組織の生産性向上に欠かせない、6つの要素

小野隆氏(以下、小野):これからどうやって、こういった人事課題を解決していくのか? 枠組みのみですが、お出ししています。最終的に、組織としてはやはり生産性向上やイノベーションを出していくことが、今後ますます求められていきます。

その中で、個々人はいかに自身の仕事をデザインし、自身を育成し、組織をうまく使っていくのか。大きなことを成し遂げるために、社外も含めていかに連携をしていくのか。こういった「個人の自立と連携」が求められるのではないかと思います。

それから「DEIの実現」です。「Diversity Equity and Inclusion」と最近はよく言われています。Equality(平等)ではなくて、Equity(公平)です。つまり、さまざまな事情を持った方々にパフォーマンスを出してもらうために“違う高さの階段”を用意してあげることです。こういったことも含めて、DEIもこれからどんどん考えていかなければなりません。

さらに「デジタル人材の育成・確保」。最近、デジタルリテラシー協議会が提言されていることとして、これまでは「デジタルをつくる人」にフォーカスした育成になっていましたが、これからは「(デジタルを)使う人」の底上げも図りながら、DXを推進していく必要があると。

(スライドを指して)右側の「ウェルビーイング」は、仕事と生活を統合して、いかにリモートとリアルをハイブリッドしながら、チームで仕事を進めていくか(というものです)。難しい課題ですが、こういったことを進めていく(必要があると思います)。

それから「パーソナライズされた人事施策の実践」です。これはおそらく、現場リーダーがHRリテラシーをもっと高めていく必要があると思います。一方で、個別の人材マネジメントをやっていこうとすると、やはり全社としての取り組みが必要だと思います。

これからのHRに必要な役割とは?

小野:そして「全社が取り組むトランスフォーメーションをリードする役割」を、まさにHRが担っていくのではないか。(そのために)デザイン思考(を高めたり)、スキル・コンピ・マインド(を育成して)「“個”の価値観・スキルを高めていく」。

また、いろいろ施策を講じて「(“個”との対話と)コラボを促す」。また、自社だけでなく、他社ともマッチングしながら、仕事をチーミングするなど「人材の流動性を高めていく」。そして、難しいですが、それを組織風土として定着させていくこと。これが仕掛けとして、今後は大事になってきます。

では実際、HRとしてはどのように取り組んでいくのか? 我々はいろんな会社さんの支援をさせていただいております。

いわゆるウルリッチモデルには、CHRO(最高人事責任者)、CoE(専門家集団)、HRBP(HRビジネスパートナー)、Ops(オペレーションズ)というものがあります。それを整理するだけではなく、ポイントとしては「ビジネスパートナーが、いかにその現場のタレントやカルチャーに関する相談に乗りながら、現場を動かす支援をしていくのか」。この機能を、近い将来に強化・高度化していく必要があると思っています。

次に、役割をナインマトリックスで整理をしました。オペレーションやビジネスパートナーだけではなく、オペレーションのリード、ビジネスパートナーの中でもシニアの方やソリューションのスペシャリストなど、いろんな役割をつくりながら、HRの高度化を図っていきます。

以上は基本的な役割ですが、HRがデジタルを活用しながら、全社のトランスフォーメーションをリードしていく近い将来をイメージをすると、(さらに)次のような役割が出てくると思います。(スライドを指して)見慣れない役割が並びますが、プロダクトマネージャー、スプリントリード、デジタルHRインテグレーター、ソリューションアーキテクト、ワークフォース・エクスペリエンス・アーキテクトといったものです。

(こうした役割を)デザインしたり、実際にアセットを組み合わせながら人事の施策を進めていく必要があると、デロイトは考えています。

変化の激しい時代では「個人へのエンゲージメント」が重要に

小野:ここまでお話ししたとおり、人事・人材課題は非常に拡張しています。その中でこれからのHRメンバーには「全社のトランスフォーメーションを進めていけるスキル」や「領域横断的にコラボレーションしながら前に進めていけるスキル」が期待されています。

そのために、レジリエンス(柔軟さ)、オープンマインド、デジタルリテラシー、アジリティ(俊敏さ)、そして人への洞察が、よりHRに求められています。

以上、これからの枠組み的なものをご説明させていただきました。

斉藤知明氏(以下、斉藤):ありがとうございます。では、ディスカッションに入ります。お話を聞きながら、あらためて「どんなことが求められていくのかな?」と考えていました。それにしても小野さん、人事の役割は本当に広いですね。

小野:そうですね。

斉藤:僕自身が「Unipos」という事業を立ち上げて、自分の組織を作ってきました。その時に、セールスチームやプロダクチームなど、いろんなところを立ち上げました。ですが、こうした立ち上げも含めて、「チームのマネジメントに求められる職能やスキルを、人事も全部獲得していかないと難しいんじゃないか?」と思ってしまいました。

今挙げていただいたような、包括的なスキルの獲得って、現実的に起こり得るのでしょうか?

小野:まず、役割論は当然あるかと思っています。どちらかというと変化が激しい中で、より個人にエンゲージメントしていくことが各ビジネスの現場で求められています。そういう意味で、私は現場リーダーが“主役”だと思うんですね。人事の方がいらっしゃったら大変失礼なんですが(笑)。

私自身も今、HRトランスフォーメーションという120人ぐらいの組織をリードさせていただいていますが、やはり(メンバーの)性別、趣味嗜好、国籍も含めていろんなものが違います。その中で、いかに将来のキャリアを見据えながら、直近のビジネスを実現するために情報をマッチングするのか。すごくいろいろ考えながら進めているわけです。

人事組織の創造性を高めるため、まず取り組むべきこと

小野:しかし、そこを一番よく理解しているのはやはり現場のリーダー、あるいは個別のマネージャーなんですね。なので、まずこの人たちのケイパビリティ(才能、能力)を上げること。そのための支援というものが、一義的にはあると思っています。

それをより大きなプログラムとして進めようとした時に、経営のアジェンダとしていろんなことを進めていかなきゃいけないわけです。先ほどお話しした、人事が期待されるケイパビリティについてですが……。

例えばHRが経営の参謀として、周りを巻き込みながら大きなプロジェクトを主導していくとします。その時は、必ずしも社内の人だけではなく、社外の人もいるだろうし、アジャイルに進めなくてはいけない。データも使う必要があるし、人への洞察も忘れちゃいけない。そんな意味合いで、(HRに期待されるスキルを)スライドに記載させていただきました。

なので、どちらかというとトランスフォーメーションのリーダー的な要件かもしれないですね。

斉藤:こうしたスキルがHRメンバーに期待されている中で、今回のディスカッションのテーマとして「人事組織の創造性を高めるために、日本の組織はまず何から高めていくべきなのか?」という問いを用意しました。

小野さんの中で「今、必要なスキルはこれ」ということはご提示いただいたと思います。では、現在の日本の組織において、特にこの2022年の1年間に取り組んでいくべきことって何でしょうか? どこに一番大きなギャップがあるんでしょうか? 

小野:そうですね。なかなか難しいのですが、ここ数年間でいろんな企業さんが、今までのオペレーショナルな人事からの脱却を図ろうとされていると思います。効率化して、より高度化のための工数をつくり出しています。

人事と経営が一体になった、プロジェクト型のテーマ推進

小野:その中で、これから取り組まなければいけないことで言えば「スマートワーク」に関することですね。コロナ禍でリモートワークをしていたり、リアルとリモートが混在する中で、(たくさんの会社さんが)「今後どうしていったら良いのでしょうか?」と悩んでいます。私自身、何十社さんとヒアリングやディスカッションをしました。

その時に感じたのが「あまり人事の方が主役で出てくることがないな」ということです。ITの方やDX推進の方がメインになられていて、それをHRが横でサポートしている。あるいはHRが出てこなかったこともあります。

DX推進の際のデジタル人材育成も同様に、DX推進部やIT(部門が中心となっていて)、HRの方々はどちらかというとそれにガバナンスをかけていく立場で関わっていることが多かったんです。

なので、そこをよりプロジェクト化していく。HRの方々が経営と一体になって進めていけるような、プロジェクト型のテーマ推進が、ここ1~2年でより求められていると思います。

斉藤:そういう企業さんでは今、人事の方はDX推進と関わっていないということですか?

小野:必ずしもそうではないと思います。DX推進に関わっている人事の方々もいらっしゃるとは思うのですが、登場の仕方なのかなと。

先ほど「デジタルをつくる人・使う人の(育成の)話」をしました。今までは、データサイエンティストやデジタルアーキテクトといった「つくる人たち」の育成は、DX推進室や経営企画やIT(部門)などが主導してきたんですね。

ですが、今度はそれを「全社展開していかなければいけない」という流れが出てきたんです。全体的にデジタルリテラシーを高めていく必要性がある、と。いろんな企業が、全社向けにデジタル人材育成をしているといった報道がよくされていると思います。それでようやく人事の方が、全社のカルチャー変革も含めて、表に出てくるようになるんだと思います。

人事に求められるPMOの役割

斉藤:なるほど。人事は参謀なんですね。人事が全部を主導して、マネジメントしていくと破綻してしまう。しかし、なぜ今DXが必要なのか(を明確にしたり)、どのファンクションにそのリソースを当てるのかをデザインするのは、人事の役割であるべきだと。

小野:そうですね。あとはチェンジマネジメントを推進するのも人事だと思います。(コメントを指して)「人事=事務局のような感じでしょうか?」と記載いただいておりますが、そうですね。

PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)的な役割や、作戦・シナリオを考えて前に進めていくプロジェクトマネージャー的な役割といった機能が、より求められていくと思います。

斉藤:そういう機能がうまくいっている組織も、うまくいっていない組織も、小野さんは両方を見ていらっしゃると思います。うまくいっている組織において、PMO的な役割をきちんと果たしている人事のみなさんは、どうやってその課題を発見されているんでしょうか?

先ほどから「まず人を知る」「現場を知る」ということがキーワードとして挙がっていると思います。現場の中で「この課題をもっと変えていったほうが良い」「セルフマネジメントとしていったほうが良い」といった課題探索は、どういうプロセスで進められるケースが多いんですか?

小野:人事のお客さんは誰か? というと、一義的には経営層や従業員の方々だと思うんです。あるいはビジネスのリーダーなど、(スライドを指して)ここに記載されているような人たちが人事のお客さんだとした時に、そういう人たちとの「対話」が必要だと思います。

会社のビジョンに基づき、成し遂げたいことを明確化

小野:我々が人事部門の高度化の支援をする時に、事業責任者の方にヒアリングをしていくと、いろんな期待値が出てくるケースが多いんですね。マスで事業責任者や従業員の方のデータを取るのはなかなか難しいですが、最近はいろんなデジタルツールもありますよね。なので、より頻度を短めにしながらいろんなサーベイを行い、その意見を集約しながら課題を整理していくことが必要だと思います。

斉藤:(人事の)ユーザー、あるいはお客さまは人であるというお話を聞いて、マーケティングやプロダクトづくりに非常に近いものを感じました。その時に、人事の方がすごく難しいのは、組織における目的が非常に広くなってきていることだと思うんです。

(例えば)「DXで生産性を向上させる」「ウェルビーイングを高めて人の幸福を実現する」「ESGで社会に対する貢献を高める」など、会社として成し遂げないといけない目的が多様ですよね。さらに、現場のみなさんの目的や課題感も多様で「そこを接合するのが人事の役割ですよ」と言われてしまう。

でも例えば、マーケティングだと「この製品を使ってくださる方を最大化しましょう」「そのために課題を見つけましょう」という探索で、バッチリと一本筋を通せると思うんです。

しかし、人事における目的の合意だと、どういうプロセスで目的と課題を紐づけて、優先度をつけていくべきなんでしょうか。このあたりを非常に悩ましく感じたのですが、いかがでしょうか?

小野:そうですね。確かにおっしゃるとおりです。こうやって並べてみると、非常にいろんなところに対して価値を提供しなければいけないので、そこは本当に悩ましいですよね。

その会社さんのプライオリティの拠り所は、ビジョンやミッションにあると思います。だからそういったものと連動して、会社としてやりたいこと・成し遂げたいこと(を明確にしていく)。その上さらに、HRとして成し遂げたいことを含めて整理していくしかないと思います。全方位に(価値を提供することは)難しいのですが、何かに特化してやっていくだけだと、どうしても不足が出てきてしまうんです。

“なんでも屋さん”を卒業し、人事がスペシャリストになる未来

小野:もう1つ、よくクライアントとお話しするのは、人事も経営企画も「プロジェクト型でテーマを解決していく」ということです。最近、そういう人事の部門が増えてきていると感じます。

特にCoEのようなところには、いろいろなテーマの中からプライオリティを定めて、それをプロジェクト型の組織で対処していくことが求められていると思います。だからこそモデルの中で、オペレーションの部分を分けているのだと思います。

斉藤:ビジョン、パーパス、ミッションから書き下したものをベースにプロジェクト型の組織をつくるとおっしゃっていました。プロジェクト型の組織とは、人事以外の、現場のみなさんなど共感された方たちが手を挙げて参加してくる感じなんですか?

小野:組み方はいろいろだと思いますが、基本的には人事のメンバーが主体になるケースが多いと思いますね。必要に応じて、現場の方や外部の方にも入っていただくチーム構成です。それはテーマによるんじゃないですかね。

斉藤:(人事は)優先順位を決めて、テーマ設定もして、そのテーマに対してプロジェクトを組成すると。それこそ「DXを推進しましょう」というものと「ESGに向かって進みましょう」では、まったくやり方が違いますよね。

だからこそ、優先順位ごとに時期やアロケーション(配分)の強さを変えてプロジェクトを組成し、そこに取り組んでいってもらう。人事として、このような動きが求められるんですね。

これからの人事は、今までのように「採用もやります。組織運営もします。育成支援もします」ではなく、「採用領域のスペシャリスト」「DX領域のスペシャリスト」といった、人事の中でもスペシャリティが生まれていくかもしれませんね。

小野:それはあると思いますね。人事として、今まで培ってきたタレントマネジメントの知見や経験をベースにして、個別のテーマに取り組んでいく。そういうかたちでのプロジェクト組成や、人事としてメンバーのパフォーマンスを引き出すやり方はあると思いますね。

斉藤:人事のみなさんがスペシャリティを獲得するために、外の研究会やコンサルティングを活用するのもありだと思います。自らどんどん知見を取り入れて、実施していく習慣を、人事が率先して持たないと組織を変えることは難しい。トランスフォーメーションの主体として、自分自身がやっていくということですね。