増税でレジ業界に訪れた“特需”

倉橋健太氏(以下、倉橋):では続いて、スマレジの山本さん、いかがですか? 「自社のデータ活用の現在地」と言うと、大きな話になっちゃうかもしれないんですけど。

山本博士氏(以下、山本):自社でどういうふうにデータを活用しているかというと、部署によってめちゃくちゃ異なるんですけれども。開発系の人たちはそういうのに長けていて、営業とかはあまり長けてないんかな? という気はしますね。営業さんがどんなお客さんを相手にしてるかが「感覚値」であったりすることは、やっぱり未だにあるんですよね。

「どういうお客さんが、何のためにレジを入れ替えるのか?」が、ちゃんとアンケートを取らない限り、わからない。なんとなくいつもの商談の中で「だいたいこういう人が多いですね」みたいな感じで、一人ひとりのノウハウに頼っているところが、事実としてあります。

その一方で開発のほうは、わりとドライに数値化して、なんでも予測していきましょうと。例えば当社の売上も、過去数年間の季節要因と年間の成長率と月次の契約数をもとに、今年度・来年度の売上の予測を立てています。

レジの業界って、みなさんもうコロナでお忘れになっているかもしれないんですけども、去年の秋に消費税が8パーセントと10パーセントになって、さらに軽減税率というものができました。一般消耗品は8パーセントでいいですよと。それ以外のものは消費税が10パーセントになります。それをミックスしてお会計をしましょう。

これまでの日本では「8パーセントと10パーセントの税率を1回で、レジでお会計する」という概念がなかったので「事業者さんはみなさん、新しくそういうのを入れて作ってください」と。「その代わりみなさん、お店さんは新しいタイプのレジに入れ替えましょう」と(笑)。「国から補助金を出します」ということで、僕らの業界で軽減税率特需が発生したんです。

倉橋:なるほど。

山本:消費税が10パーセントになって、もう忘れた頃になっちゃってるんですけど。その特需からの影響を差っ引いて「特需が終わってからスマレジはどれくらい売れるのか?」という予測を立てるところから、問題的に始まったんですけども。そうすると今度、ジェットコースターみたいにコロナが来ちゃって(笑)。コロナで、レジが売れる売れない以前に店舗がヤバい、みたいな感じになって。

今度は「じゃあどれぐらい売れないのか?」というのを予測しないと、見通しが立たないということで(笑)。このジェットコースターの波を、いかにいろんなパラメータを入れて予測を立てていくかというのを、データサイエンスチームがやってくれています。

スマレジの新理念「オープンデータ・オープンサイエンス」

山本:もう一方で冒頭にお話しましたように、営業マンとかその他の“非エンジニア”がデータを活用うまく活用できていないことも、だんだんわかってきましたので。今年の1月から経営理念を変えて、オープンデータ・オープンサイエンスということにしました。社内でスマレジのデータ、お客さまのデータをオープンにしましょうということ。

それからオープンサイエンスなので、サイエンティストとかエンジニアといった科学者じゃなくても「サイエンスできるようにしましょうね」みたいな感じで。社内みんなでデータを開いて活用していきましょう、みたいな啓蒙活動をやり始めたところです。

倉橋:最後の部分は、個人的にすごく興味深い部分なんですが。オープンデータ・オープンサイエンス。これまでスマレジさんの中で、エンジニアやデータサイエンティストがやってきたことが、会社としての動きに昇華されて、より大きなうねりになるという話だと思うんですけども。

最初にそれを打ち出される時、先ほどあったデータを活用していなかった人たちに対しては……社内で同じ目線に立つのか? とか、そのあたりはスムーズに行きましたか?

山本:スムーズにはいかないですね(笑)。エンジンアじゃない人に、例えば「データベースを勉強してSQLを書けるようになってください」というのは、さすがにひどい話で。

僕らはお客さんにショールームにご来店いただいて、商談して契約するんですけれども。ショールームにご来店された方の特徴や「何屋さんで、どういった商売をされていて、なぜスマレジを入れようとしているのか?」というデータ・カルテを取らない限りは、顧客を知ることはできませんよね。それを営業マンの頭の中だけで処理していてはダメですよねと。

まずはexcelでもGoogleフォームでもいいですし、高度なデータ化じゃなくても、まずはアンケート用紙に書いてもらうことでもいいですし。「数値化することからやりましょうね」というところから、1個1個教えてあげないといけないなぁという。

でも、それによって例えば「池袋のショールームはどこからお客さんが来ているのか?」とか。「埼玉から来ているのか? 都内から来ているのか?」ということが、徐々に見えるようになってくると、営業マンもうれしくなってきて、少しずつ「もっともっとデータを取ろうかな」というふうになってきた感じです。

オペレーションの改善だけでは、ビジネスは変わっていかない

倉橋:なるほど。これ、いかがですか? 例えば草野さんの場合、企業のデータ活用とか、それこそ今だとDXとかもあると思うんですけど。変化を支えたり、促進するようなことを出されていると認識しているのですが、企業変革みたいなポイントって“詰まりどころ”が多種多様にあるんだろうなと思っていて。

例えば今のスマレジさんのお話だと、コロナという危機的な状況が背後にある中で、変化をさらにポジティブに持っていきやすい、みたいな。そういう時世もあるかと思うんですが。ある種、平時の変化というのもなかなか難しいものがあるんじゃないのかなと思うんですが。その辺り、現状いかがですか?

草野隆史氏(以下、草野):実際、相当難しいと思っています。僕らは16年ぐらいこの仕事をやっていますが、メインは「データをどう活用するか?」という仕事なんですよね。なので「あるデータをどう活かしたらいいのか?」とか、最近のDX的な流れの中で「戦略的にデータをどう取って、どう使っていくか?」という話も一部では増えてきているんです。

ただ、やっぱり大きな先の話をしていると、「そんなに長期的に投資するよりは、まずは短期的にちゃんと結果が出る領域からチャレンジしたい」という話になるので、すでに存在しているデータの分析から入ろうとするんですよね。

そうすると「今あるデータ」は、今ITシステムが入っている部分にあるんです。では、日本の企業においてITがどこで活用されているか? と言うと、基本的にオペレーションを回すためのインフラとして使われている。

榊さんのように「ビジネスがそのものがITです」というネット系の会社は、日本ではまだそんなに割合が大きくなくて。いわゆる大企業は、メインとなる従来のビジネスを滞りなく回したり、あるいはそれが即時に決算できるようにコンピューターのシステムが入っているケースが多いんです。

そうするとデータを使ってできることは、オペレーションの改善。コスト削減にはよく効くし、そこだけでも十分な成果が出せるので、僕らも順調に成長できていると思うんですけども。ただこれをいくらやっていても、ビジネス自体はなかなか変わっていかないという部分もあると思っていて。

今のDXのトレンドの中で、変われるのかどうなのか? というのが、すごく大きな日本の、マクロで見た時のチャレンジなんじゃないかなと思っていますね。

日本のICT投資額は、この25年間ずっと“横ばい”

倉橋:なるほど。これまでデータ周りの、それこそビッグデータとかそのあたりもそうなんですが。いわゆる“バズワード”と共に、データへの注目は断続的にあったなと記憶しているんですが。実態として、オペレーション・コストサイドへの投資は行われてきたけども、ビジネス投資という意味では、まだあまり増えてないという現地点なんですかね?

草野:はい。僕らはずっと、海外の先進事例とかを横目で見つつ、日本のお客様でそれをどう実現するか? ということを考えながら、今あるお客さんのビジネスを捉えるということ・どうやったら改善できるだろうということをやってきているわけですけども。どうしても高度なビジネス活用の部分で、どんどん彼我の差が広がっちゃってるなぁという感じが、やっぱりあるんですよね。

日本企業とアメリカ企業のICTの投資の統計を比較すると、例えば95年を100とすると、今アメリカはもう250ぐらいのレベルまで増えていっている。ドットコムバブルが弾けたり、リーマンショックがあったとしても、基本的にちょっと凹んでもまた増え続けてという感じで、95年を100としたら250手前ぐらいのレベルまでいっているんですけど。

日本ってずっと横ばいで、100を割るか割らないかぐらいの水準が続いていて、増えていないんですよ。この25年間、いわゆる「ソフトウェアが世界を飲み込もうとしている」って言われてるような時代にあって。95年ってインターネットの本格普及なので、そこから顧客接点がソフトウェアになる時代が始まったんですよね。それに2007年のiPhoneの登場で、さらに加速してという状況です。

お客さんのいろんなデータ取りつつ、それで顧客接点を改善して、というサイクルがあり。そこからIoTの時代になって、リアルな世界も分析の対象にできるようになった。ただ、IoTの大量データを分析しようと思うと、ITも更に発達しなきゃいけない感じになってきている。その文脈でAIが登場するんですが、そんな25年間の中で日本企業って、基本的にICT投資額を増やしてないんですよ。

倉橋:増えてない。横ばい?

草野:なんでかというと、やっぱりオペレーションを回すためのICT投資だったら、そんなに革新が必要ないんですよね。ビジネス側もそんなに題材的に変える必要もないというか、いわゆるITを使ってビジネスモデルを変えるというところまで踏み込めるタイプのものが少なかったということも、もともとあると思うんです。製造業中心とかで、ですね。

あるのかもしれないけど、サービス業の部分はそんなには変われてないとか。そこは新しく出てきたプレイヤーが代替していて、小売でいえばamazonが出てきて、既存のプレイヤーがそんなに変わってない、みたいな傾向が大きいのかなぁと思いますね。

「ITやデータに関しての理解」があるリーダーの不足

倉橋:なるほど。その中でも変われる企業と変わらない企業で考えた時に、ポイントってどの辺にあると思われますか? これはみなさんにも、聞いてみたいなと思う部分なんですが。

草野:基本的に経営者の、ITとビジネス両方に対しての理解とか危機感とかがあるなぁと思います。榊さんのように、社長自らがデータを引っ張り出してチェックして、みたいな。そういう人って、そんなにいないですから(笑)。

IT系の企業でも、ビジネスのことがわかっていて、データを見ていろいろ社長自らが動いて現場とコミュニケーションする方って、そうそういらっしゃらないので……。こういう会社が相手だと、僕らは社内で回し切れない仕事を大量にもらえるか、もしくは会社のカルチャーと人材ができあがっているので「出る幕がありません」みたいな感じで引き下がるかになるんですよね。

どっちかというと、一休さんは後者ぎみで。あまり大きな貢献できないかな、という感じで……。

榊淳氏:いやいや、そんな。とんでもないです。

草野:でもやっぱり本当に、リーダーの問題というか「ITやデータに関しての理解」という部分があって。日本って例えば、まだ4割の会社はCIO(Chief Information Officer。最高情報責任者)を置けてないという統計もあるんですよね。2013年時点だと51パーセント置けてなかったのが「これはいろいろマズいねと」いうことで経産省とかも「攻めのIT銘柄」とか言って、いろいろ啓蒙・啓発活動して7ポイントぐらい改善したんです。

それでも裏を返せば、2017年時点で「44パーセントの会社がCIOを置けていない」ということなので、取締役会とか執行レベルでITの専門家がいない。情報システム部門長はいるけれども、経営者ではないというような状況なんです。

そういう役員構成の会社では「経営の中でITをどうするか」ということを、実質、議論しようがないんですよね。もちろん、本当にいろんな例外があるし、業界ごとに革新的な企業は必ずあると思うんですけど。日本全体で見た場合は、そんな状況なのかなと思っています。