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人を動かす言葉の力 “経営者を支える顧問編集者という仕事”(全3記事)

“エモくない”経営者は居ないし、ストーリーのない会社はない 竹村俊助氏が実践する「想い」を引き出す質問の仕方

ビジネス環境の変化が激しく、かつ早い時代に命題となる「その変化に対応できる組織をつくる」こと。新型コロナウイルスの蔓延という未曽有の危機により、いくつもの常識が覆されました。これまでのビジネスモデルや働き方も見直されるタイミングが来ており、激動の時代を生き抜くためには、社内コミュニケーションにもニューノーマルが求められています。そこで、人と組織、企業をアップデートしていくための知恵を「インナーブランディング」という切り口から深めていくためのイベント「Inner branding Days 2020」が開催されました。本記事では、セッション8「人を動かす言葉の力“経営者を支える顧問編集者という仕事”」の模様を公開。株式会社WORDS 代表/編集者の竹村俊助氏がスピーカーを、glassy株式会社 代表の工藤太一氏がモデレーターを務めました。本パートでは「“エモい”をどう定義するか」などについて語ります。

社長の言葉は「エモく・本音で」書く

工藤太一氏(以下、工藤):なるほど。ありがとうございます。いくつか竹村さんがお書きになられていたnoteも事前に読ませていただいたんですが、すごく人間味あふれるというか……。

竹村俊助氏(以下、竹村):あぁ、そうですか(笑)。

工藤:経営者を通して、その先にサービスやプロダクトや会社がある。いきなりサービスとか会社ではなく、人がいて、その向こう側にサービスなどを感じられて。「この人のやっているサービスだったらちょっと覗いてみようかな」とか「買ってみようかな」と思わせるような、人間味あふれる物語だなと思っていました。

社長さまと会って話されると思うんですけど、書いたり・取材したりする時のポイントはありますか? 

竹村:そうですね。ポイントは“エモく”というか、感情を揺さぶるように書くことは意識しています。あとは本音で書くところですね。社長さんはたぶん良かれと思って、客観的に「この商品はあなたにいいと思いますよ」という、ちょっと離れた言い方をするんですけど。

そうじゃなくて「俺はこんなに良い商品だと思っているよ!」「俺も使ってるけど、めっちゃよくて! あなたも使ってみたらどうですか?」と、あえて一人称で主観的に書いたほうが、意外と伝わりやすかったり。その辺りですかね。

“エモい”をどう定義するか

工藤:なるほどですね。今日聞きたいなと思ってたんですけれども、いわゆる企業広報の中で、わりとオフィシャルな文章が多いですよね。経営者が語っているというよりは、その前に会社が語っているみたいな。

“会社が語っている=経営者が語っている”になるんですけれども。その会社が語っているものに、経営者の想いがちゃんと入り込めてないなぁと感じることがあって。

今「エモい」という話があったんですが、竹村さんが思う「エモい」って、どんなものなんですかね? 

竹村:そうですね。エモいをどう定義するかは難しいんですけど、要するに感情が動くものなんです。「これまで企業経営は、数字さえあればよかった」と言うと、ちょっと言い過ぎかもしれないですけど。

「この物を作りましょう」ということがあって「これをより良くしましょう」「これをよりたくさんの人に届けましょう」というふうに、どこまでいくかだけを示していればよかったというか。

もちろん僕は経営者じゃないので「そんな軽々しく言うな」ということもあると思うんですけれども。「対前年比○○」とか「来年は倍売り上げよう」とか、数字が飛び交う。でもコロナ禍もあって、みんながどっちに行っていいかわからないとか、この企業はどこに向かうのかなという時に、もう数字や無機質な情報だけだと伝わらなくて。

やっぱり感情に訴えかけるもの。「印刷で世界を変えていきたいんだ!」とか「社内報によって、もっと会社を盛り上げていきたいんだ!」というビジョンを、感情を込めて伝えることが必要になっている時代なのかなと思っていますね。

エモくない経営者は居ないし、ストーリーのない会社はない

工藤:なるほど。竹村さんはいろんな経営者の方に取材でお会いする機会が多いと思うんですけど、どんな経営者にもエモさは必ずあると思われていますか? 

竹村:あると思っています。やはり起業する時には、絶対にそこには想いがあるはずですし。失敗や挫折があったり、大事な社員が辞めてしまったとか、何かしら事件があって、そこには絶対に感情が絡んでいるので。ストーリーのない会社はないと思いますけどね。

工藤:今日は取材をされている広報の方もいらっしゃるのかなと思うんですけれども、社長の想いを引き出すためにどんな質問をされているんでしょうか?

竹村:ストーリーを引き出せればいいので、例えば何かあった時に「それっていつからそう思われてたんですか?」「きっかけは何かあったんですか?」と聞くと、必ずストーリーが出てくる。

「この商品を売りだそうと思っているんだよ」といった時に「それってどこで思いつかれたんですか」「何かきっかけがあったんですか」という聞き方をすると「いや、そもそもうちの親父がこうこうこうで……」とか「登山が趣味なんだけど、その時に思いついたんだ」とか、なにかしらエピソードが出てくるはずなんです。

それがストーリーのきっかけになったり、そこを伝えるときっとすごく魅力的なコンテンツになるんじゃないかなと思います。

工藤:過去を深掘りしていくことが、1つの入り口なのかもしれないですね。

竹村:そうですね。みなさん「今のことと未来のことと、これからどうなりたいか」というビジョンの話もするんですけど、意外とそのきっかけになった過去の話は、あまり聞かなかったりするので。聞いちゃいけないと思っているのかもしれないですけれど、そこを聞くと、すごくパーソナルな部分が出てきておもしろいかなと思います。

工藤:なるほど。社長が起業された思いや「いつからなんですか?」という時に「自分の親父が……」という原体験とか、その人にしかない物語というもの。今はわりと、物語やストーリーというキーワードに注目が集まっていますよね。

そのストーリーには、そのままエモさにつながっているのかなと思うんですけれども、経営者のメッセージは「視聴者や読者との」っていうんですかね。さっきの「伝えたいことと聞きたいことの差を埋める1つのアプローチ」としては、有様としてはありな感じなんですかね。

竹村:そうですね。そう思います。

人間は「会社よりも人に興味を持つ」生き物

工藤:やっぱり読者の方は、そういった思いとか、ものを求めている。潜在的に経営者の違う一面を知りたいと思っている感じなんですかね。

竹村:そうですね。人間は会社よりも人に興味があると思うんですよね。スターバックスやシャネルみたいに、ものすごいブランドになってしまうとブランドが一人歩きするので「ブランドに興味がある」と言えると思うんですけど。

例えば僕の会社だったら、WORDSに興味があるというよりは「それをやっている竹村さんがどういう人なのかな?」とか、どういう悩みを持ってるのかに興味があるのが普通の感覚だと思うので。人は人に興味を持つので、会社の情報を出すのではなくて、人の情報を出しましょう、ということだと思います。

工藤:確かに。企業広報の文脈でいうと、どうしても人よりも企業活動やプロジェクトやプロダクト、サービスなどを出していって、モノの後ろ側に人が来てしまうのかもしれないですよね。

竹村:そうですね。

企業トップの「人として」の発信が求められる時代

工藤:今は商品やサービスがコモディティ化しがちな時代で「どれも一緒だよね」と思っている消費者の方も、けっこういらっしゃるのかなと思っています。逆説的に捉えると「いや、選びたいんだけど選ぶ理由が見つからないんだよね」「だって全部一緒なんだもん」と。

そこに“人”という切り口で「この人が作っているんだったら買ってみようかな」と思わせる。「この人なら」の裏側にあるものを引き出していくことが、顧問編集者の役割になってくるんでしょうか。

竹村:そうですね。やっぱり今は有事だと思うんですよね。コロナがあって、企業もどうなっていくかわからない時に、テレビをつけるとトヨタイムズでトヨタの豊田章男社長が出てきたり。ユニクロのニュースであれば、柳井正さんが矢面に立って発信していったり。ニトリの社長さんや、星野リゾートの星野佳路さんもよく出ています。

エモくは語っていないと思いますけれども、企業のトップが「人として」発信していくことが求められているし、それが必要な時代なのかなという気はしていますね。

工藤:トップの発信力が、企業の成長などを左右する時代になってきたなと感じますよね。

竹村:そうですね。例としては違うのかもしれないですけど、企業名で本を出すとあまり売れない。本を出す時は、やっぱり社長の名前で出しますよね。コンテンツを出す時は、企業ではなく人が前に出たほうがよくて。一番発信すべきトップは、経営者の方なんじゃないかなと思います。

企業の発信力を強化するための、5つのテーマ

工藤:有事というお話もされていたんですけれども、今、経営者を通じて企業の発信力を強化したいと考える経営者の方や広報の方もご覧になっていると思います。竹村さんがご覧になっていて「もっとこういうことを発信したらいいのに」とか「もっとこういうことを考えてやっていったら……。惜しいな」と思われることはありますか?

竹村:そうですね。5つぐらいテーマがあると思っています。

工藤:noteに書かれていた……。

竹村:まず1つ目は、会社を作ろうと思ったきっかけ。会社が始まる時には、必ずストーリーがあります。Appleだったらジョブズが追放された話は絶対していますし、Facebookだったら大学のサービスから始まったと話していると思います。

2つ目は、会社を作ってから一番苦労したこと。意外と「この商品がこれだけヒットしました」とか「このサービスが当たってこうなりました」という成功譚を語りがちで、失敗談は言いたくない。会社のイメージが下がると思われるのかもしれないですけど。

でも失敗談こそ、興味を持ってもらえたりします。今も失敗していたら、ちょっと言いづらいかもしれないですけど「過去にこういう失敗があったから今があります」というお話ができると、すごく魅力的かなと思います。

工藤:なるほど。失敗に対しては共感がしやすいんですかね。

竹村:そうですね。僕が読みたいコンテンツも、人がうまくいった話よりは「こんなに大変だった」とか「失敗した」とか、トラブルがあったことは気になるものなので。誰しもみんな失敗していると思うので、そこをどう乗り越えたのかは、すごく知りたいと思います。

工藤:苦労からブレイクスルーしていくところもいいんじゃないかと書かれていましたが、ブレイクスルーも人を惹きつけていく要素ですかね。

竹村:そうですね。会社を作ろうと思ったきっかけと、一番苦労したこと・失敗と、これがあったから会社がうまくいったというブレイクスルー。商品やサービスの誕生秘話、あとは「これからこういう世界を実現させていきたい」という未来の話で、5つと言っていますね。

工藤竹村さんのnoteにも詳しく書かれているので、ご覧になっているみなさんは、ぜひそちらも見ていただければと思います。

物理的ではなく、言葉で人をつなぎ止める

工藤:特に今、ニューノーマルという時代の変わり目だし、平時とは違うと思うんですよね。この5つを踏まえて「今の時代だからこそ、こんな発信をしていったほうがいいんじゃないか」ということはありますか。

竹村:そうですね。確かにニューノーマルで物理的に接することが少なくなったからこそ、言葉の力はすごく重要になっていると思うんですよね。リモートワークになって、会社ってなんだろうと改めて考えた人も多いと思うんですけれども。これまでは会社という箱があってビルがあって、そこに集まって一緒に仕事をしていれば、会社だなという感じがあったと思います。

リモートワークで家にいて、別にどの会社の仕事をしようが同じ……(笑)。

物理ではもう会社に縛れなくなったからこそ、経営者がビジョンを発信して、会社の存在感を高めて社員をつなぎとめておく必要がある。

内容としては先ほどの5つと、企業より自分という人を前に出した発信をするべきだと思います。その背景として「人を物理的につなぎ止められなくなったので、言葉でつなぎ止めましょう」とよく言っていますけど。

工藤:経営者の方のnoteを拝見していると、ビジョンや理念は、原体験や思いなどが短いワードになってギュッと詰まっていて、覚えやすいんだけど、その背景にあるものまでしっかりと読み解くことはなかなか難しい。今だからこそ、そのメッセージをしっかりと届ける必要があるのかもしれないですよね。

竹村:そうですね。

工藤:わりと、従業員に会社側が選ばれる時代になってきているじゃないですか。消費者は買う理由を欲しがっているように、従業員側もきっと、ここで働く理由を欲しているのかもしれないですよね。

竹村:そうですね。昔は「給料が高いから行く」「会社がおしゃれだから行く」という時代もあったと思うんですけど、今はやっぱり「ビジョンに共感できるから、この会社の社員でいたい」というふうになってきていると思うので、ますます言葉や発信が重要になっていると思います。

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