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「答えがないのに、ゴールを示すべき」というジレンマをどう乗り越えるか?〜これからの時代の未来との向き合い方(全7記事)

IT批評家・尾原和啓氏が語る「流動性」のある働き方とは ネットでつながる時代だからこそできる、新しい仕事のかたち

中土井僚氏の著書『ビジョンプロセシング』の出版を記念し、これからの時代の未来との向き合い方を探究するトークイベントが開催されました。『プロセスエコノミー』などの著者でIT批評家の尾原和啓氏、READYFOR創業者の米良はるか氏と中土井氏の3名がトークセッションを行い、「答えはないのに、ゴールを示すべき」というジレンマの乗り越え方について探ります。本記事では、人材の「流動性」が上がった今の時代における、新しい仕事のあり方について語ります。

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尾原和啓氏・米良はるか氏がゲストとして登壇

中土井僚氏(以下、中土井):ということで、私の説明はここまでにして、本日のゲストのお二方をお招きしたいなと思います。米良はるかさんと尾原和啓さんです。よろしくお願いいたします。

米良はるか氏(以下、米良):よろしくお願いします。

尾原和啓氏(以下、尾原):よろしくお願いします。

中土井:よろしくお願いします。私は尾原さんにはいつもお世話になっているのですが、実は米良さんは今回が初めましてで、数十分前に初めてお目にかかりました。このイベントにご参加いただけたことを非常にうれしく思っています。尾原さんが米良さんを推薦してくださいまして、もともとご存じだったということでもあります。

まずは尾原さんに、その次に米良さんに自己紹介いただくかたちで進めていきたいなと思います。尾原さんには、米良さんを他者紹介してほしいんですが……。

尾原:もちろんです!

中土井:米良さんの魅力を(尾原さんに)お伝えいただいてから、(米良さんに)自己紹介をしていただければなと思います。お願いできますでしょうか?

尾原:みなさま、初めまして。尾原と申します。僕は自分のことをIT批評家と呼んでいまして、もともとマッキンゼーやGoogle、リクルート、楽天の執行役員として、世の中の仕組みを、主にネットを使って事業の収益性を上げながら、人生と笑顔の選択肢を増やしていくという新規事業をずっとやっておりました。

独立したあとは、アフターデジタル、プロセスエコノミーといった、ネットでつながる時代だからこそできる新しい仕事のやり方、世の中の作り方というものが、どういうふうにゲームチェンジしているのかということを、わかりやすく説明する本を書いておりました。

そういう中で、会社の組織変革というよりは組織開発という話と、世の中の新しい流れを作っていくという話に関して、中土井さんの著作にめちゃくちゃ共鳴いたしました。それで、今日はイベントをやるということで、押しかけてきました。良い時間をみなさまと一緒に過ごせればということで、よろしくお願いします。

「創造すること」と「問題を処理すること」の根本的な違い

尾原:米良さんを紹介したいんですが、米良さんは「READYFOR」という、クラウドファンディングサイトの運営をされていらっしゃるというのが、一般的な説明の仕方だと思います。

けれども、なんで僕が今日『ビジョンプロセシング』の会に米良さんとご一緒したかったかというと、僕も、中土井さんが説明してくださったピーター・センゲの言葉がものすごく好きなんです。

もう一度言うと、「創造することと問題を処理することの根本的な違いは簡単である。問題を処理する場合、私たちは望んでいないことを取り除こうとする。一方、創造する場合は本当に大切にしていることを存在させようとする。これ以上に根本的な違いはほとんどない」という言葉です。

世の中のスタートアップって、ほとんどが問題を処理することで世の中を良くしていくものが多いんですね。もちろんこれは特に、世界と比べて20年間生産性が上がっていなくて、DXがお世辞にも進んでいるとは思えない国にとっては、ものすごい尊いことなんです。一方で、本当に大切にしていることを実現しようとしているプラットフォームは数が少ないです。

その中でも、クラウドファンディングという、発案者が大切にしていることを、みなさまのお力で実現する流れに変えていこうというふうに、特化しているのがREADYFORです。それゆえに、米良さんにぜひ来ていただきたかったですし、本当に大切なものを実現する時に思いの乗ったお金の流れが生まれることで社会変革が進んでいくと、バックグラウンドにも書かれています。

ということで、先ほどの中土井さんとの説明とかけ算すると、いろいろと盛り上がるんじゃないかということで、今日は勝手にお見合いをさせていただきました(笑)。

(一同笑)

米良氏が起業した背景

尾原:米良さん、何か補足ありますか?

米良:ありがとうございます(笑)。

尾原:思いを乗せた説明しかしていなくて、もっと具体的に説明しろよという感じかもしれないんですが。

米良:いえいえ(笑)。本当に光栄なお言葉をいただきまして、ありがとうございます。中土井さんとは初めましてなんですが、今回、尾原さんからお誘いいただいて、ぜひ登壇したいと思ってお引き受けさせていただきました。ご紹介をいただいて、本当に過分なお言葉だったので私から付け加えることはあまりないんですが、私はいわゆる社会起業家です。

自分で言うのもなんですが、私は本当にビジョン主義者だなと思っていて。今ちょうど11期目に入ったんですが、起業をするということは、お金を稼ぐというよりは、こういう社会を作りたい、その手段として事業を作ったり、起業をしていきたい。ずっとその思いでやってきました。

最初は、そういう行動をする人にそんなに共感が集まらなかったんですが、最近は自分の言っていることをなんとなく応援してくださる方も増えてきていると思っているので、そのあたりの話を今日はしたいです。

先ほどあらためて本を解説いただいたことで、すごくクリアになってきたので、お二人と話すことで深い学びの時間になったらなと思っております。よろしくお願いします。

中土井:ありがとうございます。今回、私はこのイベントのモデレーターとしてお話をうかがわせていただきますが、私自身も楽しみにしていました。尾原さんのお話にはいつも何枚用意すればいいのかというぐらい、目から鱗がボロボロ落ちていますから。

あとは、尾原さんのキャスティングがさすがだなと思うのですが、尾原さんはITで社会の仕組みを変えていく仕事、米良さんは社会のムーブメント自体を変えられたという仕事で、私は人と組織のマインドセットを変えるという仕事。

「変える」という観点でいろんな角度からそれぞれ取り組んできているのかなと思います。なので、その共通性と違いが非常におもしろいかなと思っています。

この10年で市民権を得たクラウドファンディング

中土井:まずは米良さんに、さっそく好奇心満載でうかがいたいことがたくさんあります。それこそ10年やってこられて、もともと、クラウドファンディングの可能性を感じられて立ち上げられたと思うんです。

やる前と、やっている最中と、今とで、同じクラウドファンディングをやっているのに見え方が変わったことがけっこうあるんじゃないかなと思うんですね。これまでどんなことに気づいて、(何が)米良さんの目に映っているのかをうかがいたいと思いました。どんな感じでしょうか?

米良:そうですね。この10年で、クラウドファンディングという仕組み自体が市民権を得たのかなと思います。クラウドファンディングの仕組みを説明しなきゃいけないシーンは、最初5年間ぐらいはありました。

でも、後半5年ぐらい、特にコロナを機に多くの方々が、例えばいつも行っているレストランが潰れそうになっているから支えよう、神社やお寺が大変だから支えよう、医療機関もがんばっているしみんなで応援しようとか。

やはり自分と社会とがすごくつながっている感覚が出てきた。自分は外でなにかしらの行動を取れないような状況の中で、せめてお金だったり応援の気持ちで世の中を良くしていきたいと思う方がすごく増えたんだろうなと思っています。

クラウドファンディングが5年前ぐらいにある程度定着したことによって、多くの方にとってそれがもっとも気軽な手段として一気に認知されたというところかなと思います。10年ぐらい前は日本には寄付文化がなくて、募金といってもいわゆる街頭募金のイメージでした。

それで、いろんなチャレンジを応援したり、お金を集めたりすることもぜんぜん一般的ではなかったので、そういう活動をする人もいるけど、すごく小さい活動だよね、と言われていたなと思うんです。

だけど、この5年ぐらいでそれが一定の、みなさんのさまざまな活動のシーンにうまくフィットしてきたかなと思います。いろいろな背景はあると思うんですけど、1つはやはり今日のお話にもあるように、人材の流動性や、副業みたいな話がどんどん上がってきています。

尾原氏「僕、ネットの中にしか友だちがいないんですよね」

米良:自分の人生を豊かにすることが必ずしも1つの組織や1つのチーム(に所属する)というものではなく、流動的なものとしてトライしていく(ことに変化している)。

ただ、今のファイナンスは、会社にお金をつけるとか、個人がお金を借り入れるという仕組みなので、流動的なチームというものがファイナンスをつける手段がなかなかありません。そこで、クラウドファンディングの返済をしなくていいとか、共感でお金を集めるというものがすごくフィットしているんだろうな、むしろ唯一の手段になっているんだろうと思います。

なので、この動きはこれからも増していくだろうと思っていて、そういう人々の行動の変化と、このファイナンスの手段がマッチしたというのは1つあったのかなと思います。このへんで止めておきます。

中土井:「流動性」という言葉ご洞察の深さを感じました。尾原さんの活動にも通じるものがあるような気がするので、尾原さんにうかがってみたいなと思います。

尾原さんが関わっていらっしゃる領域でいえば、テクノロジーが進化してきたからこそ働き方や事業の立ち上げ方といった、いろんな観点での流動性があると思います。尾原さんの目から見て、テクノロジーを起点に、今後は何がどんどん流動的になっていくと見えてらっしゃるんですか?

尾原:そうですね。今の流動性のお話って、僕のネットの原点に近い話だと思っていて。僕、ネットの中にしか友だちがいないんですよね。

中土井:おっもしれぇ(笑)。

尾原:なんでかというと、僕は本当に変人だったので。僕の頃ってまだ団塊の世代のジュニアだけど、クラスに50人ぐらいいたんです。1学年に12組くらいあるから、小学校1学年で600人がいるんですけど、頭がおかしい人間だったので、気が合う人間がいるわけがなかったんですよね。

中土井:なるほど。

尾原:だけど、中学2年の時にパソコン通信というものが現れました。もっと正確に言うと、その前に同人誌というものがあるんです。要は遠くにつながれて、1万人、100万人ぐらいの中から探すと、「なんだ、俺と似たやつがいるじゃん」っていうのがあったんですよね。これってすごく大事なことだと思っています。

“流動性のある社会”とは?

尾原:結局僕らって、昔は生まれた村が自分の生きる職業を決めてくれたし、特に日本においては終身雇用制があったから、流動性がない分、その会社が自分を一生守ってくれるものがあった。

ただ、その分どうしても「会社としての自分」という、自分の前に自分が所属している組織の正解に自分を近づけていかなければならない。これは同調圧力なんですが、守られている分、そりゃあ個性を捨てろよとなるのが当たり前でした。

一方で、ネットの本質って遠くのモノとつながることだったり、「この指とまれ」って妄想みたいなものを発信しても、READYFORのクラウドファウンディングみたいに、エッジがあるものには「うわぁ、あなたのお話にめっちゃ共感するから、あなたのプロジェクトを応援するよ」みたいな方が生まれてくる。これってトレードオフだと思うんですよね。

だから逆に言うと、クラウドファウンディングが世の中の当たり前ごとになった時に、「本来はこうありたい」「社会ってこうあったほうがうれしいじゃん」みたいな憧れだったり、「こんなことがあって許せるわけがない、もっと世の中ってこういうふうにできるはずじゃない?」みたいな憤りに、「この指とまれ」が集まってくるのがようやく自然になった。

そのことで、会社にもそれが逆流してくるんじゃないかなって思うんですよね。

中土井:おもしろいですね。一人ひとりが持ってるユニークさと、人間としての移りゆく思いや移りゆく状況に対して、固定化されたものが当てはめられていた時代が、ある意味不自然だと、お話をうかがって思いました。

ユニークさだったり、変わりゆく思いや状況に合わせて動いていけるようになったのは、ある意味自然なことなのかもしれませんね。お話をうかがっているとそんな感じがします。

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