「ハック思考」とは、一体どんなもの?

中田有香氏(以下、中田):ハック思考とはどういうものなのか、先生に解説していただきたいと思います。

須藤憲司氏(以下、須藤):ハック思考は「何かをハックするための思考」ということです。みなさんが携わっているそれぞれの仕事もそうですし、生活とか恋愛とか勉強とかスポーツとか何でもいいんですけど、その世界それぞれにルールとか規則性がありますよね。

同じ時間、同じお金をかけているんだけど、なるべく結果に繋げようとするのが「ハック」で、それに至るまでの思考というのが「ハック思考」です。これでハック思考の説明はほとんど終わりです。これをやるためにどうするかっていうのがこの本(『ハック思考〜最短最速で世界が変わる方法論〜』)に書いてあります。

次にハック思考のステップですね。2つお話ししたいと思うんですけど、1つはさっき仕組みとかメカニズムって言ったんですけど、要は人と違う法則とか規則性を見つけるから、逆に言うと規則性がないランダムの物は絶対にハックできないんですよ。ギャンブルみたいなものじゃないですか。

そうではなくて、ある法則や仕組みを逆手にとって、ズルじゃないですけど、その仕組みにちょっと介入するとすごく劇的な成果が出るっていう、これがハックのメカニズムですね。

中田:なるほど!

須藤:例えばレオナルド・ダヴィンチって、人体のメカニズムを研究するために筋肉や骨まで、詳細に手稿と言われるメモに研究してるんです。

鳥の飛び方や遠近法みたいなものまで全部メモに書いてあるんですよ。こういうのを全部やって、世界のメカニズムをひもといてから再構築しているので、モナリザのような素晴らしい芸術作品ができているんですよね。

コロナ禍において「普通のやり方」では成果は出ない

須藤:単なる絵の技法だけではなく、世界の仕組みを紐解くための徹底的な観察から自分のテーマをどう表現するか? を考えた。これっていわゆる誰かから教えてもらえる形式知ではなく、自分の経験を通じて学ぶ皮膚感覚なんです。今、僕が大切だと思っているのが、この暗黙知とか皮膚感覚です。

中田:皮膚感覚が大切。

須藤:今の時代って、みんな知識とか理論とかスキルとかよく言うじゃないですか。そういうのを欲しいって言うんだけど、要はコツですね。コツを使うとすごく良いんだけど、ハックするコツなんてそんな簡単に掴めないじゃないですか。だからこの本にハックのためのカンペのようなネタ帳を用意しました。

歴史上すごいことをやった人って、普通にやってたら成果が出ないから、何かをやっているんです。特に今はコロナですごく大変なことになっていていますよね。今までのような普通の対策をやっても絶対に成果がでないから、そういう時代にがんばり方をちょっと変えないといけないなと思って、僕のそういうネタをいっぱい書こうと思ってできたのがこのネタ帳なんですよね。

中田:なるほど。ハック思考は今お話しいただいたもので、この本はネタ帳ということなんですね。

須藤:そうです。そういう本です。

中田:ありがとうございます。ここでコメントをご紹介します。タンバさんから「ハック思考の『how』が知りたい。どういう工夫で、こういう見方が出てくるの?」とコメントをいただいております。いかがでしょうか。

須藤:そうですね、今の当たり前を当たり前として考えないというのが、すごく大事だと思っています。違った目線や角度で見ていくと、違う考えが浮かんできます。

ハック思考を身につけると、身の回りの問題が「大喜利」になる

須藤:例えば、バンクシーがサザビーズのオークションでオークションの時に額の中から自分の絵をバーっと出して、途中までシュレッダーで粉々にしましたよね。シュレッダーをかけたことによって、あの絵の価値がまたすごく上がったんですよね。

中田:そこまでが作品なんですよね。

須藤:そうです。もしかしたらご存知の方いらっしゃるかもしれないんですけど、彼がどうやって有名になったか。『左利きのエレン』という漫画やドラマがありますよね。あれに出てくるエレンのモデルってバンクシーなんですよ。バンクシーがいろんな有名な博物館とか美術館に自分の作品を勝手に置いてきちゃうっていうのをエレンもやるんですよね。

美術館や博物館って、作品を盗まれないように警備するわけじゃないですか。作品を置いてくるやつがいると思わないじゃないですか。だから誰も気づかないんですよ。有名な作品の隣に自分の作品が置かれていて、全然気づかれなくて、後でSNSとかで誰も気づかなかったというのが話題になるっていう。

警備は物を取られないようにするけど、物を置いていくことを想定していないっていう、仕組みを逆手にとって仕掛けをして有名になっていったわけですね。こういうのもハック思考だと思います。

中田:誰も思いつかなかった、当たり前を覆す発想が難しいです。

須藤:難しいですよね。ハック思考を身につけると、全部の問題が大喜利みたいに見えます。日本だと古くから一休さんが知られていますよね。一休さんの有名な話だと、屏風の虎をお殿様が「この虎を捕まえてみろ」と言います。

そうすると一休さんが「わかりました。お殿様すいません、後ろから追い出してもらえませんか、ここで捕まえますんで」と言うじゃないですか。まさにあれですよね。

4つの「察」が、ハック思考のトレーニングのポイント

須藤:要は、イジワルで出された問題に対して真面目に答えようとするんじゃなくて、ちょっと問題そのものをずらしたり疑ってかかって、誰も傷つかない形で返す。しかもおもしろい。これも一つのハック思考だと思うんですよ。

中田:なるほど。そう思うとおもしろいですね。問題が起きても世の中を見るのがおもしろくなりそうですね。

須藤:おもしろいですよ。だってお殿様は別に虎を本当に欲しいわけではなくて、ただ困らせようと思ってやっているんですよね。なのに、虎をどうやって取り出すかって、僕らは真面目に考えちゃいますよね。

でも、よくよく考えたら絶対に欲しくないんです。たぶん、マジシャンみたいに本物の虎を出されても困っちゃうわけです。このように問題自体を疑っておくと「あーそうか、じゃあおもしろく返そう」という発想になります。

今の時代って、真面目に問題に取り組んでコツコツがんばってるだけだと、報われないし評価もされないじゃないですか。そういう時のためにハック思考っていいなと思っています。

中田:ハック思考のトレーニングとかはされているんですか?

須藤:僕は歴史がすごく好きだから、歴史の偉人の漫画とかはハック思考のネタになっていますね。だって、ニュートンがリンゴが木から落ちて万有引力を見つけましたけど、絶対に見つかるもんじゃないじゃないですか。

中田:いつも当たり前に落ちているのを見ていますもんね。

須藤:でもそれは実は、観察・考察・推察・洞察っていう4つの「察」に分解できます。観察は、よく朝顔の観察日記みたいに「芽が出ました」「つるが伸びました」など、昨日より今日何が変わったか、変化を見つけるために観察するわけですよね。

次に考察というのは、ルールとか規則性を見つけることですよね。考察をすると、朝顔は朝花が咲くんだなということがわかります。

なぜこれからの時代に「ハック思考」が求められているのか?

須藤:そして推察は、その見つけたルールの転用先を探して推理することです。推察して、「他の花も朝咲くのかな」と思います。実際は花が咲く時間って違いますよね? だからこのルールは、転用できないといろんな花を観察するとわかります。

洞察というのは、ただ目の前の事象の観察からは気づかない全く違うルールを発見することです。朝顔っていうのは、朝に活動する虫が寄ってくる花なのか、もしくは受粉するのに虫を必要としない花なのかもしれないと予想する。このように考えることですね。ちなみに朝顔は、受粉するのに虫が必要ない花なんです。

これをインサイト(洞察)とも言いますが、洞察は観察・考察・推察を同時にやっているんです。シャーロックホームズが推理して「あなたはアフガニスタンにいましたね」みたいなシーンがあるじゃないですか。あれが洞察です。

僕らはふだんの生活でも、観察も考察も推察も洞察も、実はやってると思っていて。仕事の中でもめちゃくちゃ活かせているはずなんですよね。それをいろんな問題とか世界の見方に転用したら、きっとハックすることができると思っているので、毎日それをやることがトレーニングになるかなと思います。

中田:なるほど。ありがとうございます。これまでハック思考についてうかがってきたんですけれども、なぜこれからハック思考のスキルが求められるのでしょうか。

須藤:理由は3つあります。1つは不確実で不安定な時代、VUCA時代ですね。本当に変化が激しくて不確実な時代になってきています。例えば、昔は国と国が喧嘩すると戦争になるのが一般的だったわけじゃないですか。

今は違いますよね。国とテロリストが戦争する時代です。国家と個人が作ったAIが、サイバーテロとか言ってバチバチぶつかったりするわけじゃないですか。もはや自分たちが何と争っているのかよく分からなくなってるというのが、まず問題の1つだと思っています。そうなってきた時にやっぱり今までのルールと規則性を疑ってかかった方がいいなと思っています。

働く時間が減る一方で、仕事の量は変わらない

須藤:2つ目が「強制的にガラガラポン」と言っていますけど、人の寿命って伸びてるじゃないですか。人生100年時代とよく言われますし、現在小学校に入学する子どもたちの85パーセントは今の時点では存在しない職業に就くことになるとか。あと、企業の寿命がめっちゃ短くなっています。だいたい、人類の寿命が延びていて企業の寿命が短くなったら、普通に転職しますよね。

中田:そうですね。

須藤:というのが当たり前になってきてるから、過去の強みとか成功体験が活かせない時代になってきているんですよね。今はすごい人たちも、明日すごいと言われることがなんなのか知らないっていう世界でしょ。すごくチャンスですよね。ここでハック思考が使えると、そのチャンスを掴めるかもしれないですよね。

3つ目は日本ならではですが、これから少子高齢化が進んで人口が減ります。働き方改革も進んでいますよね。そうするとみんなの働く時間の総量が減りますが、仕事は今までと同じ量をこなさなければいけません。

時間が減っても同じ成果を出そうと思ったら、やり方を変えるしかないですよね。だからハック思考が大切なんです。すごく単純に言うと、今より楽して成果を出せないとやばいんです。なんとか、その単位時間あたりの成果を高めないといけない。

昔ね、僕もよく上司から「もっと成果上げろ」みたいなことを言われていましたが、「いやいや、ずるいよ。あなたたちの時代は時間を投じればできたじゃん。俺たち同じだけの時間は働けないんだから、どうしたらいいの」と思っていました。

だからハックするしかないな、っていうのが僕の結論でした。そういう世の中だからみんなで世界をハックできたらきっと良くなるんじゃないかと思って、「そうだ、『ハック思考』という本を書こう」と思いました。

「真面目にコツコツ」だけでは、評価されにくい時代に

須藤:やっぱり真面目にコツコツやってるだけでは評価されづらいですよね。ちょっとした工夫をするだけで、劇的に変えられることがあります。そういうことを提案したいなと思ってます。

中田:だからこそ今、ハック思考が大事だということですね。「未来はこう変わっていく」「今ある職業はなくなっていく」と言われてもあまり実感がなかった方も、ここ数日のめまぐるしい変化で、こんなに一瞬で時代の流れって変わるんだなと気づいたのではないでしょうか。

須藤:そういう人が多いと思いますね。外を出歩けなくなって、僕らの生活が劇的に変わっていて、まさに非常事態ですよね。だからこれをどうやって逆手に取ろうかっていうことを考えればいいと僕は思っています。

僕も本当はイベントで皆さんと一緒にやりたいなと思っていましたが、「みんな早く仕事終わってるし、けっこう家にいるし、だったらオンライン読書会をやろう」ということで今に至りました。こういう考え方ってすごくポジティブだし、大切だなと思っています。

中田:はい。先ほどからご覧になっている方もいらっしゃるかもしれませんが、フィリピンからでもオンライン読書会を見られて嬉しいというコメントも来ております。

須藤:ありがとうございます。

中田:イベントだったらフィリピンから参加できなかったですもんね。

須藤:よくよく考えたら、この事(コロナ禍)が起きなかったらこういうことをやっていなかったかもしれないですよね。

中田:そうですね。みんな今、これができなくてあれができなくて「不便だな」と思うだけではなくて、こういう時だからこそできることもあるということですね。

Googleもトランプ大統領も、ハック思考を持っている

中田:ここで質問をご紹介します。「先生が一番衝撃を受けたハック思考は、どんなものがありますか?」ということですが、いかがでしょうか。

須藤:トランプ大統領がすごいなと思っています。トランプさんはあれだけメディアから叩かれていたのに、大統領になったわけですよね。あれも、トランプさんがSNSを巧みに活用したすさまじいハッカーだったから当選したんじゃないかと思っています。

あとはGoogleもすごいと思っています。Googleページランクってあるじゃないですか。あれによって検索エンジンで検索された時に、より多くの他のサイトから引用されているほうが並び順として上に表示されるんです。

あれも結局、論文っていうのはいろんな論文から引用されると重要度が高いということをインターネットに置き換えればいいじゃないかと、ネタを転用しているんですよね。ネタを持ち込んでその理論をベースに世界中の情報を検索できる検索エンジンを作り上げていて、すごいなと思います。

中田:ありがとうございます。世界をハックしようということでしたけれども、世界をハックすると、この先未来はどう好転していくのでしょうか

須藤:自分が何かをハックしたら、自分の周りはちょっと変わりますよね。ちょっとおもしろくなったりとか、もっと自分の世界の見方が変わっていくと思うんです。

その小さな変化がすごく大切だと思っていて。この本を作ってる時の話ですけど、編集者の箕輪(厚介)さんとこの本の打ち合わせをするために会ったのに、ぜんぜん違う話になったんです。

売れ残りのスニーカーを、あえて強気な価格で売り出した

須藤:箕輪さんが「箕輪編集室」というオンラインサロンの中で作ったサンダルを売ろうとしているんですけど、このままだとぜんぜん売れなさそうだから、「どうやったら売れますかね?」という話になったんですよ。

スニーカーって、同じスニーカーでもいろんな色がある中で、1色だけが500円高いとそれだけ売れるっていう法則があるんですよ。値段が違うと、「他の色とはなんか違うんじゃないか」と思うみたいなんですね。

だからその法則を使って、全部で4色あるうちの黄色が特に売れ残りそうだったので、黄色だけ値段を13万円にして1個限定で売り出す。他は全部100円で売ることになったんです。13万っていうのは、そのサンダルにかかった生産コストが13万円だったのでそうしました。

これを1個売れば、コストを回収できるじゃないですか。その代わり、黄色を買った人のおかげで他の人は100円でサンダルを変えるわけだから、他の色のサンダルを持っている人は黄色のサンダルを買った人に必ず感謝するっていうルールになったんです。

その2時間後か3時間後ぐらいに、「どうなったかな?」と思って確認してみたら、全部売れていました。その時に残りの黄色のサンダルの在庫39足をどうするかっていう話になりました。

13万円で売れるサンダルですから、これは売らないようにしましょうと提案しました。例えば何かの景品にしてもいいし、有名人に自分用として黄色いサンダルをあげてもいいんじゃないかっていう話をしたんですよね。

そうしたら何ヶ月後かに、あのダルビッシュ(有)さんのところに行く用事があると話を聞いていたんですが、 Twitterでそのサンダル履いてるところをあげていたんです。めっちゃ笑いました(笑)。そしたら、黄色のサンダルを買った人って毎日飲み屋で喋れるじゃないですか。人に喋れる話題のほうがよっぽど希少なんですよ。この本も、ある意味人に喋れるネタの宝庫なんです。

中田:確かに、思考の本とかサンダルにしても世の中にあふれてるじゃないですか。人によって好みはそれぞれですし、選べる時代ですけれど、それに付随するエピソードが語られているものってあまりないですよね。

須藤:そのネタはどこかで使える引き出しになりますよね。だからこの本の3章以降は全部引き出しです。本当に色んなハックのネタをひたすら書いています。

中田:だからこの本はネタ帳なんですね。ハック思考、ますます気になってきました。須藤先生、ありがとうございました!