情報を気軽に発信できる一方、伝わりづらい時代

工藤太一氏(以下、工藤):それでは、セッション8は「人を動かす言葉の力“経営者を支える顧問編集者”という仕事」というテーマでお送りしてまいります。本セッションのモデレーターを担当します、glassyの工藤です。よろしくお願いします。

ご登壇者の紹介です。株式会社WORDS代表で、編集者の竹村俊助さんをお招きしております。今日は大変楽しみにしておりました。よろしくお願いします。

竹村俊助氏(以下、竹村):はい。よろしくお願いします。

工藤:僕もたくさん聞きたいことがあるんですけれども。『書くのがしんどい』を読ませていただきました。

書くのがしんどい

竹村:ありがとうございます。

工藤:僕も文章を書いたり、コピーを考えることがあるんですけど、すごく参考になりましたね。著書に「(文章は基本的に)読まれないものなんだよ」と書かれていて「あぁ、そうなんだ。竹村さんでもそう思うんだな」と、ちょっとホッとしたところもあるんですが。

竹村:本当ですか。

工藤:すごくいい本なので、みなさんもぜひ読んでいただければと思います。本セッションは「顧問編集者の仕事は?」という切り口でお届けしていきます。おそらく「顧問編集者って何?」という方もたくさんいらっしゃるのかなと思います。

竹村:そうですよね。

工藤:ただ「顧問編集者って興味ある。何? 何?」という感じで多くのエントリーをいただいているセッションなので、今回は顧問編集者にグッと入っていきたいと思います。

前提として整理をすると、今は誰もが気軽にSNSなどで投稿ができて「誰もが発信できる、1億3,000万人総発信社会」といういわれ方もするんですけれども。情報を発信できる一方で、当然、その情報はあふれているので、逆説的にいうと、なかなか伝わりづらい時代なのかなと思っています。

今日は企業の経営者の方や、広報担当者の方もけっこういらっしゃると思うんですよね。そういった方々に、どうやってメッセージを届けていくのかという観点で、経営者の方の顧問編集者をやられている竹村さんから、ご自身の発信のノウハウや「こんなことを気をつけながらやっているんですよ」ということをお伝えできればいいなと思っています。

竹村氏の経歴と担当書籍

工藤:では、「顧問編集者とはどんな仕事なのか」について、竹村さんからご紹介いただければと思います。よろしくお願いいたします。

竹村:みなさん、こんにちは。株式会社WORDS 代表の竹村俊助と申します。ちょっと自己紹介をさせていただきたいと思います。2005年に大学を卒業して、ビジネス書の出版社に入りました。

書店営業を3年間経験しまして、28歳の時に中経出版という出版社に転職して編集者になりました。その後、星海社、ダイヤモンド社を経て、38歳の時に独立して株式会社WORDSを設立したという流れです。

作った本は、佐藤可士和さんの『佐藤可士和の打ち合わせ』や、水野学さんの『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』。

佐藤可士和の打ち合わせ (日経ビジネス人文庫)

構成だけ関わったものでは『メモの魔力』などがあります。

メモの魔力 The Magic of Memos (NewsPicks Book)

また、工藤さんにご紹介いただきましたが『書くのがしんどい』という文章術の本を書かせていただいたので、よろしければご覧ください。

顧問編集者の仕事って?

竹村:本日お伝えしたいことは「社長の隣に編集者を」ということで、僕は今も引き続き本の編集をやっているんですが、今年から力を入れているのが、この顧問編集者という仕事です。

企業には顧問弁護士や顧問税理士さんがいると思うんですが、これからは経営者の隣に顧問として編集者がいてもいいんじゃないか? ということで始めた仕事です。

この仕事は、簡単にいうと経営者の思考を適切な言葉、適切なメディアで届けることが目的です。その事例をご紹介したいと思います。

識学という、組織マネジメントのコンサルティング会社の社長の安藤広大さんの顧問編集者をやっているんですが。具体的には毎月1〜2回、社長に取材させていただいて「今、何を伝えたいですか」「モヤモヤしていること、ありませんか」とお聞きしています。

その取材を元に言葉を整理して、Twitterやnote・ブログなどでアウトプットしていくという仕事です。

場合によっては日本経済新聞さんの新聞広告のコピーを書いたり、書籍のライティングもさせていただいています。

もう1社、カクテルメイクさんというベンチャー企業があります。動画を作るソフトウェアの会社なんですけれども、そこの社長の松尾(幸治)さんという方の編集者もやっています。

「まわりの社長がスゴすぎて正直、吐きそう」という経営者のnoteをまとめさせていただいたり、求人に特化した社員紹介のnoteを書いたりもしています。

他は単発の仕事になるんですけれども、YouTuberのマネジメント会社のUUUMの鎌田(和樹)さんの社史のnoteを書いたり、gumiの國光(宏尚)さんのnote、最近『スッキリ』にも出ている、代々木上原のsioというレストランのシェフ(鳥羽周作氏)のnoteも編集させていただきました。

これまではメディア側にそれぞれ編集者やディレクターさんがいたので、企業がわざわざ編集を考える必要はなかったんですけれども。工藤さんがお話しされたように、企業自体・個人がメディアになってきたといえると思うんです。

ただ「そこで自分たちが発信する時に編集者がいないじゃないか」と。そこで編集の必要性が出てきたということで、経営者側に編集者がつくと伝わる力が高まり、いろんな効果が期待できるんじゃないかということで、顧問編集者をやっています。自己紹介はこんな感じですが、わかっていただけたでしょうか。

経営者が「発信」に持つ課題感

工藤:ありがとうございます。いろんなサポートというか、経営者の隣に座るかたちがあるんだなと思って、非常に興味深く聞かせていただきました。もともと編集者をやられていて、経営者の顧問編集者をやり始めたきっかけは何かあったんですか? 

竹村:具体的なお名前を出すと、The Breakthrough Company GOの三浦崇宏さんという方は、本も出されているクリエイティブディレクターなんですけれども、その方からgumiの國光さんをご紹介いただきました。

「自分の思いを伝えたいんだけれども、自分ではnoteがなかなか書けないので、ちょっとお手伝いいただけませんか」ということで書かせていただいたら、意外に好評で。経営者の思いが伝わると同時に、ちゃんとコンテンツとしても読まれたので。

それがタクシー広告とかいろんなところで配信されて「あー、なるほど、こういう仕事があるんだ」と味をしめてですね(笑)。そこから「経営者の隣で編集をしていく仕事があるなぁ」と思って、やり始めたことがきっかけです。

工藤:なるほど。経営者の方は、発信をしていく中でどんな課題感を持たれているんでしょうか?

竹村:そうですね。意外とできていないのが、普通の言葉で話すというか。

工藤:あー、難しい言葉になってしまっているとか。

竹村:そうですね。こういうカンファレンスでは若干言いづらいところではあるんですけれど「デジタルとアナログの融合でソリューションしていく」という。

工藤:なるほど、「DXが~」みたいな。

竹村:そういう言葉は企業の中でやりとりする分にはすごくいいですし、BtoBなどであれば、ぜんぜんいいとは思うんですけれども。今はインターネットだと、本当にお茶の間に届いてしまうというか。スマホを持っている普通の人に届くので、その時に「ソリューション」とか「デプス調査」という難しい言葉を使ってしまうと、伝わらない。

難しい言葉を使うことがもう染み付いちゃっているので、普通の言葉を使うことが意外とできていないという課題感があるんじゃないかなとは思っていますね。

工藤:確かに。逆に難しい言葉を使ったほうがいいようなことも、あるのかもしれないですね。横文字を使ったりしてしまいますもんね。

竹村:そうですね。社内のやりとりとか、社内の用語ってあるじゃないですか。

喫茶店などでアルバイトをすると「何番行ってきます」という言葉が「トイレに行く」という意味だったり。そういう中だけで通じる言葉にはちゃんと機能や意味がありますし、それによって結束感が高まるようなところもあると思うんですけれど。

外部に発信して影響力を高めていきたい時はちょっと邪魔になるというか、翻訳してあげる必要があるのかなとは思いますね。

経営者に限らず、人は案外“自分のこと”はわからない

工藤:なるほど。今、翻訳という話をされていたんですが、社長が伝えたいことを翻訳していくという話なんだと思います。そもそも伝わりづらいのが今の時代の前提で、かつ伝わらない言葉でしゃべっているから、そこに編集が必要だということですよね。

そもそも経営者の言葉が伝わりづらいというのは、どんなギャップから生まれるんでしょうか。

竹村:経営者がというよりは、人間は自分のことはわからないというのが根本にはあるのかなと思うんです。

たぶん僕がこうしてしゃべっている時も、僕は僕の主観からしか見えていないので、どう映っているのかはあんまりわかっていない。本当はもうちょっとテンションを上げたほうがいいのかもしれないし、声を大きくしたほうがいいのかもしれないですけど、そういうことは周りで見ている人しかわからない。

そこに編集の方がいて「もうちょっと声を上げたほうがいいですよ」とか言ってくれると、うまくいくと思うんです。経営者に限らず、そもそも人は主観的な生き物であって、客観的に見てアドバイスをしたりサポートする存在が必要、ということがベースにあるんだと思います。

工藤:なるほど。経営者といえども、自分のことは知っているようで意外と知らないということなんですかね。

竹村:そうですね。社長さんが言いたいことが、社員やお客さんが聞きたいこととズレている場合が多い。あとは御社の強みはここにあるのに、ぜんぜん違うところをビジョンとして打ち出していたり。実際にやってみて、そういうことはすごくあると感じます。

なぜ編集者は、経営者のズレに気がつく?

工藤:聞きたくない人に、自分が言いたいことだけをずっと伝え続けているような状況に入っていかれているのかなと思います。経営者の方は逆に、聞きたいことと伝えたいことのズレに気づかずに発信されているということなんだと。

竹村:そうですね。

工藤:竹村さんにはそのズレが見えているんだと思うんですけれども、なんで竹村さんには見えるんでしょうか? 

竹村:たぶん普通の人だからだと思うんですよね。編集者の人は本当にフラットに見ていて、別になんの利害関係もないですし、会社の株主というわけでもないし、部下でもお客さんというわけでもなくて。

社長としてではなく、人として客観的に見るので「glassyさんの経営方針からするとどうこう……」というよりも、工藤さんという1人の人間を見て「ここはいいところですね」と言える。それが編集者の強みと言うか、そこが見えていると言えば見えているのかなという気はします。

工藤:意外とその会社の外側にいる第三者だから見えるし、突っ込めるところもあるのかもしれないですね。

竹村:そうですね。例として出していいのかわからないですけれども、いきなりステーキさんの売り上げがちょっと落ちた時に、経営者の方が張り紙を出されていて、まぁ賛否両論。

工藤:Twitterとかでも、ちょっと盛り上がっていましたよね。

竹村:そうですね。あれも別に悪いメッセージじゃないですし、社長の本当の想いだと思うんですけれど。やっぱり間に編集が入らないと、曲解されるというか「お客さんが来ないのが悪いのか!」という悪い捉え方をされて損してしまったり。

あとはSNSの炎上案件なども見てみると、ストッキングの会社や某おもちゃメーカーの方などが良かれと思ってやられたこと。おそらく盛り上げようと思ってやったことが、すごく誤解されて伝わってしまったりするので。

そこに編集者が入って、たぶん部下の方や広報の方も「ちょっと社長だし……」というところで、遠慮するところがあるのかなと思うんですけれども。僕は外部なので「いや、それはちょっと誤解されるかもしれませんよ」と言えてしまうことが強みかなと思います。