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ITトップが考えるモノづくり対談(全3記事)

ヤフー×LINE×DeNAが渋谷で歩んだ20年 IT企業トップがインターネット業界の変遷を語る

2019年9月13〜14日の2日間、渋谷ヒカリエで「BIT VALLEY 2019」が開催されました。“モノづくりは、新たな領域へ”をテーマに、クリエイティブ・ビジネスに関わるすべての人々に向けて、テクノロジー・発想方法・働き方など多様な切り口でトークセッションが行われた本イベント。本記事では、日本を代表するIT企業のトップ3名が登壇し、『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?』の著者・山口周さんによるモデレーションで「今のIT業界」「経営者としてのモノづくりの考え方」「ITの力×クリエイティビティがつくる未来」などについて語ったトークセッションの模様をお届けします。

「たぶんLINEかヤフーが日本で一番大きいインターネットメディアだ」

山口周氏(以下、山口):それではみなさんよろしくお願いします。日本を代表するIT企業の経営トップ陣に集まってもらって、いろいろお話を聞いていきたいと思います。進行に沿って、私から質問を出させていただきたいと思います。とくに今日は、今まさに話を聞きたい時の人が仲間に入ってます。

(会場笑)

川邊さん、まずその質問から先に入っちゃってもいいですか?

川邊健太郎氏(以下、川邊):はい。

山口:大丈夫ですかね。ということで、(ZOZOTOWNの)買収、TOBということです。戦略的意図、あるいはビジョンというものについて、どういうお考えが背景にあったのかをちょっとお話いただきたいと思います。

川邊:タイトルと全然違う質問ですね。

(会場笑)

川邊といいます。ヤフーにおります。どうぞみなさん、今日はよろしくお願いします。今日は、この会合が何かとか、中身が何であるかをわからずに受諾しております。なぜかというと、BIT VALLEY(ビットバレー)という言葉だけで来てます。私は非常に渋谷に恩義を感じているんです。ひとつは、元々渋谷区生まれだからです。そして青山学院の初等部からですので、まさに渋谷という街に育てられたということで、自分の人格形成に多大なる影響を起こしてるのがこの街であります。

そして大学3年生の時に、電脳隊を設立しました。そのインターネットベンチャーの所在地はまさに、恵比寿です。正確には渋谷区。(今日は)若い人が多いから、ビットバレーが昔あったのは知らないと思います。当時渋谷には、いっぱいインターネットベンチャーの走りがいたんですね。藤田(晋)さんとかが渋谷にいたんです。堀江(貴文)は違ったけど。その人たちと切磋琢磨してみんな大きくなったり、逮捕されたり、いろんなことがありました。

(会場笑)

その人たちで支え合ってやって来たという思いが強いので、ビットバレー、渋谷に恩返しできるんだったら問答無用で来る、ということで参ったということであります。なんでしたっけ? あれですね。

(会場笑)

山口:ごまかそうとしてるでしょ。

川邊:いやいや。本日いらっしゃっているみなさんの中には、就職前の人も多いんだと思います。当然今は転職なんて当たり前ですからね。どういう会社に行こうか、自分は何を成したらいいのか、と思ってる人がいっぱいいると思いますけど、会社はそれぞれさまざまな価値観があって、会社が大事にしている理念は、おそらくディー・エヌ・エーもLINEもヤフーも、違うんですよね。

価値観をよく調べて、「自分の価値観と合うのか」、あるいは「今自分に価値観なんてないけれども、こういう価値観の会社に1回寄り添ってみたら自分が変わるんじゃないか」と会社を選んで、事業を選んでやるといいんじゃないかなと思うんですよね。

その意味で言うとヤフーは、“やるからには日本一”。そういう価値観が強いです。「とにかく成長するんだ」「今日より明日の方が成長するんだ」という中で、たぶんLINEかヤフーが日本で一番大きいインターネットメディアだと思います。

ヤフーによる“ZOZO買収”の裏側

川邊:eコマースは、残念ながら1位ではないけれど、われわれのグループとしては日本一になってユーザーに新しいメリットを届けたいと思っているので。eコマースを大きくしていくうえで、もっとも不得意なのがファッション(笑)。残念ながら今ヤフーは、ファッションがあまり強くないんですよね(笑)。

ここをいかに強化するかというのを、われわれは考えています。ZOZOは非常に類いまれなる企業理念を持った会社です。「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」という素晴らしい企業理念を持っています。この理念に共鳴している人たちが社員にいます。自分のサービス、会社のサービスを愛してやってる人たちがいる。

山口さんのテーマかもしれないですけど、文化というのはお互いに尊重しあって、かつ影響しあってよりよいものになっていくと思うんですよね。今回で言うと、おそらくヤフーの文化とZOZOの文化というのは、全然違う組織文化、理念を持ってますけども、それがeコマース日本一という大きな志によって、お互いを認め合って融合というか、お互いに影響しあって、また新たな便利でかっこいいeコマースを作っていけるんじゃないかなと思って今回に至った。

今日はマスコミも来ているということで。なにせTOBの前なので株価にあまり影響があるようなことは言いづらい。

(会場笑)

まずはこれくらい抽象的なところからの話を。

山口:もう十分だと思います。

(会場笑)

川邊:ただ、本当に大事なんです。企業理念、組織文化は、働くうえでものすごく大事なので、そういうものをよく見たうえで、自分がどこで働くか考えた方がいいと思います。

ありとあらゆるチャンスがある「ものすごくいい時代」に生まれた

山口:どうもありがとうございました。実は、ここにいる3人はIT業界の生え抜きの人です。みなさんから見ると僕はリアルな人間。元々電通ですし、そのあとのキャリアは外資系コンサルティング会社でした。あんまり言ってないですけど、電通と外資コンサルの前に、僕はサイバーエージェントでずっと仕事してた時があるんです。

その時はまだ(オフィスが)表参道の2,30人ぐらいの規模で、電通に入ってから電通のソフトバンク担当ということで、結局ソフトバンクの孫さんの話をいろいろ聞いてるうちに、レガシーメディアはヤバいなと思って、夜も眠れないくらい興奮しちゃったんです。

「なにかすごいものが来る」とワクワクしちゃって、会社を飛び出しちゃったという経緯があります。今はすごく不確実な世の中で、不安定とか言われていて。それをすごくネガティブに言う人がいるんですけども。僕はこんないい時代はないと思ってるんですね。こんないい時代はない。ですから、ここから先キャリアを20年、30年と歩んでいける時期に生まれたみなさんって、本当に恵まれてるなと思います。

僕自身も、ものすごくいい時代に生まれたなと思います。レガシーのビジネスのやり方がカッチリ決まっちゃってる状態の中で生まれて、先人のやり方をつつがなく回すことでしかビジネスができない状態に比べれば、ありとあらゆるチャンスがあって。

かつ5Gとかブロックチェーンとか、いろいろな技術が出てくる中で、これから先、業界地図もどんどん塗り替わっていくんだなと改めて感じています。

川邊:そうですね、新しいものが生まれるんだという雰囲気は、昨日僕も記者会見をやっててものすごく感じました。

山口:じゃあ用意した設問表にいきます。これを聞かないままで帰って行っちゃうと、「おいおい、あの話出ないのかよ」という話になってしまうと思いますので。

(会場笑)

これでいったん済んだということで。

(会場笑)

20数年前は「これからインターネットが伸びる」という時代

山口:これもまた非常にあいまいなテーマです。「今のIT業界について」ということで、先ほどの川邊さんの話もそうで、産業が新しく出てくるときって、だいたい役に立つことをバリューにして出てくるんですね。でもだんだん役に立つものが落ち着いてくると、個性とか意味性みたいなものが、差別化の要因になってくると思ってるんです。

ヤフーがスタートしたのは1996年ですよね。正味、20数年を経て、いろいろなステージの変化をみなさん感じられてると思います。最初は川邊さんから入ったので、次は守安さん、いかがでしょう?

守安功氏(以下、守安):自己紹介がてら。僕も「ビットバレー」と聞くと、それだけで体がうずうずするくらい、思い入れがある言葉です。僕も川邊さんと大体同じ年代で、大学院まで行って、1998年に日本オラクルというIT系の会社に入りました。

その中で米国の状況とかを見ていると、インターネットが盛り上がってすごい状況だなと。その時に大学の友達から、一緒に競馬サイトを作って起業しようと誘われて、実際に自分で作ったんです。

僕は一応エンジニアだったので、サービスも作りました。なかなか自分たちだけでやるのは難しいよな、となったんだけど、それでも調べれば調べるほど「インターネットすごいな」という中でディー・エヌ・エーに入社し、当時僕は社員番号9番でした。

その時にちょうどビットバレーが盛り上がってきて、本当にお祭りみたいな感じになっていました。当時はわれわれは20代ですけども、上の世代もいないので、みんな何ができるかというのは手探りなんでね。エンジニアでやってますけれども、当時はモノを作っても、だいたいうまくいったと思ったらサイトは自爆してるし、みたいな(笑)。

(会場笑)

そういう状況の中でサービスを始めていったこと、別にスキルとか経験ではないんだけれども、「この業界すごいな、これからネット伸びるな」という中で入って、20年くらい経って、われわれもヒカリエに入れるような会社になりました。これまででも、インターネットに賭けてきた結果でここまで来て、今はもうインターネット業界というよりは、すべての産業・業界がインターネットをどう活用するかというフェーズに入ってきていると思います。

インターネットはリアルの産業へと浸透していった

守安:われわれも、インターネットと関わりが遠かったような産業、例えばオートモーティブやヘルスケアというジャンルにも入っています。これからインターネット産業だけじゃなくて、「リアルの産業と融合しながらどう社会を変革していくか」という点で、ますますIT業界が成し遂げられる幅は広がってくるんじゃないかなと。

山口:たしかにITとリアルという分け方自体が、たぶんもう1.0的なフレーム。ITそのものは全部に浸透していっちゃって、そういう分割の仕方自体がもう……。

守安:そうですね。ネット完結型のサービスはだいたい、もう一通り出てきています。これからもいくつか新しいものは出てくると思うんですけれども、ネットだけで完結しないようなサービスだったり、事業だったりというところに、どう融合させていくかという部分が楽しいところです。

山口:これもますます、世の中に対して大きなインパクトが出せるということにもなりますね。今までITの世界だけで相当大きなインパクトが出てるけども、レガシーの世界はレガシーの世界で閉塞状態でやっているという時に、いっしょくたに混ざり合っていくことですので、レガシーの世界にも大きな変革が(生まれますね)。

守安:そうですね。レガシーというか、リアルの世界でみなさん暮らしてるわけです。多くの人だったりモノだったり、お金が動いてるということがリアルの世界で、そこをわれわれがITやインターネットを活用することによって、どう付加価値を付けていくか、変革していくか、ということがよりできる環境が整ってきていますので、今非常に楽しい。

今はIT業界のプレイヤーが固定化され、世界の際が見え始めている

山口:楽しみですね。次は舛田さん、このあたりどう見てらっしゃるでしょうか?

舛田淳氏(以下、舛田):ビットバレーを語る会みたいな感じになってるので、語るとすると、みなさん学生でいらっしゃるというお話を先ほど聞きました。まさに私も同じでして、ビットバレーでワーッとなってる時に私は学生でした。その時はちょうどIT革命とか言われてる時代で、就職難も重なってたんですね。

私は大学に行くのが少し遅れました。ちょっと寄り道が過ぎまして、高校とかに行ってないので、大学に遅く入ったんです。そんなに年齢は変わらないんですけど、私はビットバレーを見てた側なんですね。見ていた時に思ったのは、「なんだこれは?」と。すごい熱量で、まさにお祭りのようにワーーーッといろんなものがありました。虚実混ぜこぜで、まあ悪い人もいましたね。

悪い人もたくさんいたんですが、そのカオス感がなにかが変わっていきそうだな、時代が変わってきそうだな、というのをすごく感じていました。それで言うと、メルカリの山田進太郎さんが大学が1個上で、そういったみなさんといろいろお話をしたりして、ある種憧れていたというところだと思います。

憧れで言うと、先ほど今のIT業界という話があって、あの時に描いていたインターネットでできること、ITでできることというのが、実際問題ようやく今できてる、できようとしている。何を言ってるかというと、あの時にすごくいっぱい流れてるんですよね。インターネット、ITで何ができるかというのは、この10年、20年で各社がやってきたことがほぼそのままです。

何か新しいことをやろうと考えついたわけじゃなくて、テクノロジーの進化とか社会構造の転換によって、それがようやく実現できるようになってくる。もう1個、まさに今、実はこの数年、個人的な感覚も含めて、インターネットが狭くなってきたなと感じています。というか「広がりが、ある種閉じてきたな」と思うところもあってですね。それは例えばプレイヤーが固定化され始めているというのもあると思います。

例えばGoogleさんやFacebookさん、Microsoftさん、Appleさん、中国でいうと、BATとかとか含めここにいる3社もそうです。実はプレイヤーというのが少し固定化されてきていて、ユーザーを持っている面積というのもある種固定化され始めています。その中で、今までずっとワクワクし続けてた、IT、インターネットの世界の際が見え始めたというのをちょっと考えてみたんですね。

じゃあ、私たちが次にどこに行くかというのがまさに今で、2つあるかなと思ってるんですよね。1つは、私たちがリアルのほうに染み出していって、今まではネットとリアルが別々で存在していたのをどう統合するかというのが、OMOという話だと思います。中国とかだともう走ってます。この日本においても、私たちもそれをリードしようとしていて、始まりつつある。

もう1つは、VRとかARとか、xRですね。土地がないなら、バーチャルのほうに増やしちゃえみたいなことだと思います。その二方向が、ちょうど起こってきています。ある種、スマートフォンバブルというかブームが終わり、みんなが模索している中で、ようやく次のパラダイムみたいなものが広がってきてると。こういうものがあるとまたカオスが生まれます。カオスというのは、ある種言葉を選ばずに言うと、ワンチャンあるんです。

(会場笑)

積み重ねじゃなく。ここはある種、合理性と非合理な世界が両方が混ぜこぜになるタイミングです。何十年頑張ってたから、1番チャンスを取れるということではなくて、誰が勇気をもって踏み出すか、みたいな話になってくるので、非常に今からが面白いなと思います。

AppleやMicrosoftが描いた想像の世界が現実となりつつある

山口:既存のシステムの中で発見をというか、プレゼンスを持ってるみなさんたちのようなところからすると、ある意味ではリスクでもあるんだけれども、そこが固定化してしまうのはネットのおもしろさじゃないということですよね。それこそ、僕らが90年代になって始めた時に、ダイヤルアップ(接続)ってみなさんわかりますかね。わざわざ(公衆回線網に)繋いで、電話をかけるんですよね。ピーピーガーガーと鳴って。

あと、舛田さんの話で思い出したのは、Microsoftの「.NET構想」というのが昔あって、インターネットが出てきたら世界がこう変わるという、各種グローバルのIT企業の一種の啓蒙のショートムービーをたくさん作ったんですね。当時Appleも作りました。

たしかに今から思い出してみると、今まさにやっとあの内容で描かれていたものの半分ぐらいが、リアルの世界で実現してきています。けれども、例えば自動運転なんかあの中にも出てきてましたし、まだまだここから先、いろいろなプレイヤーの顔ぶれが変わるチャンスもあるし、そういう意味で言うと若い人たちが入ってきても、大きなプレゼンスを発揮するような、新しい会社を作るオポチュニティもあるんじゃないかと。

まさにここにいるみなさん自身が、ものすごく若い時期にこの業界に飛び込んだからこそ、今こういう形で非常に大きなイニシアティブというか、業界の中でもリーダーシップを取れる立場になっているということでもありますよね。ありがとうございます。

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