観光農園のビジネスモデル

畔柳茂樹氏(以下、畔柳氏):ここからがみなさんの一番知りたいところだと思います。本を読んでいる方にとっては繰り返しになっちゃうかもしれませんけど。「なぜビジネスモデルができたのか」ということをお話ししますね。

考え方は2つあって、1つは「戦わないポジショニングをしたこと」。もう1つは「業界の問題点を徹底的に克服したこと」です。大きくは、この2つの考え方でいきました。

ポジショニングとは、要するに競争したくないわけですよ。競争したくないので、今までの観光農園と正反対の農園にしました。

具体的に言いますね。今までの観光農園は、だいたい団体さんが主体で、タイムスケジュールが決まっているので「慌ただしい」んですね。「前の行程が押していたら30分しかない」みたいな感じです。

「画一的なサービス」とは、要するに一気に来て、一気に帰られるんですよね。お水はあそこにありますから飲んでください」「お土産が必要な方は手を上げてください。後で用意しておきます」みたいなことです。本当に、画一的なサービスしかできないと思うんですよ。

僕は、これを全部逆にしたんです。個人だけに限定して、時間制限もなくてゆったりくつろげるようにしました。また1組1組畑にご案内して、丁寧に説明をするということをしたんですね。

ポジショニングについて全部説明をしようとすると長くなるのでやめておきますが、値段や品質においても従来とはぜんぜん違うところ、真逆に位置取りしたっていうことですね。

日本の農業が抱える3つの問題点

畔柳:2番目にいきますね。ここは数字がいっぱい出てきますが、業界の問題点を徹底的に克服しました。農業の問題点は、切り口によっていっぱいありますが、僕はこの3つを選びました。

1つ目が「極めて低い生産性と収益性」。長時間労働とか、ブラックだとか言われていますが、そのとおりなんです。僕も農業大学校というところに少しだけ通っていました。そこでは「どうやって栽培するのか」ばかり教えてくれて、「生産性」なんて言葉はないし、「収益を上げるにはどうしたらいいのか」もほとんどなくて。

農業の世界は「野菜作りとは一体どうしたらいいのか」という感じなんですよね。「生産性・収益性」という考え方がほぼない。つまり、長時間労働が前提になっているんですよ。

2つ目は「マーケティングの発想がない」ことです。農業の世界は、昭和の製造業のようにプロダクトアウトなんです。「作って、じゃあどう売りましょうか?」みたいな感じですね。

基本的に「こうやって売れば売れるから、これを作ったほうがいいね」というマーケットインの発想がないんですよ。

3つ目は「お客さまの顔が見えない」ことですね。流通に乗っけたら、もう見えないです。農業に限らないのかもしれませんが、お客さまがよろこんでいるかどうかわからない。お客さまも農家が何にこだわっているか、どんな苦労をしているのか見えないんです。だから、「お互いの理解ができていない」というわけです。

観光農園の収益性の高さ

畔柳:僕はこの問題点を、農園の3本柱「観光農園」「無人栽培」「IT集客」で解決していきました。ただ、「観光農園」の貢献度が圧倒的です。これがほとんどです。まずはこれについて説明していきますね。

みなさん、「観光農園とはどういうものですか?」と聞かれたら何と答えますか? たぶん「自分で果物をもいで、そのまま食べる農園です」みたいな答えになると思います。

ここで僕は、「観光農園がいかに収益が上がるものであるか」という観点で整理してみたので、ちょっと聞いてください。

まず1つ目は「収穫がない農業」なんですよ。これ、画期的だと思いませんか? 農業なのに収穫がないんですよ。農業は収穫するためにやっているんだけど、収穫のよろこびは全部お客さまに提供するという。「収穫をエンタメ化・セルフ化している」ということです。

これ、飲食店で例えると「調理しない飲食店」みたいなことなんですよね。あえて言うと、焼肉屋さんに近いのかなと思います。あれはお客さんが自分で焼いていますよね。そして、焼肉屋さんは強い。飲食店の業種の中でも、一番強い部類に入ると思います。

2つ目もすごいです。「収穫しないのに、出荷価格の3~4倍の価格で売る」ということ。自分で収穫していないんですよ。お客さんが収穫しているんですけどね。

一般にお客さんに売り渡す場合、スーパーで100円で売っている野菜って、農家の手取りは30~40円ぐらいです。でも僕は直接お客さんに売っているので、100円で売ることが可能なんです。

でも僕は100円でも売らないですね。自分のところはブランド化しているし、高品質なので、100円じゃなくて130~150円ぐらいで売っているんです。

だから、この1つ目、2つ目を聞いていただいたら、数字を言うまでもなく「これは儲かりますよね」とわかると思います。

3つ目は「作物ではなく、体験を売っている」です。

これも大きいですよね。「店先に売っているだけ」「通販する」「直売所に置くだけ」「スーパーに卸す」とかだったら、たぶん今の10分の1ぐらいしか売れないんじゃないかな。

体験を売るということは、「この農園に来れば、時間無制限で10~20種類のブルーベリーの食べ比べができるんだよね。終わった後にはおいしいスイーツも食べられるんだ」ということです。これがあるから来ていただけるんですよね。だから、「体験を売る」ということは非常に大きいんです。

年間3,000時間の労働を削減

畔柳:スライドにある表は従来型出荷のブルーベリー農園の作業時間です。

もしうちが普通に全部収穫をして、出荷したとしたら「このぐらい作業時間がかかるでしょうね」というものです。だいたい全体で5,000時間ぐらいかかると思います。

そのうちの3分の2が「収穫・出荷作業」なんです。「嘘でしょ? なんでこんなにかかるの?」という感じですよね。

ブルーベリーってスライドの写真のようにこういうふうに熟していくんです。一気に全体が熟すわけじゃないんです。3週間ぐらい放置すると写真のように全体が熟します。

でも、この段階では熟し過ぎちゃって、半分ぐらいは使い物にならない感じ。絶対にここまで待っちゃいけないんです。

だから、全部が熟す前に、この写真であれば3分の1ぐらいを指先で1個1個丁寧に獲るしかないんですよ。

一気に全部獲ることができないので、3回ぐらいに分けて収穫します。だからもう、気が遠くなるような収穫時間がかかるんです。

ぶどうはいいですよね。こんな感じで房をパチッと獲ればいいので、それで終わりなんですけど。ブルーベリーはちょっと訳が違うんですよ。それで、3分の2もの時間がかかってしまうんですね。

とにかくこの収穫・出荷作業の時間を、絶対に短縮する必要があります。それ以外の要素もあるんだけど、改善したところで知れている。だから、徹底的になんとかするのは収穫・出荷なんです。これはもう、「お客さまにやっていただこう」ということになるわけです。

収穫・出荷時間は3,250時間です。1人1時間2キロぐらいしか収穫できないので、収穫量6,500kgを割ると3,250時間ですよね。

これを観光農園にすると、ゼロ……だったらいいんですけどね。やっぱり店先で売ったり、スイーツに使ったりもするんです。だから、4人が60日間、毎日1時間ずつやると240時間で、このぐらいはやらなきゃいけない。

でも、3,000時間も減るんですよ。従来の農家さんと比べたら、毎年毎年3,000時間も働く時間が少なくて済むんです。お金に換算したら、3,000時間×(例えば)1,000円として300万円です。毎年毎年これだけコストを削減しているということです。

市場出荷の10倍の粗利

畔柳:具体的な数字で追っていきますね。市場出荷する場合、ブルーベリー1キロだとだいたい1,500円ぐらいだと思います。1キロなので、収穫には30分かかる。時給1,000円なら500円。実際は箱代は100円もしないけど、わかりやすくするために100円とすると、差し引き900円の粗利ですね。

うちは7,000円で売っています。お客さまに持って帰っていただくのは7,000円なんですね。お客さまへの応対などを労務費とすると、100円ぐらいかな。箱代100円とすると差し引き6,800円ですね。

なんと粗利で5,900円の差がつくと。もっと言うと、ここには入園料の2,500円がまだ入っていない。持ち帰っていただく場合だけで考えています。

グラフを見ると、出荷だと利益が900円なのが、観光農園だと6,800円になります。ここで実に7倍差がつくわけです。

先ほど言いましたように、これには入園料が含まれていない状態です。大人1名2,500円なので、6,800円に2,500円を足すと9,300円なんです。ということは、900円と9,300円ですから、10倍の差がつくんですね。

管理を楽にする「養液栽培」

次は「無人栽培」にいきます。ちょっと「無人」というのは極端すぎるんですけどね。出版社が考える言葉なので、ご容赦ください(笑)。

「日常的な管理が、ほぼ無人でできる」ということです。これは「養液栽培」というシステムを使います。ちょっと細かく説明する時間がないんですけれども、ざっとご説明しますね。

ブルーベリーはアメリカ、北米原産のものです。アメリカと日本では土壌がぜんぜん違います。水はけがいい酸性土壌というのは、日本にはほとんどないんですね。だから、庭に植えておいたり、畑にそのまま植えておいてもだいたい育たないんですよ。

だから、こうしたシステムを使っていくんです。土は人工のもので、ブルーベリーが大好きな強い酸性液肥を作って、流し込んであげるんですね。ポットに流し込んでやると、もうブルーベリーが狂ったように大きくなっていくんです。

土に植えてしまうと、4年目でも腰の高さぐらいにしかならないんですよ。でも、養液にすると、定植1年3ヶ月でモシャモシャな感じになりまして。2年9ヶ月で僕の背よりも高くなる感じです。

「大きくなるけど、あまり美味しくないね」では困るんですけど、これがまったりと甘くて美味しいんですね。スライド写真のように、こんな感じでたわわになります。

スライド写真は幹の太さですね。土に植えた場合は指2本ぐらいの太さにしかならないんですけど、養液栽培で育つと15センチぐらいになっちゃうんですよ。まさに木です。

ちょっと話が飛躍してしまいますけど、先ほどから僕は「自分らしさ、自分らしさ」と言っています。これも、僕に言わせれば「ブルーベリーらしさ」を引き出しているんですよね。

要するに、原産地の栽培環境を再現しているんです。だからブルーベリーが持っている潜在能力を最大限、100パーセント引き出すと、めちゃくちゃ大きくなる。日本の環境で「苦しい、苦しい」と言いながら育てていても、本当にあまり大きくならないんです。

儲かるビジネスモデルを成立させるポイント

次は「IT集客」です。今日は時間もないのでかいつまみますね。ほとんどネットで集客します。ここまで「このビジネスモデルだったら絶対儲かりますよ」と言ってきましたが、前提として、当然お客さまが来なかったら成り立ちません。

だから「集客は一生懸命やってくださいね」ということです。「観光農園を作ったら、勝手にお客さんが来る」ということではないので、集客は一生懸命やってください。集客ができないと、やっぱりうまくいかなくなっちゃう。栽培管理の時間はすごく少なくて済むので、集客に使う時間がたっぷり生まれるはずです。だから、そこは大丈夫だと思います。

今日のセミナーもそろそろ終わりの時間が近づいていますね。僕の書籍『最強の農起業!』ですが、興味を持っていただいて読んでいる方もいらっしゃると思います。

まだの方も、もし興味があれば読んでみてください。1,650円です。もう9回目の増刷で、2万部を超えました。中国、タイでも発売されていて、2万9,000部売れています。

タイからもよく「行きたいんだけど、コロナで行けないんだよね」といったメールを頂戴します。中国語でも出版しているので、台湾政府から呼ばれてプレゼンをして来ました。台湾でもこれから発展していくかもしれません。この本はまもなく10回目の増刷がかかるんじゃないかなと思います。一度読んでみてくださいね。

さらに僕に聞きたいことがあれば、オンラインのセミナーもやっています。ぜひ受講してみてください。「入門編」「農園開設編」「集客編」と3つあります。「開園してから営業編」というのも用意しています。

今年はもう「入門編」は終わっちゃいましたけど、今「農園開設編」をやっていまして。これが一番のメインステージなので、受講していただければ農園の作り方のすべてがわかるはずです。

セミナーに関しては、ホームページを見ていただくか、このQRコードから読み取っていただければすぐにわかるようになっています。よろしければぜひ受講してみてください。長くなりましたが、以上です。

大久保幸世氏:畔柳さん、ありがとうございました。プレゼンは以上でございます。