多分野のイベントが同時開催されていたイベントスペース

広瀬眞之介氏:あと、また違う事例なんですけれども。虎ノ門ヒルズが建設中で、もうすぐ完成するくらいのタイミングで、近くに古びた寿司屋があって。そこを「グリーンズ」というNPOと「日本仕事百貨」という企業がリノベーションして、イベントスペースみたいなものを作っていたんです。

そこで、例えば「社会起業について語る」「エコについて語る」「地域の特産品を食いながら福井について語る」とか、いろんなイベントが同時に行われていたんです。それである時、気づいたやつがいるんですね。

この(場所では)イベントはおもしろいんだけど、(同じ)イベントに来た人同士でしか交わらない。つまり、福井のイベントに興味があって来た人は、そのイベント内ではコミュニケーションを取るけど、隣のまたおもしろそうなエコのイベントに来た人とは特にコミュニケーションは取らないと。

「おもしろいイベントがあって、おもしろい人たちが来ているんだから、(もっと)混ざらないと」っていう問題意識を持ったやつがいて。それは僕の後輩なんですが、これはどうしたら良いかなって。彼は「いろんな人たちが分野横断で混ざるイベントにしよう」って言ったんですね。

「いやいや、待て待て」と。さっきの雑談の話じゃないですけど、そういう目的にした瞬間に、いろんな人たちが混ざることに興味ある人しか来ないでしょと。だから、福井に興味あるとかエコに興味がある人たちが純粋に混ざったりしないので、それは下策だからやめなさい、と言いました。

虎ノ門ヒルズの隣で焚き火を行った理由

それで、いろいろとうんうん考えて、「焚き火をしよう」って、虎ノ門ヒルズの隣で焚き火をし始めたんですね。なぜかと言うと、いろんなイベントがあるんですが、(イベントスペースの)入口が狭いので、受付処理中にみんなそこに溜まっちゃうんですね。

冬の時期だと寒い。だいたいみなさんスマホ持って暇つぶししながら待っているんですね。じゃあ、この入口で焚き火をするとどうなるか。「入場するまでに時間がかかりそうだな」と思って、(焚き火に)あたって暖を取りにに来る人たちが発生するんですね。

寒いから火にあたろうと思う人は、福井のイベントだろうがエコのイベントだろうが関係ないですよね。属性は関係なくなります。寒いので手(をかざして)あたります。すると、スマホを持てなくなるんですよ。それで、みんな近づくじゃないですか。暇じゃないですか。すると、話し始めるんですね。

「今日、イベント来たんですか? 福井のイベントですか?」「いえいえ、違います。エコのイベントです」「へぇ~。エコのイベントなんてあるんですか?」みたいなお話が始まると。リアルな場所ではこうして、「適度な距離」「適度な暇」「自然な理由」を環境的に作ることで雑談を生み出し、話し合うきっかけにしてきました。

リアルな場所ではこうして設計していましたが、バーチャルな場所でこれって設計し得るのかと。かつ、設計するとなった時に、「焚き火」「タバコ」「飲食」みたいなもの以外の媒介は用意できるのか。

各企業が行った、コミュニケーションの工夫

今言った3つは、少なくともリアルな場所じゃないと共有できないので無理ですよね。「あったか~い」みたいなのを、デスクで体出したりできないので。それは何か違うもので代替しなきゃいけないと。ここのポイントを上手く押さえられるかどうかが大事になります。

もちろん、いろんな方法やサービスがすでに存在しています。1つ例にとると『月刊総務』という雑誌では、いろんな企業において「どうやってコミュニケーションを生み出しているか」(を募り)、それぞれの工夫を表彰しています。

いろんな会社の取り組みが載っていて、その中から(選ばれたものが)表彰されていました。一部僕が気になったものをここに挙げています。「全社を挙げてウォーキング大会」はリアルと連動していますね。

「自部署だけじゃなくて全社でランチ会をする」というのもあります。あと「社内ラジオ」とか、「バーチャルオフィスを導入する」とか。ちょっと特殊な取り組みでいうと、「日報じゃなくて分報を出す」というのもあります。

みなさん、いろんな取り組みの中で、コミュニケーション量や雑談の機会を増やす工夫をされていると思います。もちろん私たちも「こうやったら良いんじゃないか」というものを、後ほどご紹介します。でも正直まだこの分野、世界中のみんなが模索している段階だと思いますので、いろんなものを参考にされたら良いと思っています。

雑談が足りないことによって、困っているのは誰なのか?

我々の具体的なものをお見せする前に、この(コミュニケーションや雑談が足りない)問題で「誰が困っているのか」というお話をさせていただきますね。全員が困っているわけではないので。

ちょっと前に、Microsoftが自分たちのリモートワークを研究して、「こんな感じでした」という論文を発表しました。最初は英語で発表されて、今は日本語でも投稿されています。最初にちょっとバズったのは、Shoheiさんという方がTwitterで投稿した時なんです。Microsoftの論文「外部との関係が希薄になり、グループ内の関係はむしろ強化された」というのをツイートに上げて。

つまり、「グループの中は強化されるけど、グループ外とのコミュニケーションが減って、サイロ化するよ」ということ。Microsoftの調査結果はこうなっていますっていうことを(Shoheiさんが)おっしゃって。これはけっこうバズっています。

よく言われる「サイロ化によって部署間の協力関係やノウハウ共有、あるいはイノベーションなどに問題が発生するんじゃないか」ってお話がありますが、それって問題なんですか? これについて、いったん立ち止まって考えたいです。

それは問題なんでしょうけど、そう思うのは一部の人に限られているなと思っています。一部の人っていうのは、今(スライドの)こちらに書いてある人たちです。会社全体を見ないといけない人たち、経営陣や人事からすると、部署間のコミュニケーションが発生しないのは確かに問題だよねと。

無理やりなコミュニケーションはかえって逆効果に

マネージャーなどは他部署と折衝が必要です。あっちの事業部とこっちの事業部とを調整することを担っている人にとっては、サイロ化するのは問題です。さらに、新規事業や研究開発分野の人たちの中で、他部署との協力が必要な人たちも同様です。

ですが自チームだけで仕事が完結する人で、常時、他部署や他チームとコミュニケーションを取る必要がない人たちも存在していて、この人たちに無理に(コミュニケーションの取り組みを)やらせると逆効果になります。

河合さんの先ほどの調査と一部被るなと思いまして。いくら他部署の人とコミュニケーションを取っても、ぶっちゃけ仕事で関わったこともないし、今後も関わらなさそうと思っている人からすると、「今この場でこいつらと話しても、俺は別にこの後なんともないしな」「彼らは楽しそうに話しているけど、私には関係ないしな」みたいな感じになっちゃうと。

なので、必要ない人たちに対して無理にやろうとすると、逆効果になりますよね。これを上手い具合にちゃんと設計しないと、あるいは理解した上で何をどこまでさせるかっていうことをしないと、逆効果を生んでしまうし、そもそも効果が上がらない。

リモートワークコミュニケーションにおける2ステップ

リモートワークのコミュニケーションには2段階あります。そもそも、チーム内の人たちとコミュニケーションがちゃんとできているか。あとはもう少しレベルを上げて、業務外のコミュニケーション、つまり雑談ができているかどうかというのが1段階。2段階目に、チーム外のメンバーとコミュニケーションできるか、そしてさらに言うと雑談ができているか。

最終的に目指したいのは、「健全な衝突ができるチーム」です。これは「心理的安全性」という言葉で語られています。詳しい人たちもいらっしゃると思いますので、ここでは詳細は述べませんが、誤解されやすいので少し補足します。

「心理的安全性」の(論文の)中で、衝突や言い合い(をしやすい環境)が大事と言われています。「これはこっちのほうが良いんじゃないか、あっちのほうが良いんじゃないか」という言い合いは、「心理的安全性」の論文上3つに分けられます。「人間関係の衝突」と「タスクの衝突」と「プロセスの衝突」が存在すると。

「『人間関係』と『プロセス』に関して衝突すると、業績は悪化する」とあります。「こっちのほうがお客さんに良いんじゃないか」などの衝突を「タスクに関する衝突」というそうですが、これが増えると業績が向上するということです。

だから、雑談をするとか衝突し合える関係を作る時に、よくよくその解像度を高く見る必要があります。そもそも、必要とするメンバー同士で雑談ができているのかどうか、ちゃんと見なければいけないだろうと。

さらに、人間関係ができていて、良いものを作るために衝突が起きるようになってきた時、それは「タスクに関する衝突」でなければならないと。そうでなければ業績は向上しないし、「心理的安全性」にもならないからです。

雑談は「命令・依頼」することが不可能

このあたりは非常に細かくて難しいんですけど。従業員が互いにいろんな情報を出し合うことで、組織学習が進み、業績が向上する。だからそれぞれが持つ情報を出しやすい、言いやすい環境作りが必要だ。これが「心理的安全性」です。

「何を発言しても(拒絶されない)『安心・安全』な環境を」って言われるんですが、ぬるい環境になってしまうのはまずい。そのためには衝突を起こさなきゃいけないんですが、ここに誤解が発生しやすいので、気を付けて見ていただきたいなと思います。

ざっとここまで(スライドに)まとめました。リモートワークでの課題はコミュニケーションが頻出します。中でも雑談、目的のない業務外のコミュニケーションが恐ろしく減ったという調査結果が多いです。ただし、雑談は「命令・依頼」が不可能なので、環境から促進する必要があります。

コミュニケーションは、チーム内・チーム外の2段階存在します。チーム外コミュニケーションは、職務によって必要性がまったく違います。(経営陣や人事が、従業員に対して)チーム外の人と話をしてもらいたいと感じるのであれば、それは強い動機形成が必要です。いわゆる「会社のエンタメ化」「イベントのエンタメ化」のようなことが必要になると思います。

最終的に目指すのは業績向上なので、健全な衝突ができるチームにしていくことです。「健全な衝突ができる」とは、タスクに対して言い合えることで、けっして人間関係やプロセスに対して言い合いをすることではありません。

ざっといろんな会社の調査も含めて(スライドに)書かせていただきました。ここからはちょっと具体策の話に入りたいと思いますが、ご質問もあったらぜひお願いします。

(チャット欄のコメントで「うちの会社の場合は、コピー機の前がそうでした」)。確かに、コピー機(の前にいる時)も、時間がかかって暇になったりしますよね。「分報さすが」もたくさんいただきました。ありがとうございます。

良い対話には、良い質問が必要

具体策として我々は何を使っているか、いくつかご紹介します。ご存じの方もいると思いますが「チェックイン・チェックアウトカード」というものを私の友人たちが作っておりまして。チェックイン会議の初めと終わりにカードを1枚引いて、単にそこに書いてある質問に答えるというものです。

ただ、その質問の内容がけっこう良い感じでして。お互いに良い対話を進めていきましょうといった時には、良い質問が必要なんです。でも、良い質問を考えるのは難しい。そこで、もうカードに全部書いてありますっていう、非常に便利なものなんです。

例えば、読んでみますと、「どのような雰囲気でこの会議は進みましたか?」「今、心配なこと、不安なこと、迷っていることは何かありますか?」「どのような時に自分の気持ちが上がりましたか? あるいは下がりましたか?」など。

例えば僕は、さっきチャットで「うちの会社の場合は、コピー機の前がそうでした」って言ってくれた時に「お~! 確かに確かに」って気分が上がりました。このように、たくさん質問が書いてあるカードなんです。

こいつの良いところは、質問の秀逸さはもちろんのこと、同じ質問内容でも、上司に聞かれるのと、カードに書いてあるのとでは答えが変わってくることなんです。つまり、こういうイベントで主催者に質問される場合と、たまたま引いたカードに答える場合とでは、回答が違ってくるんです。やっぱり人間は忖度が発生しちゃうんですね。

「イベントの主催者はこういう意図を持って聞いているであろうから、こう答えてあげたら喜ぶだろうな」「この答えが品行方正だろうな」とか。会社内であれば「こうしたら会社が上手く進むかな」「上司の評価が上がりそうだな」とか、基本的にそういうことを考えながら、みなさん発言するので。

実は、ファシリテーターや講師、上司などから質問された瞬間に、もうフラットな質問じゃなくなっちゃうんですね。だけど、カードを引いて偶然出てきた質問に対して答えるとなると、(答えを)聞く人は変わらないのに、驚くほど言う内容が変わったりするんです。

ここがけっこうおもしろいなと思っています。たとえ私が(カードと同じくらい)良い質問ができるようになったとしても、このカードを使います。なぜならば答える人がフラットな状態になれるからです。ちょっとした工夫なんですが、これは非常に使いやすいです。