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次世代エンターテインメントの勝ち筋 (全4記事)

放送作家を辞めた鈴木おさむ氏は、なぜベンチャーファンドを作ったのか? 32年間のテレビの仕事→スタートアップ支援への転身のわけ

「Cross the Boundaries」を旗印に、日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)が2024年も昨年に続いて京都で開催されました。今回のセッション「次世代エンターテインメントの勝ち筋 」には、鈴木おさむ氏、元AKB48で起業家の小嶋陽菜氏、アソビシステム代表の中川悠介氏、クリエイティブディレクターの小橋賢児氏が登壇。鈴木氏が32年間やってきたテレビの仕事からスタートアップ支援に転身したわけや、事業の「次の一手」が見つかるインプット法について語り合いました。

前回の記事はこちら

32年間やってきた放送作家を辞めた、鈴木おさむ氏

鈴木おさむ氏(以下、鈴木):最後に私は32年間、放送作家という仕事をやってきました。みなさんも、もしかしたら「子どもの頃、見ていました」という番組があるかもしれません。そんな仕事をやっていたんですけど、今年の3月いっぱいで放送作家を辞めたんですよね。

先ほど「テレビを卒業した」と言いましたが、32年間ずっとやってきて、いろいろ考えます。

テレビというものが、正直なかなかしんどくなってきているのも事実です。テレビは認知能力も高いし、すごい箱ではあるんですけど、ここで本格的に誰かが何かをしないと、なかなか変わっていかないと思うのも事実で。そんな中で32年間やってきた放送作家を辞めることにしました。

実は5年ほど前から、僕は中目黒でシェアオフィスをやっていまして。そこにおもしろいベンチャーやスタートアップの若者がやってきて、会議をしたり飲み会をしたり、時には出資したりしながらやっていたら、その中で大きく育つ会社がいくつか出てきて、「スタートアップと向き合うって、すごくおもしろいな」と思ったんですね。

サイバー藤田氏からも賛同を得た「toC向け」のファンド

鈴木:先ほど「自分に飽きたら終わりだよ」という話がありましたが、まさに僕は、「自分に飽きたな」というところがあったんです。

いよいよ放送作家を辞めて、50代に入って何か新しいことをしようと思った時に、身近でスタートアップをやっていた仲間の1人から「おさむさん、本気でファンドをやる気はないんですか?」と言われたんですね。

「ファンドかー!」と自分の中に雷が落ちる瞬間があって。今までたくさんの番組を作ったり、たくさんのタレントさんをプロデュースしたりしてきたように、新しいスタートアップやベンチャーと向き合い、伴走していくファンドをやってみたいなと思ったんです。

せっかくやるんだったら「toBじゃなくてtoC向けのファンドをやろう」と決めて、それがこちら(スライド)ですね。「スタートアップファクトリー」という名前で、ちょうど2024年7月、まさに昨日ホームページを立ち上げました。

正直toC向けと言い切る人はなかなかいないと思うんですけど、自分はずっとテレビをやってきた人間なので、toC向けに振り切ってやってみたいなと思っております。

もともと2023年に辞めると決めた裏で、一番最初にサイバーエージェントの藤田(晋)社長に相談したんです。「実はファンドをやろうと思うんです」と言ったら、すぐに「いいですね」と言ってご賛同をいただきました。その後にMIXIの笠原(健治)会長に相談をすると、すぐにまたご賛同をいただいて。

いろいろな方々にご相談した中で、サイバーエージェントさん、MIXIの笠原会長をはじめ、博報堂さん、博報堂DYメディアパートナーズさんも熱い気持ちで賛同してくれまして。

それからCygames(サイゲームス)さん、コンサートをたくさんやっているオン・ザ・ラインさん、東京ガールズコレクションのW TOKYOさん、そしてエキサイトホールディングスさんも参加してくれることになりました。メディアからはエフエム東京さんとジャパンエフエムネットワーク(JFM)さん、出版社からは講談社さんも。

おもしろいことに、芸能の事務所もこのファンドに参加してくれて、ワタナベエンターテインメントさんとTWIN PLANETさん、そしてアソビシステムさんも参加してくれることになりました。メディア各社、アパレル、飲食のカリスマなど、たくさんの方が参加を決めてくれたんですが、これは後日発表していきたいと思います。

目標金額は当初10億円から15億円に拡大

鈴木:ファンドのサイズは僕がほぼ1人で向き合うので、1人で全力で向き合えるサイズがいいなと思って、(はじめは)10億円を目標にLPを集めていたんですが……。

ありがたいことにいろいろな方が声をかけてくれて15億円の目標に変えてやっていたところ、おかげさまでその金額も超え、今も「参加したい」と言ってくれる人がけっこういますので、もうちょっとだけ背伸びしてやりたいなと思っています。

6月でいったんクローズをしまして、ファンドはまさに今日からスタートします。一応9月までクローズを延ばそうかなと思っていて、この会場にいらっしゃる企業の方で、LPでうちに興味を持ってくれる人がいたらお声がけください。

今日7月6日のこの場で、「スタートアップファクトリー」のスタートを宣言させていただきます。投資を始めていきますので、「toC向けのビジネスで絶対に時代を変えてやる。景色を変えてやる」と思っているみなさんは、うちのファクトリーにその想いを届けてください。

あと「なにかやりたいんだけど、まだビジネスが決まってないんだよ」という人がいたら、僕もけっこう起業のアイデアをたくさん持っていますので。

うちに参加するLPは、ただのLPじゃないです。中川さんも含めて、さまざまな分野のプロフェッショナルが集まってきます。その頭脳、コネクション、プロフェッショナルなスキルをフルに使って、未来のトップを走るスタートアップを応援していきます。この会場に来ているtoC、スタートアップのみなさん、ぜひよろしくお願いします。

小橋賢児氏(以下、小橋):おめでとうございます。

鈴木:ありがとうございます。お願いします。

(会場拍手)

鈴木:小橋くん、僕みたいな人間がファンドをやるのはどうでしょうか?

小橋:いや、本当にすばらしいことだと思います。まさにおっしゃったように、芸能やメディアは、今、すごく大きな転換期じゃないですか。僕も芸能にいた側からすると、世の中のネットワークのスピードに、追いついていってないくらい、ちょっと変わっている(業界だ)なと。でも逆に言うと、まだまだマスでは強いじゃないですか。

そのマスを見ていたおさむさんが、新しいスタートアップ、若手、新しい感性と組んで、その人たちを今度はマスに引き上げていくのはすばらしい試みだなと思います。ワクワクします。

鈴木:ぜひ、よろしくお願いします。こじはるさんもぜひ、よろしくお願いします。アパレルのお力をお貸しください。

小嶋陽菜氏(以下、小嶋):ぜひぜひ。

事業の「次の一手」を思いつくインプットの秘訣

鈴木:そこで、こんなみなさんと一緒に、未来のインスピレーションを得るためにやっていること。つまり「どんなことから次の一手を思いつくの?」と。例えば(小橋さんは)「花火をやろう」と思いつく瞬間があったわけですよね。アパレルの中でも、「次はこんなのかな?」「アイドルはこんなのだ」と思うヒントはありますか。

小橋:直接的なイベントやものづくりとはちょっと離れるんですけど、当たり前にとにかくインプットはしますよね。

鈴木:インプットでは何を大事にしていますか?

小橋:もちろんエンターテインメントに携わっていたら、「今の時代の世界のインプットは何か?」を大事にします。例えばイベントを作っていても、イベントだけを見ちゃダメなんですよね。

今の時代を作っている人たち。例えば料理もそうですし、文化やアートもそうですし、いろいろな分野をちゃんと網羅してインプットします。ただインプットは体験を通じた外側の情報じゃないですか。僕はそれとは逆説的に引き算じゃないですけど、情報を遮断することもやっています。例えば10日間、携帯もパソコンも全部預けて、しゃべらない、目も合わさないみたいな。

鈴木:ええ!? すごい。

小橋:僕らは情報を入れるばっかりですよね。今、情報デブになっているわけですよ。ネットを見れば情報、情報、情報。おいしい食べ物もいっぱいある。(本当は)けっこう十分に知っているのに、食べたいし、見たいし、知りたいしと(情報を得る)。

これは食の部分でも肉体でも同じです。実は1年ぐらい前に、1ヶ月間固形物を食べないで過ごすというデトックスをやりまして。

情報や体験としてのインプットを入れるのは誰でもできるから、逆に情報やインプットをなくす。すっからかん、枯渇状態で「何が欲しいんだっけ?」「何が見えるんだっけ?」と。両極を体験することによって、本当の自分というか、世界の真実が見えてくる。

「SNSを隅から隅まで見る」小嶋陽菜氏のインプットの仕方

鈴木:なるほどね。イベントだからイベントのインスタ情報ばかり見ちゃダメで、むしろ遠いところの情報を入れることがけっこう大事なんですね。

小橋:そうですね。僕はモデルじゃないですけど、モデルだからモデル雑誌だけ見ていればいいという話じゃない。モデルという美の内側にあるのは、自分の心を通じていろいろな世界を体験することだと思うんですね。

鈴木:こじはるさんは、インプットはどうしているんですか? 

小嶋:私はSNSを隅から隅まで見ています。

鈴木:それは洋服、アパレルにまつわること以外も見るってこと?

小嶋:はい。USトレンドも読みますし、どんなけんかが起きていたとかも。

鈴木:(笑)。それはTikTok?

小嶋:Xのレコメンドですかね。そういうので深く掘ったり、幅広く見て「自分はここかな?」というポジションを取ったり。

鈴木:SNSだったら、一番Xを見ますか?

小嶋:そうですね。TikTokも寝る前に2時間ぐらいぼーっと見ますけど(笑)。

鈴木:小橋くんは、SNSの一番は何ですか?

小橋:一番TikTokを見ちゃいますよね。XかTikTokなんですが、SNSも1年間やめたことがありました。

鈴木:ええ!? それで変わった?

小橋:気づいたのは、SNSを1年見ないと、自分が思っていたことやさっき話していたことに、出会うことが多くなるんですよ。ちょっとテレパシー的な感覚のつながりが増えていきました。

1日2〜3本ライブを観に行くアソビシステム中川氏

鈴木:なるほど。研ぎ澄まされていった。中川さんは、インプットはどうしていますか?

中川悠介氏(以下、中川):僕もSNSは超見ますね。TikTokとストーリーズ、あとXも全部見ますね。

鈴木:例えば人のライブとか?

中川:ライブもTikTokでめちゃ見ています。自分の会社の現場はもちろんたくさん行くようにしているんですけど。プラスSNSで、ひたすら四六時中調べていますね。

鈴木:へえ。その後、リアルにライブに行ったりもするんですよね。

中川:ええ、もちろん。普通に1日2〜3本は見に行きます。

鈴木:え!? すごい。こじはるさんは、人と会うことはしないんですか?

小嶋:私は最近、会社にずっといるので、社員としかしゃべってない(笑)。(今日は)みなさんのお話が聞けてすごく新鮮です。

鈴木:僕は人とめっちゃ会うんですよ。

小嶋:いいですね。

鈴木:自分と交わらない人生を経験している人に会うようにしています。例えば「ナンバー1ホスト」と出会ったら、すぐ飲みに行ったりする。自分とまったく関係ない情報だけど、ホストの中ではやっている情報と今(の流行)は絶対につながるじゃないですか。

小嶋:確かに。

鈴木:それがおもしろくて、自分と遠い人生を経験している人に会いに行くんです。中川さんもけっこう人と会いますよね。

中川:人ともめちゃくちゃ会いますね。僕は自分がプロデューサーというよりは、周りのプロデューサーの人たちの意見を聞いてトータルで合わせる調整役なので、とにかくインプットしますね。

鈴木:若いタレントも含めて今の会社の20代は、前と違うところはありますか?

中川:社会人として「良い・悪い」じゃなくて、人として「発信したがるか・したがらないか」が変わってきたなと思いますね。社会人として良い・悪いは、最近どっちでもいいなと思っていて。SNSで自分が発信したいことを持っていて、発信し続けるやつは、すごく強いなと感じていますね。

インスプレーションを得るためにやっていること

鈴木:あとSNS以外に何かを思いつくためにやっていることはありますか? 

中川:僕の仕事で言うと、インスピレーションを得るためにパワーをもらいたいので、一生懸命タレントたちのやる気を吸収するようにしていますね。「何をやりたいか、どう考えているのか」を聞いて、それをどう料理するかをすごく大事にしていますね。

鈴木:小橋くんはどうですか?

小橋:人々のフラストレーションも含めて、今の時代の人たちにたまっているものを、いつも自分自身で感じるようにしています。それこそ「ULTRA」を日本で立ち上げようと思った時、「ULTRA KOREA」の立ち上げを手伝ったんですね。

その時10万人のオリンピックスタジアムに、フェスなどに行ってなさそうな若者たちが集まったんですが、涙を流したり興奮していたり、人生が変わったような目をしていたんですよ。その時ふっと日本側を見たら、(それを見て)「すげえ。こんな世界が始まっているんだ」と(日本の)若者たちがつぶやいていた。

「どうせ日本でこんなことはできないよな」「どうせ日本」「どうせ東京」「どうせ自分の人生なので」とつぶやいていて。未来に対して期待していない感じは自分も持っていたなと思ったんです。

「どうせこんなことは、日本で起きないだろう」と思っている時代に、東京のど真ん中で見たことのない景色が見えたら、「こんなことが僕の時代でも起きるの?」「え? 日本も世界も僕の人生も、変わるんじゃないの?」と思ってもらえるんじゃないかと思って。是が非でも「東京のど真ん中でやりたい」と思って「ULTRA(JAPAN)」を立ち上げたんです。

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