情報収集・交通機関・宿泊・食事のすべてのバリアフリーが必要

星加良司氏(以下、星加):それではここから、残り20分弱になりますけれどもディスカッションを進めていきたいと思います。まず私から、各パネリストにご質問を用意しております。

1つ目のご質問です。冒頭で私が申し上げましたアクセシブル・ツーリズムですが、それは誰もが楽しめなければいけない、快適で安心して旅ができなければいけない、それが通常の枠組みの中で保証されていることが重要だという観点からアクセシブル・ツーリズムを捉えたときに、現在の東京という街、あるいは東京の街で展開されているさまざまな事業は、そこそこいい線までいっているのかどうかについてです。 

あるいは、まだ足りないところ、課題があるとすれば、それはどこなのかについて、とくに強調したい点ですね。ここが非常に重要だと思われる点を、それぞれのパネリストの視点からご紹介いただければと思います。

それではまず、先ほどと逆の順番で、東京都の福田さんからお願いできますでしょうか。

福田厳氏(以下、福田):よろしくお願いいたします。私からは、旅行・観光でアクセシブルといった場合に、どのような観点が考えられるかということにまず触れまして、課題について述べさせていただきたいと思います。

旅行・観光でアクセシブルといった場合に、まず考えられるのは交通機関を使っての移動です。さらに移動したあと、文化施設などの観光施設や景勝地に行かれます。そこでの快適さや、宿泊施設・飲食店における快適さ、あとは観光情報の収集というようなかたちで、観光行動の一連のものが、アクセシビリティに配慮したものでなければ、なかなかアクセシブル・ツーリズムの実現は難しいのではないかと考えております。

例えば宿泊施設に関しましては、宿泊施設のバリアフリー化だけ(を考えればよいの)ではありません。駅から宿泊施設までたどり着かなければ、その宿泊施設の中の客室がいくらバリアフリー化されていても、それは使えないお部屋になってしまうということです。

こうした観光行動の一連の流れで、どこまでアクセシビリティが確保されているか。これが非常に重要ではないかと考えております。

東京都ではバリアフリーがどのくらい進んでいるか

福田:現状がどうなっているかといいますと、観光というわけではありませんけれども、東京都が実施しました世論調査によると、現在の東京の街における建物や道路、駅、電車などの設備でバリアフリー化の状況が進んでいるのか進んでいないのかについて聞いたことがございます。

これはそれぞれ、進んでいるという方が48パーセント、進んでいないという方が48パーセントとなっております。

また、日常よく出かけるところにたどり着くまで、道路や駅、電車やバスなどでバリアフリー化が進んでいないために不便や不安を感じる人がいるかどうかですが、44パーセントの方が不便や不安を感じると答えております。

ソフト面について、高齢者の方や障害者、乳幼児の方を見かけた場合に手助けした方は65パーセントということでした。一方で、30パーセントの方は何もできなかったというような結果もございます。

課題につきましては、ハード・ソフト両面でこうした対応を進めていく必要があると考えているところでございます。東京都では、鉄道駅のホームドア、エレベーターの設置、それから駅のバリアフリールートの充実、道路の面的なバリアフリーなど、ハード面を着実に進めているところでございます。

さらには、若干ご紹介いたしましたけれども、民間事業者の方々の対応力の向上についても支援させていただいております。こうした取り組みを着実に進めることによって、少しでもアクセシブルな観光ということで、快適で観光しやすい東京を実現していきたいと考えているところでございます。

星加:ありがとうございます。アクセシブル・ツーリズムは、点として実現するということではなく、それが線としてつながり、あるいは面として広がるということが重要だという点を強調していただいたかと思います。

続いて、帝国ホテルの西村さんからはいかがでしょうか。

最も重要なことはお客様のニーズを正しく把握すること

西村恵美子氏(以下、西村):やはり、ハード、ソフト、ヒューマンウェアのそれぞれにギャップが生じていると感じます。

ホテル館内だけではなく、例えば、ホテルまでの公共設備(信号機、段差など)を整備することも大切なことだと感じます。ただし、ハード面の整備にはスペースの問題や、時間・経費もかかりますので、ハードルは高いとも感じております。

一方のソフト面は、サービスする側の心の持ちようで充実を図ることができますので、積極的に改善すべきです。当社も、さらにヒューマンウェアの強化が課題です。

そのためには、お客様のニーズを正しく把握することが最も重要だと考えます。例えば、当社では、ご高齢のお客様にはゆっくり丁寧に話をすることを基本としていますが、お客様が求めていない過剰な態度や言葉遣いに対し「年寄り扱いされた」と不快に感じる方もいらっしゃいます。

また、お客様の声が聞き取れずに、何度も聞き返してしまうのは失礼であろうと考えて、すぐさま筆談などを要求してしまいますと、耳の不自由な方の中にはショックだと感じる方もいらっしゃいます。

困っているに違いないと、こちら側が勝手に決めつけるのではなく、お客様が何を求めていらっしゃるのか、常に「お客様が基準」であることを念頭に、そのニーズをしっかりと把握したうえでハード、ソフト、ヒューマンウェアを整備していくことが重要だと考えています。

星加:ありがとうございます。相手を「塊」として見るのではなく、文字どおりの意味で、個別性、多様性、人それぞれ違うという当たり前の事実ですけれども、それを重視して意識を向けていくことがこれから重要なのではないかというご指摘だったかと思います。ありがとうございます。

続いて、関さんはいかがでしょうか。

旅行だけでなく、仕事や生活をしやすい街に変えていく

関裕之氏(以下、関):御二方からご説明がありまして、ほぼ私も同内容の話だったので、ポイントだけまとめさせていただきます。東京都様の福田さんからお話がありましたように、アクセシブル・ツーリズムというのは旅の一連の中で提供していくことが必要になります。よって、移動や観光、食事、宿泊などさまざまなサービスが連携していくことが重要だと思っています。

そういう意味では、地域も含めてですけれども、面で対応していくことが必要になりますので、一部の事業者だけががんばっても達成しづらいのかなと感じています。

もう1つは、帝国ホテル様から説明がありましたが、アクセシブル・ツーリズムは移動やコミュニケーションのバリアを解消していくということを目指しているとありました。

設備などのハード面だけでなく、情報やサービス、また先ほど東京都様からガイドラインの整備や情報の一元化なども考えていらっしゃるというお話がありましたが、そういったソフト面や、ハートのバリアフリーが必要になると思います。

2014年から東京都様のアクセシブル・ツーリズムの推進事業に関わらせていただいて、取り組みは着実に進んでいると感じてはいます。ただ、東京は大都市でのアクセシブル・ツーリズムを真に実現するにはもう少し時間がかかるのかなとも思っています。

もう1点、国が障害者差別解消法やユニバーサルデザイン2020行動計画を発表して、誰もが暮らしやすい共生社会の実現を目指しています。

まさにアクセシブル・ツーリズムの取り組みというのは、東京を訪れる観光客だけではなく、そこで生活される都民の方、そして働く人にとっても優しい街につながると感じています。共生社会を目指すうえでも、アクセシブル・ツーリズムの取り組みは重要だと感じております。以上です。

星加:ありがとうございます。ツーリズムの対象としての東京ということを考える上では、単に旅行という局面だけではなく、いかにして、街全体を共生が実現できる街に変えていくのかという視点が重要だとのことで、非常に大切なお話だったかと思います。ありがとうございます。

最後に、上原さんいかがでしょうか。

課題の本質を知ることが本当の解決になる

上原大祐氏(以下、上原):そもそも、本質って何? というところだと思っています。例えば、東京都さんのアクセシブル・ツーリズムについて、実は先ほどの資料の中にバリアフリー観光というものが入っていました。これは、アクセシブル・ツーリズムと同じものなのか、同じものじゃないのか、若干よくわからないなといったところがあります。ただ、例えば、言葉を変えたらいいとか、そういうことでもないと思っています。

また、西村さんが「ハードの面では時間と経費がかかる」というお話をされていましたけれども、ちゃんとしたものを作らないから、また(それを)変えなくてはいけなくて、また変えなくてはいけないから経費がかかるだけであって、それは「とりあえずやっている」ということだと思っています。

要は、ポーズです。スロープを付ければそれでオッケー。ちょっと広いトイレを作ればそれでオッケー。これは、まったく違うと思っています。もう1回、みなさんが「何が課題なんだろう?」ということを知ることから始めなくてはいけないと思います。

何が課題なのかといったところでいうと、例えばお手洗いもそうです。「バリアフリーの身障者用お手洗い作りました!」といわれて行ってみると、だいたいがベビーシートなんです。きっとベビーシートでいいと思われている人がたくさんなんですね。

障害を持っていて、小学校4年生になってもオムツを付けなくてはいけない人が、ベビーシートの上でオムツ替えできますか、という話なんですよね。それが、できないんですよ。だからみんな、床にシートを引いてそれでオムツ替えしてるんです。ものすごく不衛生です。それなら、ベッドを付ければ、赤ちゃんも高齢者の方も、ちょっと年配で障害を持った人たちも誰でも使えます。

ピンポイントで何かをするのではなくて、本当に誰もが使えるもので、ちゃんと全体を考えて、本質が何かということを考えて、課題が何かをきちんと知ることで、みなさんができることというのがあらためてわかると思っています。