肌触りが良く、長時間浴びても疲れない「風」のデザイン

木村和貴氏(以下、木村):続いて、「触覚」の話に移りたいと思います。触覚は幅が広くて、自分がふだん手にしているマウスやキーボード、あとは体で感じるものですね。椅子、デスク、それに姿勢などのすべてが入ってきます。ここは宇佐美さんからいきましょうか。

宇佐美夕佳氏(以下、宇佐美):自分が触れるものって、好きなものに囲まれたいじゃないですか。例えばタオルケットとかバスタオル、寝具とかもそうですよね。私どもの製品の「風」でこだわったのは質なんですね。風の質って、目に見えないじゃないですか?

でもそれにこだわり続けて、ずっと開発を続けてきたんです。当然、滑らかで痛くない風、最強の風を送っても肌に痛くない、疲れない風をつくりたかった。どう感じているのかを3次元でマッピングデータをとって、最適なかたち筐体美、機能美を追及してきました。

こういった風を浴びるのって、ワンタイムじゃないわけですよ。毎日積み重ねになるので、不快ではない風の肌触りというのがどういうものなのかは、時間軸として長時間で構えて、風の質を確認しました。

お風呂上りに浴びて「あぁ、気持ちいい」と思える風と、長期的に浴びて気持ちいいと感じる肌触りの風はぜんぜん違うということに、一番はじめに気がついたわけですよね。デロンギの空気清浄機能付きファンは風を背面から出しているんですけど、最大限享受できるかたちまで進化していったという経緯がありました。

みなさんが今ずっと触っていらっしゃるキーボードもそうです。使う時間がずっと長くなればなるほど、感覚として記憶に残っていくじゃないですか。私たちデロンギとしては、それを“風の感覚”としてみなさんに伝えたい。それが今回ご紹介している製品なんです。

誰かが本気で研究したものだから安心して使える

宇佐美:話がどんどんずれていってしまうんですが、今はブランドとかイメージとかで買われる時代ではないなと、正直思っています。

我々はものを届けるときに、どんな熱量でこの製品を開発していったのか、どういう思いでつくったのか。使う人にとってどんな経験ができるのかなどにフォーカスして、開発しています。ビジネスパーソンとして、仕事の効率化とか、いかに自分の生産性を上げていくかとかの感度が高い方々であれば、ただつくられた製品なのか、そうではないのかが伝わるんじゃないのかなと思っているんですよ。

開発の思いや背景にまで踏み込めるのか。そして、みなさんがその製品を手にしたときに、熱量とともに自分の人生のちょっとした記憶に残っていくか。そこまで考えていきたいと思っています。すいません、ちょっとずれちゃいました。

木村:僕は消費者側の人間なんですけど、例えば井上さんがひたすらこだわって考え抜いてつくった集中スペースや、宇佐美さんが研究し尽くして完成した風など、誰かが本気で研究してやってくれたものには、選ぶ側にも安心感がある。そういう人たちが研究してつくったものなら、きっといいのだろうと。

僕としては、そこについて全て自分で研究して考えると時間がたりないので、専門的なところは熱量のあるみなさんの力に頼っていくといいのかなと聞いて感じましたね。

空調の温度は26度を中心に揺らいでいる状態がベスト

三木明氏(以下、三木):宇佐美さんがお話しされていたポイントと近いかもしれないけど、長期的視点で見たときに、体にインパクトが発生して、長期的視点における生産性を落とすポイントをどう削ぐか、どう予防するかという観点だと思ってやっています。

究極、何も触れなければ最強という感覚にもなるので、立って仕事をすればいいというスタンスでやっていたりしますね。立っていると悪いなら運動すればいいとか、そういうスタンスですね。極論を話すとキーボードの軸の話までしてしまうので。

(一同笑)

好きな人にはめっちゃそそる話なんですけど、ここまでいくと指にどれだけストレスを与えない状態で仕事をするかとか、マウスを使わないようにするにはどうするかとか。僕はセパレートキーボードを使って腱鞘炎になったことはないです。触覚という観点で、長期的にみてそういうことがないようにつくっていたりしていますね。

木村:エンジニアの三木さんがひたすらキーボードを叩いてきたなかで、最適化していった辿りついた結果ですね。井上さんは触覚について何かございますか?

井上 一鷹氏(以下、井上):人から聞いた話なんですが、触覚についてさっきの空調に近い話でいうと、温度は26度を中心点に揺らいでる状態が一番集中できるらしいんですよ。これはイトーキさんが試したようなんですが、おもしろい結果ですよね。無風がいいという三木さんの話とは、ちょっと違う可能性があります。伸びしろはあるんですけどね。

揺らいでいるほうがいいらしいんですよ。温度もちょっとだけ変わってたり、無風よりは何かを感じさせたり、揺らぎがあったほうが、リラックスしたり副交感神経・交感神経が行き来できるんでしょうね。その感覚があるので、揺らがせないといけないんだなと思いました。(ファンを指して)これ、「Think Lab」に置いてくれませんか?

(一同笑)

「揺らぎ」がもたらす効能

宇佐美:その揺らぎの話からちょっと脱線してしまうんですけど、高層マンションで育ったお子さんはそんなに頭が良くならないという脳科学の話がありましたよね。これは気圧の話だけではなくて、外気で揺らいでるものに接する機会が少なければ少ないほど、脳の分野が発達しないことがわかっているんですね。これには「なんと!」と思いまして。

木村:揺らぎはもう一つのキーワードになりそうですね。

井上:触覚でいうと、揺らぎとか反復運動ですね。口の中は肌よりも触覚器官やセンサーが多いはずなんですよね。ガムを噛むのは、歯に反復運動があるとリラックスしやすいから。野球とかやったりする人もガムを噛んでいる人が多いですよね。そういう反復運動するのは、一つあるのかなと思っています。

三木:刺激が必要ということですか?

井上:そういうものがあったほうがいいんでしょうね。

これはマジでなんのエビデンスもない、ノーエビデンスなんですけど、でも確信を持って言いたいことがあって。本気を出したいときは裸足になると決めているんです。

本気のプレゼンになると裸足になると決めていて。一青窈と俺しか見たことないですけどね。

(会場笑)

足の裏には触覚器が多いのかな? やりません? 本気のときは絶対裸足なんですよ。

三木:わかります。

井上:今本気を出していないわけではないけど(笑)。たぶんふだんと違う刺激を与えることに意味があるんでしょうね。

木村:安定している状態よりも、ほどよい揺らぎや刺激があるのがいいのかなと思います。

血糖値を急激に上げるエナジードリンクの負の効用

木村:次のキーワードにいきます。ガムの話のときにいけるかなと思ったんですけど、味覚についてはどうですか? ビジネスパフォーマンス×味覚で、三木さんからいきますか。

三木:パフォーマンスを上げようと思ったら、味覚を捨てるしかないですよ。体に必要な栄養素を送り込んで、血糖値を一定分充足させると食欲はなくなります。これはマジでできる。でも、うまいもん食いたくなるんだけど。それを超えて栄養素を摂取すると、意外と集中力が落ちないし、パフォーマンスを長時間維持できると思います。

……なんか僕、やばいやつみたいになってますけどね。

井上:JINS MEMEで測ってみて僕が一番ショックだったのは、お昼ごはんに丼ものやラーメンを食うと、14時~16時の集中力がはっきりと落ちたことです。今日覚えて帰っていただきたいのは、血糖値は上がっている状態はいいんですけど、高い状態でも下がりはじめると脳はエコモードに入ります。

誰かが怒るかもしれないんですけど、一般的なエナジードリンクには恐ろしいことがあって。30分だけピタッとまばたきが減ります。信じられないほど、まばたきを減らせます。45分ぐらいから、またまばたきが増えていきます。血糖値は上げている状態はいいんですけど、下がりはじめてはいけない。飲んだら、一日中飲み続けないといけないんですよ。

(一同笑)

人類は狩猟民族だったので、食うか食われるかの時代が長かった。次にごはんを食べられるがいつかわからないから、ちょっとでも血糖値が落ち始めると、死ぬことが絶対にない脳からエコモードに入るんですね。

血糖値は徐々に上げないといけないんですよ。今日のために本気を出したいんだったら、昼飯は食べちゃいけないんです。食べるんだったら蕎麦とか低GIの食品。さっき三木さんがおっしゃっていた話のようなことをしないとダメなんですね。

三木:難消化性デキストリンを体にぶち込んだあとに食べればいいですよね(笑)。

井上:それで僕は朝と昼を抜いているんですよ、基本。抜いていたら、JINS MEMEのアイデアをくれた東北大学の川島先生に怒られて。長期的にはやっぱりヘルシーじゃないらしい。三食きちんと食べる必要はないけど、朝は食えと言っていました。

価値観を広げるための「味覚」の活用

木村:一日のパフォーマンスでみると、そういう摂取の仕方になる。でもそれを続けていって、将来病気になったり入院したりしたらしょうがない。これも短期、中期、長期の話になってきますよね。

宇佐美:仕事上、味覚の話はぜんぜんないんです。とはいえ、私が気をつけていることは、さっき三木さんや井上さんが言っていたこととはぜんぜん違うんです。「今日食べたものは、明日の自分になる」と、とにかく言い聞かせているんですね。お腹が減ってないときは食べないです。

お腹が減っているという感覚になったときに、本当はグルグルお腹がなっているという説もありますが、しっかりとオーガニックのものをたっぷり摂っていくということは当然のようにやっているんですね。

体調を崩してしまって仕事ができなくなるほどダメージがあったら、そっちのほうが効率が下がるわけじゃないですか。絶えずベストコンディションでいられる食事を摂っていくのが大事だなと思っています。

もう一つみなさんにお勧めしたいことがあります。ビジネスの効率化であったり、仕事改革、働き方改革と言われているんですが、自分だけの力でできないときは当然あるなと思います。

じゃあ会社に頼るのかといったらそうではなくて、自分が好きなごはんをぶら下げて、ネットワーキングじゃないですがいろんな人に会えるチャンスが絶対あるんですね。アウトソーシングではなく、自分が人脈を外に求めていくのは、味覚が跳ねる唯一のことかなと思っていたんですよ。

五感のところで、自分が「絶対これおいしいんだよ」と共感できる人とは絶対繋がれるので、自分が悩んでいることがあったときに効率化するためのエッセンスをもらっていく。

そして自分が培ったことに対して、後輩とか自分の違うネットワークキングで会った人たちに与えていくという動きをしていくと、サイクルができてくるので。私は五感のなかで、自分の価値観を広げていくうえでは味覚は本当に強いなと思います。

木村:今の見方はおもしろいなと思っていて。聴覚のときは人をシャットアウトしようという話になり、味覚のときはネットワークを広げるツールとして活用できる。たしかにそうだなと思いますね。僕もよく人を誘ってごはんに行くタイプです。今日も誰か、ごはんに行ける人は行きましょう。

嗅覚への刺激は「入り口」に向いている

井上:残り5分と書いてありましたけど、勝手に喋っていいですか? 実は最近仕入れた ことがあって。脳神経科学の青砥瑞人が言ってたんですけど、リラックスするためには唾液を出すといいらしいんですよ。

リラックスすると唾液って出るんですよ。ものすごい落ち着く人といると唾液の分泌が増えるらしくて、分泌量を上げるとリラックスするらしいんです。笑う門には福来る、福来てるから笑ってるのか、どっちかわかんないみたいな。酸っぱいものを食べたほうがリラックスしてアイデアが出るんじゃないかという説を、勝手に検証しようと思っています。

木村:おもしろいですね。検証シリーズを全部見てみたいです。では追いやられた嗅覚の話をしましょう。時間も限られてきたので、さっといければと思います。このThink Labさんに入ったときに独特な香りがして、勝手に集中モードになってきているなと感じました。

井上:嗅覚でほぼ結論に近いことを言うと、「入り口には効果がある」ということです。持続効果はあまりないと思っているんですよ。臭いって慣れが早くて、5分後にはわからなくなるんですね。そのためにどういう効果があるかというと、やはり入り口なんですよ。

昔から集中を極めていたお坊さんは、塗香といって手首に匂いを塗ってからその匂いを嗅いで瞑想に入っていたそうです。思考パターンを変えるとか、違うことに思考のスイッチを入れたいときに使ったほうがいい。

ペパーミントがなんだとかいうんですけど、いろんな効果が語られています。これは感覚ですが、においって好き嫌いが激しいんですね。自分が好きなにおいのするものを持っておくのが一番いいと思っています。

玄関の気流を変えることで、オンオフの切り分けにメリハリを

木村:では補足することがあれば、お二人からお願いします。

宇佐美:みなさん、自分のお家に匂いはないと思っていらっしゃると思いますが、除湿機やサーキュレーターなどを入れてしまえば、家に入ったときのにおいが違うと気がつきます。ぜひ今日からやってみてください。

そうすると何がいいのかと言いますと、風水じゃないですけど、玄関がすごくいい気流になっていると爽やかになるんですね。帰宅後のオンオフがしっかり切り替えることができるので、お家でのストレスを一つ減らせるエッセンスかなと思いましたので、紹介しました。

木村:においはいいかがですか? 気にされていますか?

三木:においは気にしていますよ。僕も思うところがあって、エンプロイーエクスペリエンスとにおいにはかなり相関があると感じています。それが何かというと、「僕の好きなときにカレーを食べたい問題」ですね。

(会場笑)

好きなときにカレーを食いたいんです。でも自分の隣で他人がカレーを食べているのはかなり不快なんですよ。集中しているのに、めっちゃくさいという状況を解決するのが、集中するのためとは別の文脈で永遠の課題だなと思います。

木村:においのハラスメントも最近登場してきましたよね。煙草のにおいとか、いろいろあります。うまく住み分けて、集中したいときは集中スペースでやるということなんですかね。