2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
パネルディスカッション(全1記事)
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矢澤麻里子氏(以下、矢澤):パネルの内容は、私自身もどういうことを聞いていこうかな、とすごく考えまして。やっぱりみなさんのプレゼンの中にもあった、すごく大事なところとして、「組織浸透のために意識したこと」について、いったん掘り下げていきたいと思います。
(ココナラの)南さんは、もう最初の段階からミッション・ビジョンを作っていたということで、組織への浸透ってそんなに難しくなかったのかなという反面、(グッドパッチの)土屋さんとか(ユーザベースの)稲垣さんとかは逆ですよね。とくに稲垣さんは最初からその重要性を意識されてなくて……(笑)。「なんでだろう?」っていう感じで(聞いていらっしゃいました)。
各社の浸透の仕方は、ぜんぜん違ったのかなと思いますので、「すごく意識したこと」について聞いていきたいと思うんですけれども。どうしましょう……じゃあ、稲垣さん。
マネジメントってなかなか難しくて、スタートアップってみなさん、だいたい最初に創業者間でケンカするとそこでやめちゃうと思うんですね。にもかかわらず、ちゃんとコミュニケーションを取り続けたっていうことですよね。
稲垣裕介氏(以下、稲垣):ミッション浸透は、正直あんまり意識してなくて。「経済プラットフォーム」というところの経済って、ニッチだと思うんですよね。
なので、「ニッチなこのプラットフォームを本当にやりたい人」というところで採用しているので、共感が低い人は入ってきてないですね。なので、ここのところは、あんまり組織浸透の施策として考えたことは正直ないです。
それで、組織浸透にかなり時間を使ってきたのはやっぱり、バリューです。バリュー浸透に関しては、先ほどお話した「50人の壁」が1つの課題だったので、まず言語化をしました。
社員が100人くらいになったときには、みんなホームページにあるバリューを見て入社してくれるんですけど、逆転して原理主義になりかけました。「常に7つのルールを守らないといけない、オープンコミュニケーションしなきゃいけない」っていうのがつらい、という状態になってきたんですね。
バリューを理解するためにはニュアンスもすごく大切で、「オープンにコミュニケーションしよう」と言っても、本当に何から何まで全部オープンにしなきゃいけないわけではなくて、「大切なことはちゃんと話す」ということだとか、「自分自身が話すべきか迷うときには、ちゃんとオープンにかけていく」ということだと僕は思っています。
バリューは守らなければならない原理ではなく、自分たちが信じる方向性であると示すことが大事だと思ったんですよね。なので、そこの強度感をもう一度、全社ミーティングで僕や梅田や新野、3人でひたすら話すようにしました。それで、少しゆるやかになっていったということがありました。
稲垣:あと2つやったことがあって、1つが「カルチャーチーム」という、組織浸透だけにフォーカスするチームですね。そのチームは採用の入り口から浸透、ひいては退職というところまで一貫して見ていく、というものです。
そのチームを、僕の直轄で立ち上げました。そのチームでは、他にも全社向けの「YEAR END PARTY」も主導しています。日頃のお礼として家族のみなさんもお呼びして、子どもなんかも含めてみんなでパーティーをするんです。そこでは「YEAR BOOK」という、「会社で今年1年、こういうことがあったよね」というところをバリューに紐付けて、一人ひとりがエピソードにした本を渡しています。
例えば僕から見て、「梅田っていう人間がこういうバリューを体現している」というエピソードをつけて、みんなに共有するというイメージです。そういったところで、少しずつ浸透の輪が広がったというところがあります。
最後もう1つやったことが、そこからもうちょっと増えて200人弱くらいになったときですね。ちょうどIPOの時でもあったんですけど、海外のメンバーもかなり増えてたんですよね。
僕は英語がぜんぜんできないんですけど(笑)……例えば「自由主義でいこう」というのも、英語にすると若干ニュアンスが変わっちゃうんですよね。それで、この(言葉のニュアンスが)変わっちゃうことプラス、リモートであるという問題によって、グローバルのメンバーから見て、「この言葉は何を言ってるのか」がうまく伝わらなくなっちゃったんですよね。
そこで作ったのが、今度は「7つのルール」を31個までブレイクダウンして、「31の約束」という名前で冊子にしました。そこには「Do」と「Don’t」という2つの例を作り、例えば「異能は才能」を例にすると、「俺が上司だ」というふうに「権威を振りかざす」人は、明確に「Don’t」のほうに定義しました。
僕たちとしては、「一緒に働く仲間を尊重し、信頼を引き出す人がリーダーなんだ」ということを明確にして。そういった定義を31個作って冊子にして、全部イラストをつけて、英語化もして全社に配ったんですね。
そこでまた1つ、浸透が深まったと感じたところがあります。組織のフェーズにあわせて、そのときの人材とかチームの状況に応じて、一つひとつ打ち出していったというところですね。
矢澤:なるほど。
土屋尚史氏(以下、土屋):言語化って誰がやるんですか? ライターさんを入れるとか?
矢澤:そうですよね。
稲垣:「7つのルール」のときは外部のコピーライターさんを入れました。「31の約束」のときはちょっとありすぎて。役員で出しまくった結果、ちょっと中途半端なんですけど、30個にできなくて31個になっちゃったんですね(笑)。
(一同笑)
それで「31の約束」ってなった、という感じです。
土屋:「カルチャーチーム」って何人くらいいるんですか?
稲垣:スタート時は僕を入れて3人だったんですね。それでずっとやっていて、今は5~6人くらいになってますかね。
土屋:専属じゃない?
稲垣:専属です。
矢澤:専属でなんですね。
稲垣:そうですね。採用も兼務してるので兼務と言うか、採用もその仕事の中に含めてっていうことなんですけど。
矢澤:あぁー。土屋さん、そういうのってあります? 専門にやる、みたいな。とくに、ハードシングスを体験されたと言うか(笑)。局所局所で。
土屋:参考になるかはわかんないですけど、今やってることですね。「カルチャーチーム」みたいなかたちの「バリューコミッティ」というチームを社内公募で(つくりました)。
矢澤:バリューコミッティ?
土屋:はい。バリューにコミットして、浸透を積極的に手伝ってくれる人たちですね。最初にそういう人たちを30人を公募して、どういうプロセスでこのあと再構築やっていこうか、みたいな。
矢澤:30人もいたんですか?
土屋:そうなんですよ、意外に集まっちゃいまして(笑)。
(一同笑)
「そんなに集まるのかな?」と思ったんですけども、意外に集まりました。メンバーも課題意識を持っていて、新しく入ってきているメンバーが言うには、「8 way」という行動指針があって、すごく共感する内容なのに、現場では使われていないと……。
矢澤:(笑)。
土屋:言ってない、みたいな状況があって。新しく入ってくるメンバーたちがそこにけっこうコミットして、「自分たちが信じられる言葉を作りたいよね」っていうので関わってくれているかたちですね。
矢澤:確かにそうですよね、新卒の方も、それで入ったにも関わらず体現されていなければ、「なんとかしたい」みたいに思ったりしますよね。
土屋:そうですね。なので採用の段階でけっこう伝えて入ってきてるんですけども、中に入ると……まぁ、今はだいぶ経営陣・マネージャー陣がある程度、マチュアになっているんですけど。やっぱりまだ1年前とか2年前とか、うちはこの2年がやっぱり100人の壁にぶつかってきているときだったので。
この2年間、経営陣やマネージャーが辞めるということがけっこう続いたんですよね。なので、ここでやっぱり、組織がガタついたってのがあった。それでもちゃんと「この会社を良くしたい」という人たちはずっといて、そういう人たちが30人集まって、再構築を一緒にやっている感じですね。
矢澤:その「コミッティ」のまとめ方というのも、それはそれで大変なのかなという感じがするんですけれども、そんなことはないんですか?
土屋:新しく入って来たメンバーと、古くからいるメンバーの2~3人で今、中心となってやっています。バリューの整理などをするときも、けっこう新卒が優秀で、新卒のメンバーにすごく手伝ってもらっていますね。
矢澤:へぇー。
土屋:本格的に新卒採用を始めたのは去年からなんですけども、去年7人入り、それで今年も7人くらい入ったんですけど、彼らがめちゃめちゃ優秀なんですよ。そういった人たちが中心となって整理をやったりとか、浸透施策をやっていったりっていうのが現状です。これはすごく未来が明るいなっていう感じですかね。
矢澤:ミッション・ビジョン・バリューという大事なところを新卒に任せられる文化も、すでにあったんですか?
土屋:もともとずっと新卒採用でやってるんですけども、去年からとくに力を入れて。月に1回、新卒のために夜の2時間とかを押さえて、ずっと社長研修をやっています。
土屋:あるテーマに対して課題を出したりとか、本を読んでそれをまとめて来てというので、意識の突き合わせとかを、1年間ずっとやってきているんですね。
矢澤:なるほど。
土屋:中途のメンバーでそれができなかったのは、ちょっと申し訳なかったんですけども。新卒がすごく重要だからというので、それくらいからやり続けて。新卒たちは、もともと別にほかの会社から来たわけではないので、やっぱり社長の考え方を理解しています。すごくそこが良いかたちになっていってますね。
矢澤:なるほど。南さんは実際、どうですか? もちろん最初からミッションやビジョンを考えられていたということで、それをもとに組織をつくるというのが、先ほどの(お話にあったように)最初の段階で合致した人を採用していたと思いますが。
南章行氏(以下、南):うちが比較的社員が少ない段階でミッションとかバリューに気付けたのは、僕や共同創業者の新明が前職時代にNPOをやってたからなんですよね。NPOって雇用関係ないし、給料も払わなかったりするんで、(社員を)引っ張るのってミッションとバリューしかないんですよ。
営利企業だったら、怒ったって一応、次の日も来るじゃないですか。でもNPOとかで怒ったりすると、次の日から来ないわけですよね。
(一同笑)
そんな組織を引っ張れるのって、やっぱりミッションとかバリューしかないので、その頃にけっこう研究したんですよね。それで、僕のミッションとかバリューの考えのベースになってるのは、『ビジョナリーカンパニー』を書いたジム・コリンズって人が、「ビジョンとは何か」みたいな……ちょっとタイトル覚えてないんですけど、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に90年代に掲載された論文があって、それをベースに考えをまとめていったんですよね。
そのときに印象的だったことが、「ミッションとかバリューは浸透させるものじゃなくて、むしろそれを守れない人とか、それに適合しない人を排除するために存在するのだ」というような書き方がされていたところです。
人を変えることって、やっぱりすごく難しい。だから、ビジョンをエントリーマネジメントに使うし、間違って採ってしまってビジョンを守れない人がいたら、それはうちにいるべき人ではないので辞めてもらう、くらいの強い決意を持っています。入社のときに「このミッションをやるならうちだけど、そうじゃない人はうちで働く人ではない」って、けっこう強く言っています。
もうそういうつもりで、「排除」って言うと言葉悪いんですけど、お互いのためにならないので、とにかく「ミッションとバリューはお互いがお互いをセレクトするために存在する」「浸透させるためではない」というのが僕のまず考えてることの第1です。
とは言っても、正しく伝わるかどうかっていうところもやっぱりすごく重要だと思っていて、言ってることはそれっぽくても、ワーディング、言葉の力がめちゃくちゃ重要だなぁと考えます。
矢澤:はい。
南:その点、起業したあとにめちゃくちゃいろんな会社の分析をしたんですけど、ユーザベースの(バリュー)がすっごい好きです。
矢澤:(笑)。
南:梅田さんとか新野さんに聞きに行きました。福岡のコピーライターの人と一緒に作ったんですよね。めちゃくちゃ好きなんですよ。もうなんか、ユーザベースのバリューについて語りたくてしょうがないんですけど(笑)。
(一同笑)
矢澤:ユーザベース愛が伝わる(笑)。
南:例えば、さっきの(ユーザベースの)「7つのルール」を僕は本当にそらで言えるんですけど、どれが好きかって言うと、「渦中の友を助ける」とか、「異能は才能」とかですね。めちゃくちゃ良いですよね。「渦中の友を助ける」ってニュアンス、「メンバーを助けよう」じゃないんですよ。「渦中の友を助ける」になってるから、「渦中」になるまでは自己責任なんですよね。「お前がんばれ」と。
それで「7つのルール」の1つ目に「自由主義で行こう」とあって、その中に「自由であるためには責任を果たさなきゃいけない」ってことが書いてある。その文脈の中で「渦中の友を助ける」だから、「できる限り自己責任でがんばるんだけど、最悪本当に辛いときは友なんだから助けようぜ」ってニュアンスがきれいに出る。
その他にも、「スピードが大事だ」っていうことを言ってるベンチャーはめちゃくちゃあるんですけど、ユーザベースのように「スピードで驚かす」って表現をしてる会社って、そうはなくて。速いことが価値じゃないんですよ。ユーザベースにとっては驚かすくらい速くないと意味がないんですよね。
そういう1個1個の言葉の強さ。「異能は才能」もすごいと思うし、本当に……。
矢澤:すごい良いライティングですね。
南:すごいんですよね、「創造性がなければ意味がない」とか。
矢澤:しっかり言えてて、さすが(笑)。
南:そうそう、だから本当に! 見たのはもう5~6年前の話ですけど、やっぱこの一言一言に込めてる魂と、それがきれいに誤解なく伝わるニュアンス。コピーライターまで入れてやったというのは、ものすごいなと思ったので、僕らも……その当時はまだ起業したばっかりでお金なかったんですけど、それでも安くやってくれるコピーライターの友達を連れて来て(笑)。
矢澤:はい。
南:本当に推敲に推敲を重ねて、細かなニュアンスがこれで合ってるか、というのを創業メンバーで何回も何回も、4ヶ月くらい議論してやったので、創業して5年経ってもまだバリューを一言も変えることなく、なんとかやれて来れてるかなっていう状況です。ユーザベースのおかげです!
矢澤:なるほど、素晴らしい(笑)。
南:良かったです、語れて。今日はこれを語りに来たんで!
(一同笑)
矢澤:さすが、愛が伝わってました(笑)。ちなみに稲垣さんは、なんでコピーライターを入れて、そこまでこだわろうって思ったんですか?
稲垣:たぶん新野が言い出したんだと思うんですけど、我々は言葉の力をすごく感じていました。ちゃんとみんなの心に残るものを作る、っていう。やっぱり僕たちってエンジニアとか営業なので、才能の可能性っていうもの……その人にとって得意なもの、得意じゃないものはわかっていました。
言葉の力を作るというところにおいては、僕たちのチームのポートフォリオでは組み切れないと判断したので、外部の人を頼ったというところがあったと思います。
矢澤:なるほど。その辺、志水さんとかすごくきれいに言葉を使われてますよね。自分の思いがそのまま言葉になってるから、っていうのもあると思うんですけれども。何かそういうことってありますか、言葉にこだわってるところとか。本当にシンプルでわかりやすいからこそ組織に順応したっていう点で、すごく象徴的なスタートアップなのかなと思っています。
志水雄一郎氏(以下、志水):そうですね。みなさんのお話を聞きながら、素晴らしい方程式でミッション・ビジョン・バリューを作っていらっしゃるなって思いました。自分たちのチームがなぜ、とくにバリューで「Be a Talent」という言い方をしてるかをお話ししますと、そこにはものすごく深い理由がありまして。
「DODA」という事業を作り上げる過程の中で、葛藤したことが1つありました。それは何かと言うと、確かに会社や事業はものすごい成功してるんですが、社内を見渡すと、ミッション切りされたり、ファンクション切りされていて、その領域に関してだけはしっかりできる人たちが生まれていくんですけど、その枠からポンと外に出すと……「えっ、この方はどうやって仕事してご飯を食べていけるのだろう?」という人をいっぱい生み出す仕組みになっています。
(一同笑)
矢澤:生み出す仕組みになっちゃったんですね(笑)。
志水:はい。たぶんいろいろな会社で、そういう部分ってあると思うんですよね。会社は確かに素晴らしい。確かに良いビジョンや良い仕組みがあり、その中で生きてはいる。でも、そこにいる1人の個は、1人の価値としてどうなのか? じゃあ、彼や彼女は、どこまで社会のものさしの中で価値のある人に育成されていったのか? というのを証明できない状態があります。
何かのファンクションでは確かにその人は機能するかもしれないけれども、あなたはもし社会の中でそのファンクションを担ったとして、「社会のものさしでどれだけ価値のある人材になっているのか」ということを、常に自らが把握できる環境に身を置いてほしいという、ものすごく強い気持ちがあって。それを1つのワードに込めようと思ったら、もう「Be a Talent」以外になかった。
矢澤:なるほど。
志水:あともう1つだけあるとしたら、実は僕ら「成長産業支援プラットフォームをテクノロジーで実現しよう」という取り組みを今してるんです。囲碁も将棋も、AIと人が戦うじゃないですか。どっちかが勝つんですよね。
よくそこの議論の中で、「AIが進めば人の居場所はなくなる」という言葉に確かに危機感は感じるけども、人には無限大の可能性があるということを、心から信じています。人の無限大の可能性を使った事業創造をやりたいと思っているので、そうであれば、「タレント化して自分の能力を伸ばす」「常に何かものさしを持って伸ばす」というものをメッセージに込めたかった。だから「Be a Talent」にはそのメッセージも込められています。
矢澤:なるほど。そこの話って、南さんの「自分が体現してないとやれない」ということにすごくつながるのかなぁと思います。結局、社員から「お前やれてないじゃん」ということが出ちゃうと、それが組織に悪い影響を与えちゃうというか(笑)。
南:そうですね。やっぱり社員ってけっこう見てると思います。とくに何十人~100人前半くらいだと、どの社員も経営陣の振る舞いは直接見えますよね。だから、経営陣が絶対守れるものを言葉にするのはすごく正しいし、それをやっておくと、わりと担保される。
それをベースに経営をしていけば、組織がでかくなったとしてもマネジメント層がマネージするのではなくて、バリューが勝手に会社をマネージしてくれる状態に近付ける。会社が大きくなったときに、多少はバリューの密度が薄くなっていくんだろうけど、初期にしっかりとバリューに適合した社員ばかりの状態を作っておけば、(薄く)なりにくくなると思います。そういったことはけっこう重要なのかなと。
南:あとは一方で、今日来てる人の中で、ベンチャーじゃなくてわりと大企業の人たちもいたりするんじゃないのかなと思うんですけど、ジム・コリンズの著作だと、「大企業の場合、もう1回バリューなどを作り直すときはやり方があるんだよね」というようなことが書いてあります。
ベンチャーだったら経営者が体現したらいいんですけど、すごく人数が多くなっちゃった中で、そこから(バリューを)作らなきゃいけないときは、会社の中を見渡して、とにかくパフォーマンスにおいて「こいつが代表的な社員である」というのを5~8人とか選ぶんです。
矢澤:あー、なるほど。
南:それがなぜ代表的な社員かは言語化できないんだけど、とにかくこいつはパフォームするし、振る舞いも会社の中で代表的に良いやつだと。そういうのを何人か選んで、そいつらに決めさせる。その中の共通点とかを抜き出しながらバリューにしていくと、良いものができあがるんだよね、ということが書いてあった。10年くらい前に読んだので記憶があいまいですが(笑)。
なので、「でっかくなっちゃったけどこれから作んなきゃなー」とか、「経営者がちょっとそういうのをやってくれなさそうな頼りない感じだなー」という時は、今みたいなやり方を上に説得してやっていく、というのも、まぁやり方としては1つあるのかなと思います。
矢澤:おもしろいですね。
南:ただ、あんまり大人数の多数決でやるものではないのかなと思っています。ミッションは比較的、多数決でもまだいいかなと思ってるんですけど、バリューについてはさっき言ったみたいに、守れてないとキツいという話があるので、なるべく経営陣が決めるか、あるいは代表的・象徴的な人が決めるかにするほうがいいんじゃないかな、っていうのは僕の考えでもあります。
矢澤:なるほど。ありがとうございます。みなさん、四者四様の考え方があるんだなぁというところで。次のテーマにいきたいんですが。
先程の話とつながるところではあるんですが、みなさんが策定してきた中で、いろいろな問題があったと思いますし、いろんな課題を乗り越えてきたからこそ、「策定して良かったな」と思う経験であったりとか、エピソードもお持ちなのではないでしょうか。
これはもちろん数字に出ているだけではなくて、どちらかと言うと「こんなこと言われて良かった」とか、「作って良かったな」とか……とくに土屋さんなんか、感じられてるところがあるのかなと思うんですけれど(笑)。
土屋:(スライドを指しながら)もう1個前のやつで良いんじゃないですか?
(一同笑)
南章行氏(以下、南):これが喋りたい(笑)。
矢澤:こっちの「共感できない社員への対応」の話行きます?(笑)。じゃあ、これでいきます!
土屋:あ、いや僕が喋りたいと言うか、こっちのほうが、オーディエンス(にとって)おもしろいと思うので。
(一同笑)
矢澤:そうですね、じゃあまずここから(笑)。
土屋:じゃ、僕はとくにないです!
(会場笑)
南:えー!?(笑)。
矢澤:ちょっと待って! 絶対ありますよね!?(笑)。
南:すごい踏み絵ですね……(笑)。
でもそれでいくと、(スライドは)変えなくていいんですけども、もう1つ前にあった「作って良かったエピソード」との共通項でいくと、やっぱり明文化されていると「ダメなヤツにダメって言いやすい」というのが……すごく、経営者としては助かります。
「こいつダメだな」って思ったときに「直してほしい」とか言うけれども、それが僕の意見ではないわけです。「書いてあんじゃん、ここに」って言えるのは、経営としてもそうなんですけど、僕も一個人なので、心情的には人にダメなフィードバックってしたくないじゃないですか。
矢澤:はい。
南:どちらかって言うと、ほめてるほうが楽だし。でも、どうしても「ダメ」って言わなきゃいけないときに、「約束したよね、ここに書いてあんじゃん」って言えるのは、とても楽に済む。どうしても人って、ダメ出しは後回しになっちゃうんで。そこを少しでも早めて、かつ正確に言う。それで、書いてあれば有無を言わせないんですよね。
だから、辞めることになった人とか、あるいは「これなら辞めてもらうことになるよ」みたいなことも、「なぜならばバリューが守れていないから」と言いやすい。そういうところで良かったなというのはあります。
もっと日常的な話で言えば、口をついて出てくるくらい馴染んでいるものは使い勝手が良いですよね。うちのバリューでいくと、僕が好きなのは4番目にある「『伝える』ではなく『伝わる』」ですね。
例えばどの会社でも、「『言ったじゃん』『聞いてねぇ』問題」があるじゃないですか。「言ったけど部下がやってねぇ」とか、「いやいやそんな指示じゃなかったじゃないですか」とか、「いやそんなふうに言われてないですよ」みたいなことが。
僕はそういう問題があったら、めちゃくちゃシンプルに「『言ったじゃん』って言ってるほうが悪い」と言う。もう、瞬間にジャッジできるので。内容が何であれ、うちは「伝わってないんだったら伝える側のミスである」という文化にしていて。
なぜそうしたかと話すとまた長いんで、そこは割愛しますけど。ただ「『言ったじゃん』『聞いてねぇ』問題」が発生した瞬間に、「あ、『言ったじゃん』って言ってるほうがマネジメントスキルが低いってことだから、あなたが悪いよね」と、瞬間に言える。
矢澤:なるほどー。
南:これは日々の中で楽ですし、もうそれを言われた瞬間に向こうも何も言えないんです。「まぁそうだよね、そういうバリューだからね」となるので。
矢澤:そうですよね、確かに(笑)。
南:そういういざこざをスッと収められる、みたいなことはありますね。
矢澤:なるほど。そうすると「伝わる」のが当たり前になるからこそ、コミュニケーションも円滑にいく組織作りになっていくって感じなんですかね。
南:結果としてはそうなりますね。伝えることが上手になっていくし、伝えるところまで必死にやるんで、コミュニケーションのレベルが上がるとか。それを目的にしたバリューではあるんですけれども。よくある問題をきれいに解決するためにその1つを入れた感じですね。
矢澤:なるほど。ちなみに稲垣さんとか志水さんは、こういった「共感できない社員」とかっていましたか?
稲垣:ちょっと言いにくいんですが、でも、やっぱり、どうしてもそういうふうになってしまうところがあったと思います。1つはやはり、入社の入り口のところ。面接で見抜ききれなかったのは、本当に僕たちの責任だと思います。
やっぱり入社するとすぐにわかってしまうので、そこが1つのポイントですね。当初6人でやってたときと今350人でやってるときと、もうぜんぜんフェーズが違うので、そうしたときに出てきてしまう問題には毅然と対応しなきゃいけないと思います。
このバリューの問題って、どうしても悪いほうに伝播しやすいんですよね。そこは本当に問題で、先ほど申し上げたとおり1番問題になるのは、やっぱり「能力があってバリューが合わない人」。次は「能力がなくてバリューが合わない人」になるんですけど、この構図の人が会社にいる以上、そのチームは必ずなにかしら足を引っ張られて成長が遅くなる。
ここは経験として見えているところなので、必ず対峙する。僕の時間を使ってでも、できる限り対峙すると決めています。
もう1つは、さっき南さんもおっしゃってたみたいに、共通言語を作る。共通言語を作ると、僕以外の人たちもみんな使えるんですよね。だから、海の向こうでも同じことをみんながしてくれているし、バリューが合っていない人にも「こんなところが合っていない」ってはっきり言える。
その中で、瞬間的に「まったく合わないですね」ってことはもちろんしませんけど、ちゃんと「何がズレなのか」を明確にし、「アジャストできるかどうかの期間」も明確にして、「この期間で合わなければもう、本当に合わないんだ」と率直に伝える。
矢澤:期間もちゃんと決めてるんですね。
稲垣:決めます。期間を決めないと、絶対ダメですね。人間、どうしても情があるので。それで最後まで対峙し切るということは、もう経営の責任としてやると決めてやっていますね。
南:誰でもよいから採らないと会社が潰れそうになる時の判断は、ある程度はしょうがないですよね。けっこう難しい。いや、僕も失敗がないわけではなくて。うちの退職は多くもなく少なくもなく、くらいなんですが、実は非エンジニアに限って言うと6年で4人くらいしか辞めてなくて。理由としてもなにかサプライズなものでもないことが多かったです。
逆に言うと、退職者はエンジニアの比率が高かったんです。どうしても性質的にエンジニアはショートタイムで次のチャレンジに移りがちだっていうところはあるんでしょうけど、僕が反省するところもあって。「技術職だし、ミッションへの共感は多少目つぶるか」というのが正直、ときどきあったんですよね。
矢澤:さっきの「優秀な人が来ちゃったら」って話ですよね。
南:「まぁ技術はあるし、人としても悪いヤツじゃないしな」と(笑)。でも実は、そこはやっぱり違って、たとえ優秀でも共感度が低いのはよくない。どうしても採用が難しかったんで、モノ作れないと(会社が)死んじゃうじゃないですか(笑)。なのでちょっと目をつぶったのが何人かいて、そこからはやっぱり良い文化を作れなくて、ということが正直あったので。まぁ、でも……雇わなかったら進まなかったしな、というのもあるんで。
土屋:本当にそうですね。
南:どっちが正しかったかは本当にわかんないですが。今はもうかなり良くなったんですけど、やっぱり、エンジニアの文化を作るのに途中相当苦労してきたな、というのは反省としてありますね。
土屋:スタートアップして絶対に選択を迫られるのが、すごく強固なバリューを設定して「このバリューの人しか採らない!」ってやった結果、3年景色が変わらなかった、というケース。
矢澤:あぁー。
土屋:「絶対優秀な人しか採らない」「もうみんなが認める人しか採らないぞ」って言ってやった結果、人が増えずに景色が変わらずに事業が伸びずに……結局それが理由で辞めていく、っていう。
南:たぶんそれは、for Startupsを使ってなかったからですね。
(会場笑)
もっと優秀な人のプールがあれば!
矢澤:そういうことですかね(笑)。
南:いやでも、実際あるんですよ。
土屋:ええ、実際あるんで。
南:良いエージェントとの付き合い方、みたいなセッションもやりたいくらい(笑)。
(会場笑)
矢澤:次やりましょう!(笑)。
土屋:経営者が、「傷を負うことも覚悟で前に進める」というのも必要かなと。でも、その結果、僕とか傷だらけになりますからね。前からいろんなものが飛んできてるのに、こうやって(両手で体をかばいながら)進んでる感じですよね。
(一同笑)
そういう中で、結果的に振り返ったら、やっぱり目の前の景色が変わっている。いわゆるハードシングスの中で、自分自身の成長も確かめられる。なので、やっぱり会社の成長のためには、経営者が成長することが1番なんじゃないですか。なので、もう結果論ですけど、僕は良かったなと。
南:僕の場合、そういうリスクをとる採用とか、戦略も含めて、そういう思考に至ったことをかなりオープンに言っちゃいますね。
土屋:なるほど、なるほど。
南:「100点ではない意思決定を、今しようとしています」と。「ただ、これはこういう仮説を持ってやっているので、うまくいくかいかないかわからないけども、僕はこっちを重視して決めました」と。「うまくいかなかったらごめんちゃい」と。
言っておくと、「まぁそういうものかな」「苦しんだ上でやってんだよね」「言ってることと一貫してないけども、別の事情があるから、まぁこれはね」って社員が理解してくれるので。そのオープンさや率直ささえ維持しておけば、なにか失敗してもギリギリなんとかなると。
土屋:そうですね、うん。
南:でも、ここが伝わらないまま、「あれ? 言ってることと違うじゃん」ってなっちゃうと、けっこう目も当てられないんで。
土屋:そうですよね。
南:そのへんのコミュニケーション量は、やっぱりすごく大事にしていて。そういうのが怖い。だから、僕らのバリューで1番上に「オープンを当たり前に」と掲げてるのは、そのへんの意味合いがあってやってますね。
土屋:人が増えて200人とかになってくると、どうしても直接伝達ができないじゃないですか。
南:まぁそうでしょうね。
土屋:そのときに、「いや、南さんは絶対こう考えてやってるから大丈夫だ」と言ってくれる周りがいるかどうか。
南:僕らはたぶんこれからそういう規模に近づいていくので、そういった課題と直面していくんだろうな、と思いますね。
矢澤:はい、ありがとうございます。聞けば聞くほどさらに聞きたくなっちゃうようなセッションですが、お時間になってまいりましたので、セッションをクローズしたいと思います。
最後に、私がこの「経験して良かったエピソード」を聞きたかったのはなぜかと言うと、今日聞いていただいてわかると思うんですけど、やっぱり絶対にミッション・ビジョン・バリューを策定してしっかり考えて、それを組織に使っていくことが重要だと思うんですね。それを伝えたかったんです。
これに代わる質問として、最後にお一人に一言ずついただきたいなと思います。アドバイスというか、なんでもいいんですけれども。今日来てくださってる方へのメッセージということで。志水さんからいきましょうか。
志水:この中にももう起業なさって、私と同じ1年8ヶ月間くらいでこういうミッション・ビジョン・バリューを作ったものの、もう1回再定義はしないながらも、どう浸透させていくかの仕組み作りに入る方々も多くおられると思いますので、少しはご参考になったかなと思います。
ただ僕自身、さきほども挙げましたけれども、強いビジョンを作ったことによって1つ特に良かったのは、仲間集めがものすごく簡単でしたね。おそらく日本の中においても今、採用力がとても強いチームとしてグロースできている理由は、やはりなにかのサービスがあったわけではなくて、すべては強いビジョンがあったから。
常にすべてのメンバーがどんな場面でもしっかりとビジョンを語れる状況なので、その結果、人が増え、事業が拡大しても、人がほとんど辞めないチームになっていると思います。僕はビジョンはものすごく大事だと思っています。
矢澤:ありがとうございます。じゃあ稲垣さん、簡単にひと言お願いいたします。
稲垣:ミッションやビジョン、バリューの重要性は十分に伝わったのではと思うんですけど、最後の土屋さんと南さんの話はめちゃくちゃ大事だなと思います。結局大事なこととか先人がどうやってたかって、本に書いてあるんですよね。本に書いてあるんだけれども、やっぱり体験しなければわからないことがすごくあって。だから、迷ったら行動することは、すごく大切なんじゃないかなと思ってます。
ユーザベースの大きな1つのチャレンジとして、SPEEDA事業での海外、アジアへの挑戦があります。そのときは海外の状況はわからないので、採用、マーケティングなどさまざまな試行錯誤をしました。そうやってなんとか世界の景色を見ようとしたんですけど、結果として大失敗しました。事業がぜんぜん伸びず、経営陣の給与をカットして責任をとりました。
この結果自体は大失敗です。ただ、「この挑戦をしなかったら、今の成長はなかった」と明確に言えます。成長するための挑戦には、どうしても失敗が付き物だと思うんです。最後まで迷うくらいならやって、その結果で自分自身に利子を回すことが大事なんじゃないかなと思ってます。
矢澤:ありがとうございます。土屋さん、お願いします。
土屋:最終的には、本当に起業家の方だったら、とにかく……折れなきゃいいです(笑)。折れない心と、前に進む意志!
南:(笑)。
土屋:これ大事ですよね?
矢澤:はい、大事です。(笑)。
土屋:もう本当に、これに尽きるなと思っています。「絶対に良くなる!」と。景気もそうですし、企業経営もそうなんですけど、こういう(上がり下がりの)連続なんですよ。なので、下がったときに折れない、というのをもう自分のバリューとして決めておく、みたいな話ですね。
「自分は折れないし基本的に前進する」というのを、もう決めているから。なぜとかじゃなくて、決めている!
(会場笑)
南:すごいなぁ……(笑)。
土屋:それ(折れない心と前に進む意志)を持つのが、すごく大事かなと思います。
矢澤:ありがとうございます。じゃあ最後に南さん。
南:僕はすぐに心が折れやすいんで……折れるようなことに直面しないように、やっぱりミッションとかをしっかり作っといたほうが良いな、ということを言っときますね(笑)。
(会場笑)
僕は傷つくのがすごくイヤなんで……なのでしっかり作りました、みたいな話だったりしますが(笑)。
とくに経営者、あるいはこれから起業しようとしてる人向けに言いたいんですが、「経営ってなんだろうな」って考えたときに、僕はいつも経営って「意思決定」だと思ってるんですね。
論理的に考えて答えを出すのは部下がやればいいと思っていて、それは意思決定ではないわけです。同じ情報があれば同じ結論にたどり着くのが、論理的であるということだと思っていて。それはまぁみんながやりゃあいい、と。でも最後に、「これはどっちに行っても地獄だよね」とか、「これは正しい答えなんてなくて、信条に基づいて決めるしかないのね」みたいなものがどうしても、経営をしていると残る。
そういうことを決めるのが意思決定であり、それが経営だと思ってるんですね。そのために、やっぱり自分の中でのミッションとかバリューに向き合うことがすごく大事。かつ、それを言語化するのはすごく大事で、言語化しておけば、本当に悩んだときに「俺はこう決めた」と言える。
論理的じゃないんですよね。ただ、最後は「自分の価値観に従った」、「ここに書いてあるよね」と言えること自体が、会社の経営上のブレをなくすし、経営者にとっても心理的な負担っていうのをだいぶ減らしてくれる。心が折れやすい人でもがんばりやすくなる、ということだと思うんですね(笑)。
上辺の言葉とか理想論とか「べき」論ではなくて、自分自身の心の中で信じてることと、とにかく向き合って。それをがんばってがんばってひねり出して、違和感がないミッションやバリューを言語化する。そういうところに必要以上に時間を使っていいんじゃないのかな。たぶん使いすぎはないくらいのことだと思いますし、そこと向き合うことが、実は経営であると言ってもおかしくないくらい、大事なことだと思うんですね。
ぜひ、がんばっていただきたいなと。僕も偉そうに言ってますけど、日々悩んでます(笑)。そんなもんだと思いますが、ぜひがんばっていただけたらなと思います。
矢澤:ありがとうございます。
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