マネジメントのプロが語る「最強組織をつくる人事の未来」

斉藤知明氏(以下、斉藤):みなさん、おはようございます。今日は「最強組織をつくる人事の未来 ~2022年人事変革の舵取り~」と題したセミナーをお送りします。

プログラムは、(スライドを指して)こちら。まずオープニングで「人事の未来」について、参加者のみなさんと一緒に考えます。そしてキーノートセッションでは「最強の組織をつくる人事の未来とは」と題して小野さんにご講演いただき、その後ディスカッションに入りまして、最後にQ&Aの時間もご用意しています。

では、さっそくオープニングです。まずは自己紹介させてください。Unipos株式会社執行役員CPO、プロダクトの責任者の斉藤です。在学時には英単語アプリでスタートアップを立ち上げ、Uniposの前身となるFringe81株式会社へ入社後に、この「Unipos」という事業を立ち上げて子会社化し、その後また合併となりました。

私自身、100人を少し超えるくらいの組織のマネジメント経験があります。また、Uniposを通していろんな企業のみなさんのご支援をさせていただいている経験から、今日はファシリテーターを務めます。よろしくお願いします。

では、本日のゲスト。デロイト トーマツ コンサルティング合同会社執行役員パートナー、HRトランスフォーメーション領域事業責任者の小野隆さんです。よろしくお願いします。

小野隆氏(以下、小野):みなさん、今日はお時間を頂戴しましてありがとうございます。そして斉藤さん、お呼びいただいてありがとうございます。デロイトトーマツコンサルティング合同会社執行役員パートナー、HRトランスフォーメーション領域の事業責任者をやっております、小野と申します。よろしくお願いいたします。

私はもともと事業会社で人事をやっておりました。その後、20年ほど前にデロイトに入社し、基本的には一貫して人事コンサルをやらせていただいております。5年ほど前からは、今のHRトランスフォーメーションという「人事機能・組織・業務・HRテクノロジー・デジタル」などの領域を扱う事業部門の責任者をしています。

2023年には「通勤」も「押印」もなくなるのか?

小野:私自身、この20年間に制度、要員、人件費、カルチャーといった、いろんなサービスを提供しております。また、個人として「個社を超えた人材流動化」の研究会も開催させていただいております。

昨今は「DX」ということで、デロイトの中でもいろいろなアセットとコンサルを組み合わせたサービスを提供しておりまして、オーナーなどもやらせていただいております。自分で言うのもなんですが、幅広く活動してきているのかなと思っております。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

斉藤:よろしくお願いします。では、さっそくオープニングセッションです。小野さんと私から視聴者のみなさんへ、問いかけを2つご用意しています。本日のテーマに入る前に、ぜひみなさんのご意見やご感想をお聞きしたいと思います。

1つ目です。「今はなんとなくやり続けているけれど、2030年にはなくなっていそうな組織の習慣とは何だと思いますか?」。みなさんが思いつくことを、Zoomのチャット機能でお送りください。

斉藤:(コメントを指して)どんどん来ていますね。「みんなで集まる会議がなくなっているんじゃないか」「日報や週報などの定期報告」「報告を中心とした定例会議」「転勤、朝礼」「押印」「電話」「転勤」「定例ミーティング、押印」「定期的な人事異動というものもなくなっているんじゃないか」。なるほど。

「毎日通勤する」「定例ミーティング」「報告」「年次の計画・会議」。年次での計画がなくなっているんじゃないか、ということですね。「目標管理」「集合朝礼」。集合朝礼や集会は多いですね。「報連相がなくなっているのではないか」。

「新入社員採用」「押印」「印鑑文化」「朝礼」。たくさん来ていますね。「一括採用がなくなっているんじゃないか」という声もあります。日本で一括採用はなくせますかね? どうですかね(笑)。

「中間ミーティング」「役員向け説明資料作成」「管理業務の専任がいるから、管理業務はなくなるんじゃないか」「朝礼はなくなるだろう」。「回覧板で作成物を上司にお尋ねする習慣」(笑)、これはなかなか(笑)。

2022年以降、人事に求められる役割とは?

斉藤:小野さんはご覧になっている中で、気になるものはありますか?

小野:やっぱり「転勤」「定年」「退職金」などの、いわゆる日本型雇用的なものが変わっていくのではないか・なくなっていくのではないか、というお話もありますね。

斉藤:そうですよね。「定年」「新卒一括採用」「残業」って、ザ・日本型雇用ですよね。「逆にZoomがなくなっているんじゃないか」。これはつまり、オフラインに完全に回帰しているかもしれないということですね。「オフィスへ出社をするというのがなくなっているのではないか」という声もございます。

ありがとうございます。すごくいろんなパターンが出てきました。「こっちに振れるんじゃないか?」という意見が、けっこう(両極に)分かれましたね。どちらに振れるかは、僕も確信を持って言えるわけではありません(笑)。けっこうカオスの様相を呈していますね。

この見地から問いを立てることで「意外と不要なもの」に気づくことができると思い、クエスチョン1としました。

では、クエスチョン2です。「この先、最強の組織をつくっていくために、2022年以降の人事に求められる役割としてどんなことが大切になっていくでしょうか?」

人事の方は「自分たちがどんなことを求められていくと思うか」、現場のマネージャーや社員のみなさんは「人事の方々にこういう役割を求めていくべきだ」という観点からお答えください。

(コメントを指して)「AIと人とが連携した制度設計」「丁寧なカウンセリングかな」。コーチング主体の「サーバント型リーダーシップ」と、よく言われていますよね。

「人材育成」「企業変革のドライバー」「タレントマネジメント」「やはり経営陣を動かせるか」「経営戦略化のリンク」「人事領域の課題を経営課題と認識・共有すること」。さすがですね。

「タレントマネジメント」「会社の戦略」「透明性」「戦略人事」「社員の定着への貢献」「データドリブン型」「人材データの見える化」「メンタルケアが必要になる」。なるほど、負債解消のほうですね。

「管理本部セクションから戦略本部セクションへの移行」。管理する役割ではなく、「経営戦略を実行する役割」に移行していって欲しいということですね。「変革できる人材の育成」「経営参謀」「若手社員の育成から成長支援」……たくさん来ていますね。ありがとうございます。

「社員の能力・スキルの正確な把握と、最適な人員配置が求められる」「経営者のパートナー的存在」「従業員のことを深く理解している存在になるべきではないか」……続々とコメントが来ています。

小野氏が執行役員を務める、日本最大規模の人事コンサル会社

斉藤:小野さん、気になるところはありますか?

小野:まずは、いただいているコメントの量に驚いております。追いきれない(笑)。「経営との密接な連動」だけではなく、「従業員・人に対する理解やコミュニケーションの(必要性)」、そのための「データによるサポート」。このあたりがすごく目について「ほー!」と思いました。

斉藤:「人事も経営戦略を」と言われる中で、経営者とは違う役割として、人事は何を担うべきか。人のことを知っていて、一番理解している人事だからこその役割がありますよね。これは1つ、着目すべきポイントだと思います。

本日は「2022年以降の人事の未来とは?」「最強の組織をつくる人事の未来って何だろう?」という、人事をまるっと包括したような、すごく広いテーマです(笑)。今はどういうことが求められるようになってきているのか。どんな変化が起こっているのだろうか。データや全体感を一緒に掘り下げていく時間にしたいと思います。

では「最強組織をつくる人事の未来」と題しまして、小野さん。よろしくお願いします。

小野:では、私から10分程度いただいて「最強組織をつくる人事の未来」というテーマでお話ししたいと思います。

書籍(『最強組織をつくる 人事変革の教科書』)を(2019年12月に)出してから、コロナ禍で2年ほど経っていますが、2020年以降にアップデートされた論点や方向感みたいなものを整理して、示しております。

少しだけ宣伝させてください。デロイトでは今、人事・組織領域のコンサルティングを350名ほどの体制でやっております。「デロイトって人事をやっているの?」とよく聞かれるのですが、日本でも最大規模の人事コンサル部隊を持っております。

なので、我々が外部に発信しているこういったもの(考察や調査結果など)をご覧いただければと思います。

「リモートワーク続行or出社」のせめぎ合い

小野:では本論です。まず、2022年以降の主要な人材・人事課題というものを(スライドを指して)並べてみました。「DX推進」「ESG・SDGs・コーポレートガバナンスコードからのDEIの推進」「Withコロナ・Postコロナ」「情報の民主化による個人の価値観多様化」「少子高齢化」です。これ以外にもいろいろあるとは思いますが、(今回は)人事だけではなく、人や経営に直結するようなテーマとしました。

こういった大きなテーマの中で、HRがやるべきことを(スライドを指して)下に挙げています。本当にいろいろあります。例えば「デジタル人材の確保・育成」も、DX推進組織だけではなく、最近はより全社的にデジタルリテラシーを引き上げていかなければいけないと言われています。

また「ハイブリッドワーク」とありますが、これはまさにこれからの論点になると思います。経営方針の一方で、私自身もそうですが、個人としてはリモートワークの快適さや便利さを知ってしまった。それゆえ「(リモートを)続けたいが出社をしなくてはいけない」という、せめぎ合いがしばらく続くと思うんです。

こういったいろんなテーマを並べてみると「人事はこれから、全社のアジェンダと直結したテーマを扱っていく必要がある」ということが共通点の1つとして見えてきます。

それからもう1つは「より個人に着目していくべきテーマが増えている」ということ。これは、本の中でもお話ししましたが、我々が「ヒューマン・エクスペリエンス」と呼んでいるものです。コロナ禍を過ごしてきたことで、特に「個人と組織の関係性」が変わってきているんですね。

Z世代・ミレニアル世代の過半数が、世の中を悲観視

小野:今まではオフィスに行って、仮面を被って仕事をしていました。(今は)家で「ライフ」と「ワーク」がセットになっている中で、いかに快適にコラボレーションをしながら仕事をしていくのか。自分は何をやりたいのか。こうしたことを深く考えていらっしゃる方も多いと思います。

「自分がやりたいことが、この組織の中で実現できているのだろうか?」といった思考がどんどん増えてきているように思えます。なので、個人に着目していくことが必要になってきました。

また、少子高齢化の中で「デジタル人材の確保・育成」というテーマもあります。やはり、個人の関心に寄り添って、その中でパフォーマンスを出していただくためには「自社の組織は非常に働き甲斐のある場所である」ということをセットしないといけない。そうでなければ、どうしても人が寄り付かなくなっていくんです。

そうなるとビジネスも立ち行かない。こんな危機感が、これからは出てくるのではないかと思います。後ほどデータを付けてお出ししますが、そういった(人材不足)が如実に出てきそうな世代としては「ミレニアル世代」と「Z世代」があります。

我々デロイトでは、ここ10年ほどミレニアル世代の年次調査をしております。傾向としては「過半数が、経済見通しを悲観している」「組織の中で成功するためには柔軟性、レジリエンスが必要だと捉えている」「テクノロジーやデジタルへの精通や、クリエイティビティの優先順位が意外と低い」といったことが挙げられます。

それから「メンタルヘルス面でのサポートの充足度が、離職傾向に影響している」といったファクトも出ております。デジタルリテラシーやリスキリング、柔軟性ということは「1つの事柄にコミットしない」とも捉えられるので、(この世代には)仕事の意味合いや、場の魅力を明確にして発信していくことが重要です。

またウェルビーイングという(考え方があります。)単純に仕事とライフを分けるのではなく、統合したかたちでいかにパフォーマンスを出していただくのか。最近は、ウェルビーイングへの施策転換が求められているということを、示唆として出させていただいています。