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新しい社会を創る、新しい仕事(第1部)(全3記事)

当初は“1万円でもあり得ない”と言われた、キャリア相談事業 ポジウィルCEOが苦悩と共に明かす、可能性を見出した瞬間

「Cross the Boundaries」を旗印に、日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)が2024年も昨年に続いて京都で開催されました。今回のセッション「新しい社会を創る、新しい仕事」第1部には、Gftd DeSci メンバーの河崎純真氏、株式会社ウィズグループ 代表取締役の奥田浩美氏、エール株式会社 取締役の篠田真貴子氏、ポジウィル株式会社 代表取締役の金井芽衣氏の4名が登壇。本記事では、各登壇者が手がける事業が生まれた背景について語ります。

前回の記事はこちら

多様性が重要な今の時代、「聴く」ことが大切なわけ

奥田浩美氏(以下、奥田):では、みなさんのお仕事が生まれてきた背景についてお聞きします。先ほど自己紹介の時に、「これから先、どんな職業があろうが、それって地球の環境に良いんですか? 未来に役立ちますか? という職業です。そういう人が求められています」と言ったように、私の場合は社会背景があります。

篠田さん。「聴く」と言うと、みんな「まるで茶飲み友達のように聴く」みたいにイメージしますが、どんな意味を持って、どんな社会があるからこの職業が生まれてきたと思いますか?

篠田真貴子氏(以下、篠田):ありがとうございます。一言で言うと、多様性を事業や社会を推進する力に換えようという社会になったからだと思います。

先ほどの金井さんのお話みたいに、多様性じゃない時、例えば「みんながある学校を出て、あるキャリアを積んだら幸せだよね」という世界においては正解があります。「聴く」というより、「みんなが同じ」という前提だから、そこに向かって「伝える」だけでよかったんです。

でも、「多様性をお互いの力に換えましょう」という状況だと、まずは「岡田さん。さっき地球って言ったけど、それってどういう意図?」って、聴かないとわからないじゃないですか。わかれば、「そういうことね。だったら奥田さんにこういうことを相談しよう」となる。それってやっぱり、一人ひとり言わないとわからないんですよ。

これをイメージでまとめると、IVSだから、みんなピッチとかをすごく大事にしているでしょ? でも、ピッチをやっている場合じゃないんです。本当に聴いてほしい。

奥田:わかる。

人は、誰かが聴いてくれるから初めて話す

篠田:PowerPointというソフトウェアができたのは、たぶん30年くらい前です。あれができてから、みんながプレゼンテーションをするようになりました。スティーブ・ジョブスとかが(プレゼンを)やって、みんなはそれを真似しているじゃないですか。それが変わってきています。

聴くことで社会を変えていったり、何か新しいアイデアを実装したり、多様な仲間と力を集めたりする。それが「聴く」抜きではできないことに、みなさん少しずつ気づき始めているから、これが仕事になっていると思うんですよね。

奥田:それはすごくわかります。私は5年くらい前にそのような内容のブログを書いたことがあって。こういうイベントのプロデューサーだと、「人に聴かせるコンテンツ」を作りがちなんです。

でも本当に有能な人は、ある地域に行って、「みなさん、何を大切にしていますか?」「この地域をどうしたいですか?」「みなさんは何ができますか?」と聴きながら、何かをプロデュースする。実を言うと、私のプロデューサー家業は、「みなさんはこの地域で何をやりたいんですか?」「何を生み出したいんですか?」と、ひたすら聴く仕事です。

篠田:人は、聴いてくれるから初めて話すんですよ。

奥田:そうですよね。

篠田:そうです。またイジりますが、ピッチに書いてることは本当? 本当にそう思っています? じっくり肯定しながら聴いてくれる人がいたら、もうちょっと違うことを言いません?

奥田:言います。

篠田:投資家ウケに関係なく、本当はもっと青臭い思いや言いたいことがあるでしょ? それって、聴いてくれる人がいて初めて輪郭を持った言葉になるし、それがわかったら自分のミッションをよりパワフルに推進していけるんですよね。だから、聴くというのはイネーブラー(Enabler)なんですよ。「実現屋さん」だと思いますね。

奥田:私も、話を聞いてそう思いました。会社の中にこれだけ多様な人たちが存在すると、聴かないとわからないレベルの人がいて。今までだったら、上司がAと言ったらAだから、聴く必要がなかったわけですね。トップが「Aです」と言ったら「Aです」となる。でも今は、社会を作って、会社を作っている時に(聴くことが)必要だということですよね。

篠田:まさにそうですね。日本の大企業も、そこにけっこう気がついています。だから我々にお金を払ってくれて、このサポーターという職業が成り立っているのですよね。

奥田:わかりました。ありがとうございます。

最初は「あり得ない」と言われた、キャリアカウンセリング事業

奥田:では金井さん、先ほど社会の変化も含めて自己紹介をされたと思うのですが、特にどういう社会背景があるかというのを、もう少し詳しく教えてください。

金井芽衣氏(以下、金井):私は前職がリクルートキャリアという会社で、転職のエージェントをやっていたんです。当時、2016年くらいは副業がうっすら流行り出した時だったんですよね。

私が持っているソリューションは転職しかなくて、しかも転職の中でも自分が担当する企業しか紹介できないかたちでした。だから、「これからの時代、それってどうなんだろうな?」と疑問視していました。それが2016年ですね。

2017年に起業したのですが、私自身が学生時代にキャリアカウンセリングと出会って、人生がすごく大きく変わった経験があったので、これを広げていきたいという気持ちがありました。

でも、「個人が1万円でもお金を課金するなんてあり得ない。それで食っていけると思っているのか?」と、周りからはたくさん言われていて。「古い価値観だからそう言っているんじゃないかな?」と、私は思っていたんですよね。

キャリア相談を受けていく中で、2週間で100人に対して10分で無料カウンセリングをした時があったんですよ。「東大卒で商社で働いています」というような人が、100人中2割くらい「お金を払うからもう1回やってくれませんか?」と言ってくださって、ここにニーズがあるんだと思ったのがきっかけでしたね。

奥田:わかりました。

立ち上げ当初はマーケット作りで苦労したことも

奥田:例えば私たちは、ちょっと高いジムでパーソナルトレーニングに1時間1万円、月5万円~6万円、1年で50万円~60万円払うのは当たり前だと思っています。

筋肉を作るのも体を整えるのも大事なのに、働ける自分自身を作ることに対して、逆になぜ今まで40万円をかけてこなかったんだろうと、お話を聞いていて思うんです。やっぱり、理解を得るまでがすごく大変だったんですか?

金井:そうですね。マーケットを作るのが本当に大変だったと思っていて。今でこそ同じような会社が増えてきましたが、最初はうちしかなかったので、メディアに出ると叩かれたこともありました。

奥田:叩かれるって、どんなことを書かれるのですか?

金井:「こんな詐欺みたいな事業が」とか。

奥田:詐欺(笑)。

金井:「こんなの意味がないし、売らなくていい」とか、散々言われたんですよ。

奥田:あとは、「豊かな人だけがメリットを得られる」とか。

金井:そうですね。2019年くらいに今の事業を始めたんですが、そこから約2年間は、そう言われていました。最近は、それがあたかも(以前から)あったかのようになっています。

奥田:(笑)。キャリアのパーソナルトレーナーと呼ばれる人は、何人くらいいるんですか?

金井:うちの会社には業務委託も含めると100人くらいはいます。マーケットとしても本当にたくさんの会社が出てきているので、たぶん数百億円の規模になっているんじゃないかと思いますね。

奥田:わかりました。話を聞けば聞くほど、「ちょっと入りたいな」と思います。会社の宣伝になり得るんじゃないかなと思いながら聞いていました。

AIの進歩により「人間はマジで仕事をしなくてもいいんです」

奥田:では河崎さん、ウェルビーイング分野のAI技術者は、まだ仕事としてギリギリのところですよね。お金を生み出すかどうかはっきりわかりませんが、この社会背景がどんな発展を必要としているのか教えてください。

河崎純真氏(以下、河崎):わかりました。社会背景として、これを自分がおもしろいなと思ってやっている理由は、みなさんご存じのChatGPTですね。日本だと去年(2023年)くらいだと思うのですが、あれが出た時、めちゃくちゃ驚いたんです。「えー!?」「できた!」みたいな(笑)。

もともと「Word2vec」「Transformer」という技能が研究されていて、4~5年前から「なんかおもしろいことができるんだな」というのがあったんです。でも、今の「gpt-4o」のようなクオリティになるのに、自分は10年、20年かかると思っていたんです。

それが昨年末にポンっと出てきて、みなさんご存じのとおり「gpt-3.5」から「gpt-4o」になって、めちゃめちゃすごいなというのがありました。だから孫正義さんとかも、シンギュラリティが来ると思っているんですよね。

僕もエンジニアなので、20代の時とかって、プログラミングを1日16時間書いているんですよ。寝ている8時間は、夢の中にプログラミングが出てくるんです。

奥田:わかる(笑)。

河崎:だから24時間働いていたんですよね。「人間は24時間働ける」というのでやっていました。でも、最近はコードを書かなくても勝手にできているので、仕事をしていなくて。指示だけしたら、プログラミングコードをすべて書いてくれているので、「俺、何もしてないな」と思って。

社会背景としては、AIが実現してしまったから、人間はマジで仕事をしなくてもいいんです。ロボティクスも進んでいて、自動運転も来ますので、5年、10年ですべてが変わります。「人間が当たり前に労働している」というのも消えます。だって、ヴェクトルデータベースがよく動くからです。

そうなった時に、単純に仕事は消えるので(人間の仕事は)もう要りません。僕は仕事をしていないし、AIがやってくれています。それでもお金はもらえます。

人間が“いい感じに生きるため”にAIを作る

河崎:人間は、仕事としては要らない。じゃあ何をするの? といった時に、(仕事は)AIに任せて、ローマ時代のように楽しく生きるんですが、「どんなAIが良いかな?」と思うんです。

先ほど言ったように、自分は障害系とかウェルビーイングが好きなのですが、GPT-4とかだと性格が出ちゃうんですよね。Alibaba Cloud AIとGPT-4でまったく違うことを言うので、それはどっちも嫌だなと思って。

だったら、ウェルビーイングな人、グローバルな良い感じの人のAIを環境として作って、そのAIに仕事を全部やっていただいて、僕は何もしない(笑)。いい感じに生きたいという社会背景があります。

奥田:ありがとうございます。実は私は生成AIをかなり使っています。ChatGPTとGeminiの2つを使っているのですが、ChatGPTには自分のFacebook投稿やブログやテキストデータをバンバン投げ込んで、私のほうからアウトプットをする。そこから「奥田浩美っぽい文章を書いて」と言ったら、書いてくれるようなかたちで使っています。

Geminiは会社のアカウントなので、私がアウトプットしても外には出ていきません。社内利用として使うので、漏えいしたくないものや、お金をもらって何かを企画する時はGeminiとやっています。ChatGPTは、どちらかというとどんどん伝搬してほしい時で、自分の中で切り分けて使っています。

もはや最近は、「私らしいコンセプトの企画書を作って」という時には、AIがガーッとヘルプをしてくれます。じゃあAIが働いているかというと、そうではなくて、結局私の今までの結晶がやっています。

私も自分の仕事は残像だと思っているので、残像作りをひたすらがんばっています。そういった意味で、そこに目をつけてくれた河崎さんと(一緒にやっています)。

言語化できない「感性」も、AIは吸収することができるのか?

奥田:「今、どんなAIと一緒にいたいですか?」といった時に、私が教師になるんだったら、ずっとワクワク、楽しく、そして人とずっと会話ができるような、「それで、それで?」みたいに、まさに聴く立場の(AIです)。

そして今は“3歳児”を目指しています。なぜならAIは、最後は「嫌だ、嫌だ」という、イヤイヤ期にまで達することができないと思っているからです。言語化したところは全部が吸い取られてしまいます。だから、言語化されない人間の一番良い感性、「嫌なの!」みたいなところに私がいたらおもしろいんじゃないかなと思って、今は毎日を生きています(笑)。

(篠田氏を見て)何か言いたそう(笑)。

篠田:いやいや(笑)。そこはAIに教えないの?

奥田:今のところ、生成AIは言語化されないと吸い取ってくれません。だから、感性で「嫌なの!」というのは(吸い取ってくれないと思うんです)。

篠田:その「嫌なの!」というパターンを覚えちゃうんじゃない?

奥田:河崎さん。その瞬間の、吸い取れない感情のようなものってどうなんですかね。

篠田:吸い取れないんですね。

河崎:それはけっこう議論になっていて。今まさにマルチモーダル(AI)が出ているので、実はAIの感情表現も評価されてはいるんですが、本当に出せるかというと、もちろん限度がある。

でも、おもしろいのが、ヴェクトルデータベースという行列はかなり吸収できるんですよね。言葉で伝えきれないものはありますが、例えば感動とか、言葉で伝えられるものもあるじゃないですか。

小説を見てめっちゃ泣くとか、文字しかないけどなんか泣けちゃうとか、怒るとか。感情は出てくるので、所詮は言葉なんだけど、言葉にもすごく可能性があります。

今は言葉をうまく扱えるので、まずは言葉から。僕は宗教法人の代表だったので、一応スピリチュアルの研究もやっていて、そういう捉えきれない要素もAIにちょっとずつ反映させていきたいですね。

篠田:見ている人間側が、そこに感情があると思ったらある。まさに今の小説の話ですよね。ただの文字列だと思わずに、そこに(感情が)あると思ったらあるんですよ。

奥田:そうです。

篠田:そういうことに近寄っているなと思いました。

奥田:だから私は今、AIの社会に「最後の自分の感性」みたいなものをどう残せるんだろう? というのを毎日味わっていて(笑)。毎日、毎日やっています。

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