから、公私が混じり合っている世界です。

でも、会社が全部仕事の場で、家に行っても仕事があると、非常に息が詰まるじゃないですか。そうすると、会社に行くことの中に楽しみやプライベートの要素を入れないとバランスが取れないですよね。

だから今思っているのが、会社を公園にしようということです。公園って、みんなが自由にコミュニケーションして集まれる場じゃないですか。この年末ぐらいにオフィスを改装する予定なんですが、僕らのその計画の名前は「レオスパーク」と言っています。

司会者:「パーク」?

藤野:「仕事に疲れたから会社に行こう」というふうになるといいなと思っています。会社に行くとくつろげる空間があって仲間がいて、そこでお話しをしたりお茶をしたりしながら、アイデアを交換してリラックスができる。

どこでも休憩できるし、どこでも仕事ができるような場を、それぞれ提供することが必要なんじゃないかなと思っているんですよね。それが「公私混同」という状態だと思います。

社員それぞれの「やりやすさ」に任せることが大事

藤野:公私混同が良くないのは、お金の問題です。会社の金も自分のお金、自分のお金も会社のお金という状態をオーナー経営者がするのは良くない。だから、お金の公私混同はしません。

でも、空間の中のパブリックとプライベートは共有・共存できるんじゃないかという思いがあって。仲間として、もしくは空間としての公私が入り混じった状態を作っていくことが大事なんじゃないかなと思いますね。

司会者:気持ちの切り替えは必要ないんですか?

藤野:リラックスする場所であったり、どこかではスイッチを入れないといけないと思うんですよね。自宅でも、居間で仕事していると、居間でくつろぐのはなかなか厳しいんじゃないかなと思うんですよ。

だから、仕事する場は書斎などのスペースを作って、居間ではリラックスするということが大事です。また、会社もパークにはなっているんだけれども、個室ブースを作って会社の中でもこもれるようにしていこうと思います。

ただ、スイッチの切り替えをどうするかまでを会社が決めるべきなのかは、けっこう悩みで。「そこを決めてほしい」という人ももちろんいるし、「介入されるのはやだ」という人もいると思うんですよ。

「はい、プライベート!」「はい、パブリック!」みたいのは、本人の自主性とかリズムがあり、人それぞれですから。自分のことは自分が一番知っているはずなので、その人に任せて、その人がやりやすいようにしてあげることのほうが大事じゃないかなと思うんです。

会社が提供するのは「柔軟性のある仕事の場」

藤野:僕も仕事をしているけど、仕事は社員みんなですることなんです。だからやっぱり、社員の生産性の上昇が会社の価値の根源なのです。社員が気持ちよく、ストレスが少なく、それからどうやって生産性高くできるかが大事なわけですよね。

これからはきっといろんな選択肢があると思うんです。「家では1ミリも仕事したくありません。仕事は会社で」「会社でスクラムを組んで仕事すべきだ」という考え方も、別にぜんぜんいいじゃないですか。だって、その人の考え方だから。そうしたら、それにふさわしい会社があっていいと思うんですよ。

「うちは9時5時」「9時5時、いいね!」みたいに、同じ考え方の人が集まって仕事をするのが、一番生産性が上がるんじゃないですか。

でも私たちは、「働く時間と働く場所は柔軟なほうがいい」ということであれば、僕らがそういう環境を提供するので、選択の問題だと思うんですね。僕らからすると、なるべく柔軟性のある仕事の場を与えたほうがいいと思っています。