誰もが旅を楽しめることが「アクセシブル・ツーリズム」

星加良司氏(以下、星加):私がファシリテーターという役割を仰せつかっておりますので、これから進行をさせていただきたいと思います。星加と申します、よろしくお願いいたします。

まず初めに、今日のパネルディスカッションの趣旨と狙いについてお話をさせていただきたいと思います。

「2020年の先を考える」というのがこのパネルディスカッションの狙いになっています。「先を考える前に2020年の大会をなんとか成功させることのほうが先決ではないか」と思われる方もおられるかもしれませんが、まず前提として、あと1年ちょっとの期間で私たちが目指すべきアクセシブル・ツーリズムのあり方を実現するというのは、決定的に時間が足りないだろうと思っています。

その足りない時間の中で何ができるのかを考えることは当然大事ですが、2020年はあくまでも通過点なわけですから、その先に私たちがどういう社会を目指していくのかを、いまの時点で共有し、そこに向けた確実な第一歩をこの1年で踏み出しておくことが何より大切だと考えています。2020年はあくまでもきっかけであり、その先にアクセシブル・ツーリズムの取り組みが着実に推進されていくような機運を作っておくことが非常に重要だと思っています。

では、そもそもアクセシブル・ツーリズムとは何かということなんですが、今日のシンポジウムの資料に説明が書かれています。その中では「誰もが旅を楽しめることを目指す」とあります。それから、東京観光財団という公益財団法人が出している文章の中では「安心感を持って快適に都内観光を行うことが重要」なんだというフレーズも出てまいります。

また、国連の組織で、World Tourism Organizationという機関がありまして、そこでアクセシブル・ツーリズムについて謳われている文章の中では、「ensuring」つまり「保証する」ということが書かれています。障害者が旅先のあらゆる場所にアクセスできることを保証する、確実に実現できるような体制を確保することが重要だと言われているわけです。

さらには、「a general, basic mainstreaming framework」という言葉が出てきます。「一般的で基本的な通常の枠組み」の中で、そうした障害者のアクセスが保証されることが必要だということです。特殊な旅行サービスの中でアクセスできればいいということではなく、一般的で通常の枠組みが大事なんだということが書かれています。

障害を持った子どもたちをサポートする「グリーン・ツーリズム」

星加:これらを総合してみると、単に「なんとか旅ができればよい」ということではなく、楽しめる旅である、安心できる旅である、快適な旅であることが保障されていて、しかもそれが通常の枠組みの中で、ということがアクセシブル・ツーリズムを考える上での重要な視点として示されているんだろうと思います。

本日は、このアクセシブル・ツーリズムについての基本的な考え方を踏まえた上で、東京都さん、各事業者さん、障害を持った当事者でもあり、NPOの活動もされているパラリンピアンの方にお話をうかがいながら、2020年から先、私たちはどういう東京を作っていくことを目指して取り組んでいけばいいのかについて、考えていきたいと思います。

さっそくパネリストのみなさまに、自己紹介がてら、それぞれの方がいま、それぞれの主体の中で進めておられる取り組みについて、簡単にご紹介いただきたいと思います。それではまず、上原さんからお願いできますでしょうか。

上原大祐氏(以下、上原):あらためまして、パラアイスホッケーという競技をやっていて、3大会パラリンピックに出場して、いまは引退してNPO法人「D-SHiPS32(ディーシップスミニ)」と、一般社団法人「障害攻略課」というところに携わっています。上原と申します、本日はよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

ありがとうございます。できるだけ、いい発言をしたら拍手はいっぱいくださいね! よろしくお願いします。

私は、NPOの中で、障害を持った子どもたちをサポートするための1つとして、「グリーン・ツーリズム」をやっています。車いすは土が最強の敵です。なので「畑に入れないよね、海には行けないよね」というみなさんの固定観念で、いまの子どもたちが素敵な機会を損失しているのであれば、その経験を届けて、子どもたちに「できた!」を届けていきたいなと考えております。

「車いすでは行けない場所」を変えていく

上原:その1つが、長野県東御市にある畑です。ここはすごくシンプルで、野菜と野菜の間のスペースをとって、ゴムシートを敷いてあげれば、車いすが入れる。以上です。みなさんが「何か変えたいな」と思った時に、「車いすの人か」と思った時に、「目が見えない方か」と思った時に、眉間にしわを寄せて真剣に考えすぎることで解決できないことがあります。そうではなく、「シンプルに」がすべてです。

もう1つ。車いすの男の子と女の子を、一昨年、親御さんなしで初めての海外に連れて行くというツアーをしました。バンクーバーです。この2人が街に着いてすぐに言った言葉が、「声をかけてくれる人がたくさんいて、すごく優しい街だな、すごく優しい国だな」です。これが子どもの素直な気持ちです。

日本もそういった子どもたちが「あ、優しい東京だな、優しい〇〇だな」と感じるために必要なのは、ハードの面ではなく、みなさん一人ひとりの意識の問題です。その意識とハードを足して100パーセントのバリアフリー、100パーセントの動きやすい街作りを(実現)していくことが大切だなと思います。

もう1つですが、奄美大島にバリアフリーのマリンスポーツリゾートがあります。「ゼログラヴィティ」といいますが、先ほども申し上げたとおり、車いすは土が最強の敵です。「砂浜だめだよね」「船だめだよね」といったみなさんの固定観念をガッツリひっくり返す、そんな施設になっています。

具体的にはですね、またみなさん各自で調べていただければなと(笑)。今日はちょっと時間がないので、こんな活動をしています(ということで、簡単な紹介になります)。

日本のユニバーサルデザインは健常者の「ファンタジー」

上原:もう1つが、「障害攻略課」。さきほどもお話ししたように、眉間にしわ寄せて障害を真面目に考えすぎるのではなく、ゲーム感覚で攻略していこうというのが、この障害攻略課という一般社団法人です。

何をしているかというと、モノとヒトとコトと街の攻略をしましょう、ということです。また、観光のこともしているので1つだけご紹介したいと思います。「バリアフリー滝行」といって、車いすの人でも滝行ができるところを作ろうということで、石川県の中能登町で始めました。

(映像再生)

普段の私の汚い心が綺麗になっていく、そんな映像でございます。ということで、NPO、そして一般社団法人で、「シンプルに」そして「当事者をしっかりと入れた」デザインをしています。

今の日本のユニバーサルデザインは、ファンタジーデザインです。何かというと、健常者のみなさんが「こんなふうだったらいいよね」ということで作られた基準等々が多いです。ぜひ、プロ意識を持った当事者をしっかりと入れた、インクルーシブデザインをやっていくことが、いまの日本に最も大切なことだなと思っています。

また後ほどお話ししたいと思います。上原大祐でした。ありがとうございます。

(会場拍手)

星加:上原さん、ありがとうございました。私のような大学教員は眉間にしわ寄せて考えがちなんですが、そうではないアプローチですね。ハードと人と、両面にわたって働きかけていく取り組みについて、精力的に行っておられるということをご紹介いただきました。

それでは引き続いて、JTBの関さんから、よろしくお願いいたします。

イギリスでは重度の障害があっても外出や旅行が楽しめる

関裕之氏(以下、関):みなさまこんにちは。ご紹介いただきました、JTBの関と申します。どうぞよろしくお願いいたします。最初に簡単な自己紹介をさせていただきたいと思います。

私は、大学時代に1年間休学をしまして、イギリスの重度の障害者施設で、住み込みで介護ボランティアを経験しました。その施設には、障害をお持ちのイギリス人がたくさんいらしたんですけれども、みなさま重度の障害があるにもかかわらず、外出や旅を楽しんで、日常生活の中で生き生きと生活されていたんですね。

そんな中で大きなカルチャーショックを受けました。そして日本に帰国しまして、日本の障害のある方の旅のお手伝いができればと思い、1991年にJTBに入社しました。その後約20年間ですが、現場でさまざまな障害のあるお客様のご旅行の企画や販売、添乗に携わらせていただきました。

そして2012年から、JTBの本社でユニバーサルツーリズム推進を担当しております。「ユニバーサルツーリズム」という言葉は、東京都様が進められている「アクセシブル・ツーリズム」と同義語になりますので、ご理解いただければと思います。

それでは、スライドを使ってご案内します。JTBは2012年に100周年を迎えました。そして、その年に新しいプロジェクトとしてスタートしたのが、JTBグループのユニバーサルツーリズムの取り組みになります。

基本理念は、「Tourism for All」の実現に向けて、「感動のそばに、いつも」というブランドスローガンを実現するために、年齢や性別、国籍、障害の有無にかかわらず、お客様に安心してご利用いただける旅行会社を目指して、グループ全体で取り組みを推進しています。

ユニバーサルツーリズムに積極的に取り組むJTBグループ

:(スライドの)右側には、小さく「beyond2020」のロゴマークがあります。2年前に、旅行業界で初めてJTBグループのユニバーサルツーリズムの取り組みが、多様性・国際性に配慮した文化事業として政府に認定されまして、その認証マークになります。

簡単に社内での取り組みのご紹介をさせていただきたいと思います。社内の取り組みなんですけれども、まず1つ目が、JTBグループのユニバーサルツーリズムのガイドブックを社員向けに作成し、全社員に配布しています。ユニバーサルツーリズムのポイントや、さまざまな障害のある方の特性や基本的な配慮について、理解の促進を図っています。

2つ目ですが、星加先生にご協力をいただきまして、全社員に障害者差別解消法の理解促進を目的としたEラーニングを実施しています。差別の禁止はもちろんですが、合理的配慮の提供に関して理解促進を図っています。

3つ目は社員研修の講師や、お客様相談室長等を対象に、星加先生にご協力いただきまして、「心のバリアフリー」の研修を実施しています。

4つ目が、お客様の障害のご状況や要望を正確に把握して社内で共有できるようにしています。具体的には販売や商品の仕入れ、企画、そして現地でご案内させていただく添乗員やガイドが、みなさまのご要望・情報を共有できるようなヒアリングのシステムを導入して、お客様へのサービス提供に活用しております。

次に、社外での取り組みです。政府が「ユニバーサルデザイン2020行動計画」というものを発表されまして、1つの柱として「心のバリアフリー」を謳っています。その普及・促進のための取組みとして、2016年から「心のバリアフリー」をテーマにしたJTB主催のシンポジウムを開催しています。

「心のバリアフリー」をテーマに、さまざまなシンポジウムを開催

:初年度は「パラスポーツを通して考える」ということで開催しました。2017年には、日本人では10人に1人の割合でいるといわれている「発達障害」をテーマに、「心のバリアフリー」を考えました。そして2018年には、オリンピック・パラリンピックに向けてさまざまな参加国、地域と交流を図っている(ホストタウンの事例をもとに)「ホストタウンから広げる」というテーマで実施しました。

これらのシンポジウムには、横浜市、川崎市、文京区、そしてオリンピック・パラリンピック等経済協議会のみなさま、そして当事者の団体など……昨年は東大の星加先生にもご協力いただいたんですが、みなさまと連携して実施させていただきました。

最後に、社外の取り組みの1つとして、今日もシンポジウムを開催いただいていますけれども、東京都のアクセシブル・ツーリズムの推進事業への協力をさせていただいております。

2016年に東京観光のバリアフリー情報ガイドブックの作成に関わらせていただき、その後も、旅行会社向けの研修の実施や、施設のバリアフリー化や接遇の向上を図ろうとする事業者様に相談員を派遣する事業などに関わらせていただいております。

そして、東京観光財団様が主催して取り組みをされている都内の観光事業者様向けの「心のバリアフリー」、あるいは「ユニバーサルツーリズム」をテーマにしたセミナーの実施等にも、協力させていただいております。以上になります、ありがとうございます。

(会場拍手)

星加:関さん、ありがとうございました。関さんからは、JTBが進めておられるさまざまな取り組みについてご紹介いただきました。

「グローバルなマーケットの中に、実はビジネスチャンスがたくさん眠っている」というお話がありましたけれども、そうしたインバウンドのニーズを取り込んで旅行業を発展させていくという観点からも、おそらく「多様性にどう対応していくか」が、ビジネス的なモチベーションとしても非常に重要な課題になっているということかなと感じます。ありがとうございます。

それでは引き続き、帝国ホテルの西村さんから、よろしくお願いいたします。

渋沢栄一氏が説く「おもてなしの原点」

西村恵美子氏(以下、西村):当社は1890年11月3日に、日本の迎賓館として誕生したホテルです。おもてなしの原点は、実は開業初期にございますので、少しご紹介させてください。

帝国ホテルは明治中期、欧米列強に対抗できるグランドホテルが必要だということで創業されました。時の外務大臣・井上馨が、大蔵省時代の部下・渋沢栄一に呼びかけ、官民一体となって政界・財界を巻き込んで開業したホテルです。

(スライドの)写真左側は初代の建物です。外観も設備も、海外のVIPが宿泊する迎賓館としての役割を意識して建てられました。開業式で初代会長の渋沢栄一は、東京府知事の祝辞に対し「用命があれば世界のどんなものでも調達して便宜を図る。これこそ帝国ホテルが自身の果たすべき役割と心得、絶対に譲らないところだ」と述べています。この言葉で示された誇りと責任感は、いまも当社の中で受け継がれています。

(スライドの)写真右は、2代目の建物です。アメリカの建築家、フランク・ロイド・ライトが設計したため、通称「ライト館」と呼ばれております。VIPの宿泊だけではなく、人が集う社交の場として、ダンスホールやシアタールームなどを完備したことで、日本人ゲストも多く集うようになりました。

先にご紹介しました渋沢栄一は、会長を退いた後も帝国ホテルを訪れた際、従業員に対してこのような言葉を残しています。「いろいろな国のお客様を送迎することは大変にご苦労なことである。しかしながら、君たちが丁寧に、よく尽くしてくれれば、世界中から集まり世界の隅々に帰って行く人達に、日本を忘れずに帰らせ、一生日本を懐かしく思い出させることのできる、国家のためにも非常に大切な仕事である。精進してやってくださいよ」と従業員を励ましてくれました。

渋沢栄一は100年以上も前に観光立国の視点、また民間外交の意義を説き、従業員一人ひとりもその意識を現代まで、しっかりと継承していると感じています。

過剰な設備は客室を病室のようにしてしまう

西村:次のスライドにあるのは、当社が大切にしている「ハード(モノ)・ソフト(しくみ)・ヒューマン(人)」の考え方です。装置産業と呼ばれるホテルにとりまして、ハードウェアは重要です。建物から設備、家具、什器、備品に至るまで、モノが大事です。

もう1つは、ヒューマンウェアです。ハード(モノ)が揃っていても、実際にそれらを動かしているのは人です。やはり人が「要(かなめ)」となります。そして、モノと人をつなぐソフトウェア(しくみ)がしっかりしていなければ、企業としては成り立ちません。この3つが機能して初めて、お客様に約束した価値を提供できると考えています。

お客様は、その価値をいつ来ても受けられることで安心感につながり、お客様の満足は信頼へとつながると考えております。

ここから、写真で弊社の取り組みの一部をご紹介します。まず客室のご紹介です。当社本館7階はすべてユニバーサルデザイン仕様としています。わかりやすいところでは、当社の主な客室に設置しているテレビ台や棚は、(スライドの)写真右側のように少し背が高いため、写真中央のように低い位置に設置しています。

また介助を必要とするお客様や、車いすをご利用のお客様が利用しやすいお部屋として、9階の一室を改装し、写真左のような電動ベッドを導入しています。バスルームはカーテンの仕切りのみとし、手すりなど補助器具もあらかじめ取り付けています。

その他の客室では、写真のとおり、お客様のご要望に合わせて、器具を設置しご利用いただくというスタイルです。

幅広く対応できるよう準備はしているのですが、お客様からは「使いにくい」「もっとこうしてほしい」と厳しいご指摘をいただくこともございます。ただ、あまり過剰に設置してしまいますと、客室が病室のようになってしまうため、非日常を求めるお客様のご要望とバランスをとるのが難しいところです。

準備しすぎるのは障害のあるお客様は「何もできない」と決めつけること

西村:次にヒューマンの取り組みです。環境や設備など、ハード面がどれだけ整っていても、やはりサービスを提供する側の心が伴っていなければ、お客様に心地よいと感じていただくことはできません。そこで、実践型の研修で体感し、気づき、知識と・スキルを習得しています。

(スライドの)写真は、高齢者、目の不自由な方、車いすをご利用の方のサポートの基本を習得するためのセミナーの様子です。私自身、10年前にこのセミナーを受講し、驚いたことが3つございました。

1つ目は、シャンプーやリンス、アルコールやソフトドリンクの缶の区別が、触っただけでできるよう突起が付いていること。テレフォンカード類は挿入方向がわかるように切り込みがあるといったことも、このセミナーを受けて初めて知りました。

2つ目は、さまざまな疑似体験を通じて、車いすでわずかな段差を乗り越えるのにも想像以上に力が必要といったことや、自動販売機で(手が)届かないボタンがある不便さ、また体に器具や重りをつけて階段を上り下りする時の不自由さや恐怖などは、想像以上のものでした。

3つ目は、「障害のある方は大変だろうと、ホテル側が先回りして準備したり行動することは、必ずしもお客様は求めていない」と講師に言われたことは衝撃でした。「何もできない」と決めつけることになっていたとは、考えもしませんでした。

障害と介護に求められるサポートとの違い

西村:実際にサポートされる側になることで、多くの気づきがあります。介護との違いを知り、あらためて過剰な接し方ではない、さりげないサポートが重要であることが理解できます。こちらは一生懸命サポートしているつもりでも、お客様は別のことを望んでいるかも知れませんので、まずは「何かお手伝いできますか?」などの声かけを積極的に行うようにしています。

そして、新入社員研修では、人形を使って、実際にAEDの使い方を学んでいます。ホテルはお客様の安心・安全をお守りすることがすべてのベースにあります。日々、多くの方にご利用いただいておりますので、滞在中に体調が急変されるお客様も中にはいらっしゃいます。とくにお客様との接点が多いベルマンは、この研修を受講し、緊急時に対応できるよう備えています。

最後に、帝国ホテルではお越しくださったすべてのお客様に「心地よい」と感じていただきたいと願っております。ただ願うだけではお客様に伝わりませんので、行動することでお客様に伝える努力をしております。

年齢も性別も国籍も関係なく、すべてのお客様にご満足いただくというのは大変難しいことではありますが、一人でも多くのお客様に「帝国ホテルを選んでよかった」と感じていただけるよう、これからも努力し続けてまいります。

星加:西村さん、どうもありがとうございました。帝国ホテルさんが進めておられる、物理的あるいは技術的な、さまざまなユニバーサルデザイン化、バリアフリー化に向けた取り組みの詳細もさることながら、その背景として、ホスピタリティーを非常に重視する創業理念といいますか、企業理念といいますか、そうしたものが重要な役割を果たしていることが感じられるご紹介だったと思います。ありがとうございます。

最後になりましたけれども、東京都の担当課長の福田さん、よろしくお願いいたします。

「世界一のおもてなし都市・東京」を目指す

福田厳氏(以下、福田):東京都観光部の福田と申します。私からは、アクセシブル・ツーリズムの推進の必要性や、推進に向けました東京都の取り組みをご紹介いたします。よろしくお願い申し上げます。

さっそくですけれども、資料をもとに進めたいと思います。まず(アクセシブル・ツーリズムの推進の)必要性でございますが、東京には(年間で)5億人を超える(日本人の)旅行者が来訪しています。そして2020年、東京オリンピック・パラリンピックに向けまして、外国人旅行者、高齢者、障害者など、非常に多くの、そして多様な旅行者が東京を訪れることになります。

こうした状況や、今後の超高齢化社会を見据えれば、アクセシブル・ツーリズムの推進が必要と認識をしております。東京都ではバリアフリー化の推進や、接遇などの対応力の向上、都民のみなさまへの(アクセシブル・ツーリズムの)普及・啓発を進めているところでございます。

こうした取り組みを進めまして、「世界一のおもてなし都市・東京」「あらゆる旅行者を歓迎する東京」といったものを実現していきたいと考えております。

次に、主な取り組みをご紹介いたします。まずバリアフリー化の推進でございます。例えば、旅行における主要な交通インフラとなる観光バスのバリアフリー化を支援しているところでございます。例えば、リフト付き観光バスでございます。

また、補助制度以外にも、施設や接遇などの改善案を助言する専門家を派遣する事業も行っております。これは、先ほど関さんにも触れていただいた事業でございます。(スライドの)写真に載っておりますのは、相談員派遣事業をご利用いただいている飲食店のカムリエさんでございます。食べ物を上手に飲み込めない方も食べやすい、「むせないケーキ」を販売しておられます。

さらに、お手元に配布していると思いますけれども、都内の観光ルート上のバリアや、バリアフリー情報などを掲載しました「東京観光バリアフリー情報ガイド」による情報発信も行っているところでございます。

東京都が注力する、宿泊施設のバリアフリー化

福田:そして、オリンピック・パラリンピックに向けまして、東京都がとくに力を入れて取り組む課題が、宿泊施設のバリアフリー化でございます。東京都では、東京独自のバリアフリーを推進するため、さまざまな施策を展開していく予定でございます。

まずは規制ということで、新築や増改築を行う宿泊施設に対しまして、車いす使用者用客室以外のすべての一般客室を対象に、客室内の段差をなしにしたり、客室の出入口の幅などに最低限の基準を設けるといった条例の改正を予定しているところでございます。

また車いすの方以外にも、視覚や聴覚などの障害がある方に対応できる客室を整備するため、客室のバリアフリー水準をレベルアップさせるような配慮も、マニュアルに規定して推進していきたいと考えているところでございます。

さらにバリアフリー化の補助金も、支援制度を拡充して実施していきたいと考えているところでございます。客室のバリアフリー情報の不足や、民間事業者の従業員の方の対応力の向上、また本日のシンポジウムなどの機運醸成の取り組みも、引き続きやっていきたいと考えているところでございます。

次に、この宿泊施設のバリアフリー化に関する支援策をご紹介いたします。こちらもチラシを配布しているかと思うのですけれども、補助制度につきまして、来年度は補助率・補助限度額をアップさせていただき、バリアフリー化を加速させて行きたいと考えております。

また、宿泊施設や建築設計事務所などのみなさまを対象にしたセミナー、補助制度の説明会、さらにはアドバイザーの派遣なども実施する予定でございます。ご紹介したもの以外にも、さまざまな事業を行っておりますので、みなさまのご利用をお待ちしております。

最後に、こうした宿泊施設のバリアフリー化に向けた取り組みを広く知っていただくために、「OPEN STAY TOKYO 全ての人に快適な宿泊を」と銘打ちまして、取り組みをPRしております。

東京都だけでなく、民間事業者のみなさんや都民のみなさんと共に、バリアフリー化やアクセシブル・ツーリズムの推進の機運を醸成していきたいと思っております。みなさまのご理解・ご協力をよろしくお願い申し上げます。以上でございます。

(会場拍手)

星加:福田さん、ありがとうございました。福田さんからは、東京都として、行政にしかできない取り組みとして、補助制度を通じたバリアフリー化の推進や、建築等に関する基準を定めることによって、最低限のラインをきちんと整備するという取り組みを推進しておられることなどをいただきました。